93.道中②
湖の上で釣りをしている村人を見て俺はある物を思い出した。ベスパにいる時に手に入れた物。
目当てのアイテムを見つけてタップする。
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アイテム名:主釣りの竿
ランク :『 R 』
説明 :
竿を使用したエリアを支配している主を釣り上げる。
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これだ。『主釣りの竿』――。
説明文からして大物を釣り上げられるアイテム。この広大な湖なら、さぞ期待できるだろう。
「シノ? どうしたの?」
パンを小動物の仕草のように食べているリリィが不思議そうな顔で聞いてきた。
「ああ、俺もこいつで釣りをやってみようかと思ってな」
スマホウォッチの画面をタップすると、前面の空間がガラスの様に弾け『主釣りの竿』が具現化する。長さ2メートルを超えるスピ二ングリール型の釣り竿――。
見た目は海釣りに使われる竿そのものだった。特に変わった形はない。だが、問題は見た目じゃない。主を釣りあげる能力だ――。
隣で見ていたリリィとソフィは珍しい物を見る目をしていた。
「なんか、随分と変わった釣竿ね? その竿についている物って何?」
「これか? リールって言ってな、糸を巻き上げる物なんだ」
「へー。あれ? 糸の先に付いているのは宝石?」
リリィに言われて糸の先を見ると確かに拳大程の透明な宝石がついていた。釣り針ではない。
「なんだこれ」と思っていたら、既にパンを平らげたゴンザレスが宝石を持ち上げる。
「この宝石は対象の好物に合わせて変化する能力があるんです。生きた疑似餌として対象物の前まで移動し、そして食いついた瞬間に針に変わって逃げられないようにガッチリ食い込みです! 」
「疑似餌が対象物まで移動……」
釣りは魚に合わせて餌を変えたり、潜んでいそうな場所をせめたりする必要がある。だがこのアイテムは自動機能があるみたいだ。中々に面白い能力だった。
「楽でいいな」
俺は糸を支えているベールをずらし竿を振った。宝石は放物線を描きながら湖へと着水。すると糸が見る見るうちに引っ張られていく。
自動移動だからベールはいつ元に戻せばいいんだろうと思っていたら、「カチッ!」と音が鳴りベールが勝手に戻った。その瞬間、竿が物凄い勢いで引っ張られる。
「うおおぉぉ!! 食いついたぞ!」
「うそっ!? もう!? シノ頑張って!」
両腕に負荷が掛かる。逃がすまいと腰を低くし、両脇を閉じ腕への負荷を全身へと分散する。
「わふぅ! マスター頑張ってください!」
「おう! 任せておけ!! うおおおおおおおおお!」
全力で竿を引き上げると、大きな魚影が浮き上がり水面から巨大な魚が飛び跳ねる。水中に戻られると厄介なので、そのまま陸へと叩きつけた。
「せいやっ!」
ズウゥンッ――!
土煙が巻き起こる。
「わー! やったねシノ! 大物釣りあげた……って、ぎゃーーー! 何よあれーー! 気持ち悪い!」
土煙が収まった先には、釣り上げた魚。だが、その姿は蛇のように体が長く、体表はヌメリとした黒光り。それは俺が住んでいた世界にいる「ウナギ」に似ていた。
ただし、違うとしたらその大きさ。体長10メートルは軽く超えているんじゃないか? 大きさも2メートルあってデカいなー。
ビッタンビッタンのた打ち回る「ウナギ」のような魚。リリィは気持ち悪がっている。
「マスター!! それ、魚じゃなくて魔物です!! 」
「へ?」
振り向くと「ウナギ」に似た魚は体をウネウネさせながら俺へと突っ込んできた。
「し、シノノメ君!!」
ソフィの叫ぶ声。
迫りくる魔物。『収納空間』からアイテムを出している余裕はない。咄嗟に俺は拳を握り、空気の『壁』を殴り付けた。
パッシブスキル『エアレイド』――。殴りつけた空気が衝撃波となって魔物を直撃。魔物は吹き飛ばされ岩に激突し、動かなくなった。
「え? え? 拳を振るっただけで――……!?」
「マスター! 大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない。魚かと思ったんだけど、まさか魔物を釣り上げるとはな」
そういえばアイテム説明文に『エリアを支配している主』と書いてあった。という事は魔物も含まれる意味だったようだ。
うーん、言葉って難しい……。
「シノ、何よアレ―! すっごい気持ち悪いんだけど!?」
「悪い悪い。魚じゃないみたい」
リリィに謝っていると、騒ぎを聞きつけたのか村人たちが集まってきた。
「お、お主たちこりゃまた凄いものを釣り上げたのー!」
「うわっ! でっけぇな! こんなデカい『ウナギル』初めてみたぞ」
わいわいがやがや。あっという間に賑やかになった。
騎士隊の務めと言うかソフィが率先してその場にいた村長に挨拶を含め説明していた。
「なるほどのー。たまたま立ち寄って釣りをしたら大物を釣り上げたと。運がいいのーお主。『ウナギル』は高級食材での、高値で売れるんじゃ」
「えー、このヌルヌルした魔物が?」
リリィは信じられないと言った顔をした。
「そうじゃ。大変美味らしいんじゃが、こいつは『特殊調理食材』での。捌くのが難しいうえに、体に毒がある。『特殊調理スキル』を持つ料理人じゃない者が捌くと……死ぬぞい」
さらりと怖いことを言う村長。
「あ! 思い出しました。『ウナギル』、そういえば王宮料理で出たことがあります。白身がふわふわで美味しいんです。騎士隊長に昇格した時のお祝いで食べたっけなぁ(うっとり)」
「ほうほう、騎士隊長様は位の高いお方。食べる機会があるのは当然でしょうの。ワシら一般人には一生味わえぬ食材。羨ましい限りですじゃ」
現地民でも食べれない程の危険高級食材。
軽食だけでお昼を済ました俺自身としては、食べられるなら今食べてみたい。だが、特殊調理スキルを持っていない――。
くいくいっ――。
ん?
袖を引っ張られた方を見ると、目を輝かせながら獣耳をピクピクと動かすゴンザレスだった。
その右手の平にアイテムと説明文のホログラムが投影されていた――。
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アイテム名:グルメ包丁『ブッチャー』
ランク :『 HR 』
説明 :
魔物料理の味を探求してきた料理人が使っていた肉切り包丁。
魔物の肉を切ると、その魔物肉に合った最高の料理へと変化させる(皿あり)
ただし、生きた魔物は不可。
一回使う毎に所持金が減るので、使い過ぎには注意が必要。
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食い物の事となると更に仕事が早いなゴンザレス……。
この最後の文の『所持金が減る』というのが気がかりだ。まして使うは『特殊調理食材』――。
いったいどれくらいかかるんだろうか。
ゴンザレスを見る。期待している目だ。
――まぁ、いいか。
「よし、使うぞゴンザレス!」
「わふーっ! マスター大好きですー!」
ホログラムをタッチしアイテムを具現化する。刃渡り30センチ程の包丁を手に取り、『ウナギル』へと近づく。
「え”! まさかシノ、そのヌルヌルした魔物食べる気なの!?」
「ああ。リリィも食べたいだろ?」
「わ、私はちょっと……。見た目でもう無理かなぁ」
苦笑いするリリィ。
「これこれお主、ワシの話を聞いていなかったのか? そんな包丁一本で――」
『ウナギル』を『グルメ包丁』で斬り付けると、「ポンッ!」と音と共に白い煙に筒まれた。
煙が収まるとそこには大量の料理が出現。見覚えのある匂いが鼻をくすぐる――。
「この匂いは――」
10枚の特大皿に大量の『蒲焼き』が乗っていた。――どことなく炭火の臭いが混じっている。
「わー! いい匂いですー!」
大はしゃぎするゴンザレス。村人に至っては口を大きく開けていた。
「は、ははは……。シノノメ君って、本当になんでもありですね……」
「ふふ、そうね。でもソフィさんもそのうち慣れるわ」
「そうでしょうか。なんだか慣れる気がしません」
1000人分以上はあるであろう『蒲焼き』を皆に配る。配り切れない分は『収納空間』にしまった。
『蒲焼き』の味は非常に美味で白いご飯が欲しいと切に願うくらいだった。
村の人たちは驚きながらも感謝し、頬を綻ばせながら食べていた。
「ほら、リリィも食べてみてください! 美味しいですよ!」
「だ、だから私はいいってばゴンちゃん。 あ、こら、ゴンちゃんやめっ――ぱく。 あ、美味しい!」
「王宮で出された物より更に美味しい!? なにこの香ばしさ……。もぐもぐ。ふふ、この料理、ジーク兄さんに話したら悔しがるだろうなぁ」
皆の幸せそうに食べる姿に、俺はほっこりとした気持ちになる。
湖の上を吹き抜ける風が心地よかった――。
ガチャアイテムを闇雲に出すだけでなく、ガチャアイテムをどんどん色んな場面で使用させていきたい(*´Д`)




