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92.道中①

 アムール街から出発して数刻――。


 馬車に揺られながら、流れる雲を眺めていた。


 この馬車は乗り合いの物と違って座席はフカフカのクッションが敷かれていた為、移動による振動が伝わってこないので意外と快適だった。


 流石、騎士隊御用達と言うだけのことはある。因みに馬車はヴィクセルの物で従者が運転している。王都の道のりまでの約束だ。

 

 隣にはゴンザレスとリリィが肩を寄せ合いながら眠っていた。二人の寝顔を見ていると俺も居眠りをしたくなってくるがそこは我慢。移動中に盗賊や魔物にまた襲われたらたまったもんじゃない。


 俺も寝てしまっては奇襲の対応に遅れてしまう可能性がある。――と言っても、車内には王国騎士隊長がいるから問題はないのかもしれないが。


 対面に座るソフィへと視線を向けると、彼女は俺をチラチラと見ていた。


 ソフィ以外の隊長たちは此処にはいない。ジークとアリゲルは今回の件の報告をするために数日前に先に王都へと戻っていった。


 俺の返事を待つために彼女だけがアムールに残っていたのだった。


 視線が気になり俺は彼女へと顔を向けると、一拍置いてからソファは口を開いた。


「あの、シノノメ君――。その、セシリーのことなんだけど、ありがとね。あの子に呪いが掛けられてるって聞いた時、内心動揺してたんです。セシリーは私にとっては妹みたいな子なの。

 でも、『キルティブラッド』の呪いをも解除したっていうシノノメ君がいたから、あの時は取り乱さずにすみました。だから、あの時に言えなかった言葉、やっと言える。シノノメ君、セシリアを助けてくれて本当にありがとう」


 畏まるソフィに笑顔で答える。


 俺もヴィクセルとセシリアを助けられて良かったと思っている。ガチャで出たアイテムが人の役に立つのは素直に嬉しいし、もっとガチャを回して色々なアイテムを集めておきたいものだ。


 今夜辺りにでも回すか。


 大会以降、ステータスの確認やガチャを回す時間がなかった。連日連夜、俺たちが宿泊している宿にアムールの貴族が訪れてきたのだ。それを見かねてヴィクセルや騎士たちが俺たちの身辺警備したり、ビックマムがギルド職員を引き連れて酒や肴を大量に持って来て遅くまでお祭り騒ぎを起こしたりと、中々に賑やかだったのだ。


 隣でゴンザレス達が寝ているのはそのため。

 

「ところでこれから向かう所って、どういうところなんだ?」


「王都ですか? とても賑やかなところですよ。アムール街も賑やかでしたがそれ以上に。今、王都ではうたが流行っているんです」


「音楽?」


「はい。何人もの吟遊詩人が集まり、各々の楽器の音色を合わせながら唄うんです。普通は音色に詩を乗せながら一人で唄うのですが、その人たちの唄は斬新で嵌る人が増えているんです」


 へー。吟遊詩人ってハープや弦楽器片手に伝承を唄うイメージしかなかったけど、グループを組む吟遊詩人がいるのか。


 なんかイメージとは違うな。


かぁ。楽しそうだね」


「ええ。その吟遊詩人たちに見習って自作で曲や歌を作る者が増えているんですよね。王都のある一画では唄や演奏を披露するための場所が造られたんですよ。そりゃもう大きな舞台でして」


「よく王族が建設許したね。そういう娯楽って規制とかうるさそうな気がするけど」


「ええ……。まぁ……、姫様がというか……は、ははは」


 冷や汗を流しながら目を逸らすソフィ。


 まぁ、色々あるのだろう。


 この世界に来て思ったのだが、たしかに娯楽というものがあまり多くはない。歌に嵌るというのも何となく分かる気がした。


 元の世界では高校生の時にカラオケによく行ったっけなぁ。


 懐かしい気持ちに浸っていると、隣で寝ていたゴンザレスがモゾモゾと起き始めた。


「ん~~、ふぁふぅ。すみませんマスター。いつの間にか寝ちゃってました」


「ゴンザレス起きたか。まだ寝ていてもいいんだぞ?」


「いえ、サポートAIとしてそうはいきません。っと言っても、寝ちゃってたのに説得力無いですよね。たはは……」


 頬を掻きながら苦笑するゴンザレス。


 たまにポカするその姿は年相応の女の子なんだよなぁ。


 その頭をわしゃわしゃと撫でてやる。


「わふっ」


「いいんだよ。たまには俺にも面倒をみさせろ」


「わっ、わっ、わっ。ますたぁー、やめてくださいー」


「くすくす。仲がよろしいんですね」


 ソフィに笑われてしまった。


「う~ん。うるさいわねー。ふぁーぁ~。もう着いたの?」


 どうやらリリィまで起こしてしまったようだ。


 リリィは寝起きが弱いからたまにボケたことを言う節がある。王都まで5日掛かるという話を聞いただろうに。


「まだですよリリィ。でも、ここから4キロ程の所に村がありますから、そこで休憩しませんか?」


「そうだな。ずっと馬車に乗ってるのも疲れるしな。ソフィ、構わないか?」


「え、ええ。大丈夫です。元々その村で休憩するつもりでしたから。それにしても、ゴンザレスさん地図を見ずによく村の場所が分かりましたね」


 ああ、そうか。ソフィ達には話してなかったな。


「ゴンザレスの能力だよ。周辺の建物とか索敵機能が使えるんだ。この能力のお陰で随分と旅が楽になっているよ」


 ピクピクと動く獣耳の頭をポムポムと叩くと、「ふんす!」と本人は胸を張る。


 物珍しそうにゴンザレスを見るソフィ。口に手を当ててブツブツ言っている。


「ははぁ。そんなスキルが……。レンと同じ能力……いや、ゴンザレスさんの能力は上位互換と言ったところでしょうか。(ブツブツ)――獣人族は攻撃型が多いと聞いていましたが、ゴンザレスさんは支援型なんですね。ははぁ」


 ん? 獣人族? あれ、勘違いされているな。


「ソフィさん、ゴンちゃんは獣人族じゃないわよ? 耳と尻尾あるけど」


「どういうことですか? 獣人族の特徴があるのに違うって」


「ああ。これはこいつの呪いのせいだよ」


 俺はゴンザレスの膝の上で丸くなってるクロの首根っこを掴み、ソフィの顔の高さまで持ち上げる。


「へ?」


「ただの猫に見えるけど、こいつこれでも『幻獣』なんだ。『幻獣ニャーバンクル』。契約の呪いでゴンザレスに耳と尻尾が生えたんだよなぁ」


 お陰でゴンザレスの可愛さアップだ。リリィはゴンザレスの姿に萌え苦しんでいるが。 


「げ、『幻獣』!? え、しかも『ニャーバンクル』!? うそでしょ!? この黒猫が!?」


「本当ですよ。この子の能力のお陰で戦闘で怪我をすることがないのです」


「文献に書いてあった『絶対防御』の結界……。シノノメ君の強さに驚いてばかりだったけど、ゴンザレスさんも規格外ですね。リリィさんの武器の威力もそうですし。私、騎士隊長として自身無くしそうです……」


 放心するソフィ。ちょっと居た堪れない。


「私の装備は全部シノから貰ったものだから私が凄いって訳じゃないんだけどね。騎士って規律とかうるさいんでしょ? その人たちを束ねて騎士隊長を務めているソフィさんはもっと凄いと思うわよ。精霊と契約していて、しかも強いし」


「り、リリィさん! 分かってくれますか!」


 目をウルウルさせたソフィがリリィの手を握りしめた。その姿を見て苦労してるんだなと思ってしまった。


「主に兄さんとか、兄さんとか、兄さんとか――」


 ジークお前……。


「ま、まあまぁ。ソフィさん落ち着いて。次の村で美味しい物でも食べて元気出しましょ? ね?」


「ですよね! バカ兄に頭悩まされるのはおかしいですよね! そうしましょ!」


「わーい! 賛成ですー!」


 和気藹々とする3人。最初はどうなるかと思っていたが、仲良くなってる3人の姿を見て俺はホッとしたのだった。



 ◇



「お、お店が、開いて……ない!」


 村に付いて開口一番ソフィが叫んだ。唯一あるという雑貨兼食事処は閉まっていた。近くにいた村人に聞くと、アムールのお祭りに出稼ぎと仕入れに行ってまだ帰ってきていないということ。


「どうしましょう」と呟くソフィ。村の規模は家が20軒も満たない小さな集落で近くに大きな湖があり、のどかな場所だった。時折、小さな子供の遊んでいる声が聞こえてくる。


「皆さんお腹すいてますよね。次の街に着くのは夜になってしまいますし……。非常時用の干し肉ならあるんですが……」


 申し訳なさそうに腰袋から干し肉を出してくる。


 ほ、干し肉……。


「あー、ソフィ。ちょっと待ってな。なんかあったかなぁ」


 俺はスマホウォッチを操作して、腹の足しになるものがないか所持リストをチェクする。


 甘いお菓子系はスルーして、主食系はっと……。


 一個ずつ見ていくと、いくつかあったが人数分まで用意できるのは一つだけしかなかった。


 それをタップすると説明文が表示された。


 -------------------------


 アイテム名:クロワッサン(10個入り)

 ランク  :『 N 』

 説明   :


 焼きたてふわふわ食感、バター風味。


 食べるとふわふわした気分になる。



 -------------------------


 取り出し数を10個とタップすると、透明な袋に入ったクロワッサンが具現化する。


「ほい。とりあえずこれな」


 袋をリリィに渡す。香ばしい香りが食欲を刺激してくる。


「わっ! シノ、さっすがぁ!」


「とりあえずパンで我慢してくれ。――あー……っと、飲み物も出すか」


 画面をタップしながらリリィが好きなアレを出す。


-------------------------


 アイテム名: 黄金蜂のはちみつ水(8杯分)

 ランク  :『 R 』

 説明 :


 希少な黄金蜂のはちみつで作られた冷たい飲料水。


 持ち運び用のプラスチックコップ(氷入り)にストロー付き。


 甘酸っぱくて爽やかな味で飲む者の精神をリラックスさせる。


 エルフ族の大好物である。 


-------------------------


 飲み物も人数分取り出す。


「わわっ! やったー! 『黄金蜂のはちみつ水』だー!」


 大喜びしてぴょんぴょん跳ねるリリィ。相当大好物なんだな。


「ううぅ……。申し訳ありません。王都に招待している側である私がお世話になってしまうなんて」


「別に気にする必要なんてないぞ?」


 ガチャで出たもんだしな。


「ソフィ、ソフィ! マスターが出す食べ物は凄く美味しいんですよ!」


「へー。確かに良い香りがしますね」


「ここじゃなんだから、景色の良い湖の近くで食事しよう」


「賛成ですー!」


 馬車に待機させている従者にパン2個と飲み物を渡してから、俺たち4人は湖へと向かった。


 木漏れ日が出来ている場所へと座り、リリィがパンを2個づつ配る。


「はい。ソフィさんどうぞ」


「ありがとうございます。それでは失礼して……はむっ。……もぐ……んぅ!? や、柔らかい!!! もぐ。……――ふぁーーー! ほのかに甘いっ!」


「はい。飲み物もどうぞ。シノが出す食べ物って普段私たちが食べている物と比べて質が高いから、驚くのは無理もないわ」


「この飲み物も美味しい……」


 ソフィは口に手を添えながら驚いている。喜んでもらえて何よりだ。


「はふぁ――。シノノメ君たちはいつもこんな美味しいものを食べているのですか?」


「ん? あー、たまに……かな?」


 今まで『ソウルガチャ』を回してきて思ったんだが、唯の食べ物系は『 N 』ランクが多いような気がする。


 『 R 』~『 SR 』だと特殊な効果が付加されてた。そういえば『 UR 』ランクでの食べ物系って手に入れてないなぁ。


 パンを齧りながらそんな事を考える。空を見上げると雲がゆっくりと流れていた。


「う、羨ましい。……はむっ。もぐもぐ。はふぁ――……」 


 4人でのんびりと湖を眺めながらの食事は心が安らいでいく感じがした。


「見て、ゴンちゃん。あの人釣りしてる。釣れているのかな?」


「えっと、籠の中にちっちゃいのが2匹だけですね。晩御飯のおかずにしては足りないと思いますねっ」


「ご、ゴンちゃん……」


 呆れているリリィを尻目に、最後の一欠けらを口にする。


 湖では村人が小舟の上で釣竿の糸を垂らしている。のどかだ。


 釣りかぁ――。いいなぁ。ここんところバタバタしっぱなしだったからなぁ。


 俺も釣りやり――。


 あっ――!


 そういえば『収納空間』にアレがあったな!


 俺はスマホウォッチの画面を急いでスクロールしていった――。


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