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67.ザリウス②

リジェネ・クリスタルの説明文をちょい変更しました。

「ふう。なんとか成功したみたいね」


 大通りに並ぶ建物の屋根の上――。構えた弓を下ろしながらシノ達がいる方へと見つめる。射抜いた的――『風化の煙玉』はザリウス達を覆い、その身に着けている装備もろとも砂へと変えていった。


 見る限りザリウス達は狼狽えている。無理もない。アイテムを砂へと変える効果は余りにも凶悪。使いどころを誤ればシノが持っているアイテムも消失してしまう。


 だから上手くいって良かったと思う。


「流石ですねリリィ。矢を外すことなく射止めるのは凄いです!」


「ふふ。ありがとゴンちゃん。でも、正直に言えばシノが覚えさせてくれたスキルのお陰だよ」


「アイテム『ホーク・アイ』ですね。でも、それでもリリィの腕があってこそですよ」


 ニコッと笑うゴンちゃん。

 

 自分で言うのもなんだが、確かに動いている的を射抜く自身はもちろんある。だけど、それは的がある程度の大きさがある場合。


 スキル『ロック』を覚える以前だったら射抜く自信はなかった。だって、敵に伏兵がいると気づかれないよう屋根の上に隠れて計画を実行するのだ。


 ここからシノ達がいる距離は約50メートル程。しかも射抜く的は10センチメートル程の大きさで静止している訳ではない。


 だけど、スキル『ロック』を使用するとその物体の未来導線が見える。しかも矢を放つタイミングまで。


 確かに命中力を高めるスキルは別にもある。実際、私も覚えているがそれはあくまで感覚・集中力を研ぎ澄ませる程度で、ここまで視覚に表示される効果はない。


 シノの生み出すアイテムは次元を超えている。


「にしても凄いわね。相手の結界を打ち破り痺れさせるわ、物理攻撃を弾く結界を張るわ、しかもあの炎を相殺するし……。あれってどう見ても上級魔法よね? 魔力の余波がここまで伝わってきたし」


 視線をシノへと向ける。ザリウス達と対峙するシノの表情は涼しげだ。


「『フレア・ボムの杖』ですね。ですがランクはそれ程高くないと思いますよ? 現にマスターも既に似たようなアイテム持ってますし」


「は、ははは……相手のアイテム名もわかっちゃうんだ」


 頭にハテナマークを浮かべるような顔をするゴンちゃん。うーん、シノもそうだけどゴンちゃんも規格外だ。


「さ、リリィ。マスターの処へ向かいましょう! レッツらゴーです!」


「うん、そうね。行こう!」


 シノの元へ向かうべく急いで駆けて行った。




 ◇




「ば、馬鹿な……。『 E 』ランクだと!?」 


 ザリウスは驚いたような表情をしている。


 まぁ、驚くのも無理はないか。Lvが上がらないからランクもそのまま。俺だって『 S 』ランクに昇格したいのが本音だ。


「これは何かの間違いだ……」


 なんか信じてないっぽい。


 無言でクリスタルペンダントを胸元から引っ張り出し見せつける。


「……『 E 』ランク……。俺は低ランクの冒険者に負けたというのか……。くそ! 俺の計画は完璧だったはずだ!! それが何故……はっ!! まさか、ガザを殺った・・・のはお前か!?」


 ガザ? ガザって誰だ? あ、もしかして――。


「変装して守衛所に潜り込んでいた男の事か? だとしたら、倒しはしたけど殺しては無いな」


「ふざけるな!! 死んでいないというのなら奴はどうした! 俺が持っていた『連命の腕輪』は手下の生死を見分けることができる。だが、奴の反応が消えたという事はそういう事だろうが!」


 なるほど。生死を見分けるアイテムね。


 仲間の安否というよりは、どちらかというと単純な疑問をぶつけてきているように感じる。


 まぁ、人殺しだと思われるのも癪なので種明かしすることにした。『アイテム収納』から『煉獄のキューブ』を取り出し見せつける。


「このアイテムに閉じ込めた。まぁ、死なない限り出てこれないんだけど」


 ザリウスは俄かに信じがたいといった表情をしている。


「そういうことだザリウス。我々が証人だ。大人しく捕まることだ。お前ではシノノメ殿には勝てない。いや、我々王国騎士隊全てで掛かってもな」


 ヴィクセルの言葉に、ザリウスは地面に膝を付き頭を垂れた。


「……」


 その時、胸元から何かが落ちるのが見えた。よく見ると5センチ程の獣の骨に見える。ヴィクセルからは死角の為か気づいていないようだった。


「く、くくく……。くははははは!! 王国騎士隊全て……だと。だが、それは人の力の範囲内であろう……?」


 俯いたまま地面に落ちたソレ・・をザリウスが握る。


「アイテム破壊とか言っていたな? くくく、どうやら神は俺を見放さなかったようだ」


「どういうことだ?」


 ヴィクセルが怪訝な顔をすると、四つん這いのザリウスが両手を広げ上半身を起こした。


「『死の悪魔デッド・デーモン』!! どうやらこいつは破壊できなかったようだな!! ご丁寧に封印だけ・・・・を破壊してくれるとはなぁ!」


「まずい!! 奴を取り押さえろ!!」


 ヴィクセルが叫んだ瞬間、ザリウスは右手に持ったソレで自身の胸に刺した。


「がはっ―――」


「なっ!?」


 刺した胸元から血が噴き出し、口からも血を吐き出している。


 ――自害・・。その光景に周りの皆が硬直している。


 唯一人、ヴィクセルだけを除いて。


「させるかぁ! ザリウスッ!!」


 上段に構えた剣をザリウスへと振り落とされたが、突如展開された結界によってはじき返された。


「ぬう!?」


 そのままヴィクセルを弾き飛ばす。


「ぐはっ!!」


「ヴィクセルさん、大丈夫ですか!?」


 弾き飛ばされたヴィクセルの元へと駆け寄る。


「なんだあれは……。何がどうなっているんだ」


 奴の体の肉が腐り落ちている。人としての形が崩れ、今まさに別の姿へと形を変えていっているのだ。


 ザリウスを守る様に球型の魔法陣が浮かび上がっている。


「ぐふ……すまない、シノノメ殿。それよりも奴を……奴が完全に変わる前に殺さなくては……」


 どういうことかと聞こうとしたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「マスター!!」


「シノ―!」


 ゴンザレス達がやじ馬である市民を掻き分け、俺の方へと駆け寄ってきた。


「ね、ねぇ。あれ何? うっぷ、気持ち悪い」


「マスター! この反応、ザリウスは別の生き物へと変質しています!」


「どういうことだゴンザレス」


「ごほっ……奴が使ったのは『死の悪魔デッド・デーモン』というアイテムだ。自らの心臓を捧げる代わりに悪魔へと変貌する。非常に危険なアイテム故、封印が施されていた……。だが、どうやら先ほどのアイテム破壊が裏目に出てしまったようだ」 


 ヴィクセルは苦虫を嚙み潰したような表情をしながら、異形へと変化し続けているザリウスへと視線を向けている。


「つまり、封印だけを破壊した……ってことですか」


「そうだ。封印物も元はアイテム。しかし、奴がアレを盗み出したという情報は無かった筈だ……」


 王国も一枚岩ではないという事だろう。その辺の事情は俺には測りかねない。


 だが例えザリウスが悪魔に変貌したとしてもやることは変わりない。奴を無力化する。


 ザリウスを見据えると、覆っていた魔法陣が砕け風が巻き起こった。


「きゃっ!」


「ぐぬうう!」


「……!」


 風が収まる。崩れていた肉体は完全に変貌し、異形の姿を晒している。その姿はヤギのような顔で体は爬虫類の鱗で覆われ、背中には蝙蝠の羽、足には鋭い鉤爪が、蛇の頭をした尻尾が何本も生えている。辛うじて二足で立っていた。


『―――はぁぁぁぁ。清々しい気分だ。これが『死の悪魔デッド・デーモン』の能力か』


「ざ、ザリウス様? あ、あっしらの事はお分かりでしょうか?」


 ザリウスの手下たちが変貌したザリウスへと恐る恐る話しかけていく。


 無理もない。かしらが人間を止めたのだ。彼らもどうしたらよいか分からないのだろう。


『どうした? お前たち何を怯えている。さぁ、共に騎士隊の連中を皆殺しにしようではないか』


「お、おお!! ザリウス様! 聞いたかお前ら! ザリウス様に続け!」


「「「「うおおおおおお!」」」」


 賊の連中が雄叫びをあげる。彼らを囲っていた騎士隊の面々も各々の武器を構えだす。


 その光景を見ていた市民たちの動揺した声が聞こえてきた。


「うそ、なんなのあの化け物……」


「おいおいおい、なんかやばくねぇか?」


「あわわわわわ。に、逃げた方が良さそうだ」


『ふむ。諸君ら見物客にも我々に協力してもらおう――ドレイン・フォース』


 直径30メートル程だろうか、夜空に赤い魔法陣が浮かび上がり赤黒い光が降り注ぐ。


「ぐあああああ! な、なんだこれは。く、苦しい……。力が抜けていく……」


「た、助けてぇぇ! いやああああ!」


 赤黒い光を浴びた周り全ての人々がもがき苦しんでいる。


「あ、あ、ああああぁぁ。ざ、ザリウス様!? な、何故我々も……」


『お前たちの命が私を強化してくれるのだ。だから言ったであろう? 共に・・連中を殺そうと。ケヒッ! ケヒヒ!』


「そ、そんな! ぐあああああ!」


 どうやら無差別で生き物の生命エネルギーを吸っているようだ。


 という事は……、まずい!! 


「ゴンザレスッ! リリィッ!!」


 慌てて彼女たちの方へを振り向くと、二人ともケロッとしていた。


 ゴンザレスの体は黄色い光で覆われている。ニャーバンクルがゴンザレスに結界を張っているようだった。頭の上で欠伸してやがる。


 リリィの方はと言うと、胸元のリジェネクリスタルが光り輝いていた。どうやら、自動回復によってダメージを相殺しているのだろう。


 俺は「ほっ」と胸を撫でおろす。


 あれ? そういえば俺も全然何ともないな。


 そう思い自身の体を見下ろすと、青い光に包まれていた。


「マスター。それは『バニッシュ』の魔法打ち消しの効果です。それに私たちもマスターのアイテムのお陰で何ともありません。ただ……」


 ゴンザレスは悲痛な趣で隣のヴィクセルへと向く。


「ぐぬぬ……。私はまだ大丈夫だ。それよりも市民を助けなくては……」


 屈強なヴィクセルや騎士隊の面々も地面へと片膝を付いていて、倒れまいと抗っている。


 まずいぞ。どうする……。


 手持ちのアイテムでこの状況をどうにかできないか思案する。


 ん? そういえばさっき手に入ったアレがあったな。


 俺は『アイテム収納』からアイテムを引っ張り出した。


『ああ、最高だ! 力が湧き上がってくる! こんなことならさっさと人間を止めればよかったんだ! ケヒッケヒヒ。さてと――、ん? ……何故貴様らは平気で立っていられる』


 平然としている俺たちにザリウスが気づき、此方を睨みつけてきた。


『ふん、まぁいい。そういえばシノノメとか言っていたな貴様。さぁ、どうする? この場にいる人間どもは時期に命を吸い取られて死ぬぞ? ケヒヒッ。かといって私を倒そうとしても、人間どものエネルギーを吸い続けている私に敵うわけがーー』


 突然、ザリウスが喋るのを止めた。


 俺の右手をじっと見ている。そう、鎖に繋げられている十字架を――。


『……そのロザリオ、前に一度見たことがあるぞ……。いや、あり得るはずがない……現にあれはパレス法国の聖女が……』


 どうやら奴もこのアイテムを知っているらしい。


 ロザリオをぶら下げている右手を突き出すと、ザリウスは後ずさった。額に薄っすらと汗が流れている。


「……あんた博識だな。確かにこのアイテムは、とある法国の聖女が身に着けているという『聖なるロザリオ』だ。こいつの効果はその場にいる者の『体力』を全回復させる。そして何より――」


 奴の顔色が徐々に青白くなっていく。


『や、やめろ。やめろ止めろヤメロォぉォ!!』


悪魔系デーモンには大ダメージを与えられる効果があるんだってよ!! 食らいやがれ! 『セイクリッド・フォース』!!」


 頭上に掲げ起動言語トリガーを唱えるとロザリオが光り出し、夜空へと一本の光の柱が立ち上っていく。


 その光の柱は上空に展開された赤い魔法陣を打ち消しながら、黄金の光を降り注いでいく。 


『ぁあ、アアああぁぁ、ア”ア”ア”アアァァァァ!!』


 黄金の光を浴びたザリウスの体が燃え上がりのたうち回った後、その場に倒れた。


 『ドレイン・フォース』によって地面へと倒れ込んでいた人々は、光の柱を呆けた顔で見つめている。


 どの顔も神の奇跡を目のあたりにしている、そんな表情だった。


「ふぅ、とりあえず皆大丈夫そうだな。良かった良かった」


 安堵の溜息を吐く。


 そんな折、ふと「なんて暖かい光なんだ……」とつぶやく声が風に乗って聞こえてきた気がした――。


 


 ◇



 真っ黒に焦げているザリウスの元へと近づいていく。


『カヒュ……』  


 どうやらまだ生きているみたいだった。ただし、その体は足元からボロボロと崩れている。息絶えるのは時間の問題だろう。


『ケヒッ……完全に俺の負け……だ。……ケヒヒ……』


「なぁ、一つだけ聞いていいか? なんであんたマーメイドの姫さんを狙ったんだ?」


 素直な疑問が口から出ていた。この男のお陰でこちとら散々な目に合ってきたのだ。それにマーメイドに用があるこちらとしても、ザリウスの目的が知りたかった。


『…………』


 やはり答える気はないか。


『け、ケヒヒ……もう直ぐ……この世界は終焉に向かう……き、貴様も絶望に打ちひしがれて……死ぬがいい』


 世界の終焉? 


 その言葉にふと思い当たる節があった。


 まさかとは思うが……。


「もしかして、マーメイドが守護する『元素の宝玉』を狙ってたのか?」


『………………』


 長い沈黙が訪れる――。


『く、くくくく……貴様の口から『元素の宝玉』の言葉が出てくるとはな……そうか、お前が……ケヒヒ……』


 やはりか。どうやらこの男は俺たちと目的が同じだったようだ。


 という事はウェイバーについて何か知っているかもしれない。


 俺はしゃがみ込みザリウスへと詰め寄った。


「おい! ウェイバーという男を知っているか?」


『くく……馬鹿め。例え知っていたとしても……俺が素直に答えると思っているのか……』


 だろうな。素直には答えてくれないか。


 それに先程、『貴様も絶望に打ちひしがれて――』と言っていたが、もしかしたらこの男も『元素の宝玉』による被害者なのかもしれない。


 同情はしない。だが、同じ境遇者として一言くらい声を掛けてもいいだろう。


「……そうか。あんたも被害者・・・なんだな。だが、あんたは助からない。今までに手を掛けてきた人々の報いだと思ってここで死んでくれ」


『…………』


 もうこれ以上話すことは無い。後はヴィクセルさんに任せるとしよう。


 そう思い立ち上がる。


『……一つ……良いことを教えてやる……。この拉致計画の首謀者は……この街の領主……モルセル=ユダだ……』


「あんた……」


『目的は知らん……だが奴もマーメイドを狙っている……。俺は自分の目的のために……奴の計画に乗ったまでだ……』


 声はどんどんか細くなってきている。風化がザリウスの胸元まで迫ってきていた。


『……くくく……貴様も……自分の運命を呪うがいい……精々、抗って見せろ……地獄で見ていてやる……』


「…………」


『ああ……堕ちる前に……貴様に出会っていたら……俺の人生はまた……違っていたんだろう……か……』


 ザリウスは完全に塵となり息絶えた。


 風が吹き、塵は夜空へと舞っていく――。


 「……情報、感謝するよ」


 踵を返す――。


 視線の先には多くの人々が、此方を見守っている――。


 俺は皆を安心させるべく、右腕を掲げ勝利のポーズをとる。


 勝利したという姿を確認した途端、大きな歓声が沸き起こった。


 ゴンザレスとリリィが此方に駆けてきて抱き着いてくる。


 騎士隊の面々も俺の周りに集まり、感謝の念を唱えていた――。


 今はこの束の間の勝利を味わうことにする。


 黒幕の件に付いては後でヴィクセルさんに報告すればいい。


 そう思いながら俺はゴンザレス達の体を抱きしめた――。



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