48.ガチャは運次第 ★
「御馳走様でした」
夕食を終え両手を合わせて礼をする。これはもう習慣で、食事前と食後は必ずやる。食べ物には礼を尽くせと小さい頃から言われていた為、習慣づいているのだ。
膨れたお腹を摩りながらゴンザレスの方へと視線を送ると、山積みになった食器があった。小さい体にどんだけ食べ物が入るのだろうか。流石に食べ過ぎだと思う。
「とても美味しかったです。御馳走様でした!」
ゴンザレスも俺と同じような姿勢で礼をしている。
「ゴンちゃん、凄い量食べたね……。動けるの?」
リリィが呆れたように言う。俺とリリィは一人前だが、ゴンザレスは3人前食べている。
「たはは、リリィ痛いところついてきますね。えっと、動けないです。なのでマスター、部屋までオンブしてもらってもいいですか? まだ、約束果たしてもらってないので」
ゴンザレスは両手の人差し指をモジモジ合わせながら上目遣いをしてきた。まさかとは思うが、全てこの為に計算されているのではないかと疑ってしまう。
でも、約束したしな。
「オーケー。んじゃ、部屋までな」
立ち上がりゴンザレスの目の前で背中を見せしゃがむと、遠慮がちに体重を載せてきた。
「お、お願いしますマスター」
「あいよ」
部屋までの短い距離をオンブして歩いていく。隣にはニコニコしながらリリィがついてきている。
「良かったね、ゴンちゃん。シノの背中大きくて温かいよね」
「はい、とっても温かいです。もういっそこのまま街をグルリと廻ってほしいくらいです。どうですかマスター?」
「止めてくれ、疲れちまうよ」
背中にゴンザレスのふくよかな胸の感触に、内心ドキドキしながら歩いている。正直に言うともっとオンブしていたいが、もうそろそろ部屋にたどり着く。
「ふふ、そんなこと言って内心嬉しいんじゃないのシノ?」
リリィはニヤニヤしながら脇腹をツンツンとつついてくる。
心読むなよ……。ったく。よーし、なら仕返しだ。
「ああ、嬉しいよ? ゴンザレスをオンブするのも、リリィをオンブするのもな。俺にとっちゃ嬉しいよ」
リリィの方へ振り向き、ニカッと笑う。
「~~~~っ!? ばっ、ちょ、ちょっと、いきなりそういうことを言うの反則っ!」
「あっはっはっは、顔真っ赤にしてまー。可愛いやつめ~」
「ぐぬぬぬぬっ! か、からかったわね!? もう、しらない!」
リリィは顔を真っ赤にしながらスタスタと先に部屋の中へと入ってしまった。
あれ? 怒っちゃったか?
「ま~す~た~。リリィを苛めないでください」
「はい、すみません」
俺たちもリリィの後を追うように部屋の中へと入っていった。
◇
俺はリリィにひたすら謝り許してもらった。その代わりまたオンブしろと約束を付けられてしまった。
なんだ、結局リリィもオンブして欲しいんじゃないかと口に出そうになったが、なんとかその言葉を飲み込む。
危ない危ない。
寝るにはまだ早いので、3人でテーブルの席に着き紅茶を飲みながらのんびりとする。
あー、こういのもいいな~。
「って、そうだ! 忘れてた!」
ゴンザレスたちは「どうしたの?」というような表情をしている。
二人もこののんびりとした空間に思考が停止しているんじゃないか? って俺もか。
「二人共、明日の予定なんだが、もう一度ギルドに顔を出してこようと思う」
「ソウル集め?」
リリィが紅茶を啜りながら聞いてくる。
「いや、違う」
「んー、お金なら今日十分に貰ったし……。あ、もしかして私のLv上げ手伝ってくれるとか!?」
「それも違う。……いや、というかそうだな。リリィのLvやランクも上げていかないと拙いよな」
すっかり忘れていた。自分がLv1のままでLvが上がらないから、リリィのその辺に関して頭から抜けていた。
「シノー? もしかして私のLv上げ忘れてたんじゃないでしょうね?」
ジト目で睨まれて全力で首を横に降る。また機嫌を損ねたら大変だ。
「で、マスター。明日のご予定はギルドへ向かうとして、どうされるんですか?」
流石ゴンサレスだ。助け舟を出してくれるとは、なんてデキタ子!
「こほんっ。結論から言うとだな。この街の領主に会うために、ビックマムにコネがないか確認しにいく。後、大会エントリーのキャンセルについてもな」
「なるほど、マーメイドに会う別手段として武闘大会主催である領主に会うと。流石ですマスター」
的確に言い当ててくれるゴンザレス、流石だ。ほんとデキタ子!
「オッケー! じゃー明日はまたギルドへ顔だしだね」
「ああ。んじゃ、予定も決まったしガチャでもやろうかな」
左腕に巻きつけてあるスマホウォッチを外しテーブルに置く。もちろん、ホログラム機能を使うために外したのだ。
「マスター、やりすぎには注意してくださいね。では、ホログラム機能を起動します」
一言余計です……ゴンザレスさん。などと思っていると目の前に『ソウルガチャ』の文字表示がされたので、迷わず『レインボー』の『11連ガチャ』を押した。
出てきたガチャポンが打ち抜かれ、アイテムがホログラムとして表示されていく。
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アイテム名:クロワッサン(10個入り)
ランク :『 N 』
説明 :
ふわふわ食感、バター風味。
食べるとふわふわした気分になる。
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アイテム名:封印されたエロ本(R18指定)
ランク :『 N 』
説明 :
何故か開かない。
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アイテム名:星屑のピコピコハンマー
ランク :『 R 』
説明 :
知りたいことを念じながら対象者の頭に1ポコペンすることによって、必要な記憶がクリスタルとなって具現化する。
コピーされた記憶を読み取るには、クリスタルに触れるだけで記憶を読み取ることができる。
浮気調査にぴったり。
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アイテム名:酸素飴(20粒入)
ランク :『 R 』
説明 :
一粒食べることにより、水の中でも呼吸ができる。
効果時間は一粒60分間。
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アイテム名:風のマフラー(Ver:白)
ランク :『 R 』
説明 :
首に巻きつけると、風が吹いてなくても勝手に靡く。
ヒーロー系お洒落ファッション。
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アイテム名:光の精霊
ランク :『 R 』
説明 :
使用者の周りを漂い、周辺を照らす。
ライティング魔法と同じ効果で光量を調整できる。
効果時間は60分間。
捕まえて食べると、捕食者の体力・怪我が徐々に回復する。
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アイテム名:おにぎり(梅)
ランク :『 R 』
説明 :
別名:鬼斬り
食べることにより鬼神のごとく力が漲る。
効果時間は60分間。
『筋力』+300
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アイテム名:月の羽衣(衣服タイプ・女性用
ランク :『 R 』
説明 :
月明かりが出ている夜空のみ、空を自由に飛べることができる。
太陽の光に晒すと、蒸発して消えてしまう。
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アイテム名:火の精霊
ランク :『 R 』
説明 :
使用者の周りを漂い、周辺の温度を上げる。
効果時間は60分間。
捕まえて食べると、一定時間寒さを感じなくなる。
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アイテム名:癒しの塗り薬(タイプ:精神)
ランク :『 HR 』
説明 :
心に傷を負っている者を癒す塗り薬。
嫌な記憶を消すことはできないが、それを乗り越える作用がある。
塗る患部は胸。
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アイテム名:常闇の大鎌
ランク :『 SR 』
説明 :
魔王サタンが愛用していた大鎌。
『常闇のマント』を揃えることにより、影の中に入ることができる。
影間の移動も可能。ただし、最大距離間は20メートル。
特殊パッシブスキル:『闇斬り』
闇夜の時間帯のみ自動発動される特殊パッシブスキル。
障害物があろうと、離れていても空間を超え対象者を切りつける。
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出てきたアイテムを確認していく。
SR1、HR1、R7、N2……、Rが多すぎ! え、ソウル1万消費してこれかよ!?
そこそこ使える珍しいアイテムが出てくるのは嬉しいが、やはりガチャ好きとしてはランクの高いアイテムが出てほしかった。
よく美少女ソーシャルゲームでドンピシャな可愛いイラストをゲットしても、それがランクの低いキャラだった時のあのやるせなさに似たようなものだった。
メインパーティーに入れようか迷う的なアレだ。
がっくりと肩を落とす。
「ねぇ、シノ。肩落としてどうしたの? このアイテムあまりよくないの?」
リリィが訪ねてくる。そういえば、アイテム説明を読み上げないで確認してたから、リリィはわからないよな。
ゴンザレスは日本語を読めるので問題はないが、俺はリリィのために出てきたアイテムを説明していく。
「シノ、この女性の裸が描かれている本。捨てなさい」
デスヨネー。
「はい、後で捨てておきます」
「今よ」
ええぇー……。そんな無茶ぶりな。
俺はゴンザレスの方へと顔を向けると、コクンと一回頷いてきた。
「大丈夫ですよマスター。『アイテム収納』内に収まっているアイテムは削除することができますので。ということで、削除しますね」
ゴンザレスがそう言うと、目の前に表示されていた『封印されたエロ本(R18指定)』が消えた。
ああぁ、仕事が早すぎるよゴンザレス!
「でもシノ、落ち込むようなアイテムばかりじゃないでしょ。私には全部のアイテム凄いと思うよ? さっきの本を除いて」
リリィが不思議そうに聞いてくる。
「いやー、やっぱランクの高いレア物が欲しいというか、なんつーか、わっかるかなー」
こう、回すならもっといいランクのアイテムが欲しいという心境。うーむ、俺が欲張りすぎなのだろうか。
ガチャ系は完全に運だから仕方がないと思うが、やはりもっといい物が出て欲しい。
そういえば元の世界で一時期ハマっていたソーシャルゲームで、最高ランクの星5キャラの確率が1%だったな。
欲しいキャラが中々出ずに痛い目にあったっけ。運営マジ許すまじ。
ん? 待てよ……。
「なぁ、二人共。『ソウルガチャ』まわしてみるか?」
二人の顔が驚きの表情へと変わる。
「え! どうされたのですかマスター! あのガチャ好き中毒者のマスターが他人に回させるなんて……」
酷い言いようだなゴンちゃん……。まぁ、中毒者なのは認めるが。
「いやな、こういったガチャは運も作用してくるからさ。どうせだったらゴンザレスやリリィの運の力も借りたいな~と」
「マスター、ゲスいですね」
ジト目で見てくるゴンザレス。
でも、こういうのは気持ちの問題だと思うんだ。一度連続ガチャであまりいいのが出ないと、そのまま出てこないというジンクスがあると俺は思っている。
なので、他の人に一度回してもらって心機一転というわけだ。
「まぁまぁ、ゴンちゃん。シノが回していいって言ってるんだからお言葉に甘えようよ」
「そうですね、折角ですのでお言葉に甘えさせてもらいます。私、実は実体化してからマスターがガチャを回すのを見ていて、なんだか楽しそうだなーって思っていたんです。なので、私も回させていただけることに実は嬉しかったりします」
照れたように頬をかくゴンザレス。なんつー、素直な性格だ。
喜んでもらえることが素直に嬉しかった。
「んじゃ、『レインボー』の『11連ガチャ』を押してくれ」
「はい! マスター!」
ゴンザレスが喜びながら『11連ガチャ』の選択項目を押し、打ち抜かれたガチャポンからアイテムが表示される。
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アイテム名:芳香の扇子
ランク :『 N 』
説明 :
仰ぐと花の香りが出る。
トイレその後に。
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アイテム名:壁走りの靴
ランク :『 R 』
説明 :
壁を歩くことができる靴。
靴には空間魔法がかかっており、使用者は壁を歩いても、身体に掛かる重力の方向は変わらないので負荷はかからない。
ただし、空間認識が弱い人は酔いやすくなるので注意が必要。
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アイテム名:魅惑のリップクリーム
ランク :『 R 』
説明 :
魅了の魔法がかかったリップクリーム。
使用することにより異性を魅了する。
無差別に魅了するので、落としたい異性と二人きりになれる場所での使用を推奨。
ただし、リップをおとすと魅了の効果が切れる。
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アイテム名:アイシクルの杖
ランク :『 HR 』
説明 :
使用対象者が『アイシクル・エッジ』と起動言語を唱えると、杖の先から氷属性・上級魔法の『アイシクル・エッジ』が発動する。
使用対象者がロックオンしたターゲットを穿ち、凍りづけにする。
ただし、1回使用するごとにソウルを300消費する。
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アイテム名:メメントモリ(衣服タイプ・男性用)
ランク :『 HR 』
説明 :
「死を記憶せよ」と呪いが掛けられた黒い服。
装備者がステータス異常の攻撃を受けた場合、100%状態異常になる。
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アイテム名:ケーキセット(Ver.チーズケーキ)
ランク :『 HR 』
説明 :
3段タイプのケーキスタンド。
スタンドからケーキを取ると新たにケーキが生成される。
無限に出てくるので、食べすぎには注意。
『 HR 』ランクの『紅茶セット』と使えば、ちょっとしたお茶会に大変身。
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アイテム名:オールシールド(使い捨て)
ランク :『 HR 』
説明 :
自動防御型の光の球。
使用者の周りを浮遊し、自動で攻撃を防ぐシールドを張る。
防御は5回まで。ただし、膨大な威力の攻撃は防げない。
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アイテム名:魔人オルファの心臓
ランク :『 SR 』
説明 :
肉体から切り離してなお、脈動している心臓。
止めを刺すことにより、ソウルを10000獲得する。
また、生で食すことで寿命が5年伸びる。
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アイテム名:煉獄のキューブ(使い捨て)
ランク :『 SR 』
説明 :
対象者をキューブの中に閉じ込める。
キューブの中はこの世の理から外れ、決して老いることも病気になることも眠ることも空腹になることもない。
そこは『退屈』という名の絶望だけが残る。
外に出るには自害するしかない。
使用方法は対象者へ投げつけて当てると発動。
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アイテム名:水竜・ガリオス
ランク :『 UR 』
説明 :
48種の伝説の竜のうちが一つ、
『水竜・ガリオス』の牙から造られた大剣。
刃先は肉を削ぎ落とす造りになっており、
切りつけた箇所は水竜の呪いによりポーション系の回復薬が効かなくなる。
竜剣と血の契約を交わすことにより、膨大な力を得る。
『血の契約』
装備している間だけ下記のステータスが一時的に上がる。
1秒ごとにソウル10消費される。
また、所持ソウルが無くなると使用者のソウルを喰らい、
使用者を竜化させる。自我がなくなり元には戻らない。
体力 :+1500
筋力 :+1500
防御力:+500
素早さ:+500
魔力 :+6000
『固有スキル』
ドラゴン・インストール:水竜
説明:
水竜の力を使用できる。
ソウルを2000消費することにより、更に180秒間下記のステータスが上がる。
魔力 :+4000
左眼に『水竜の魔眼』が現れ180秒間の間、水の生成・操作が可能になる。
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アイテム名:鋼竜・ゴルニドル
ランク :『 UR 』
説明 :
48種の伝説の竜のうちが一つ、
『鋼竜・ゴルニドル』の7本の尾から造られた大剣。
堅く鋭い7本の尾は近づくもの全てを切り刻む。
『血の契約』
装備している間だけ下記のステータスが一時的に上がる。
1秒ごとにソウル10消費される。
また、所持ソウルが無くなると使用者のソウルを喰らい、
使用者を竜化させる。自我がなくなり元には戻らない。
筋力 :+5000
防御力:+5000
『固有スキル』
ドラゴン・インストール:鋼竜
説明:
鋼殻竜の力を使用できる。
ソウルを2000消費することにより、更に180秒間下記のステータスが上がる。
筋力 :+2000
防御力:+2000
180秒間の間、スキル『ゼクスブレイブ』を発動することができる。
『ゼクスブレイブ』発動後6本の剣が顕現し、契約者の意思で自在に操ることが可能。
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出てきたアイテムに唖然とする。高ランクアイテム『 UR 』が2つ。しかも竜剣だった。
ソウルガチャを回したゴンザレスも驚いている。高ランクアイテムが出たのは素直に嬉しいが、自分以外の人がこうも当ててるのを見ると軽く嫉妬心を覚えてしまう。
「ゴンザレス、お前すげぇな……。いや、びっくりだわコレ」
「私自身も驚いています。まさか竜剣が2本も手に入るとは思いもしませんでした」
「ねぇ、ゴンちゃん。竜剣て何? そんなに凄い武器なの?」
リリィは訳が分からずゴンザレスに聞いている。ゴンザレスはリリィの方へと向き、人差し指を上へと向けた。
「えっとですね、以前マスターが翠竜・ラファーガルやラミリールで使った大剣がありますよね?」
「うんうん」
「これはその同系統の武器なんです。リリィもご存知のとおり、あの破壊力を秘めた武器です。それが2本同時に入手……ありえません」
「ええええええええええ!! あの黒剣と同じ威力の武器ぃ!? す、凄いじゃない! てか、シノ。そんなすごい武器4本とかもう怖いものなしじゃない!」
リリィは素っ頓狂な声をあげて驚いていた。無理もない。あんな威力の武器が4本手元にあるとか無双レベルだ。
でも、これ使用制限あるからなぁ。
「いや、リリィ。これは確かに最強レベルの武器だが、おいそれと使えないんだよ」
「なんで? あ、威力が強すぎて使いどころが難しいとか?」
「それもあるが、実はこの武器の能力を使うには『血の契約』を済まさないといけないんだ。だけど装備するたびにソウルが凄い勢いで減っていくんだ。
で、ここが怖いところなんだがソウルが失くなると、使用者のソウルを喰らい体が竜化して元に戻らなくなるらしいんだ。しかも自我も失う」
俺の説明を黙って聞いていたリリィが、ゴクリと生唾を飲んだのがわかった。
「そ、それは怖いわね……。なるほど、だからシノは滅多にその竜剣を使わないのね」
「ああ、いざという時だけだな。普段はミスリル剣や炎剣で十分だし」
「なるほどなるほど」
うんうんと頷き理解してくれたようなので残りのアイテムを確認していくと、『 SR 』アイテムで凄いのが入っているのを見つけた。
『魔人オルファの心臓』、心臓を食す事により寿命が5年伸びると書いてあった。
「こ、これは! 素晴らしいぞゴンザレス! 寿命が伸びるアイテムを手に入れるなんて素晴らしい!」
あまりの嬉しさにゴンザレスの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わっぷっ、ま、ますたー! お気持ちは嬉しいのですが、説明文よくお読みになりましたか? これ、生のままで食べなければ効果がありません」
ピタリと手を止める。
生……?
もう一度説明文をよく読むと確かに『生で食す』と書いてある。ホログラムで表示されている『魔人オルファの心臓』をよく見る。
バカでかい肉の塊がドクンドクンと脈動していて、その表面は血管が無数に浮き上がり血にまみれヌメっていた。
うん、無理……。流石にこれを生で食べろとか無理だわー。炭火で焼肉のように食べるならまだしも、これはないわー。
「ソウルに、変換します……」
俺は諦め肩をガクリと落とした。
「と、ところでマスター。竜剣を出したご褒美をもらいたいのですが、い、いいですか?」
ご褒美? まぁ、『 UR 』を2つも出したからご褒美を上げるのは正当な報酬だろう。というかむしろ、二人ならご褒美とかじゃなくても、欲しいのはあげるんだけどな。
「ん? いいぞ、好きなの選んでくれ」
「わぁー! ありがとうございますマスター! では、この『ケーキセット(Ver.チーズケーキ』を頂きます!」
食べ物か! また食べ物系か! というかまだ食うのかこの子は! まさにゴンザレスの胃袋はブラックホールだな。
「さてと、んじゃリリィも回してくれ。後、リリィも好きなの選んでいいから」
「え? いいの!? じゃ、じゃー、押すね」
表示されているアイテムを『アイテム収納』に収め、もう一度ガチャの選択項目を表示させる。
「一番左がランク低くて、一番右下の項目が一番いいものが出るやつだから、そこを押してくれ」
「うん、わかっ――きゃっ!!」
リリィが『レインボー』表示を押そうと前のめりになった時、テーブルの上に置いてある紅茶をこぼしてしまった。
慌てて拭こうとした時に、リリィが謝って『ブロンズ』の単体項目を押した。テーブルを吹き終えた時には、丁度ホログラムの女の子がガチャポンを撃ち抜いたところだった。
「あーん、間違えて押しちゃったぁ」
リリィは残念そうな顔をしている。一番ランクの低い『ブロンズ』だからだ。
アイテムが表示されていく。
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アイテム名:幸せの耳かき
ランク :『 N 』
説明 :
使用することにより、幸せな気持ちになれる。
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「シノ、これは何?」
出てきたアイテムを覗き込むようにリリィが聞いてきた。
「耳かきだな。使うと幸せな気分になれるとさ」
「へー、これミュールみたいだね」
「ミュール?」
なんのことか聞き返す。
「うん。耳を掃除する道具なんだけど、この棒みたいに先端に羽毛のような綿はついていないかな」
「なるほど。しかし、耳かきとか普通すぎるな。リリィ、もう一回引き直すか?」
「大丈夫。それとシノ、このアイテム私にちょうだい?」
「へ? いや、いいけどそんな物でいいのか? 他にもあるだろ? もっといいのが」
「ううん、これでいいの。その代わりぃ……」
リリィは悪戯っぽい表情をしてベットの方へと向かい腰掛けた。何をするつもりなのだろうか。
「シノ……おいで……耳かきしてあげる」
――――ッ!!
その艶かしい姿に心臓が跳ね上がった。ゴクリと、生唾を飲んでしまう。
「あ! リリィ今マスターが生唾飲んだ音が聞こえました!」
「ちょいちょいちょいちょーい! ゴンザレス何言ってんの!?」
「くすくすっ。嬉しいんだ? ならほら、早くおいでシノ。……してあげるから。ゴンちゃんもシノの反対側の耳かき譲るね」
「ありがとうございますリリィ。なんだか楽しみです」
二人に耳かきしてもらえるなんてこれは夢だろうか。いや、現実だ。
席から立ち上がりフラフラとリリィの方へと向かい、その膝に頭を乗せベットに横たわった。
「シノ、顔の向きはそこでいいの?」
「ああ、ここがいい」
俺は顔をリリィの身体の方へと向いて横になっている。こうすると顔全体にリリィの温かさが感じられる。
「そうだ、この部屋のランプだけだと暗いから、これ使うか。――クイックオープン、『光の精霊』」
横になりながら先程手に入れたアイテムを使う。前に手に入れたクリスタルランプのように念じてみたら光量の調整ができたので、丁度いい明るさまで調整した。
「これでよし。これなら耳かきするには問題ないよな?」
「うん、ありがと。へへー、シノもなんだかんだノリ気だねぇ」
恥ずかしかったので無言になる。
「さてさて、じゃぁ、お掃除するね。……んっしょ」
リリィの柔らかい膝枕の感触を頬に感じながら、耳の中にくすぐったい感覚が走る。
ガサゴソと一定リズムで音が鳴る。時折、反対側の羽毛の綿で耳垢を取ってくれる。それが凄く気持ちよかった。
「どーお、シノ。……気持ちいい?」
「ああ……これ気持ちがいい、それに凄く落ち着く……」
「くすっ。そっかぁ、私もだよ。……なんか凄く幸せな気分になってくる」
ガサゴソ……ガサゴソ……フサフサ……フサフサ……ふぅー……。
耳を掃除して吐息を吹きかけてくる。
このリズムが凄く気持ちよくて、眠くなってくる。
「シノ……眠い? 眠かった寝ちゃってもいいよ?」
まどろみの中、リリィの優しい声が聞こえてくる。
「……ああ、もうちょっと起きてる。それに、……リリィの身体、いい匂いがするからもう少しこのままがいい」
俺はそう言うと空いている片腕でリリィの腰へと伸ばし、抱きしめた。
「ひゃぁ!? ちょ、ちょっとシノ!?」
「……いいじゃん、お互い好きなんだから」
「ま、まったくもう……」
リリィの恥ずかしそうな声が聞こえ、今どんな表情をしているのか安易に想像できた。
「じゃ、じゃーもうちょっとだけね……。まだ起きているんだったら、反対側はゴンちゃんに交代するからね」
「……ああ」
ガサゴソ……ガサゴソ……フサフサ……フサフサ……ふぅー……。
部屋の中は静寂に包まれる。
聴こえてくるのは耳かきの音と、時折吹きかけてくるリリィの吐息の音。
この後にゴンザレスにも反対側の耳掃除をしてもらうと思うと、なんだか幸せな気持ちでいっぱいだった。




