78.トーナメント戦④
第3試合はパドスとミドスのようだった。
二人は無言で立ち上がり魔法陣の光によって舞台へと転送されていくと、観客たちの歓声が沸き起こった。
前の試合は遠距離戦だったが、今回は近接戦タイプの試合だ。『剣』対『槍』。Lv差は圧倒的にミドスが上だが、武器のリーチとヒット&アウェイスタイルのパドスにも勝機はありそうに思えた。
「こりゃぁ、ミドスの勝利で間違えねぇな」
「え? Lv差はあれど槍の方が有利じゃないのか?」
グレゴリーの呟きに思わず聞き返してしまった。
「確かに1対1でパドスの戦闘スタイルなら有利だ。時間を掛ければ相手の体力を削り取ることができよう。だが、ミドスは厄介な物を装備している」
「厄介な物?」
「ああ、そこの王国騎士隊長様ならよく知っているだろう? あんたも装備しているからな」
グレゴリーがジークの方へと振り向き、ニヤリとした表情で話しかける。どうやらジークにも関係があることらしい。
「……」
ジークは何も答えない。
「はぁ、おっさんの言葉には見向きもしませんってか。まぁ、いいさ」
「おじさんおじさん。その厄介な物って何なの? 僕にも教えてほしいな」
グレゴリーがヤレヤレと言った感じで首をすくめていると、シュリが興味を持ったのか話に割り込んできた。
恐らくシュリの対戦相手がジークだから気になったのだろう。少しでも勝率を上げるために情報を得たい気持ちはわかる。
「ああ、いいぜ。親切なおじさんが教えてやろう。厄介な物ってのはな、――あの鎧のことだ」
「鎧? 確かに防御力は高そうだけど……」
シュリが首を傾げる。
「ありゃぁ、唯の鎧じゃない。そこの騎士隊長様と同じ部類のもんだ。あまり知られてはないが、騎士隊長クラスが装備する鎧には防御・支援に特化した特殊スキルが備わっている」
「――!!」
「……チッ」
シュリは驚き、ジークは舌打ちをした。
「特殊スキルは武器だけに有らず。鎧にもあるんだよ。数は武器より少ないがな」
なるほど。防御スキルにもよるが、ミドスの方が有利という訳か。
舞台の方へと目を向ける。第3試合は既に始まっていて、パドスが猛攻撃を仕掛けていた。その槍裁きは目にも止まらぬ速さだ。だが、その刺突はミドスに届いていない。
何故なら、ミドスの周りには薄いガラスの様な膜が張られていたからだ。
「ほらな。言ったとおりだろ? どうやらあの鎧の特殊スキルは斬撃……、いや物理攻撃を弾くモノのようだな」
スクリーンに映るパドスは苦虫を噛みつぶしたような表情だった。まったく攻撃が届いていない。しかも攻撃の隙をついてミドスがカウンターを仕掛けていくが、それをなんとか持ち前の敏捷さで避けているように見えた。
「へー、なるほど。僕の対戦相手も一筋縄じゃ行かないって訳か。ありがと、おじさん」
シュリはにこやかにお礼を言った後、何やらショルダーバッグの中身をゴソゴソとし始めた。ジークとの戦いに備えて何かしているのだろう。ジークの方はというと、黙って試合を眺めている。
にしてもグレゴリーって男は貴重な情報をペラペラと喋るな……。
「なぁ、あんた俺たちに貴重な情報を流していいのか?」
「ああ、なぁに問題ないさ。ミドスかジークと戦うのは俺だからな」
グレゴリーはニヤリと笑った。
ああ、そういうことか。要するに順当で行けばグレゴリーは俺が戦うが、その先に進むのはグレゴリーあんただと。
だから貴重な情報を与えようがミドスたちと戦うことは無いのだから別に構わない。そう言いたいわけだな?
相手の挑発的な言動に思わずニヤリと笑い返す。
「面白いじゃねーか」
『むー』
その宣戦布告に反応した者がもう一人いた。
『マスターは、貴方には絶対負けません!』
「あ、こら、ゴンザレス」
突然、ゴンザレスが会話に割って入ってきた。どうやら俺が小馬鹿にされたと思って我慢できなかったのかもしれない。
スマホウォッチから聞こえてきた声にグレゴリーたちは驚いていたが、離れた相手と会話できるアイテムだと説明すると納得いったようだった。
「シノノメ、お前面白いアイテム持っているなぁ。まぁ、いい。で、お嬢さん。悪いが君の主人は俺には勝てない。なぜなら俺には切り札がある」
『さっき言っていた古代種召喚スキルってやつですね』
「ああ、そうだ! 如何に強力な武器を持とうが、俺が召喚する古代種には勝てはしまい。何せ神話時代のモノだからな! あっはっは! 何て言ったって、この世界で最高の古代種召喚に成功したのは俺だけだからな! わははは!」
グレゴリーは興奮しながら声高らかにしている。余程、自身が召喚する魔物に自信があるのだろう。というか古代種の話になるとこの男、生き生きとした表情になる。
『ふふん! 古代種召喚をできるのは貴方だけじゃありません。私のマスターだってできるんですから!』
え、ちょっ。ゴンザレス何を言って――。
「ほう……。それは本当か?」
『嘘を付く理由がありません。貴方の召喚よりマスターの方がもっともっとも~っと! 凄いんですから! きっと捻りつぶしちゃいますね。こう、粘土をこねる様に』
捻りつぶす例えが可愛いな、おい。って違う違う。ゴンザレスの奴なに勝手に相手を挑発しているんだ。
「面白い。いいだろう。お前との試合、俺の古代種が勝つか、お前の古代種が勝つか勝負だ!」
『望むところです!』
え。なんで勝手に召喚対決になってんの?
ゴンザレスとグレゴリーがヒートアップしている頃、ウサミが第3試合の勝者の名を上げていた。
『第3試合勝者――、ミドス選手の勝利です!! パドス選手の猛攻をすべて防ぎ、スキルも使わずパドス選手を無力化したー! 強い、強すぎるぞー!』
ワァアアアアアアアア!!
観客たちがミドスに対して盛大な拍手を送っていた。グレゴリーとゴンザレスのやり取りを見守っている間に決着が着いてしまったようだ。
ああ、貴重な試合を見逃してしまった。
勿体ないと思いながら、がっくりと肩を落とした。
◇
ジークフリートは東雲たちの会話を聞きながら、パドスたちの試合を黙って眺めていた。
その目はミドスを捉えている。ジークはミドスを警戒していたのだ。己のLvを越え、あまつさえ王国騎士隊長と何ら変わらない武具を装備しているミドスに。
大会にエントリーした当初、ジークは楽観視していた。王国騎士隊長は王国全土の中で最高の強さを誇る者がなれるのだ。自分が敵わないのは上位階級にいる隊長クラスのみ。
まさか、こんな田舎の大会に他の騎士隊長は出はしまい。まして隊長クラスに匹敵する者も、そうそう存在しない。児戯に類する試合だと。そう高をくくっていたのだ。
だがいざ蓋を開けてみたらどうだろうか。思っていた以上に厄介な人物たちがいたのだ。
アムール領主の私設兵ミドス――。シュリの試合に勝った後はこの男とぶつかる。実力は未知数。現にパドスの試合では本気を出していないのが見て取れたのだ。
(攻撃スキルを使わず、己の剣術のみで槍兵を倒したか……)
パドスの槍の技術は天才的だ。だがそれ以上にミドスの戦闘技術のほうが上だった。
如何に鎧の特殊スキルで物理攻撃を防ぐと言っても、それは一定の威力以下の攻撃を防ぐものであって、威力が高いスキル攻撃では簡単に破かれる。
パドスもそれを理解した上で、攻撃の合間にフェイントを掛けながらスキルを発動させたが、ミドスはスキル攻撃のみを己の剣術でいなしていたのだ。
(そしてもう一人……。このグレゴリーという男、胡散臭い男だが古代種召喚という言葉が気になる)
ジークはチラリとグレゴリーを見た後、以前ソフィから聞いた話を思い出した。
古代種。それは神話の時代に生きていたとされる生物。魔獣種、幻獣種、神獣種、魔竜種、幻竜種、神竜種にあたる。
既にこの世には存在しないが、事実――王国の地下書庫にその古代種に関しての文献が発見されたとソフィから聞いたことがあったのだ。
(確かその時は、伝説の竜の死骸がどうのこうのって言ってたような気が――)
その時は「アホくさ」と左から右へと聞き流していたので覚えていない。当然、選手紹介の時にもグレゴリーの言葉に「バカバカしい」と聞き流していた。
聞き流していたのだが――。
(シノノメ・トオル。こいつはまったく持って得体が知れん。王宮内ではこの男の話で持ち切りだ。だが、現にその力は凄まじ過ぎる。それがこの男も古代種召喚ができるだと!?)
東雲の強さを確認したジークは、彼の従者が言っていることは間違いではないだろうと推測したのだ。そうなると、グレゴリーの与太話も変わってくる。
故に、ジークはグレゴリーの事も警戒していたのだ。もし、東雲が敗れれば決勝戦ではグレゴリーと戦うことになるだろうと。
面子を保つためにも、最強を誇る王国騎士隊隊長は負けるわけにはいかない。
ジークは思った。
ああ、めんどくせぇのに顔を突っ込んでしまった――と。




