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79.トーナメント戦⑤

「さってとー、次は僕の番だね! 頑張るぞー! 情報ありがとねー」


 第3試合が終わり次試合の選手であるシュリが立ち上がり手を振る。その腰には2つの大型矢筒が装着されていて、セパレーターのようなもので中が区切られていた。


 そして背中にも矢筒が二つ。こちらは腰の物とは違って幾分か小さい。見る限り相当な数の矢を所持していた。弓もリリーが持つ『ヴァルキリーの弓』とまではいかないが、相当な業物のように見える。


 体形に似合わない重装備だ。


「凄いな」 


 あどけない顔でどことなく憎めない少年。俺より年下だろう、そんな少年が大会に出場するのだから驚きである。

 対して少年の対戦相手は王国騎士隊長のジーク=ジークハート。グレゴリーが言うには騎士隊長クラスの鎧には特殊能力があるという。


 恐らく物理的な弓を扱うシュリにとっては分が悪いかもしれない。


「がはは! いいってことよ! おう、少年頑張れよ!」


「うん!」


 シュリは笑顔で返しながら転送されていった。 


「……」


 ジークは何も言わずに立ち上がると、そのまま同じように転送された。二人が舞台へと転送されると、司会者のウサミが会場の場を盛り上げていく。

 観客席から歓声が響き渡ってくる。その会場の光景を眺めつつ、俺はゴンザレスに話しかけた。


「ゴンザレス。やはりジークが有利だと思うか?」


『そうですね。能力もさることながら、装備品の優劣もジークさんの方が上です。ただ――』


「ただ?」


『マスターはお気づきになられましたか? シュリさんが先程腕輪をしているところを』


「ん? そういえばさっきまでは確か着けていなかったよな? あれがどうかしたのか?」


「あの腕輪はマジックアイテムです。もしかしたら、使い処によっては勝敗が決まるかもしれません」


 なるほど。という事はさっきカバンをゴソゴソしていたのは対ジーク用のアイテムなのだろう。

 どちらが勝つか。いや、それは意味のないことか。誰が相手だろうと俺は勝ち続けなければならないのだから。


 ウサミの試合開始の合図と共に舞台へと視線を戻した。 



 ◇



 試合開始の合図とともにシュリが横へと走り出す。移動しながら弓を構え、標的へと矢を放つ動作は流れる様に綺麗だ。

 シュリは数種類の鏃が違う矢を所持している。鏃の形状・重量によって殺傷威力、飛翔距離が違ってくるためだ。ジークへと放った矢はシュリが用いる中で殺傷力が高い矢だった。


 ジークは微動だにしていない。


 矢がジークの眉間を穿つかと思った瞬間、見えない壁によって弾かれた。


「やっぱりあの鎧、物理防御の特殊能力持ちかー。まいっちゃうなー」


 走りながらシュリは愚痴た。こうなってしまっては魔法属性で対抗するしかないのだが、あいにくシュリは魔法を使えない。


「無駄だ、俺にその程度の物理攻撃は効かないぜ。少年、大人しく諦めるんだな」


 ジークは鞘から剣をゆっくりと抜刀する。


「なら、これならどうだ! くらえっ!!」


 シュリが背中の矢筒から取り出した矢は少し変わっていた。鏃が宝石であったのだ。放たれた宝石矢に変化が表れた。矢に氷属性が付加されジークへと迫る。


「ほう。属性付加エンチャント付きの矢か。だが――」


 ジークが剣で薙ぎ払うと炎が舞い、氷の矢が砕かれた。


「下級魔法では、な。まったくの拍子抜けだ」


 ジークは肩を竦める。前戦の選手たちの試合を見てきて、油断はできないと思っていたジークだったが、シュリの攻撃を見てその警戒を解いた。


 本気になる必要はない。そう判断したのだった。 


『なんとジーク選手、シュリ選手の攻撃を軽々といなしたー!! 物理・魔法ともジーク選手には届かないー!! シュリ選手はこの状況をどう打破するのでしょうかぁ!! それにしてもシュリ選手のちょっと困ったような顔が可愛すぎます!!』


 ウサミは興奮していた。イケメン以外にもショタ属性も持ち合わせていたのだ。


「たはは……。まいったなー。でも、頑張るよー!」


「きゃー! シュリ君可愛いー! 負けても私がシュリ君を慰めてあげたーい!」


「ジーク様ー! シュリ君に痛い思いさせないでー!」


「坊主!! 男ならもっとシャキッとしろボケェー! 顔が可愛いからって調子に乗るなよぉぉぉ!!」


 観客の女性陣はシュリの可愛さに母性本能全快であった。


 シュリは困った顔をしつつも、負けじと属性付加エンチャントの矢を放ち続けた。


 一瞬にして無数の矢を放つシュリの技術は天才的だ。氷属性が付加された矢がジークを襲う。だが、ジークは薙ぎ払う炎で無に帰す。


「くっそー! これならどうだ。スキル――『シューターレイン』ッ!!!!」


 シュリは空中へ矢を放つと、大量の矢がジークへと襲う。しかもそれは通常の矢ではなく、属性付加エンチャントの矢全てを放ったのだ。

 ジークは空から襲い掛かってくる矢の雨に剣を構え、業火炎を撃ち放った。巨大な炎が全ての矢を溶かしていく。


「だから何度やっても無駄だと――」


 刹那――。鋭い殺気がジークを襲う。


 シュリの方へと視線を向けると、腰を落とし荒れ狂う稲妻を纏いながら弓矢を水平に構えるシュリの姿があった。その両目は獲物を射殺す狩人そのもの。


 温和な表情からは想像もできぬ殺気だった――。


 シュリが装備している腕輪から発生している膨大な雷光が、矢へと稲妻を纏わせていく。先程までの属性付加エンチャントの比ではないことは明らかだった。


 (しまった――! 本命はこっちかッ!!)


 迎撃最中の隙を突かれる。ジークはまんまとシュリの罠に嵌っていた。そう、油断させらえていたのだ。


 慢心――。その言葉がジークの脳裏に浮かび上がる。


「じゃあね。おにーさん」


 ジークは態勢を整えようとするが、それよりも既に攻撃準備が整ったシュリの方が早かった。


「スキル――。『雷轟ヴァルバイザー


 雷鳴を轟かしジークへと襲い掛かる。それは正に雷そのものであった。青い閃光が一瞬にしてジークへと直撃し大爆発を起こす。


 ジークの周辺は爆炎が巻き起こり大量の黒い煙が巻き起こっていた。


『こ、これはーー!! シュリ選、手物凄い隠し玉を持っていたー!! ジーク選手は果たして無事なのでしょうかー!! やーん、ジーク様ー!?』


 会場の観客席はどよめき驚く。誰もがジークが勝つだろうと思っていたからだ。それがまさかシュリがあのような強力なスキルを持っているとは思わなかった。


「ふふん。戦場での油断は禁物だよ。おにーさん? ってか、聞こえちゃいないか。倒れてるはずだし。僕の勝利だね、ブイっ!」


 シュリは満面な笑みでピースサインをする。

 この状況を見て誰もがシュリの勝利だろうと思った瞬間、燃え盛る爆炎が渦を巻いて収束していく。そしてその中央には盾を構えているジークの姿があった。


『な、なななんとーーー!! ジーク選手健在だーーー! 無傷! 無傷です!! そしてその腕には盾があります! いったいどこから出したのでしょうか!』


 ジークはゆっくりとした動作で盾を下す。


「う、うそー!? 僕の必殺の一撃が効かないなんて! しかも、その盾……一体どこからッ!?」


「危なかったぜ。だが、お陰で目が覚めた。自分が甘かった。だから――。今度は本気でいくぞ!! シュリ!!!」


 ジークの体から烈火の炎が立ち上がった。本気になったジークの姿を見てシュリは涙目になる。 


「わー! 降参! 僕の負け! 許して―!」


 シュリは一目散にウサミの後ろへと隠れてしまった。その姿はまるで小動物の様だった。 

 降参したシュリに対してジークは呆気にとられ、その炎の矛を収めた。油断していた相手に本気を出させられ、降参して逃げられるという腑に落ちない勝利。


 試合に勝って、勝負に負けた。その言葉がジークの脳裏に浮かんだ。


『シュリ選手の降参により、勝者、ジーク=ジークハート選手です!!!』


 ウサミの声に背を向け、抜刀していた剣を鞘へと戻す。


(くそっ。王国騎士隊長として無様な戦いをしてしまったぜ。あーあ、後であの二人に小言を言われそうだな)


 ジークはゲンナリとした気持ちで転送されてていくのであった。




 ◇




 第4試合はジークの勝利で決まった。ジークの炎の威力も然るながら、シュリの戦闘技術も凄かった。 相手に油断をさせてその隙を突いた攻撃は今後の戦い方の参考にしたいくらいだった。シュリは年齢に見合わず戦い慣れている。それにあの雷属性の攻撃――。

 

「ゴンザレス、あの雷は……」


『はい。あれはHRアイテムの『ゼウスの怒り』ですね。先ほどお話しした腕輪の能力です。本来ならば直撃した相手に麻痺を起こす状態異常も与えるのですが、それを防いだジークさんの盾も特別な装備のようです』


「ジークの盾も特殊能力付きか」


『はい。あの盾はHRランク以下の状態異常スキルを防ぐ効果があるようです。それに、彼は空間収納のアイテムも所持しているようですね』


「なるほど。だから突然盾が出現したのか。サンキューゴンザレス。いつも助かる」


『えへへ。 あの、マスター。……後で頭撫でてくれますか?』 


「ん? ああ。後でな」


『はいっ!!』


 頭を撫でてくれ……か。ゴンザレス可愛いところあるよな。 ん?


 ふと視線を感じ顔をそちらに向けると、グレゴリーが驚いていた。


「ほぉー、凄いなお嬢ちゃん。俺に負けらず博識だな。いい相棒を持ってるじゃねぇかシノノメ」


『当然です。私はマスターの為に存在するのですから。えっへん!』


 次の対戦相手とは言え、誉められたことにゴンザレスは喜んでいた。


「わははは! 可愛らしいお嬢ちゃんじゃねーか。おまえら、中々いいコンビのようだな。

 だがな、今度は俺の凄さをその身に叩きつけてやろう」


『望むところです! さぁ、マスター! 私たちの凄さを逆に見せつけてやりましょう!!』


「ああ。そうだな!」


 転送の光が体を包み込んでいった――。

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