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90.ヴィクセル邸③

 ヴィクセルの屋敷には広い庭があり、一部の区画に訓練施設があった。対人訓練用なのか地面から人の伸長程の丸太が等間隔で並んでいるエリアがある。


 その一部の丸太が、地面から穿つ氷の槍によって串刺しになっていた。地面は凍り、3本の巨大な氷の槍は5メートルまで伸びている。


 『ミスリルソード:氷牙』の特殊スキルを発動させたセシリア本人はというと――。


「……はゎゎゎ」


 地面に剣を突き付けた状態で、目の前の光景に感嘆の声を漏らし「はわゎゎ」言っていた。 


「えげつねぇ特殊スキルだな……。相手の足もとからアイシクル・エッジかよ。しかも発動が早くねぇか? これ、第一試合で使われてたら開始早々に決着ついただろ?」


「初見殺しか。恐らくだが、奥の手としてシノノメ殿は温存していたのかもしれないな。一度発動を見られてしまっては対処される恐れがある」


「でも、あの発動の速さは異常だわ。だって剣が地面に刺さった瞬間に相手の足もとからアイシクル・エッジよ?」


「……はゎゎゎ」


「やはり対処法としては相手の発動モーションを見切るしかないか」


「まぁ、実戦慣れしている相手だったらフェイントしてくるだろうし、苦戦はするだろうな」


「……はゎゎゎわゎゎ」


「そうね。……って、こらセシリー。あんたいつまで「はゎゎ」言ってるのよ」


「アイタ―! ソフィ姉ぇ頭叩かないでよー!」


 呆けているセシリアの頭をソフィアが小突く。


「折角の業物を貰っても、セシリアがこんなじゃなー。宝の持ち腐れじゃねーか?」


「あー! ジーク兄ぃひっどーい! そんなことないよっ! そんなことないですよね!? シノノメ様!」


 ソフィが縋るような眼をしている。


 実際のソフィの実力を知らないから何と答えればいいのか。


「ま、まぁ、その剣と共にヴィクセルさんを越える立派な騎士になってくれ」


「はいっ! まかせてください! ……えへへー、私も騎士隊長並みの武器手に入れちゃったー」


 セシリアはうっとりとした表情で、急に離れた所で素振りを始めた。相当嬉しいみたいだった。


「そういえばジーク達の武器も特殊スキル持ちなのか?」


 以前、グレゴリーが騎士隊長の鎧にも特殊スキルが備わっていると言っていた。ということは武器にも特殊スキルが備わっている可能性が高い。


 彼らの武器がどういった能力を備えているのか興味が湧いてきた。


「ああ。――っと言っても俺とソフィは武器の能力というより己自身に契約した精霊の力なんだけどな」


「どゆこと?」


「私たち騎士隊長が持つ武器はエンチャント系や特殊スキル持ちを王国から与えられます。ですがジーク兄さんと私は生まれた時に精霊と契約しているため、武器の特殊スキル自体必要ないのです。

 兄さんは『火の精霊』、私は『水の精霊』ですね。呼吸するように力を使えるから、私たちの武器は純度の高いミスリル製の剣なんです」


「要するに剣に精霊の力がやどりやすいってこと?」


「さすが、理解が早いな。下手に他属性の力が宿った武器よりかは、己の能力を剣にのせたほうが扱いやすいし効率がいいからな」


 なるほど。スキル発動には起動言語トリガーが必要だ。如何に強力なスキルでも、発動までの時間が掛かる。だがジークとソフィは契約した力を己の意思・・のみで発動できるのか。戦闘においてこの差は大きい。


「まぁ、シノノメの力に比べたら俺たちの力なんて足元にも及ばないだろうけどよ」


「ああ、古代竜をも真っ二つにした力。まさかとは思いましたが、あの戦いを見て確信しました。報告通りエルグ山を割ったのはシノノメ殿――あなただと」


 げ! ダルクさんの村の件がバレてる!? まさか村長たち俺の名前だしたのか? いや、しかしあの人たちに限ってそんなはずは――。


「シノノメさん――」


 先ほどまでの砕けた雰囲気が一変する。


 ソフィが真剣な眼差しで俺を見つめてきた。


「実は私たちがここにいる理由は――」


 ソフィの口から出た言葉に俺は耳を疑った――。



 ◇



「――どうか、ご一考していただけると助かります」


 騎士隊長であるソフィたち3人は一礼する。


 返答に困っていると、スマホウォッチの起動音がなった。


『マスター? ヴィクセルさんの用事は終わりましたかー?』


 左手に装着しているスマホウォッチからゴンザレスの声が聞こえてくる。


「ああ。無事に終わったよ。そろそろそっちに戻ろうかと思っていたところだ」


『それは良かったです。マスター、早く一緒にお祭りを――あっ! あー! アイル~っ それっ私の分も残しておいてくださいーっ!』


『ぎゃー! アイル! あんた香辛料かけすぎよっ!』


『まぁっ、これは中々においしいですわねっ。リリィさん、貴女も食べてみればこの良さが判りますわ』


『ずるいですー、私にもー!』


 ピッ――。


 通信が切られる。


 えー……。


 ソフィと目が合うと、彼女はくすくすと笑っていた。


「賑やかな子たちですね」


「ははは、まぁ――。さっきの話だけど、少し考えさせてくれないかな? 彼女たちにも相談したいから」


「ええ。それは構いません。私たちはまだこの街にいますので良い返事が聞けるのをお待ちしております」


 ソフィはにっこりと微笑んだ。


「さてと、じゃーそろそろ戻るかな。ゴンザレス達も待っていることだし」


「そうか。もうちっと話しがしたかったがしょうがないか。――おーい、セシリア! シノノメそろそろ帰るってよー!」


 素振りしていたセシリアが駆け足で寄ってきた。


「し、シノノメ様もう帰られてしまうのですか!?」


「ああ。この後に用事があるしな」


「そ、そうですか。残念ですけど、それなら仕方がないですよね。――しゅん」


 本当に残念そうな表情をするセシリア。


 そんな彼女の頭に手を乗せる。


「またな。立派な騎士になれよ」


「――っ!? はいっ! この剣に誓って」


 セシリアは『ミスリルソード』を胸の高さまで持ち上げて敬礼する。


 自身に満ち溢れた彼女の姿を見た俺は、ヴィクセル邸を後にした――。 


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