52.忍び寄る……
「まぁ! これは凄いですわ! 空を泳いでいるみたい!」
月明かりの夜空の下で、マーメイドの女の子は燥いでいる。
『月の羽衣』――。月明かりが出ている夜空のみ、空を自由に飛べることができる女性専用アイテムだ。
ただし、太陽の光に晒すと蒸発して消えてしまうが。
「ねぇ、本当にいいんですの?」
「ああ、君のシャボン玉を割っちまったからな。それと、さっきも説明したけど――」
「太陽の光に晒すと消えちゃうのよね? ちゃんと覚えているから大丈夫ですわ」
そう言いながら、女の子は楽しそうに空を泳いでいた。
本当はさっさと拉致計画の情報を伝えて、あわよくばお姫様に会わせてもらおうかと考えていたのだが、楽しそうにしている姿を見ていたらタイミングを逃してしまったのだ。
「ふふ、貴方良い人ね。バブルボールは魔法で作り直せるのに、こんな素敵なものを頂けるんですもの」
「まぁ、謝罪の一環で」
暫く空を飛んでいる姿を眺めていると、空が白み始めてきた。
「あら、いけない! もうじき夜が明けるわ。ねぇ、貴方。お名前はなんて言うの?」
「ん? 東雲透だ」
「そう……私の名はアイルですわ。ねぇ、シノノメ……残念だけど、そろそろ戻らないといけないですの。こんなに楽しい時間は久しぶりでしたわ。ありがとう」
アイルと名乗ったマーメイドの女の子は笑顔を浮かべ、そのまま海へと飛び込んで行ってしまった。
余りにも唐突だったので、ポカーンとしてしまう。
ええぇ~……、肝心なことを伝える前に行っちゃったよ……。
……はぁ、しょうがない。
やはり大会当日に――。
「マスターっ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、ゴンザレスとリリィが仁王立ちしていた。
ゴンザレスの手には何故か『くまさんハンマー』が握られている。
あ、あれ? もしかしてメモ書きを残して外出したことに腹を立てているのだろうか。
「よ、よう。なんか二人共、怒ってる?」
「「怒ってる!」」
デスヨネー。
二人の息はピッタリだった。




