86.決着 ★
「ゴンザレスッ!! あの古代竜、滅茶苦茶でかいぞ!? 一体どれくらいの大きさなんだよっ!」
奔りながらモルセルが変貌した古代竜・リヴァイアサンへと見上げる。その大きさは雲まで届いている。
リヴァイアサンは海側にいた為体半分は海へと続いていた。頭はドラゴンだが体はまさに超巨大な蛇だ。とてもじゃないが王国騎士隊や冒険者が束で掛かってもどうこうできるものじゃない。
前回のラファーガルと時とは大違いだ。
『えっと、全長10キロメートルです。古代竜の中では最長の大きさです!』
「だろうなッ!!」
如何に自分の力に自信がある者でも、この大きさを見たら委縮してしまうだろう。
ジーク達は大丈夫だろうか?
後ろを見るとヴィクセル達も走り出していた。各々の武器を掲げ、必死に俺の後ろをついてきている。
「シノノメ殿に続け続けぇ!! 王国騎士隊! 死力を尽くして民を守れッ! 地上に接しているやつの腹に集中攻撃するのだッ!! どんな生物でも腹は柔らかい! 臆するなッ!!」
「「「「おおおおおおおおおぉぉ!!」」」」
「ヒュー! ヴィクセルのおっさん、燃えてるじゃねーか!! うおっしゃー! 七番隊長の力みせてやらぁー!」
「ふんっ! 言われなくてもやるべきことは変わらない」
「だーっ、なんっでこの男どもはただ突っ込むことしかできないのよー!! 迂回したり他にやりようがあるでしょーが!!」
ヴィクセルの掛け声に騎士兵士たちが雄叫びを上げ駆けている。流石は年長者と言ったところか。統率の取れた動きは流石(?)だな。
騎士兵士たちに紛れて走る見覚えのある姿が見えた。
あれは……ギリコたちか?
「王国の犬どもに言われなくてもわかってらぁ、くそったれ!!! ザルバ―は無ぇが俺の拳でぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「頼もしいねぇ、良かろう。君には特別な肉体強化の魔法をかけてあげよう!」
「わははは! 古代竜の触媒を手に入れるチャンス!! 俺も乗り遅れてたまるかぁ!!」
「ふー。皆さん、逞しいですね。僕は物凄く怖いんですけど……。一番槍とはいかなくても、頑張ります!」
あいつら逃げてなかったのか。うーん、なんて逞しい連中なんだろ。
だが、そういうのは嫌いじゃない。俺も頑張らなければ。
『マスターッ!! このまま一か所に集中していては攻撃の的です! それと、戦闘が長引けばこちら側が不利なのは明白!! 地上は彼らに任せてマスターは上空へ飛び、竜剣スキルで頭を早々に潰すことを進言いたします!』
「やっぱそうなるよな。了解、ゴンザレス! さぁ、覚悟しろモルセルッ!!』
こちらの殺意を感じ取ったのかリヴァイアサンが咆哮をあげ鎌首を擡げる。
「させるかぁ!!」
地面を思いっきり蹴り上げた瞬間、景色が一気に変わった。
「――ッ!?」
俺はリヴァイアサンの上空に飛んでいたのだ。
うっそだろ!? 竜剣2本使用でこの身体能力かよ!?
余りの肉体能力上昇に俺自身が驚いてしまった。
『マスターッ!! 『ガリオス』をリヴァイアサンへと振り抜いてください!』
俺はゴンザレスの言われた通りにリヴァイアサンへと竜剣を空斬りした瞬間、刀身が分解しリヴァイアサンへと伸びていく。
刀身の間には3本の青く光る鎖が伸び、その刃先はリヴァイアサンに突き刺さった。
――グオオォォオォォォ!!!
リヴァイアサンが仰け反る。
「うぉっ!! なんだこのギミック!! これ蛇腹剣なのか!!」
『はいっ! マスターなら使いこなせると信じています!』
「へ?」
刃先は突き刺さったままで俺は空中に滞空している。という事は――。
瞬間、体がリヴァイアサンの方へと引っ張られた。
「うぉっ!?」
引っ張られる最中俺は理解する。要するに、だ。慣性の法則にのっとって空中戦をすればいいってことだよな!
刀身が接合するタイミングを見計らって『ガリオス』を振り抜き、そのまま反対側へと飛翔。振り抜いた大剣の慣性を利用し更にリヴァイアサンへと蛇腹剣を振り抜くと、刃先が伸びその体へと突き刺さり上空へとまた上昇する。
グオオォォオォォォ!!
『マスター流石ですっ!! 私の意図を必ず読み取ってくれると信じてました!』
「ははっ! 信じてくれるのは嬉しいが、もうちょっと前に説明頼むっ――ぜっ!!」
先ほどと同じような動作でリヴァイアサンを切り裂いた。
『ふふっ、ごめんなさい。でも、マスター。『ガリオス』の扱い方をもうマスターしているじゃないですか』
「まぁ、なっ! ふんっ!!」
何回も同じ動作をする。
正直な話、ここまでできるのは竜剣の身体能力向上のお陰だ。体中に流れる膨大な力を感じているため、恐怖心はまったくと言っていい程無い。
斬り付けた箇所からは大量の血が流れ飛び散る。このまま続ければ倒せるかもしれない。俺は蛇腹剣を振り抜こうとした瞬間、大きな影が体を覆っていたことに気づいた。
『マスターッ!! ガードしてください!!』
ゴンザレスの叫び声と共に、巨大な尻尾が頭上から叩きつける様に迫ってくるのが見えた。刹那、俺は咄嗟に2本竜剣で防御する。だが、滞空している状態では焼け石に水。
俺はそのまま地面へと叩き落される。落下する速度を感じながらも態勢を保ち、両足で着地する。地面は陥没、土煙が起こる。普通なら即死。だが、2本の竜剣によって強化されている俺は体のダメージは殆どなかった。
落ちた場所はジーク達がいる場所だった。
「シノノメ殿! 大丈夫か!?」
ヴィクセルが近寄ってきた。問題ないと片手を上げる。
――オオォォオオォォ。
血を流すリヴァイアサンが唸り声をあげ苦しんでいた。
『ぉ……ォォ……い……のち……永遠イノチィィ……ホウギョクゥぅ』
「喋った!? モルセルの奴意識があるのか!?」
『マスター! アレはモルセルの強い思念を宿したものです。ああなってしまっては意思はありません。それと、恐らくですがモルセルの目的が分かりました』
「なんだって?」
『モルセルの目的は……永遠の命。不老不死です。あれ程まで生に固執してるということは間違いないでしょう』
不老不死……。成程、強力な力を持つ宝玉なら永遠の命も可能と思ったわけか。だが、それがあんな姿になってしまったんじゃ、本末転倒だ。
「ぐぬぅ、モルセルめ。己の欲望の為に自らの子を利用するとは……。許せんッ!」
ヴィクセルが激情する。
「おい、ヴィクセルのおっさん! ダメだッ!! 全然刃が通らねぇ!!」
ジークの苛立った声が聞こえてきた。皆リヴァイアサンの腹へと剣を突き立てているが全然効いていないようだった。
「くそがっ!! このままじゃ――。 ……って、お、おいおいおいおいおい! お前ら逃げろー! つ、津波だー!! あの野郎津波を起こしやがった!!」
リヴァイアサンの方へ向くと巨大な津波が押し寄せていた。 津波によって太陽が隠れ辺りが暗くなる。ギリコの掛け声によって皆一斉に走り出すが、どう見ても間に合わない。
そうなると津波をどうにかするしかない――。
俺は立ち上がり『水竜・ガリオス』を逆手に持ち直す――。
『マスターっ!!』
「おうよっ!!」
『竜剣スキルの使用を進言しますっ!!』
俺は竜剣を地面へと突き刺し、ありったけの声で叫んだ。
「――ドラゴン・インストール:『水竜』ッ!!」
空気が爆ぜる。足音には青色の魔法陣が展開。その周りには蒼い稲妻のような閃光が走り、膨大な力が溢れ更に輝きを増す。
魔法陣を通して体の中にドス黒い力の本流が流れ込んできて、破壊衝動となって俺の精神を飲み込もうとしていくが叫び声と共に抑え込んでいく。
「ガアアァァァアアァァァァァァ!!!」
『マスター! 『水竜の魔眼』のタイムリミットは180秒です!! 能力が切れる前に決着を付けるべきです』
左目が燃える様に熱い。見える景色が徐々に変わっていく――。
『水竜』の能力は水の生成・操作――。
ならば、迫りくる津波を無力化しそのまま奴に倍返しだ!
『魔眼――、解放!! カウントダウン開始します!』
能力が解放された瞬間、俺は迫り狂う津波を凝視し、その流れを変える。
「うおおおおおぉぉぉ!!」
津波は渦を巻き、巨大な竜巻を巻き起こす。それを俺はリヴァイアサンへとぶつけると、10キロメートルものある体は遥か上空へと押し上げられた。
「――ドラゴン・インストール:『暴竜』ッ!!」
2重インストールした瞬間、周りの空間が高密度の磁場が形成された。黒と青の稲妻が体の周りに放電される。2本の竜剣から流れ込んでくる力は凄まじく、体が悲鳴を上げる。
破壊衝動を通り越して精神が焼き切れそうだ。俺が俺でなくなる感じがし――。
……――――。
『ま、ますたーっ!!』
『シノっ!!』
「――――っ!?」
ゴンザレスとリリィの声に我に返り、二人の笑顔が脳裏に浮かび上がる。
ああ、そうだよな。こんなところでくたばるわけには、……――いかねぇよなぁッ!!
「だあああああああああああああ!!!」
巻き起こっていた磁場が霧散し、地面が陥没していく。
いくぞ、一気に畳みかけるッ!!!
「――スキルッ!! グラビティッ……!!」
力の本流がさらに大剣へと流れ込み、その刀身を変化させる。それは禍々しい程に生きる全ての生物を否定するが如く輝いている。
全てを食らい尽くせと――。
俺はありったけの力で『ファルベオルク』をリヴァイアサンへと振り抜く。
「――アルファァァァァァ!!!!」
今までにない程の巨大な黒い斬撃が発生。直後、空気が爆発する音が遅れて鳴り響く。黒い閃光はリヴァイアサンへと襲い、頭部と胴を真っ二つに切り裂いた。
爆風が空の雲を一瞬にして霧散させていく。遅れてリヴァイアサンの体が地面へと落下し、土煙が巻き起こる。土煙が収まった後には生命活動を停止したリヴァイアサンの死骸が転がっていた。
『マスターっ。目標殲滅ですっ!』
――終わった、と。俺は安堵の溜息を吐き竜剣を収納空間へとしまいこんだ。




