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45.愛し愛されて ★

 窓の外を眺めていると東の空が白んできた。時間を確認すると『AM4:35』と表示されている。

 あれから一睡もできていない。ベットの上であぐらをかき、『聖域のローブ』を被りながらずっと夜中起きていたのだ。

 

 リリィとゴンザレスは一緒のベットで寝ている。使い魔の件で夜中に襲われないようにと、ゴンザレス達の窓側に『ムーンストーン』を置いているためだ。

 俺はというと昨日のおっぱい事件のせいで流石にベットを並べて寝ることはできなかった。なので、ベットを反対側の壁へと移したのだ。


「はぁ~……」


 深く溜息をつく。雰囲気に流されてしまい昨晩はあんなことになってしまったが、今だに胸がドキドキしている。何せ初めて女の子の胸を触ったのだ。男としてドキドキしないはずがない。


「俺も結構単純だな……」


 昨日の出来事から二人をかなり意識してしまっている自分がいる。正直二人とも可愛い。ゴンザレスはなんだかんだ口煩くは言うが、それは俺のためにと行動をしてくれている。

 リリィも勝気で元気いっぱいだが、時折見せる弱い部分、女の子らしい仕草にドキリとさせられる。


 しかも極めつけは昨日、ビックマムが二人は俺のことを好いていると言う始末。

 実際、本人たちの口から聞いていないので確証はないが、昨日の行動を鑑みるに可能性は0ではないだろう。普通好きでもない男に自分の胸を触らせるだろうか。全ての女性がそうではないとは思うが、まぁ無いはずだ。けど、その考えが自惚うぬぼれだったら? と思う自分もいるわけで……。


 本気でこの世界に愛する人ができたら、その時俺はどうしたいのか。一晩中考えたが答えは出てこない。何故なら、まだその境地に至ってないから。そんな考えがずっと頭の中に巡っていた。 


「はぁ……とりあえず保留だな」


 ベットから起きると、窓から薄らと朝日が差し込んできていた。

 

「……んぅ~……ますたぁ……?」


 ゴンザレスが寝ぼけ眼で起きながら俺の名前を呼ぶ。たぶん、差し込む朝日で目が覚めてしまったのだろう。


「ふぁぅ……おはようございますマスター。……その、昨日は良く眠れましたか?」


 ゴンザレスは照れながら、はにかんでいた。

 その仕草にドキリとしてしまうが、努めて平静を装う。


「ああ、程々に」


 嘘だ。一睡もできていない。


「んっしょっと……」


 ゴンザレスがベットから起き上がり、素足で床をペタペタと歩きながら俺のベットに上がってきた。

 四つん這いで近づいてきていきなり小さな両手で頬を挟まれ、顔を覗き込まれる。


「じぃ~~~……。マスター? 嘘はいけませんよ。目元、クマができてます」


「う……」


 速攻で嘘がバレた。一睡もできていないんだから目元に熊ができるのは当然か。それにしても顔を挟まれて顔を覗き込まないでほしい。顔が近づきすぎる。恥ずかしくて視線を下にそらすとゴンザレスが四つん這いになっている為、寝巻きの襟元からIアイの字の谷間が見えた。


 やばい! と思い急いで視線を逸らす。

 俺、顔が真っ赤になっていないだろうか?


「マスター? ……んむ? ……――――!?」


 ゴンザレスは俺が向けたていた視線の先を確認すると、胸元が見えることに気づき直ぐに体を離した。 

「~~~~~!!」


 胸元を隠して顔を赤くしてる。これは事故なので勘弁してもらいたい。


「す、すまん」


「い、いえ……。わ、私の不注意ですので……」


 お互いに対面したまま沈黙が訪れる。昨日の出来事の気恥ずかしさもあり、何から話せばいいのか分からなくなってしまった。気の利いたセリフ一つ吐けない自分が情けない。


「あの……マスター。昨日の夜はすみませんでした。その、最近の私どうかしてますよね」


 ゴンザレスはシュンとしながら俯いてしまう。

 正直、昨日のあの行動は今まで散々えっちなことはダメだと、煩く言っていた頃と比べると真逆なことだった。


「実体化してから、なんというか……。その、世界が色付いて見えるんです」


「色づく?」


 どういうことか分からず、思わずオウム返しをしてしまう。何か身体に異変が起きたのだろうかと一瞬考えてしまう。


「はい……。実体化する前まではこんなことなかったんです。最初の頃、私に流れ込んでくるのはただの情報であって、何も感じなかった」


 俺は黙ってゴンザレスの言葉に耳を傾ける。


「だけど、日を重ねるごとに私の中に不思議な情報が流れてくるようになったんです」


 ゴンザレスはぽつりぽつりと自分の気持ちを吐露していく。


「締め付けられるような、こそばゆいような……言葉に表せられないといいますか。ただぼんやりとした何かが」


 ゴンザレスはゆっくりと自身の胸に手を当て、目を閉じる。その表情はどこか穏やかだった。


「マスターはそれを私の感情だと言ってくれました。最初は、信じられなかったんです。きっと、マスターが感じている感情をわたしも共有しているだけではないかと」


「…………」


 「だけど、実体化してから感じるようになったんです。どこまでも続く空の深さ、優しく耳を撫でる風の音、鮮やかに咲く花びらの色……。頬が落ちちゃうくらいに美味しい食べ物、街の人たちの様々な声や表情。その全てをこの身に感じることができる。……ああ、こんなにも世界は輝いているんだ。私にも感情があるんだと。それを教えてくれたのは貴方です、マスター」


 ゴンザレスはゆっくりと目を開き、俺の見つめてきた。真っ直ぐに。


「だからでしょうか、マスターに触れてもらえると思ったら、なんか胸が嬉しい気持ちでいっぱいになって……なんていうかあんなことを……」


 たはは、と照れ笑いするゴンザレス。


 俺は胸の中で、大きな音がなったのを感じた。

 無意識のうちにゴンザレスの腕を掴み――。


「えっ、あ、えっ!? ま、ますたーっ!?」


 ――その体を抱きしめた。


 純粋に、ゴンザレスが可愛いと思ってしまった。さっきまで悩んでいたのがバカみたいだ。

 ああ、くそ……。

 恋に落ちるのは突然って聞くけど、まさか今自分が落ちるとは思わなかった。


「えっと、あの、ますたー……?」


 ゴンザレスは俺の突然の行動に驚いている。無理もない。いきなり抱きしめられたら誰でも驚くだろう。だが、ゴンザレスは俺から逃げようとはしなかった。たった、それだけの事なのに嬉しい自分がいる。


「なぁ、ゴンザレス。俺、今この世界でいつまでもお前と一緒に居たいと思っている……。はは、あんだけ元の世界に戻りたいと思っていたのにな」


 元の世界に戻りたいという気持ちより、ゴンザレスともっと一緒に居たいという気持ちが勝る。この子と一生を添い遂げたい。そう思えるほどに。ああ、そうだ。惚れちまったよ。今、まさに。


 ゴンザレスの瞳を見つめる。その目は、何処となく潤んでいるように見えた。

 その瞳の色は青く、何処までも深く、見つめていると吸い込まれそうなほどに――。

 そっと、顔を近づける。


「ますたー、え、あっ――――んっ!?」


 何か言われる前に、ゴンザレスの唇にキスをし塞ぐ。

 優しく、啄むように、愛おしく。

 ゴンザレスの吐息が目の前に感じる。

 それはとても甘く、脳を溶かすほどの甘美なほどに――。


「……――――ふぁ」


 塞いだ唇から顔を離すと、可愛らしい声が聞こえる。

 ゴンザレスの顔は真っ赤になり、瞳は潤んでいた。

 愛おしくて堪らなくて、まっすぐその瞳を見つめる。


「あ、あの、それって、この世界で一生過ごすってことですか……?」


「ああ」


「え、だってマスターあんなに元の世界に戻りたいって言ってたのに――――あっ!?」


 再度その口を塞いでやる。

 言い訳ができないように。


「んんっ、ん――」


 ゴンザレスが大人しくなったのを確認し、唇を離す。

 正直、唇を離すのは名残惜しかった。

 何故なら――。


「……俺、どうやらお前に惚れちまったようだ」


 ああ、そうだ。恋に理屈なんて関係ないんだろうな。

 親父、お袋……ごめん。俺、この世界で生きていくことに決めたよ。

 わがまま言ってごめん。


「ゴンザレス、……お前は俺の事、どう思ってるんだよ」


「そんなの、そんなの――――好きに決まってるじゃないですかっ! んっ!!」


 ゴンザレスのほうから唇を塞がれる。そしてその口から、確かな言葉を聞けたことに俺は安堵する。

 そしてその華奢な体を強く抱きしめた。離すまいと。


 どちらかともなく唇を離し、お互いにオデコを付け合う。

 ああ、今凄い幸せだ。キスって、気持ちがいいんだな。

 もう一度ゴンザレスにキスを――。


「こほんっ」


 突然、離れたところから咳払いが聞こえてきた。

 音の方へ振り向くとリリィが顔を真っ赤にして、ベットの上で起きていた。どこかバツが悪そうな表情だ。


 一瞬にして、頭が真っ白になる。


「り、リリィ……。い、いつごろから起きていた……」


「ゴンちゃんがベットから起き上がったところから」


 最初からじゃないかーーーーー!!


 リリィは顔を真っ赤にしたまま、口をへの字にし何か言いたげな顔をしていた。

 そりゃそうだろう、朝起きたら同じ部屋の住人が告白してキスしていたら、びっくりする。

 逆に見られた方もびっくりするけど。


「まったく……シノは。あんだけ元の世界に戻りたいって言ってたくせに」


「いやぁ……ははは」


 全くもって、笑うしかない。

 乾いた笑いしか出てこない。


 リリィは顔を緩め、ゴンザレスの方へ向く。その目は慈愛に満ちているかのようだった。


「ゴンちゃん、おめでとう。良かったね、想いが叶って」


 どうやらリリィはゴンザレスの気持ちを知っていたようだった。


「リリィ……。……あの、マスター!」


 ゴンザレスは何かを決意した眼差して俺を見つめてきた。


「マスターは、リリィの事を一人の女性としてどう思いますか! ……真面目に、真面目に答えてください」


 ゴンザレスの突然の勢いに、一瞬たじろいでしまう。


「どうって……」


 ゴンザレスはじっと俺の目を見つめてくる。その顔は真剣だった。

 どうしようか迷ったが、その真摯な態度に俺は真面目に答えることにした。


「正直、2人とも意識はしていた……。ゴンザレスは俺のために色々してくれる。この世界にきた俺を、いつも助けてくれる。お前には随分と心の支えになってもらったよ。

 リリィも普段は勝気なくせにして、そのくせ妙に弱いところがある。なんていうか、時折見せる女の子らしさに、ドキリとしたことも何回かあった。守ってあげたくなるような……」


 ああ、そうだ。これはちょっとした些細な差なんだ。

 二つの釣り合っていた天秤が、ゴンザレスの方に傾いただけ。

 ほんの些細な出来事で……。

 だけど、もしゴンザレスより先にリリィが起きていたなら、違った未来もあっただろう。


「それは、マスターはリリィのことも好きということですね?」


「え? まぁ、意識してたから好きと言われれば好きだ」


 質問の意図に訳が分からず、混乱してしまう。

 

「そうですか……」


 ゴンザレスはそう言うとベットから立ち上がり、リリィの方へと向かうとその手を引っ張ってきた。


「えっ、ちょっ、ゴンちゃん!? きゃっ」


 ゴンザレスに連れてこられたリリィは、俺のベットの上に座らせられる。

 俺の目の前にリリィ、そしてその隣にゴンザレスが座っている。


「マスター、リリィも私と同じくらい好きだったなら、リリィも愛してくれませんか?」


「「え”!?」」


 俺とリリィは唖然とする。

 真剣な眼差しで何言ってるんだゴンザレスは!? 


「え、え!?」


 リリィは混乱している。そして俺も混乱している。

 ゴンザレスに告白したばかりなのに、そのゴンザレスがリリィも愛してくれという。

 当の本人でさえ、ゴンザレスの言動に意味不明な顔をしていた。 


「リリィも、マスターのことが好きなんです。……大好きなんです」


「ちょっ、ゴンちゃん!?」


 ゴンザレスは喋るのを止めない。


「マスターは元の世界に戻る目的があるのに、この気持ちを伝えると困らせてしまうんじゃないかって……。だから、気持ちを伝えられないって」


「わーっ! わーっ!」


 いきなりリリィが騒ぎ始めた。


「リリィ、まだ朝方だよ! 大声出すなって!」


「あぅ……!!」


 嗜めると大人しくなった。


「ふふ、リリィ恥ずかしがらないでください。リリィは私がマスターを好いてると知っても、身を引いて応援してくれようとしたじゃないですか。私は、そんなリリィが大好きです。だから、私はマスターがリリィを愛してもらっても構いません。同じように私も愛して頂ければ……」


 ゴンザレスは微笑む。突然の話に頭がショートしかかる。リリィが俺を好いていたこともそうだが、まさか二人を愛してくれとか言う事に。


「ご、ゴンちゃん、それおかしいよっ!」 


「なんでですか?」


「なんでって……」


 リリィが抗議しようとしたら、ゴンザレスは突然俺に口付けし、そして口の中に舌を入れてきた。


「お、おい、ゴンザレ――んむっ」


 ゴンザレスは執拗に俺の舌をなぶり、唾液を混ぜ合わせ、吸っていく。為すがままにされていると、ゴンザレスは俺から離れ、そのままリリィへと口づけを交わした。


「え、ちょっ、ゴ、ゴンちゃ――――んんぅ!?」


挿絵(By みてみん)



ゴンザレスの突然の行動に俺もリリィも驚いてしまう。



「んっ……ちゅる……れろ……はむ…………くちゅ……」



「ちょっ……んんっ……ちゅ……ご、ゴンちゃ……ちゅるっ……あふ…………くちゅ……」

挿絵(By みてみん)



目の前で繰り広げられている百合な光景に思わず生唾を飲んでしまう。



挿絵(By みてみん)


ごくり……。


ゴンザレス、マジカ!


「ぷはっ……。……リリィ、マスターの唾液の味はどうでしたか? 直接、……吸いたくはありませんか? マスターとのキス、気持ちがいいですよ。好きな人と舌を絡ませてのキス……したくありませんか?」


「えぅ……だって、だって……」


 リリィは顔を真っ赤にし、泣きそうな顔だった。


「それに――――」


 ゴンザレスはリリィをベットへと押し倒し、耳元に顔を近づけた。


「―――――――」


 ゴンザレスはリリィに小声で何か喋っているようだった。その内容は声が小さすぎて聞き取れない。


「――!? ゴンちゃんそれって!!」


「しぃー。ですから、お願いしますねリリィ」


 ゴンザレスは起き上がり、口元に人差し指を立て微笑んでいた。


 何の話をしていたのだろうか。ただ、今の俺が分かることは、目の前で起きていることが非現実的だということだけだ。

 目の前で女の子同士のキスに頭がパンクしそうだった。

 ゴンザレスはリリィを起き上がらせると、俺の膝の上へと誘導する。もう為すがままだ。


「リリィ、お前はそれでいいのかよ……」


 リリィの顔をじっと見つめる。その顔は泣きそうだ。


「わ、私は……シノの事が好き……」


 一言。そのたった一言を言ったリリィはポロポロと涙をこぼした。

 リリィにとって、この言葉はどれ程の重みがあったのだろう。

 伝えることを諦めた気持ちを、その言葉を出すのに。


 その涙に胸が締め付けられる。

 その言葉に胸が熱くなる。

 ゴンザレスと同じくらい、愛おしく思えてくる。


 俺はリリィを抱き寄せ、口づけを交わす。

 優しく――。

 これが答えだと言わんばかりに。

 

 どちらかともなく、舌を絡み合わせる。

 リリィは、静かにぎゅっと……体に抱きついてきた。


「ふふ、良かったですねリリィ。……マスター、私も同じように愛してくださいね」


 ゴンザレスも横から抱きついてきて、耳元で囁いできた。




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