59.『 E 』ランクの冒険者
48話の『星屑のピコピコハンマー』の説明文を変更修正しました。
「や、やったのか……。あんな、いとも簡単に……」
「なんつー戦闘力だよ……。俺たち、まだ何もしてねぇぞ……」
後ろから兵士たちの驚きの声がぽつりぽつりと聞こえてくる。
瓦礫に埋もれている男は動く気配がなかった。
「お前たち、何を頬けている!! 奴が起き上がる前に取り押さえろ!! そこのお前は急いで封印石の首輪を取りに行け! 残りの者は付近の住人の安否、及び建物の損壊確認を行え!」
「「ッ――。 はッ!!」」
ヴィクセルの指示が飛んできて、思い出したかのように兵士たちが動き始める。
2分隊程が男へと駆け寄りあっという間に取り押さえ、遅れて別の兵士が二つの半円で出来た黒い石みたいな物で首を挟み、縄で体を縛り上げていく。
先ほど『封印石』とか言っていたからきっと、魔法やスキルを使えなくするアイテムか何かだろう。
忙しなく動いている兵士を尻目に、ヴィクセルがこちらに近づいてきた。
「シノノメ君、礼を言う。 甚大な損害だがイビルノイアの一員を捕らえることができた。だが、時間がない。何としてでもあの男からザリウスの潜伏先を聞き出さねばならぬ」
そうなのだ。まだイビルノイアの計画の阻止はできていない。明日の大会にはマーメイドのお姫様を拉致するという計画が実行されてしまう。何としてでも、あの男から口を割るしかない。
兵士によって捕らえられた男がヴィクセルの前まで連行されてきた。意識はかろうじて残っているようだった。。
どうやら力加減はうまくいったようだった。あのまま全力で殴っていたらこの男は死んでいただろう。
「マスター!」
「シノっ! 無事!?」
ゴンザレス達が兵士の間をすり抜けて駆け寄ってきた。
「おう、二人とも。俺は大丈夫だ。それとゴンザレス、あまり無茶はしないでくれ」
「うっ――。」
ゴンザレスがシュンとした表情で俯く。
竜剣の制限時間が過ぎれば強制的に能力が解除される。その瞬間に狙われれば俺の命も危ない。
だがそのことを知らせる為に飛び込んで、自分が破壊されればマスターである俺は死んでしまう。きっとそんな葛藤の最中、前者を選択したのだろう。
あまりゴンザレスを責めることはできず、優しく頭をポンポン撫でる。
「でも、助かったよ。ありがとうな」
「は、はい!」
礼を言うとゴンザレスは頭を上げ顔を綻ばせてた。
「それと、リリィもサンキューな。ゴンザレスを護ってくれて」
「当り前じゃない。シノは私のパートナー何だから援護するのは当然よ。そ、それと、「俺の女」って言ってた時、……凄くかっこよかった(ゴニョゴニョ」
「そ、そうか」
視線の先を横に向け顔を赤くしながら照れている姿が可愛いくて、こっちまで恥ずかしくなってきた。
「コホン。話を先に進めてもいいかね」
咳払いが聞こえ慌ててヴィクセルの方へと向く。
「あの、どうやって潜伏先を聞き出すんですか?」
「ふむ、それは――」
「く、くく……。お前は俺に拷問を掛けることはできない……。絶対にだ……。ごほっごほっ!!」
会話を聞いていた男が口を挟んできた。
「ふむ、勘違いをしているな。わざわざ拷問をかけなくても自白させる薬を使えば済むことだ。それに、王都へ連行すればそれなりの罰を受け死刑になるだろうがな」
殺人を犯している集団の一人なのだ。死刑は当然の報いだろう。
だがなんだ? あの余裕の笑みは……。
「くく……、くははは……」
「…………貴様、何が可笑しい」
「……俺がなんの策もなしにここへ潜り込んだと思っているのか? そういえば団長殿には年頃の娘がいたよなぁ?」
「―――ッ!? 貴様! 娘に何をした!」
激怒したヴィクセルが相手の胸倉を掴もうとした瞬間、男がその伸ばされた腕に噛みついた。
「ぐっ!?」
「――団長!? 貴様、その口を放せ!」
取り押さえていた兵士が無理やり引きはがす。
「団長お怪我は!?」
横から噛みつかれた腕を覗き見ると、見たことのない黒い刻印が傷口から全身へと広がっていく。不気味な刻印は呪いの産物のように見えた。きっと歯に何か仕込んでいたのだろう。
「ひゃはははは、まんまと俺の挑発に引っかかったな! 切り札は取っておくものだぜ団長さんよぉ! その刻印は王国から盗んだアイテム『キルティ・ブラッド』の呪いだ。こいつの呪いを受けた者は一時間以内に死ぬ。
それと俺を殺しても無駄だぜ? お前の娘に掛けた呪いは俺が死ぬと発動するんだからよぉぉ! ひゃはははは」
「な、なんだと……。くっ……」
「さぁ、取引と行こうか。どの道お前は助からない。だが、愛しい娘の命を助けたければ俺を解放するんだ。さぁ、どうした。俺が死ねば娘も死ぬんだぞ? くくく」
周りにいた兵士たちに動揺が走っていた。
無理もない。実質人質を取られている状態なのだ。だが、はいそうですかと見逃すこともできないだろう。窮地に陥った不利な展開にヴィクセルの顔が歪んでいた。周りの連中はヴィクセルの判断を待っている状態だった。
「さぁ! 俺を解放するんだッ!!」
男の要求に対して静寂が訪れる――。
誰も口を出さない中、俺はヴィクセルと男が対峙する間へと歩き出す。
「―――いや、解放する必要はないだろ」
放った一言に皆がこちらの方へと向いてきた。
「ああ!? テメェ何様のつもりだ!? 俺はテメェと交渉してるんじゃねぇ! すっこんでろッ!!」
確かに交渉の場に立っているのはヴィクセルだ。俺がどうこう言うのはおかしいと思う。
だが、その呪いを解除できるとしたら……?
苛立つ男の前へと立つ。
「その呪い、解除すればいいだけの話だろ」
男は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「は? ……くくく、あははははは! 馬鹿が! 俺の歯に仕込んでいる『キルティ・ブラッド』はなぁ! 王国の連中が封印指定している程の強力な呪いのアイテムだ!
わかるか? 一度呪われれば解除できない程に強力なんだよ! 団長殿も当然知っているよなぁ?」
「悔しいが……シノノメ君、その男の言っていることは本当だ……」
苦痛な表情を浮かべるヴィクセルを見る。その身に受けている呪いは相当体に負担がかかっているようだった。
呪いの解除は無理だという。だが、俺がやることは変わらない。
左手を前面へと突き出し、呪いを無効化するアイテムの名を口にする。
「クイックオープン、『霊剣・ソツヤハノツルギ』――」
ガラスが砕けるような音がした後、左手に一本の日本刀が具現化した。
――『霊剣・ソツヤハノツルギ』。御霊石と呼ばれる石が1000年もの長い年月により、光霊鋼に変化して刀として打ち上げられた業物。呪いにかかった対象者の呪いのみ切り落とすことができ、そして対象者の肉体を傷つけることはない。
前回、ガチャを回したときに手に入れた代物だ。
鞘から刀を引き抜くと、甲高い鈴の音が聞こえてきた。その刀身は半透明に透けていて、物質としてこの世に存在して無いように思える。
「ヴィクセルさん、動かないでいてください」
横一線に一振り。それだけで刻印は黒い靄となって『霊剣・ソツヤハノツルギ』へと吸い込まれていく。呪いが霧散して解除されたことにヴィクセル本人が驚いた顔をしていた。いや、ゴンザレス以外の全ての者もか。
「馬鹿な!! なんだソレは!? 王国の連中が封印指定している程の呪いだぞ!」
「ふーん、こいつは『 HR 』ランクの大したことのないアイテムなんだけどな……。『キルティ・ブラッド』ってアイテムだっけ? 実はあまり大したことないんじゃないの?」
男は口をパクパクさせている。
「クイックオープン、『星屑のピコピコハンマー』」
新たに次のアイテムを取り出す。
「それに潜伏先を聞き出す為に、拷問も自白剤も必要ない。こいつはふざけた名前のアイテムだが、対象者に対して知りたい記憶をクリスタルとしてコピーし、直ぐに知ることができるアイテムだ」
男の頭に軽く振り下ろすと、『ピコ!』っと可愛らしい音と共にクリスタルが出現し、ヴィクセルの前に転がって行った。
「ヴィクセルさん、それ拾ってみてください」
「あ、ああ。――――こ、これはッ!! 西地区の酒場の地下室か!!」
場所を言い当たられた為か、男が動揺し始めた。
「ま、これもランクの低いアイテムなんだけどな」
「ふ、ふざけるな! なんなんだお前はッ! いったい何者なんだ!」
「え? 唯の『 E 』ランクの冒険者だけど。ちなみにLv1な」
ニヤリと笑って首にかけているクリスタルペンダントを見せつける。
男の目が点になったかと思ったら、、次第にその表情は怒りの形相を浮かべ赤く染まっていく。
「あ、あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ない!! こんなふざけた野郎にザリウス様の計画が阻止されるなんてあってはならない……。 ならないんだぁぁぁ!」
突然、男を縛っていた縄が切れ、取り押さえてた兵士が腕から血を流しながら崩れ倒れる。
男の手からキラリと光る物が見えた。
仕込みナイフか!!
「せめてお前の大事なモノを奪ってやるやらぁぁ!!」
男がその場から直ぐに動き出しリリィの元へと駆け出していく。
「―――スキル『リストレイント・チェイン』」
男の周りに8つの魔法陣が展開。魔法陣からさらに青く光る8つの鎖が出現し束縛していった。
口にも猿ぐつわのように鎖が巻き付いている。
「――がっ!!!」
最後の悪足掻きと言った感じか。リリィを狙った行動に怒りを覚えた。こういった輩は絶対に野放しにしてはならない。
「クイックオープン、 『煉獄のキューブ』――」
掌に5センチ程の正方形の形をしたクリスタルが具現化する。それは黒い燐光を帯びていた。
『煉獄のキューブ』を握りしめながら男の元へと歩き出す。
「お前のような輩は絶対に許さない……。死刑なんて生ぬるい。暗闇の中、永遠に発狂し続けろッ!!」
男の胸へ『煉獄のキューブ』を叩きつけると、黒い渦が出現し男を呑み込んでいく。
「が、がああぁぁぁぁ―――……」
束縛したままの男を呑み込んだ後、黒い渦は消えて地面へと『煉獄のキューブ』が転がった。それを拾いあげ『アイテム収納』へとしまい込もうとした時、ヴィクセルが近づいてきた。
「や、奴はどうなったのだ!?」
「この中でまだ生きてますよ。こいつは『煉獄のキューブ』と言って、対象者をキューブの中に閉じ込めるアイテムなんです。
キューブの中はこの世の理から外れ、決して老いることも病気になることも眠ることも空腹になることもない。退屈という名の『絶望』だけが残る場所です。
この男には自らの罪をこの中で罰を受けてもらいます。因みに外に出るには自ら命を絶つしか方法はないんですけど、まぁ、束縛したまま閉じ込めたんで自害すらできないんですけどね。
だから、ヴィクセルさんの娘さんも今すぐに死ぬということはないので安心してください」
「そ、そうか……。わかった。『イビルノイア』の情報も手に入った。奴の処遇に関しては君の判断に委ねよう」
王国騎士隊の面子が潰れるから駄目だと言われたらどうしようかと思ったが、ヴィクセルは話の分かる男のようだった。
それに娘の呪いを解除する前に舌を噛み切られて自害される危険性など、その辺の打算的な事も含まれているのかもしれない。
結果はどうあれ、『イビルノイア』の潜伏先の情報を手に入れる目的は達成されたわけだ。
後は王国騎士隊の連中が現場を押さえれば解決になるんだが――。
「すまないがシノノメ君。ザリウスを捕まえるために君の力を貸してもらえないだろうか。もちろん、報酬は別枠で弾む」
まぁ、そう来るだろうな。何せ、ザリウスは王国の貯蔵されていたレアアイテムを一部盗み出していると言っていた。彼はきっとその辺を危惧して俺に再度依頼を要請したのだろう。
乗りかかった船だ。引き受けるか。
「構いませんよ。それとこの件を終えたら娘さんの呪いも解除しに行きましょう」
「おお! ありがとうシノノメ君! 恩に着る」
ヴィクセルに右手を両手で力強く握られた。
さてと、『イビルノイア』捕縛計画の前に『ソウルガチャ』を回してアイテム補充をした方がいいだろう。
倒した2体のゴーレムの残骸の上には浮遊している大きなソウル。ソウル数もそこそこありそうな感じだ。
『ソウルコネクト』の起動言語を念じ、ゴンザレス達と共に建物の中へと向かっていった――。




