50.マーメイド ★
岩場の上から降りてきた女性の姿に驚く。
女性は燃えるような赤髪にキリっとした顔立ち。スタイルは抜群で胸は程よい大きさ。それを際立たせるかのように露出の多い水着を着ている。
目を奪われる程の美人だ。ただし、それはあくまで上半身だけの話。
シャボン玉に腰掛けている下半身は人間の足ではなかった。腰から下は魚のような身体で尾びれがあった。
そう、俺の世界で言うとそれは人魚のような姿だ。
驚きのあまり、呆然とその姿を見つめてしまう。
「ふふ。まぁ、驚くのも無理はないですわね。私は貴方と同じ人間ではなく、マーメイドですから。にしても、……貴方を見ていると何故だか不思議な気持ちになるわね。何でかしら?」
女性は腕を組みながら顎に手を添える。そのせいか大きな胸が圧迫によって胸元が強調され、目のやり場に困ってしまう。
しかし、これは願ってもないチャンスなのでは? こうしてマーメイド種族に会えたのだから。
どうする俺。単刀直入に聞いてみるか? 順を追って説明するか? ええい! ダメ元で聞いてみるか!
「なぁ」
「はい? なんですの?」
「無理を承知でお願いしたい。――マーメイド族のお姫様に大事な話があるんだ。会わせてはくれないだろうか?」
女性は少しばかり驚いたあと、顔がニヤニヤし始めた。
「へぇ、……さては貴方、求婚でも致しますの? まぁ、確かにマーメイド族の中でとびっっっきりの美人で、器量があって、スタイル抜群ですし?
貴方の様な、ひ弱な殿方でも求婚したい気持ちも分かりますわ。ですけど、そもそも求めているのは強い殿方ですの。貴方じゃ無理よ、諦めなさい。でも、どーしてもと言うのなら明後日に開かれる大会で優勝するしかないわ」
マーメイドの女性は「ふふん!」と胸を張っている。
「違う違う。別に婿になりたいとか求婚の話じゃなくて――――」
「照れない照れない。そういうことにしておいてあげますわ、ふふ」
うがぁぁぁ!!
ダメだこのマーメイド! 人の話を全然聞きやしねぇ! お姫様に会って『元素の宝玉』の事とか色々聞きたいのに!
しかも勝手に解釈してるよ。
「さーてっと、そろそろ戻らなくちゃ」
「え、あ! ちょ、ちょっと待っ――」
フワフワとシャボン玉が空へと浮かんでいく。
なんだこの気分屋な女の子は。せめてお姫様が狙われていることだけでも伝えておかないと拙いぞ!
慌てて引きとめようとした為か、自分の足を引っ掛けて転んでしまう。
パチンッ!!
「きゃっ!!」
「へぶっ!!」
砂浜に顔から突っ込み、口の中に砂が少しばかり入り込んできた。
うわっ! やっちまった! 最悪だ! ぺっ、ぺっ!
起き上がり、口の中に入った砂を吐き出す。
「貴方、やってくれましたわね……」
声のした方へ向くと、砂浜の上にマーメイドの女性が座り込んでいた。その姿は拳を握りプルプルと振るわせている。
うわっ、やっちまった! 最悪だ! 折角お姫様に会えるかもしれないチャンスなのに!
どうやら俺が転んだ拍子にシャボン玉を割ってしまい、砂浜に尻餅をついたようだ。
「ごめん! わざとじゃないんだ!」
「……まったく。仕方がありませんわね。明後日は貴方たち人間が私達マーメイド族を敬う祭りがありますし、……ですから特別に許してあげますわ」
あっぶねぇ……。俺のせいでマーメイド族を怒らせて海の恩恵を授けられなくなったら、この街が大変なことになるところだった。
マーメイドを見ると、体についた砂を払っているところだった。
そうだ。シャボン玉を壊してしまった代わりにアレをあげるか。
俺は先程ガチャで手に入れたアイテム名を思い出しながら、右手を前面に上げる。
「クイックオープン、『月の羽衣』」
ガラスが割れるように空間が弾け、透き通った布でできた羽衣が具現化する。
「これ、あげるよ」
「あら? それは何かしら?」
「まぁ、割ってしまったシャボン玉の代わりにと思って」
俺は女性の首へとかけてあげる。
すると、マーメイドの体がフワリと浮かびあがった。




