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81.神の使い

 勝利した暴竜の咆哮が会場に響き渡る中、貴賓席に座っていたアイルが驚きの表情を浮かべながら立ち上がる。

 東雲が召喚を行った際に解放した力をアイルは感じ取ったのだ。それはアイルが守護している宝玉の力と同質のもの。


 『風』の性質を含むそれは恐らくエルフ族が守護していた物だろうとアイルは瞬時に理解した。

 それは即ち、彼が『神から使わせられた使者』という事になる。アイルは目じりにうっすらと涙を浮かべる。


(ああ――、彼がそうだったのね。 あの時、あの浜辺に惹かれた感じはそういうことだったのですわね)


 マーメイドは契りを交わす時以外、滅多に人前に姿を現さない。長であるアイルは尚更のこと。

 だが、東雲と会った日の夜、アイルは何かに惹かれる様に浜辺へと向かったのだ。

 その理由が分かり、アイルは涙を浮かべたのだった。


(――よかった。宝玉が暴走する前に彼が現れてくれて)


 アイルは東雲の姿を見つめる。その凛々しい姿にアイルは目を離せないでいた。アイルは思う。男性と契りを交わす時期と重なる様に、宝玉の暴走する兆候が見え始め、そこへ神の使者が現れてこの大会に出場しているのだ。これはもはや運命ではないかと。そう思うアイルの心に、今までに感じたことのない感情が芽生えた。


 アイルは無意識のうちに東雲の元へと歩む。すると突然、アイルの腕を掴む者がいた。アムール領主、モルセルだ。


「困りますな。まだ試合は終わってはいませんぞ」


 モルセルに咎めらる。その目は据わっていて、アイルは少し恐怖を感じたがそれは大会を台無しにするな、と言っているのだと勝手に解釈した。


「あ、あの――。そ、そうですわね」


 メーメイド族の願いを聞いてもらったのだ。こちらから始めたことに対して、人族の顔に泥を塗りつぶすのは良くないとアイルは思い大人しく席に着いた。


 アイルは大型スクリーンに映る東雲の横顔を見つめる。

 自ら招いたこととは言え、東雲に最後まで勝ち残ってほしいと思うアイルであった。



 ◇


 

 グレゴリーとの勝負に勝って俺は安堵する。暴竜は役目を終えたことにより、細かい光の粒子となって消えていった。


『マスター! おめでとうございます! やりましたね! 初めての召喚はどうでしたか?』


「ガチャみたいで楽しいな。どんな竜が出てくるのかワクワク感はあったが、暴竜が出てきた時はちょっとビックリしたよ」


『ですねっ! 私もびっくりしちゃいました。縁ってやつですね!』


 嬉しそうな声色にゴンザレスの笑顔が思い浮かび上がる。


 普段はソウルを無駄使いするなと口うるさいゴンザレスだが、挑発してきたグレゴリーに勝てたのが嬉しいのか、ゴンザレスは終始ご機嫌だ。

 召喚スキルに消費ソウル10万は痛いが、ゴンザレスの為だ。それに一番最初に手に入れた竜剣の元であるファルベオルクをこの目で見ることができたから良しとすることにした。


 ゴンザレスと喋っていると、グレゴリーが此方に近づいてきた。


「いやー、負けた負けた。俺が召喚対決で負けるとはな」


『ふふんっ。マスターは凄いのですっ! ですから、マスターを馬鹿に――』


「ああ、そうだな。お嬢ちゃんの主人は凄い奴だ」


『しないで――って、はぇ? え、えっと?』


「なんだ、聞き取れなかったのか? シノノメは凄い奴だって言ったんだよ。俺は今まで唯一無二の力、古代種召喚に自信を持っていた。


 だが目の前に俺の知らない術式で古代種召喚をやってのけた奴が現れた。しかも触媒無し、竜種と言うおまけ付きでな。こんなん見せられたんじゃ、認めるしかないだろう。シノノメ、お前は強い。誰よりもな」


 グレゴリーは破顔一笑する。

 その顔は清々しいほど晴れやかな表情だった。


「グレゴリー……」


 対戦相手から認められて俺は面食らってしまった。お前は強い、と。そう言葉に表すグレゴリーになんて言葉を返せばいいか分からなかった。


 敗者に掛ける言葉を俺は持ち合わせていない。「あんたも強かった」といったところで、負けた相手にとっては同情と受け取られるのではないかと思ったから。


「またどこかで会った時は、酒でも飲みながら話そうや。わははは! じゃぁな」


 肩を力強く叩かれる。豪快に笑いながら去る姿は何処か勇ましかった。


 大型スクリーンによって一部始終を映し出されていた為か、会場からは拍手が上がった。それはグレゴリーに送られたものだろう。


『こ、これは……。グレゴリー選手、負けたにもかかわらずシノノメ選手に賛辞の言葉を贈り去っていきました! なんと男気溢れた選手なのでしょうか! ウサミ、ちょっと感動しちゃいました! 皆さま、彼に盛大な拍手をー!』


 観客席からグレゴリーに対しての賛辞の言葉が掛けられていく。


『マスター……』


「ん?」


『私は敵意を向けてくる相手とは分かち合えないと判断しておりましたが、ああいう方もいるのですね……』


「ああ、そうだな。その人の本質は触れてみないと分からない。分かち合えない時もあるし、その逆もある。人間ってのは奥が深いよな」


『はい。そうですね。本当に、人の心は奥が深いです』


 拍手で見送られるグレゴリーの背中を俺たちは見つめていた――。



 ◇



 貴賓席で歯ぎしりをする者が一人。

 アムール領主兼ウラヌス商会のボスであるモルセル=ユダだった。

 その目は舞台に立っている東雲を捉えていた。鋭い眼光は憎悪に満ちている。


(なんなんだあの男は!! 古代竜を召喚しただと!? ふざけるなふざけるな! あの力は人の領域を超えているではないか!)


 グレゴリーも古代種を召喚したが、その過程を見ていたモルセルは人の域でも可能な範囲だと瞬時に解析・理解していた。だが、東雲のアレ・・は人の力を越えている。


 それこそモルセルが求める力に等しい。


(まさかあの男……。いやいや、そんなはずはない。現に宝玉はこの小娘が持っているではないか)


 モルセルは知らない。『元素の宝玉』は4つあるということを。


(いかん。ミドスの力なら王国騎士に引けは取らないが、あの男には――)


 モルセルは考える。


(こんなところで私の野望を終わらせるわけにはいかんのだ!――)


 覚悟を決めたモルセルの口元は吊り上がっていた――。



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