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98.談笑

 城壁の大きな門をくぐると、王都の街並みに驚かされた。真っすぐに伸びた大通りの先には小高い丘があった。

 その頭頂部に大きな純白の城があり、丘の傾斜には沢山の建物が連なっている。 

 丘の周りにも城壁が連なっており恐らくだが、敵から攻め込まれた場合を想定しての街の作りだろう。


 城下街はアムールに負けず劣らずに賑わっていた。


「はぁー、凄いな。なんか、他の街より一線を画しているというか」


 隣でリリィが呆けた顔をしていて、俺は感嘆の声を漏らした。


「ふふ、綺麗な街並みでしょう? 隣国のパレス法国と比べると見劣るかもしれないけど、私にとっては自慢の国です」


 ソフィは人差し指と立てながら、得意げな表情を浮かべていた。


「パレス法国?」


「ええ。魔法の研究が盛んであり、神の信仰心が強い国で聖女を祭っているんです。その為か、国の建造物は神秘的と言うか、信仰的と言うかとにかく綺麗な所ですね。


 余談ですけど、この法国には神話の時代に造られたという小さな神殿があり、その中に祭られている「青赤の石碑」を守護しているという話です。

 他にもガノス帝国という国がありますが、あそこはクソです。他国を侵略・領域を広げていき大きな国へと発展した国でして、以前はこのアレス王国と戦争をしていたんです。

 先々代の国王時代の話なんですけどね。あと、クレティア共和国というのが――――あいたっ!!」


 ジークがソフィの頭にチョップをかました。


「いい加減にしろソフィ。つまらない歴史の話してる暇はないんだぞ」


「なによ、国のルーツを識ることは大事よ」


 結構痛かったのだろう、ソフィがちょっと涙目になっている。可愛そうなので助け舟をだす。 


「いや、助かるよ。俺、国の歴史とか隣国の話とか詳しくないし。ありがとう、ソフィ」


「シ、シノノメ君……!」


「む。そ、そうか。シノノメがそう言うんだったら仕方がないか」


 ソフィは胸の高さで両手を合わせ感激し、ジークはバツが悪そうな顔をしていた。

 以前、ベスパの図書館で多少歴史について調べたが、この国以外についてはカラっきしだ。


 そういえばガチャで出たアイテム欄の説明でパレス法国の名前が書かれていたな。

 機会があれば一度は訪れてみたいものだ。


「歴史の話はさておき、シノノメ殿。城下の移動にはこちらの馬車にお乗り換えください」


 アリゲルが二人の間に割って入ってきて、差した先には煌びやかな馬車が用意されていた。


「わふー、白いお馬さんです! マスター! リリィ! お馬さんとっても綺麗です!」


「ニャー」


 ゴンザレスと頭に乗っかっているクロが両腕を掲げて目を輝かせる。


「本当ね。でも、白馬って王族しか乗れないんじゃなかったの? 物凄い待遇で私怖くなってきたわ……」


 はしゃぐゴンザレスを横目に、リリィはガクガクと震えだした。


「はは。王からの指示ですので、遠慮なさらずに。それと馬車の中には軽食を用意してます。城下街は広いのでもう少し馬車での移動をお願いします」


 アリゲルが畏(かしこ)まって案内してくれる。

 人に畏まれると、性分からか申し訳ない気持ちになってきた。


 用意された馬車にリリィ達と乗り込む。以前手に入れた『天馬の馬車』には劣るが、それでも最高級の持て成しをしてくれてるのが伝わってきた。


「あれ? ジーク達はこっちの馬車に乗らないのか?」


 馬車から顔を出し、ジーク達に声をかける。


「ん? ああ、俺たちはこっちの馬で護衛すっからな。そもそも、シノノメは客だしな」


 そうなのか。てっきり一緒に乗車するかと思ったんだが。

 まだまだ乗れるし、折角だから誘ってみるか。


「ジーク達、一緒に乗らないか?」


「え? いいのか?」


「ああ」


「やりぃ! 王族用の馬車に一度乗ってみたかったんだ」


「ちょ、ちょちょちょーー! ジーク兄さん何言ってるの!? 私たちは護衛よ!? 乗っちゃダメでしょう!?」


「はぁ? 固いこと言うなよソフィ。シノノメが誘ってくれたんだから断るのは失礼だろうが。なぁ、アリゲル」


「ああ、客であるシノノメ殿がそういうならお言葉に甘えるのが筋だろう」


「だーーーー! この脳筋馬鹿共は!!」


 ソフィは頭を抱えだして叫ぶ。

 余計なことをしたかなと思いつつ、ソフィも誘う。


「ソフィ、折角だしさ。一緒に乗ろう。道中旅した仲間じゃないか。な?」


 ソフィはきょとんとした顔をし黙ってしまった。

 あれ? 変な事いったかな?


「ま、まぁ、シノノメ君が『仲間』って言ってくれてるし……、断るのもアレだし……。ゎ、私も乗ります……。正直、乗ってみたい気持ちもありましたし……」


 ソフィは照れながら馬車に乗り込んできた。

 

「なんだ、結局は乗りたいんじゃないか。素直じゃねぇなぁー、我が妹は――――グボォァ!」


「兄さん、うるさい。 怒るよ?」


「お、おま……。既に手ぇ出してるじゃねぇか……」


「ジークは何時も一言多いんだ。学習しないなお前は」


「ほっとけ!」


 笑顔のまま腹パンを繰り出されたジークは腹を抱えて悶えていた。

 このやり取り、マッドとミーナを思い出すな……。 


「くすくすっ。ソフィさんとジークさん仲がいいですね。なんだかお二人を見ていると、以前パーティーを組んでいた仲間を思い出します」


「リリィさん!? お、お恥ずかしいところを……」


「ソフィ! ソフィ! こっちに座ってください! テーブルにお菓子ありますよ! 一緒に食べましょう!」


 女性陣は同じ座席に座り、きゃいきゃいと談笑し始めた。

 必然的に反対側の座席には俺とジーク、アリゲルという順で座った。


「なぁなぁ、シノノメさんよ。連れのお二人すげぇ可愛いじゃねーか。どっちが本命なん?」


 ジークがニヤニヤした顔で首に腕を巻いてきてヒソヒソと話しかけてきた。

 アリゲルはというと御者に「出発してくれ」と指示を出している。


「ん? どっちも俺の彼女だが?」


「なっ!! マジでか……。両手に花じゃねぇか! う、羨ましいぃ」


「ジークも顔がいいんだから結構モテるだろ? アムールの試合で女性から凄い声援を受けていたじゃないか。王都でも結構モテてるんだろ?」

 

「ま、まぁそうなんだがな……」


 ジークはバツが悪そうな表情をを浮かべ、頬を搔き始めた。

 どうしたんだと、不思議に思っているとアリゲルが話に割って入ってきた。


「ジークは顔はいいが中身がナンパでお子ちゃまだからな。あちこちに手を出しすぎて、今じゃ王都の内の女性はジークを相手にしない。だから、アムールの大会にお忍びで参加したんだろう? ジークよ」


「ぐふっ! ほっとけ!」


「は、ははは……」


 なるほど。それは自業自得だ。


「マスター! マスター! マスターもケーキ食べますか?」


「ん? ケーキ?」


 テーブルの上に用意されていた焼き菓子は既に無くなっており、代わりに以前ゴンザレスにあげたガチャアイテムが具現化されていた。

 確か『ケーキセット(Ver.チーズケーキ)』だっけ。スタンドからケーキを取ると新たにケーキが生成されるんだったな。


「はい! へへ。ソフィにこのケーキの美味しさを知ってほしくて」


 いや、ただ単に食い足りなくて、ゴンちゃん君が食べたいだけじゃ……。


 にぱーっと笑顔のゴンザレスを見ていたら、どうでもよくなってきた。


「じゃー、一つ貰おうかな」


「はい! へへ。皆さんもどうぞー」


「ゴンちゃん、このケーキ美味しいよね。私これ好き」


「お! 遠慮なく頂こうかな。もぐっ――。お、うめぇなこれ」


「もぐもぐ。ああ、うまいな」


 呆然と眺めているのが一人。ソフィだ。


「き、気のせいかしら……。ゴンザレスさん、今、空間魔法使ってなかった?」


「あ? ソフィ何ぶつぶつ言ってるんだ? お前も食ってみろ。うまいぞこれ」


「え、あ、うん。……もぐもぐ」


 色々と突っ込みたい部分があるようだが、ソフィは黙ってケーキを食べ始めた。

 まぁ、言いたいことは分かる。こんなちっこい女の子が索敵スキルや、上位の空間魔法を使えてたら誰でも自信なくす。


「へへへ。美味しいですねソフィ」


「え、あ、うん。そうね。美味しいですね。っぱく!」


 どうやらソフィは吹っ切れてたようだ。


 横目でゴンザレスを流し見る。


「あ、お紅茶がもうありません」


「本当だ。どうしよう」


 その姿は友人と楽しく談笑する一人の女の子の姿だ。

 随分と成長したなと思う。


 俺は嬉しく思いながら、ガチャアイテムを具現化させる。


「クイックオープン、『紅茶セット(ver.ダージリン)』」


 最高状態の紅茶を淹れることができる魔法のアイテムだ。

 ティーポッドを手に取り、皆の空いたティーカップへと注ぐ。


「お? 紅茶も持ち歩いてるのか。シノノメ、粋だな~」


「もうなんでもありね。シノノメ君は。くすくす」


「いただきます」


 ジーク達が紅茶に口を付けたら動きが止まった。


「俺たちが用意した紅茶よりうめぇ!!」


「繊細な渋みと甘みが――。ウナギル料理の時もそうだったけど、シノノメ君の出す料理系もこの国の味を上回ってますよね」


「ウナギル? ソフィ今ウナギルと言ったか?」


 アリゲルが紅茶を飲む手を止めて、ソフィへと視線を向けた。

 その目は真剣なものだった。


「え? うん。王都で出されるものより凄く美味しいのよ。あれは味付けが最高だったわ」


「そういえば、アリゲルの大好物ってウナギル料理だったな」


「ああ! 大好物だ!」


 語尾を強めるほどに好きなのか。そう言えばまだ大量に『収納空間』に残っていたな。

 どれ、アリゲルとジークにも御馳走するか。


 『収納空間』に腕を突っ込み目当ての物を取り出して二人の前に置いた。

 ウナギルの蒲焼からはホクホクした湯気と香りが立ち上っている。


「…………」


 アリゲルは黙って出されたウナギル料理を見つめ、そしてこちらを向いた。


 そして俺も無言で頷く。


 アリゲルは恐る恐るウナギルを口に運び――。


 全身に電流が流れたような表情をしていた。

 いや、実際にアリゲルの体に紫電が走り、髪の毛を逆立てた。


「わははははは、なんだアリゲル! おめぇ、自分のスキルで髪の毛おっ立ててるぞ! あはははっ!」


 ジークはゲラゲラ腹を抱えながら笑っている。


「お前も、いいから黙って食え」


「ひゃはは、ヒー笑いじぬ! 分かった分かったって」


 髪を逆立ててるアリゲルに催促され、いまだに笑いのツボを引いてるジークは渋々ウナギルを口に運んだ――。


「ったく、そんなに髪の毛逆立てるほどなのか、ぱくっ――――ホアアアァァァァ!」


 ジークもウナギルを食べた途端、可愛らしい奇声を発した。何回も思うが男が可愛らしい声を上げるのは正直気持ち悪い。


「ジーク兄さん、きもい」


「うっさいわ! てか、ソフィ。お前今日までこんな美味いもん食ってきたのか?」


「んー? どうかなぁ?」


 ジークの問いかけに、ソフィはにんまりとした顔つきになる。


 まぁ、ここに来るまで実際に色々な飯を出した。

 主にグルメ包丁での魔物料理だが……。


 案外、食える魔物が多かった。素材はどうあれ、味は美味かったのだ。


「くそっ! 失敗した。俺が残れば良かった」


「シノノメ殿、この料理まだありますか? できれば売っていただきたい」


 どうやらアリゲルは蒲焼をいたく気に入ったようだ。


「いいけど、収納空間から全部出したら保存効かなくなるぞ? 残り50枚ちょっとだな」


「構いません。私の部下にも食わせてあげたいのです」


「あー、なるほど。ならおすそ分けという形で只であげるよ」


「本当ですか!? ありがとうございます」


 アリゲルは深々と頭を下げた。

 仏頂面で何考えてるかわからないイメージがあったが、アリゲルは中々に仲間思いの所があるようだ。


 ふと視線を感じ顔を上げると、ゴンザレスがしょんぼりとした顔をしていた。

 ゴンザレス、食い意地がひどいぞ……。


「皆様ー、間もなく王城に入ります」


 馬車を運転している御者の声が聞こえてきた。


「お、着いたか。なんか持て成すつもりが逆に馳走になっちまったな」


「いや、ほんとそれね」


「ああ、失敗したな」


 3人は何故か反省していた。


「そんなことはないです。私、皆さんとこうして楽しくお茶ができたのすごく楽しかったです! ね、マスター! リリィ!」


 無邪気に笑うゴンザレスに、3人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


「ああ、そうだ。ゴンザレスの言うとおりだな」


 この世界に飛ばされて、一人きりだった俺にこうして談笑できる人達がいる。

 こういった時間を大切にしていきたいと思う。


 俺はゴンザレスの頭を撫でた――。


「わふー! へへへ。くすぐったいです」


「はは、嬢ちゃんには参ったねこりゃ。んじゃ、お客さんには俺たちの持て成しが気に入ってくれたってことで――。さ、着いたぜ」


ジークが馬車の扉を開けると、眩い光が馬車に差し込んできた――。




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