84.志(こころざし)
地響きが闘技場に鳴り響く。魔兵士たちが東雲の元へと押し寄せていく。並大抵の兵士なら恐怖で立ち竦むだろう。
だが東雲は落ち着いた動作で竜剣を腰に構える。目の前に迫ってくる大群を静かに見据えて――。
そんな東雲の姿を見てある者は逃げろと言い、ある者は無茶だと叫ぶ。戦っていた者たちは皆思い知らされていたのだ。魔兵士の強さに。
敵のステータスは優に『 S 』ランクに匹敵している。モルセルによって能力が飛躍した敵に王国兵士たちは苦戦していたのだ。如何に東雲の実力が『 S 』ランク並みだとしても、1対100では勝てない。連携しなければ無理だと。
それがおよそ100以上の数――。東雲へと向かい突進していく魔兵士達の姿を例えると、それは大きな津波だ。一方的に蹂躙せしめる暴力の塊が東雲へと迫る。
貴賓席で見ていたアイルは叫んだ。
「お父様!! お止めになってください! お願いですわ、どうかっ!! お父様っ……きゃっ!!」
アイルは縋る様に叫ぶ。だがモルセルは聞く耳を持たない。その横顔は狂気に満ちている。
アイルを取り押えていた魔兵士がアイルをさらに地面へと押し付ける。アイルは顔を必死に上げ東雲の方へと向く。
先頭集団が飛び上がり東雲へと襲い掛かると、その姿が見えなくなった。
「うぅ……なんで」
アイルは涙を流し崩れ落ちる。暴走寸前の宝玉の前に現れた『神の使い』――、東雲徹。運命的なものを感じていたのに、次世代に命を繋げる為に行った行動が彼に危険を負わせてしまったのだ。全てがこぼれ落ちていくような錯覚をアイルは感じた。
何もかも終わってしまったとそう思った時、体を突き抜けるような低い爆音と同時に強烈な光がアイルの顔を照らした。顔を上げる。闘技場中央に一筋の巨大な光の柱が立ち昇っていたのだ。そしてその中心には右腕を頭上へと突き上げている東雲の姿。
右手に光の大剣の姿は無く、代わりに右腕に物々しい鎧のようなものが装備されていたのだ。光の柱の発生源は四角い形をした長いロングバレルから放たれる高出力エネルギー。上空へと撃ち放たれたエネルギーの余波によって、東雲の周りに押し寄せていた魔兵士たちは全て消し飛ばされていた。
放出され続けるエネルギーの熱によって東雲の周りの地面が赤く焼け溶けていく。その神々しい光にアイルは目を見開いて見つめていた――。
◇
魔兵士の大群に呑み込まれる寸前、俺は『ドラゴン・インストール』発動させた。魔法陣から発せられる力場よって魔兵士たちの攻撃を無力化する。
流し込まれる力と同時に襲い掛かってくる破壊衝動を雄叫びを上げて抑え込んでいく。
「ガアアアアアアアァァァ!!!」
『マスター! 『ドラゴン・インストール』使用によって『リアレイダー』の活動限界、残り1分です!! それとこの竜剣スキルは専用タイプに変形させなければに発動しません。起動言語は『チェンジ:バスターモード』です。放つなら上空へ撃ち込むことを推奨します! 』
叫び続けている間にゴンザレスからのサポート通信が入る。
どうやら『リアレイダー』へ割り振った固定ソウルは残り僅からしい。ならこの場を一気に無力化しなければならない。
破壊衝動を抑え込み、ゴンザレスの指示通りに上空へと右腕を突き上げる。
「――アアアァァァッッ!!! 『チェンジ:バスターモード』ッ!!!」
起動言語を唱えると、竜剣が変形する。右手にあった大剣が俺の腕へと装着変形していく。右腕に装着された銀色に光るロングバレルの長さは大剣に匹敵する。
「スキル――。『レイジングバスター』!!」
スキル名を叫んだ瞬間、右腕に大きな反動が伝わる。巨大な高出力エネルギーが上空へと貫く。エネルギー波を受けた敵は蒸発し、周りにいた魔兵士たちも余波によって消し飛んでいくと同時に『ソウル』が出現していく。
放出され続けるエネルギー波は一種の巨大な刀身の様に見える。エネルギーを放出しきった『リアレイダー』がバスターモードから竜剣へと戻ると、俺は『収納空間』へと竜剣を納め『ソウル』を回収する――。
◇
王国騎士隊長3人と互角の戦闘を繰り広げていたミドスは、東雲の『レイジングバスター』を目の辺りにし戦慄していた。
人であることを捨て、絶大なる力を得たミドスは今の自分なら東雲にさえ勝てるだろうと思っていた。むしろ他の魔兵士でもだ。如何に相手が『 S 』ランクだろうと、同じ『 S 』ランククラスまで能力を引き上げられた彼らの数には敵うまいと。
数は暴力だ。『決闘』と『合戦』とでは意味合いが違う。如何に戦闘能力が突出していようと数の暴力の前ではいずれ力尽きる。
それに勝算はあったのだ。東雲が前に見せた隆起爆発スキルの範囲は敵味方なく攻撃する。故にこの状況では撃てないと確信していた。
だがミドスの考えは甘かった。隆起爆発以上に強力なスキルを東雲は隠し持っていたのだ。そう、スキルの特性を生かすそのセンスに対しても。
(この男は危険すぎる……! モルセル様でさえ今のスキルは防げないだろう。かくなる上は……。む……奴はスキルを放った反動で棒立ち状態。殺るなら今しかない!!)
『邪魔だッ!! 羽虫ども!!」』
ミドスはジーク達3人を各魔剣で弾き飛ばす。
「ぐあっ!!」
「きゃっ!!」
「っ!!! しまった! 奴の狙いはシノノメ・トオルか!! ジーク! ソフィ! 」
「舐めやがって!!」
「もー、あったまきたっ!!」
吹き飛ばされながらも状況分析していたアリゲルは態勢を立て直すべく直ぐに起き上がる。
だが既にミドスは東雲の背後に周っていた。4本の狂剣が東雲を襲い掛かろうとした時――。
「――スキル。『束縛の鎖』」
8つの魔法陣から出現した青い輝きを放つ鎖がミドスを束縛する。
東雲はミドスに背を向けたまま振り返らない。
『ッ!!? な、なんだこれは! くそっ! 身動きが取れない! おのれシノノメーー!!』
「悪いな。あんたの『ソウル』も頂こうかと思ったが、どうやら止めを刺すのは彼らみたいだ」
「!!?」
東雲の一言に3方向からの殺気にミドスは気づく。殺気の正体はジーク達3人のものだった。
『は、羽虫どもがぁぁぁぁぁ!!!』
その一言を最後にジーク達の一太刀によってミドスは絶命した。魔物と化していたミドスの亡骸は灰になり、風に吹かれて霧散していく。
東雲の背中越しにアリゲルが声を掛ける。気づいた東雲が軽く振り向く。
「シノノメ殿、先ほどは無礼を働き失礼をした」
「ほんとよーアリゲル。ほら、ジーク兄さんも謝って」
「なっ!? えっと、まー、なんだ、その……。悪かった。後でまた正式に名乗らせてくれると助かる」
「にーさん!!」
「な、なんだよ。ちゃんと謝ってるだろうが!」
「シノノメ殿、済まない。ジークはバツが悪くて照れているだけなんだ。私からもジークの分含めて謝罪させてほしい」
三者三葉の言葉に東雲は笑って答えた。
「別に大丈夫だよ。ヴィクセルさんからも謝られてるし。それに――まだやることが残ってる」
東雲がモルセルへと睨みつける。その隣には捕らえられたアイルとその従者の姿があった。
「ああ。そうだな。アイル姫を助けねーとな。王国騎士隊長の名が廃れるぜ」
――ジークが剣を構える。
「あら、三擦り半のジーク兄さんにできるの?」
――冗談を言いながらソフィも剣を構える。
「てめっ! その呼び方やめろって!」
「いい加減にしとけジーク。シノノメ殿、どうか力を貸して頂きたい。モルセルを無力化し、我が国の法で裁く為にも――」
――アリゲルは東雲に敬意をはらいながら剣を構える。
「王国騎士10番隊ッ!! シノノメ殿と各騎士隊長たちを援護しろっ!! なんとしても反逆者モルセルをひっ捕らえるのだ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
10番隊の騎士兵士たちを束ねていたヴィクセルもまた、東雲たちの背後に周り陣形を整える。
「うはははは!! シノノメーー! 俺たちも助太刀するぜー!!」
トーナメントに勝ち上がってきていたギリコ達もまた、姫君を助けるべく立ち上がる。
東雲の背後には多くの騎士兵士、猛者たちが集まっていた。志を共にした人々の想いがモルセルの前へと立ちふさがる――。
その光景に、東雲は静かに礼を言う。
「ありがとう、皆。――覚悟しろモルセル!! アイルも宝玉も返してもらうぞ!!」
東雲の声が風に乗って響き渡る。
今、最後の戦いが始まろうとしていた――。




