99.騎士隊長
東雲たちが王都に到着する少し前――。
王都内に滞在している王国騎士隊長の面々が円卓の間に集まっていた。
ジーク達からの報告によると、エルグ山を割った人物を発見・接触しソフィが王都に連れてくるというのだ。
渦中の人物が王に謁見する。エルグ山を割り、ザリエルの処断、モルセルの暴走を止めアムール街を救ったというEランク冒険者。
シノノメ・トオル――。
滅茶苦茶な経歴であり、事が事だけにグランドマスターは騎士隊長を緊急招集することとなった。
「皆、集まったな」
初老の男が声を上げる。
円卓の上座に座るは騎士隊を統べる1番隊長。
名をドラガス=ガーガン――――。
騎士隊の中で最強の称号を持ち、グランドマスターと言われていた。筋骨隆々の肉体から発せられる覇気。
初見で対峙した者からすれば、絶対的強者の畏怖の念を抱くほどだ。
「はいはーい。グランドマスター、レン君とヴィクセルさん居ないけど? あと、アリゲル君とジークハート兄妹」
グランドマスターの声に反応したのは、騎士隊4番隊長を務めるニカ=ブライアン――。
ジーク達より5つ年上のお姉さん。栗色のサイド・ポニーテールをふわりと揺らしながら首をかしげる。童顔の割にその実力は騎士隊の中でも上位クラスである。
「ふむ。レンから国境付近で帝国がキナ臭い動きを見せていると報告があってな。引き続き監視を行っておる。ヴィクセルに至っては街の復旧作業に追われて出席できないと伝令が来ておる」
「まぁた帝国ですか。いつも通りだなー。レンの遠見で行動がバレバレだってのに」
つられる様に会話に口を挟むは騎士隊5番隊長を務めるラクス=ホーゲン――。
オールバックの髪形に渋めの顔つきからは疲れの色が見て取れる。何事においても「めんどくさい」という態度。中年サラリーマンの其れである。
ラクスは円卓に頬杖をつきながら欠伸をした。
「レン君のおかげで帝国の脅威から王国を護れてるからねー。にしても、ヴィクセルさんが来れないのって、緊急伝令で来たアレ?」
「ええ、そうよ。アリゲル達から報告された事件の後片づけね。まったく、ウラヌス商会も碌なことをしないわね。まぁ、おかげで商会は王国の管理下に接収できたわけだけど」
ニカの問いに答えたのは騎士隊2番隊長を務めるローラン=スタンレー ――。ニカより8つ年上。30代前半だがその美貌は20代と変わりない。
若さの秘訣はサキュバスの血が関係する。遠い先祖にサキュバスが居たため、相手の生命力を奪う能力を持っているためだ。
体を重ねた相手からほんの少しの生命力を貰い、若さを維持。相手にはそれ相応の快楽を与える。女性にしか興味はなく、男には興味を示さない。
美しく流れる黒髪の長髪、整った顔立ちのローランは、その美しさ故に一部の百合の層からは『黒薔薇』という二つ名で呼ばれていた。
ジークと同じように女たらしとも称されているが、ジークとは違って一部の層からは絶対的な人気を得ている。
本人も二つ名には満更でもないようで、ニカに流し目を送る。
「そ、そうなんですか。ヴィクセルさんも大変ですね、あ、あははは」
身の危険を感じたニカは愛想笑いでローランから目を離す。
ニカはローランから一度迫られた経験があり、それ以来苦手意識を持っていた。
「ソフィさんはともかく、アリゲル君はどうしたんです? 任務から一足先に戻ってきてると聞きましたが?」
ローランの女癖にまたかと思いつつ、手を差し伸べるは騎士隊6番隊長のユノ=パガン――。
癖の強い騎士隊長たちの中で唯一まともな存在。頼りなさそうな優男な感じだが、ジークやアリゲルに引けを取らない美男子である。
「ふむ。渦中の人物を迎えるのに城門の屯所で待機しておる。どうやらジークもその人物と知り合っているらしくてな。一緒に同行させておる」
「そういえばアリゲルから聞いたんだがジークの奴、アムールで開かれた大会に出たんだってな。そこまでして嫁が欲しいのかねー。いやはや若い若い」
頬杖をついているラクスが、やる気のない声で右手をヒラヒラとさせる。
ラクスは所帯持ちで、奥さんには頭が上がらない。何故か、奥さんも元は王国騎士隊長でラクスの上司であった。
肉食系である奥さんに捕食されたラクスは、伴侶となり今に至る。
「それで、緊急招集かけた議題の件。シノノメという名か? 王は何故その人物に会いたがる。確かにザリエルやウラヌス商会の件で考えたなら、功績を称えるのは分かる。
だが、功績以前にエルグ山の件の時は得体のしれないそいつを王は保護し連れて来いと仰せられた。
一体何故だ? 王の考えが私にはまったく理解できない」
「ふむ。儂もローランと同じ意見だ」
グランドマスターは顎に手を添えて思案する。
(王の近辺には未来を予見する宰相がいる。もしかしたら、予見絡みなのかもしれない。近いうちに戦争が起きる? 確かに山を割るほどの殲滅スキルがあれば――)
そこまで思考し考えるのを止めた。
「王には王なりの考えがあるのだろう。謁見する際、儂らも立ち会う。そこで何故王がシノノメなる人物に会いたがっていたのか、そこで分かるだろう。
だが、もし我が国の脅威となるならば――刺し違えてでも、わかるな」
グランドマスターの声が低くなる。
この場に居るもの全員が無言で頷く。
「にしても、どんだけ強いのか知りたいよね」
「それはあるな。あのアリゲルが敬う程の相手だろう? ヴィクセルも慕っていたと言うし。おい、ラクス。お前その人物と試合してみろ。手の内が分かればいざと言う時に対処しようがある」
ニカとローランは興味津々といったところで、ラクスに無理難題を吹っかけた。
アリゲルからシノノメの事を聞いていたラクスは素っ頓狂な声をあげる。
「え、俺? なになに怖い怖い怖い! 急に何言いだすんだ、あんたは! 今グランドマスターが『刺し違えてでも』って言ったの聞いてた!? てことは、俺らより強いってグランドマスターが言ってるようなものだよね!?」
「うむ」
「ほらぁ!!」
ラクス涙目。
グランドマスターは咳ばらいをする。
「もう一つ、分かったことがある。以前、ベスパから古代竜の死骸を引き取ったことがあっただろう」
「え、まさか……」
「そのまさかだ。ベスパギルドからの報告では冒険者達のレイドパーティーでの討伐とあったが、正確には一人の冒険者が倒したそうだ」
皆が黙り込む。
「おかしいとは思ったんですよ。あの死骸を見て、僕たち騎士隊長全員でかかって倒せるかどうかと。本当に一介の冒険者がレイドパーティーを組んで倒したのかと疑心暗鬼だったんですが……」
ユノから乾いた笑いが漏れる。
「俺、おなか痛くなったから帰っていい?」
「いやいや、ラクスさん逃げちゃダメでしょ!」
「面白い、尚更ラクスをけしかけてその実力をこの目で見てやる」
「ダメダメそれ俺絶対死んじゃうやつ!」
「骨は拾ってあげますよ、ラクスさん」
ローランとニカに弄られ、頭を抱えるラクス。
ふと、古代竜でラクスはあることを思いだした。
「そういえば、グランドマスター。古代竜で製造中の武器は完成したんですかい?」
「あれか……。完成はした。だが、あれは人が扱える領域の武器ではない。現に製造に関わった鍛冶職人が命を落としける程の呪いが掛かっている。あれは武器というより呪いそのものだな」
「グランドマスター程のお方でも扱えない代物なのですか?」
ユノが興味津々に聞いてくる。
「うむ。手に取ると生命力を吸われていくのだ。果たしてアレを扱える者がいるかどうか」
なるほどと、ユノが頷いていると円卓の間の扉を叩く音が聞こえてきた。
グランドマスターが入れと促すと、一人の兵士が入ってきた。
「失礼します。アリゲル様がシノノメ様一行をお連れしたと報告が入りました!」
右腕を胸に当てながら兵士はシノノメが到着したことを伝える。
「そうか。分かった。下がれ」
「はっ! 失礼します!」
兵士は部屋から出ていった。
グランドマスターは騎士隊長たちをぐるりと見渡し、頷いた。
「では、参るか」
「「「はっ!!」」」
騎士隊長たちは立ち上がり、謁見の間へと向かっていった。




