表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/107

09.旅立ち

 シノが村人たちと夜の見張りをしている同時刻――。

 エルグ山の山頂で冒険者8人のパーティーと数十匹の飛竜との戦闘が繰り広げられていた。


「ベリアルッ!! 後ろだッ!! くっ!!」


「ちぃ!! くそが! うらぁ!!」


 ベリアルと呼ばれた男は背中を襲い掛かろうとした飛竜に巨大な斧で薙ぎ払うが、すんでのところで逃げられる。


「ルークスッ! この数はやばいぞ! 撤退したほうがいいんじゃねぇか!?」


 ベリアルは必死に飛竜に抵抗しながら、パーティーのリーダーであるルークスに大声をあげる。

 ルークスはギルド依頼を引き受けたことに後悔をしていた。

 パーティーの人数も増え、冒険者ギルドのランクも順調に上がり有頂天になっていたことに。


 ルークスのギルドランクは「E」~「S」ランクの内、「A」にあたる。いくつもの依頼をこなし、「A」ランクの中で最も難しいとされている鉱石採取を引き受けたこと自体が失敗だった。

 エルグ山に住む飛竜は特殊な鉱石を体内に作り出す。エルグ山の鉱石を主食とし、体内で特殊な鉱石を生成されたのち排泄物として出される。それは魔法属性を付加させることのできる特殊な鉱石で、魔法属性武器を作る上に必要なものだ。


 魔法属性の武器は希少性が高く、滅多には手に入らない。魔法が使えるものがいれば一時的に武器に属性を付加できるが、あくまで一時的だ。永続的に武器に属性を宿すことのできる武器は値段が破格で中々手に入らないのだ。

 依頼をこなせば高い報酬、現地で鉱石を手に入れれば魔法武器を安く手に入れられるとルークスは欲をかいていたのだった。


 エルグ山の飛竜は昼行性である。故に飛竜が寝静まった夜に鉱石を採取すればいいと考えていたのだ。

 だが現実は甘かった。飛竜たちのテリトリーに侵入した途端に目を覚まし、数十匹という飛竜が襲い掛かってきたのだ。


「う、うわあああああああ! た、助け――ぐぎゃ、がはっぐえ、ああああぁぁあ」


「レイラー! てめぇレイラから離れ――がはっ!……お、かへっ……や、やめ」


 飛竜の鉤爪でズタズタにされていく女冒険者を助けようとした別の仲間が、別の飛竜に横から襲い掛かられその体を鋭い牙でかみ砕かれていく。


 どうするか思案しているうちに仲間が次々と殺されていく。まさに地獄絵図だ。


「おいルークス! おい! 呆けているんじゃねーぞ! もう撤退するしかないだろう! 生き残っているは俺たちだけだ!」 


 ベリアルに叱咤されルークスは我に返る。


「くそッ! 皆すまない。俺のせいで……」


「いいから早く来い! このままだと全滅するぞ!」


 ルークスは断腸の思いでその場から走り去る。仲間の死体をズタズタにしていた飛竜たちが、走り出し逃げていくルークスたちに気づき追いかけてきた。

 エルグ山は隠れるところがほぼない岩山。よくて窪みに身を収められる程度だ。背後には沢山の飛竜が空から追いかけてきてる。


 逃げられはしないだろう。ならば死んでいった仲間に顔向けできるよう最後まで抵抗したほうがいい。ルークスは立ち止まり、反転して飛竜たちの群れへと飛び込んでいく。


「ちくしょおおおぉぉ」


「おい! ルークスッ!」


 ベリアルが振り向き、ルークスが飛竜の群れに突っ込んでいく瞬間、黒い光が空を飛んでいる飛竜の群れを飲み込んでいった。

 その刹那、強い衝撃波が体を襲いルークスとベリアルの体は吹き飛ばされていく。数十メートルは飛ばされただろうか。


「ぐっ……。かはっ……」


「ってぇ……。一体何が……」


 衝撃波によって意識が朦朧としている二人は何が起こったのか、体を起こすと其処には信じられない光景が目に飛び込んできた。 

 数十匹いた飛竜の姿は無く、断崖絶壁の崖ができていたのだ。いや、崖ではない。これは山が真っ二つになっていることに二人は気づき、言葉を失っていた。


「な、なんだよこれ……。一体何がどうなっているんだよ……」


 ベリアルが立ち上がり谷底をのぞき込む。底のほうから吹き上がる風の音が不気味な音に聞こえ、その体をブルリと震え上がらせた。


「何が起こったかは分からないが、俺たち助かったのか……」


「あ、ああ……」


 ルークス達は唯呆然として目の前の光景を眺めていた。

 後に、エルグ山の一件は重大な事件として王国で騒がれることになる。


 この頃のシノは想像もつかなかっただろう。


 自分が数奇な運命にとらわれていることに――。




 ◇




「シノお兄ちゃん! 朝だよー! とうっ!」


「ぐえぇ!!」


 寝ていたら突然腹の上に強い衝撃が走る。眠い目を擦り周りを見渡すと、にこにこ顔のメイと窓から差し込む朝日の光り。


「あれ、もう朝……?」


 寝ぼけた頭でぼーっとしていると、いきなり布団をメイに剥がされた。ひんやりした空気が体を刺す感覚に縮こまる。


「うっわ! 寒っ! 何するのメイちゃん!」


「お寝坊さんは、めっ! だよ、シノお兄ちゃん? お母さんがもうすぐ朝食の用意できるから呼んできてって言われたの」


 窓から外を覗いてみると、他の村人たちは農具を持って畑へと向かっている。

 そしてスマホ・ウォッチで時間を確認する。


『AM5:35』 


 は、早すぎる……。もうこんな時間から仕事始めているのか。農業も大変なんだな。


「ほらほら、お兄ちゃん。料理冷めちゃうよ?」


「ああ、ごめんごめん。もう起きるから先に行って待っててよ」


「うん! わかった!」


 元気に返事をし、メイは部屋を出て行く。

 太陽の光を浴びながら、大きな欠伸し背筋を伸ばす。

 

「くあ~~~……」


『おはようございます。マスター。先日の疲れは取れましたか?』

 

 脳内にサポートAI、ゴンザレスの声が響いてくる。


「ああ、大丈夫だよ」


 ベットから起き、昨日そのまま寝てしまって為に皺くちゃになった私服を伸ばす。

 直らないな。仕方がない、このまま行くか。


 料理が並べられている部屋に向かうと、笑顔でダルクとミリーが挨拶してくる。


「おはよう、シノ」


「おはようございます、シノさん」


 椅子に座っているダルクの膝の上にメイがちょこんと座っていて、ミリーは台所で出来た料理を運んでいる。

 微笑ましい光景だ。いつか俺も家族を持ったらこのような家庭を築けるだろうかと考えてしまう。


「シノお兄ちゃんおそいよー!」


「ああ、ごめんごめん」


 頬を膨らませたメイに怒られた。


「ふふふ、今日も沢山作りましたから、たんと食べてくださいね」


「ありがとうございます。遠慮なくいただこうと思います」


 愛娘がシノお兄ちゃんと慕っている姿を見て、ミリーは嬉しいのか微笑んでいた。

 こそばゆさを感じながら、ダルク一家との2度目の食事をした。



 ◇



 ミリーの料理をご馳走になった後、ダルクと一緒に村長の家へを向かう。

 村長の家向かう途中、農作業をしていた村人たちから挨拶される。


「おはようごぜーますだシノ殿ー!」


「昨日はよく寝れたべか?」


「あ、シノ様! おはようございます! 今日お菓子を焼いて持っていくので、後で食べてください!」


 行く先々で声を掛けられるので村長の家に着くのにかなりの時間がかかってしまった。

 大事な農作業中、折角手を止めてお礼を言ってくれるので無下にはできるはずがない。目的地に家の前に着くと、ダルクがドアをノックする。


「村長、ダルクです」


 ドアをノックしてから暫くすると、中から村長が出てきた。


「待っていたぞい。さ、中に入りなさい」


 中に入り昨日と同じ席に案内されると、奥からお婆さんがお茶を持ってきてくれる。

 来ることがわかっていたから、予めに湯を沸かしていてくれていたのだろう。


 そんな気遣いに感謝しつつ、お茶をいただく。


「シノ殿、単刀直入にお聞きしますがこれからどうするおつもりじゃ?」


「ああ、昨日話したとおり元の世界に戻る方法を探そうかと思っています。とりあえず、この村から近いベスパの街に行ってみようかと」


「ほほー、そうですかそうですか。ふむ――」


 村長は長い顎髭を右出て撫でながら考え事をしている。何か有益な情報をくれるのだろうか。

 出されたお茶を飲みながら村長が口を開くのを待っていると、顎髭を撫でていた手を止め此方を見てきた。


「実は3日後にペスパから来る行商人がメイルプスの果物を買取に来るのじゃが、シノ殿をベスパまで連れて行ってもらうように口添えをしておきますじゃ」


「え? いいんですか?」


「もちろんですじゃ。こんなことしかお礼を返せないのが残念ですがの」


 正直俺としても助かった。隣町まで連れて行ってくれるのなら安心だ。


「あの、畑がこんな状態でこれからどうするんですか?」


「ん? ああ、全ての畑がダメになったわけではないですからの。無事に収穫できるものだけでも、多少ありますので」


 村長は皺くちゃの顔を、さらに皺くちゃにして苦笑している。


「そうですか……」


 こればっかりはしょうがない。作物はそう簡単に直ぐには育たな……ん?


 ……あれ? 確かあのガチャアイテムって……。


『マスター『アイリスの涙』です』


(そうそう、それだ! 流石だなゴンザレス!)


『ありがとうございます』


 ゴンザレスの反応がやたら人間っぽいような気がしたが、あえて気にしないでおいた。

 最後くらい、もうちょっとお節介してもいいよな?


「あの、村長。試してみたいことがあるので、水を汲んだ桶とメイルプスの種を用意してくれませんか?」


「水と種……ですか? はぁ、シノ殿が欲しいと申されるのでしたら用意しますじゃ。 すまんがダルク、頼めるか?」


「は、はぁ……。構いませんが……シノ、一体何をする気なんだ?」


「まぁ、ちょっとした実験ですよ」


 そう答えると、ダルクは種を取りに外へと出て行った。



 ◇



 俺とダルク、そして村長の3人で荒らされた畑の前に立っている。

 先ほどダルクが持ってきた種を畑の土壌に植え込む。


「シノ、まさか一から育てようとか言うんじゃ……」


「まあまあ、黙って見ててください」


 右手を前にだし、起動言語トリガーを唱える。


「クイックオープン、アイリスの涙」


 右手の上の空間に小さなガラスのような塊が出現し弾け、エメラルドの様な拳大ほどの宝石が具現化する。


 それを水がたっぷり入った桶に入れると、透明な水が薄い緑色に変色した。その水を尺ですくい、メイルプスの種を植えた土壌へとかけると変化が起きる。

 植えた土から芽が出てきたと思ったら、急激な速度で成長し瑞々しい果実を実らせた。


 ダルクと村長が口を開けて呆然としている。


「シ、シノ……こ、これは一体……」


「なんということじゃ……奇跡を見ているようじゃ……」


「うわ、これ程まで強力だとは……」


 そして俺も驚く。


「村長、村の皆を呼んできてください。3日もあればこの水で全ての畑を豊作にできます」


 村長は膝を付き、震えている両手を合わせる。


「……おおぉ……貴方は神か……」


 ダルクは直ぐ様、村の皆を集めに走り出していった。


 

 ◇



 二日後、村の畑は大豊作と言ってもいい程メイルプスの果実が実っていた。

 その実は瑞々しくて爽やかな甘みのある果物だった。


 最初村の人たちは半信半疑だったが、実際に目の前でメイルプスを成長させると信じられないといった顔をしていた。

 村人たちが涙ながらに感謝してきたのには流石に困ってしまった。どうやら、魔物は倒せても肝心の収入減である農作物がやられてしまって内心どうすればいいか途方に暮れていたらしい。


 せめて村の恩人の前ではと、気丈にふるっていたようだった。

 まさかガチャのアイテムがここまで役に立つとは思わなかった。異世界に飛ばされてひどい目にあった元凶だ。複雑な気分である。


 そしてさらに次の日、予定通りベスパから来た行商人がメイルプスの果実を買取にくる。

 行商人3人と護衛である冒険者が9人いたが、村についたとき山が真っ二つになっていることに驚いていた。


「そ、村長。あのエルグ山に一体何が起きたんだ!? 何故山が真っ二つになっている! 山の直線状の森も蒸発させられた後はなんだ!?」

 

「それがの、ワシらにもさっぱりわからんのじゃ。朝起きたらこの有様よ」


「有様よって……。村長、なに落ち着いてるんだ! これは前代未聞の一大事じゃないのか!? 山が割れているんだぞ山が!?」


「しかしのー。そうは言っても―――」


 行商人の質問攻めに村長がすっとボケている。マジで知らぬと押し通す気満々である。大丈夫だろうか。

 護衛で同行していた冒険者たちは「魔法による人為的なものではないか」、「これはギルドから大きな事件として偵察クエストが発行されるかもしれない」と仲間内で話し合っている声が聞こえてきた。


 流石である。きっと戦闘経験豊富な冒険者なのだろう。


 結局、村長と一緒に村人たちも知らないと押し通した。行商人たちは腑に落ちないような顔つきだった。きっと街に戻ったらこのことを広めるだろう。それが普通の反応である。

 そして名産物の取引が済んだ後、村長は約束通り俺を隣町のベスパまで連れて行ってもらえるように口添えをしてくれた。


 最初は渋っていたが、そこは村長がお金の力で解決してくれたらしい。チラリと渡しているのが見えたのだ。


 出発は次の日――――。



 ◇



 空に雲一つない青空の下、行商人の馬車の荷台に乗り込む準備をする。

 

「シノお兄ちゃん、本当に行っちゃうの……?」


「ああ、いつまでもこの村にはいられないからね」

 

 メイは寂しそうな顔を浮かべている。


「シノ、お前には散々世話になったな。もし、また近くに寄ったらこの村を訪れてくれ。うちの嫁さんのご馳走をもっと食わせてやるから」


「それは楽しみですね」


 ダルクが差し出してきた右手を握り返す。

 そして村の人達、一人一人が感謝の言葉をかけてきた。


 最後にメイが俺の前へと立ってきたので、メイの目と合う位置までしゃがみ込む。


「メイちゃん、元気でね。お父さんとお母さんを大切にするんだよ」


「……うん」


 メイと指切りをすると、行商人の馬車の荷台へと乗り込んだ。

 商人の出発の合図と共に馬車が動き出す。


 距離が離れていき、ノアル村が小さくなっていく。


「元気でねーーーー! お兄ちゃんーーーー!」


 風の音と共にメイの見送りの言葉が耳に届いてくる。


 空は快晴、心は晴れやか。


 色々あったが、こういう旅立ちも悪くはないなと思うのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ