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08.恩人

「す、凄ぇ……。レッドグリズリーをあっという間に倒しやがった……」


 訪れた静寂の中、その場の光景を見ていた誰かのつぶやき声が聞こえてきた。

 2匹のレッドグリズリーの姿は無く、更なる遥か向こうの山岳が真っ二つになっていた。


「しかもエルグ山ごと斬っちまっただ……。あのシノって若造は何者なんだ」


「もしかして王国騎士隊の騎士様じゃねぇか? 前に買い付けに来た商売人から聞いたことがあるんだが、王国騎士隊の隊員は強力な魔法の武器を持っていると言う話を聞いたことがある」


「その話本当か? しかし、だとしたらなんでこんな辺境な村にくるんだよ? そもそも村長の話ではダルクを助けた旅人だと聞いたぞ」


「知らねぇべよ。ただ、オラ達の村はあのシノって奴に助けられたのは事実だ。本当の騎士様じゃなくても、オラ達にとっては村の救世主だべ」


「確かに」


 一緒に見張りをしていた村の男たちの声が聞こえてきた。

 とりあえず村の人は無事みたいだ。無事に討伐出来て良かったと安堵する。 

 冷たい夜風に吹かれ体が急激に冷えていくと共に、ゴンザレスの残りソウル数を告げる音声だけが俺の頭の中に聞こえてきた。


 周りに魔物がもういないことを確認すると、『暴竜・ファルベオルク』と『プロミネンスの杖』をしまうべく、起動言語トリガーを唱える。


「オープン」


 目の前に現れた黒い空間に大剣と杖を押し込むと、閉じるための起動言語トリガーを唱える。


「クローズ」


 武器をしまい込み、もう一度エルグ山に目を向ける。


 あー……どうしよう。 まさかこれ程までに強力だとは。


 背中に冷や汗がダラダラと流れる最中、ゴンザレスの声が響く。


『任務達成です。お疲れ様でした、マスター』


(ああ、何とか終えられてよかった)


 レッドグリズリーの死体に目を向けると、その上にソウルが浮いている。

 そして袈裟斬りしたレッドグリズリーの内蔵物が飛び出ているのを目にしてしまい、思わず吐き気を催した。


「うっぷ! そうだった、生き物なんだから切ったら贓物まき散るよな」


 口に手を当て吐きそうになるのを我慢していると、ダルクがこちらに向かってくるのが見えた。


「おーい、シノー! 無事か!?」


「ええ、ダルクさんこそ怪我はないですか?」


「おう。にしてもお前さん凄いな……。昼間の錬金術や魔法も凄かったが、何より凄いのはその大剣だ。それは魔剣なのか?」


「まぁ、そんなところです」


 確かにあんな威力を放つ大剣をみたら誰もが魔剣だと思うだろう。事実、俺も驚いている。


「山ごとぶった切っちまったのは驚いたが、兎に角、レッドグリズリーを倒してくれてありがとう、シノ」


 豪快に笑いながら背中を叩いてくる。気持ちのいい笑い方に顔が綻ぶ。

 そんなダルクの笑い声に反応するかのように家の中から村人達出てきて、囲むように集まってきた。


「いやー! 村長から旅人だと聞いていたがあんた実は冒険者なのか? いや、もしかして王国騎士隊の騎士様なのか?」


「あの凶暴なレッドグリズリーを倒しちまうなんてねぇ。若いのに大したもんだよ」


「にーちゃんにーちゃん、さっきの黒い剣みせてー! すっげぇかっこよかったー!」


 老若男女から質問攻めにあい困惑していると、村長が前にでてきた。


「これこれ皆の者止めんか、シノ殿が困っておるじゃろう!」

 

 村長の一括で村人の皆が一斉に静まり返る。


「シノ殿、村を代表してお礼を申し上げますじゃ」


 村長が深々と頭を下げるが、俺としては内心素直に喜べなかった。


「いやー、レッドグリズリーはともかく、あの山……どうしましょう」


 乾いた笑いを浮かべながら真っ二つになったエルグ山を指さす。流石に山を真っ二つにしたら問題大有りだろう。王国のお尋ね者とかにならないだろうかと心配になる。


「ふむ、それについてはどうしようもないの。あの山は人が住めぬ場所。それに一人の人間がやったなどと言っても信じるわけがなかろう。第一、村の恩人を売るなどワシらにはできんよ」


「んだんだ! あんちゃんのお陰で村は助かったんだべ! オラ達にとってはあんな山なんかより農作物のほうが大事だ。生活がかかってるんだしな。だから気にすんな」


 村長はしれっととんでもないことを言い、村の皆は同調するように首を縦に振っていた。


「村長がそう言うんだ。ま、そうゆうこったシノ」


 ダルクが肩を叩いてきた。村の皆が黙っていてくれるようだ。

 

「さて皆の者、今宵はもう遅い。シノ殿も先の戦闘で疲れておるじゃろう。戦闘の後始末は明日にでも致しますので、もうお休みになられてはいかがかな」


「そ、そうですか? それじゃ――」


 どうやら山の件は気にするなとばかりに早々に話を切り上げるみたいだ。村長は俺に気を使ってくれているようだった。

 あまり外で長居してもしょうがないのでダルクの家で休もうかと思った時、ゴンザレスの声が頭の中に響いてきた。 


『マスター、お待ちを』 


 (ん?)


 『倒した魔物のソウルの回収はまだ終えていませんが、如何なさいますか』


 ああ、そうだった。そういえばソウルの事を忘れていた。


「どうしたシノ?」


 急に言葉を止めた行動に、ダルクが首をかしげて聞いてきた。


「少し夜風に吹かれたいので、先に家に戻ってもらってもいいですか?」


「そうか。わかった。だが、こんなに寒いと風邪引いちまうかもしれないから、なるべく早く戻って来いよ?」


 俺が戦闘の余韻に浸りたいと思ったのだろう。俺をその場に残し各々の家へと戻っていった。

 誰も居なくなったのを確認するとゴンザレスに声をかける。


「ゴンザレス、今回は俺がやる。1度自分の声で回収したいと思っていたんだ」


 レッドグリズリーの死骸の上に浮かぶソウルへ向けて、起動言語トリガーを唱える。


「ソウル・コネクト」


 目の前に浮かぶレッドグリズリーのソウルだけを回収するのかと思っていたら、とんでもない事が起きた。レッドグリズリーのソウルだけでなく、さらにずっとその先、真っ二つにした山のほうから大量のソウルが出現したのだ。

 大量のソウルは上空に上がり、そして俺目掛けて向かってきた。

 その光景は正に流星群が如く。


 ばかな……。あんなに沢山? マジカ。


 『スマホ・ウォッチを装着した左腕を上げてください』 


 言われるままに左手を上げると、凄まじい量のソウルが左腕に装着したスマホ・ウォッチへと吸収されていく。


 ソウルを収集し終え、スマホ・ウォッチの画面を確認するとありえない程のソウル数が表示されていた。 


 『ソウル収集により16153個のソウルを獲得しました。合計所持ソウル数は16409です』


 うそだろ!? 山にどんだけ魔物がいたんだよ……。

 その時、昼間の村長の家で見た光景を思い出す。


 もしかして山岳の頂上付近で飛んでいた飛龍か?

 それだと辻褄が合いそうだが、にしてもこの数は……なぁ?


 『おめでとうございますマスター。これ程のソウルを一回で収集するとはお見事です』


 いやいやいやいやいや、おかしいから。


 とりあえず落ち着くために深呼吸をしていると、疑問に思うことがでてきた。


(ゴンザレス、本来獲得するはずの経験値は俺が倒すとソウルになるんだよな? 例えば、俺が他の人と一緒に魔物を倒した場合はどうなるんだ?)


 『最後に止めを刺した方によって変わります。マスターが倒せばソウルに、他の人が倒せば経験値に。経験値が分配し、分配された分がソウルになるということはありません。それと分配されないのでマスターにも経験値は入りません』


 そうか。0か1なんだな。


 スマホウォッチにソウル数が表示されている画面を見る。


 ……ん? 合計ソウルが16409。先程手に入れた分は16153……。


 げ! さっきまで残りソウル数256だったってこと!?


 タラリと冷や汗が背中に流れる。


 あ、あぶねー……。危うく竜化するところだった。この辺のソウル管理について、今後ゴンザレスと相談しないといけないな。


 随分と時間が経ってしまったので、ダルクの家へと戻る。

 はぁー……、なんか今日は疲れた……。


 『お疲れ様でした。明日の朝、起こしますか?』


 (いや、いいよ。多分起きれるだろ。それと、今後のことも考えなきゃな。とりあえず、もう寝て明日のことは明日の俺に任せよう)


 ベットに飛び込むとそのまま直ぐに寝てしまった。



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