94.道中③ ★
東雲たちがアムールを出発した頃――。
アレス城の謁見の間でジークとアリゲルは佇んでいた。アムール街で起きた事件を王に報告するために――。
彼ら二人を率いるは王国騎士隊・1番隊長を務めるグランドマスター。
中央に惹かれた赤い絨毯に沿うように銀色の甲冑を纏った一番隊が並び、ステンドグラスから差し込む光が彼らを包み込んでいた。
グランドマスターはジーク達から聞いた事の顛末を王へと報告する。
「なんだと……。あのモルセルが民を襲っただと……。しかも古代の竜に変貌――。ふぅむ。それでアムールの民はどうなったのだ? 被害状況は?」
グランドマスターはアリゲルへと目を配らせる。王の質問に答えるべく、アリゲルが一歩前へと前進する。
「建造物への被害は多少なりありますが、人的被害はほぼ有りません。私含め7番隊・9番隊の隊長が現地に赴いていた故、アムール街を警備している10番隊と組み、市民の安全の確保を最優先。
後にモルセル、魔物の軍勢と戦闘し制圧。それと10番隊ヴィクセルからの報告なのですが、モルセルの件に元7番隊隊長のザリウスも関与していたらしく、これも既に処断いたしました」
「指名手配犯か――。ザリウスの件まで解決するとは。流石は我が国の精鋭の騎士隊。良い働きをしてくれたな」
アリゲルの詳しい報告を聞き、シューベル王の顔が緩む。初見の間にいる他の騎士たちも流石は隊長殿たちだと褒め讃えていた。
場の空気が緩む中、アリゲルとジーク、そしてグランドマスターの表情は引き締まったままだ。
「それと、まだ報告の続きがございます――」
一拍を置くアリゲルにシューベル王は「申せ」と促す。
「我が王国騎士隊は市民の避難誘導のみ。モルセル以下、魔物の軍勢、ザリウスの処断は全てシノノメ・トオルという冒険者が行いました」
続けて放った言葉が、初見の間にいた者たちの動揺の声を漏らせた。
何より驚いたのがシューベル王だった。
「なに!? シノノメ・トオルだと!! その者はアムールにいたのか!?」
シューベル王は王座から思わず立ち上がる。宰相からシノノメの存在を聞かされていた為、過敏に反応してしまったのだ。
「はい。シノノメ殿の戦闘をこの目で拝見致しました。エルグ山を割った『黒い閃光』の件、シノノメ殿の力で間違いありません。その力で古代竜と化したモルセルを一刀両断。その場にいた騎士たち全てが証人となります」
「あー、あれは確かに凄かったな。シノノメの奴いくつもの大剣を持ち替える度に強力なスキルを放ってたっけ。恐らく武器固有の能力なんかじゃねーの?」
ジークの言葉にグランドマスターは記憶を辿る。今日まで生きてきて山を真っ二つにする武器など見たことがない。
だが、最近になってグランドマスターの常識を覆す出来事が起きた。それは王国で極秘に造られた武器――。ベスパに現れた古代竜の亡骸から造られた大剣――。
古代の文献から極秘に造られた武器の能力にグランドマスターは戦慄を覚えたのだ。
(アレを扱えるものなどこの世には存在しないだろう……。あれは凶悪な呪いそのものだ。現に仕上げた鍛冶職人が何人も命を落としかけてる。人が扱える代物ではない。だがしかし――)
グランドマスターは思案する。
(もし仮にシノノメが扱う武器が同質の物だったとしたとならば……。我が騎士隊、全てで挑んでも勝てないだろう。しかもアレを何本も所持していたとしたら……)
グランドマスターは背筋が凍るような思いをした。その気になれば世界を消し去ることができよう、と。
(だが二人の報告から察するにシノノメ・トオルはこの国に対して協力的らしい。それにヴィクセルまでもがその男を信頼しきっているという。
今の時点では王国に実害をもたらす男ではない、と判断するしかないか。だが、得体の知れない力を有してるのは確かだ。いつ手の平を返すとも限らない)
そう思いながらグランドマスターは無表情で王の傍に佇む宰相を見つめた。
「それでグランドマスターよ。その者はどうしたのだ」
「はっ。現在、9番隊のソフィ=ジークハートが王都に連れてくる手筈になっております」
「手筈だと?」
「あー、王都にくるように要請したんですが本人あんまり乗り気じゃなかったんですよ。だからソフィが説得して連れてくるってーか、なんと言いますか」
ジークがバツの悪そうな顔をする。アムールの事件は大事だったため、早急にグランドマスターの耳に入れる必要があった。故にアリゲルとジークは先に王都へ、ソフィは東雲の説得の為に残ったのだ。
最悪、説得を失敗しても東雲の居場所は把握しておかなければならない。どの道誰かは残る必要があったのだ。
「ジークお前、国王に対してなんという口の利き方を――」
「まぁ良いアリゲル。しかし、困ったな」
シューベル王は宰相へと目配せをする。
「ご安心くださいシューベル王。シノノメ・トオルは必ずここに訪れます。ええ、必ずに――」
顔半分を黒いベールで覆い隠している宰相は静かに微笑む。妖艶な仕草に謁見の間を護衛する兵士たちは喉を鳴らした。
「おお、そうか。お主が言うのならば問題はないな。では――」
話は終わりだと王座から立ち上がろうとした時、廊下から侍従たちの声が響いてきた。
「またファリス様が脱走したわ! まったくあの姫様はも~~。いい年して! 各班、ファリス様の捕獲準備ッ!!」
「きゃー! 大変よっ! ルシア様の姿も見当たらないわっ!」
「な、なんですってー! またファリス様ね!?」
わーわー騒ぐ侍従者たちを目撃したシューベル王は優しく微笑む。それは父親の顔だった。
「はっはっは。ファリスはファリスで頑張っておるな」
「第一王女の思想は面白いものがありますわね」
シューベル王の呟きに宰相が呆れた声で答えた。
「そうであろう? 儂は大いに期待しておるよ」」
シューベル王は笑いながら謁見の間を退室していった。
残されたジーク達は「やれやれ、またか」と呆れていたのだった――。
◇
「あ~~、すっげーのどかだなー……」
大きな湖を一望できる二階建ての一軒家の窓から顔を覗かせて俺はのんびりしていた。本来なら昼休憩を済ませた後、早々に出発しなければならないのだが、ウナギルを食べた後に問題が起きた。
そう、馬車を運転する従者が食べ過ぎて体調を崩し、馬車に乗れなくなってしまったのだ。無理に運転して食べた物をリバースされても困るので村長に頼んで一泊できないか交渉したところ、村長の息子夫婦が住んでいた一軒家を使っていいと言ってくれたのだ。
なので俺は出窓に肘を付けながらのんびりと外を眺めていた。因みにソフィと従者は村長の家で世話になっている。この家にいるのは俺とゴンザレスとリリィの三人だけ。
その二人も二階の寝室を掃除すると言ったっきり降りてこないが、時折二人の笑い声が聞こえてくるので仲良くやっているのだろう。
窓から差し込む柔らかな午後の日差しを浴びながら湖面を見つめる。
暫くぼーっとしていると二階から騒がしい声が聞こえてきた。
『えっ、ちょっ、ゴンちゃん! それいまここで!?』
『はいっ! マスター喜ぶと思いますっ!』
『う”~~~~。わ、分かったわ。そ、そういう約束だったしね』
『はいっ!』
漏れてくる声の内容に首を傾げつつ天井を見上げる。何やってるんだあの二人は……。
席を立ち二階に上がろうしたら、玄関のドアからベルを鳴らす音が聞こえてきた。誰だろうと思いながらドアを開けると、そこにはソフィが立っていた。
「ソフィ? あれ? 従者の方は看ていなくて大丈夫なのか?」
「ええ。村長の奥様が看てくれてまして。それと差し入れを貰いましたので届けに参りました」
「それは?」
ソフィが持つバスケットに布が被さっていた。
「お茶菓子です。この村で採れた茶葉も頂きましたので皆さんにと」
「そうか。ありがとう。そこのテーブルに置いておいてくれ」
「はい。お邪魔します」
ソフィがテーブルにバスケットを置いていると、またもや二階にいる二人の声が聞こえてきた。
『う、う”~~~。これ、ちょっと透けてない? は、恥ずかしいんだけど……』
『大丈夫ですリリィ! すっごく可愛いです! マスター大喜びです!』
『そ、そうかな。えへへ、そうだといいな』
『はいっ! リリィは可愛いですから自信をもってくださいっ!』
『う、うん! そうよね、頑張る!』
俺はソフィに二階を見てくるといい、ゴンザレス達がいる寝室へと向かうと、ソフィも後からついてきた。
寝室の扉の前に付くと、ノックを二回し扉を開けて部屋に入る。
「おーい、二人とも何を騒いで――」
「あ、マスター!」
「あ……シノ」
部屋に入って二人の姿を見た瞬間、俺は絶句した――。
いつもと違う服装に。
「マスターマスター、どうですか?」
「え、えへへ。 に、似合うかな」
どこか見たことのある服装を着ながら屈託のない笑みを浮かべるゴンザレスと、はにかみながら笑うリリィ。
「前に約束した『巫女服』着ちゃいましたっ!」
約束と言う言葉で思い出した。
そう、どこかで見たことがあると思ったのは、以前ガチャで手に入れた『巫女服(ver.エロ)』だったのだ。
突然のサプライズに一瞬思考が停止してしまったが、ゴンザレスの言葉に我に返る。
二人の姿を見つめる。
ミニスカートの和服に白ニーソックス。ゴンザレスの尻尾がぴょこぴょこ動いている為、下着が見えてしまっている。
リリィに至っては透けている為、その胸の形がよく分かった。
スカートとニーソの間に見える太ももが眩しい――。
「あ、あのね、シノ。頑張ってコレ着たんだから、ご、ご褒美が欲しいな……」
「えへへー、まーすたー」
二人がベットから降りてきて抱き着いてきた。
非常に嬉しいんだが――。
「ねぇ、シノ。黙ってないで何か言って?」
「ますた~~~、ぎゅ~~~~~」
リリィの目はとろんとし、ゴンザレスは俺の服に顔をうずめている。
どうしたものかと頬を掻く。
「あ~~、なんだ、その。二人とも――お客さんが来ている」
「へ?」
「あ、あはははは。お、お邪魔してまーす」
扉の方へ指さすと、バツの悪そうな笑顔を浮かべたソフィが横から顔を覗かせた。
キョトンとした二人の顔は次第に真っ赤になり、慌て吹てめいた。
「あ、あばばばばば、ソフィさんこれはね!?」
「あわわわわ! 私としたことがまたポカをっ!?」
「私がいたことは気にしないでね! じゃ、ごゆっくり!」
ソフィがその場からサッと居なくなると、二人の悲鳴が響いたのだった――。




