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32.ジェリック帰還 ★

「シノー! 朝だよー!」


 ん……。ん~~……。この声はリリィ? あ~、もう起きる時間か……。


 目を開けると朝日の光りが窓から差し込んでいる。自分で起きれると言っているのに、よくもまぁ毎度毎度起こしに来てくれる。


「ほら! 朝だよ朝!」


「わかったわかった! 起きるって」


 軋むベットから起き上がり、ドアを開け叩き起してくれた張本人を寝ぼけまなこで見つめる。小柄な金髪ポニーテールで胸がちっぱい女の子リリィ。

 目を擦りながら左腕に巻いているスマホウォッチで時間を確認する。


 『AM5:35』――。


 ほんと、起きるの早すぎるよ……。


「おはようシノ。ほら、着替えて朝ごはん食べに行こ!」


「ふぁ~~。……ああ、先に1階に降りてテーブルで待っていてくれ。しかし、リリィ朝早いな。もう少し遅くてもよくない?」


「何言ってるの。冒険者たるもの朝早くにギルドへ顔を出し、いい条件のクエストを他より先に受諾する。これ鉄則なのよ? まぁ、ここ最近はギルドに顔を出してないから朝早く起きる必要ないかもれないけど」


「おいおい……」


 ジト目で無言の抗議をする。


「でも、規則正しい生活は大切よ? ということではい! 起きる!」


 わ! バカ! 今シーツを剥ぎ取るな!


「……――――!!!」


 リリィの顔がみるみる内に赤く染まっていく。終いには頭から湯気が出そうな程に。


「ごごごごごめんシノ!! さ、ささ先に下降りてるね!!」


 真っ赤な顔を背け勢いよく部屋から出て行くリリィ。正に脱兎のごとく。


「いや、まぁ、寝起きのこれは男の生理現象だしなぁ~」


 どうしたものかと頭を片手で掻く。


『おはようございます。マスター。朝からセクハラとは酷いですね……』

  

(ちょっと待ってゴンザレスさん!)  


『ところでマスター。今日の予定は如何なさいますか? ギルド長ジェリックがギルド本部へ出発してから8日目です。もう戻られているのではないでしょうか』


「ゴンちゃんシカト!? まぁ、朝から下ネタ話したくないってのはわかるけどさ。こほんっ……ゴンザレスの言うとおり今日はギルドに顔出すよ。例の件どうなったか確認しないと……」


 ベットから起き、身支度を整える。

 リリィの故郷である『風の森』で村人の弔いをしてから5日が経過した――――。


 あの日からリリィの態度が随分とフランクになったような気がする。余計なお世話かなとは思ったがそんなことは無かった様に見えた。

 あの時、泣き止んだ彼女の顔は目が赤く腫れ上がっていたが、晴れやかな顔をしていた。きっと心の整理が幾分かできたのだろう。心配していたマッド達も安心しているはずだ。


 帰りも『天馬の馬車』で戻ったのだが、それから更に大変だった。モナがギルドに事の一部始終を説明するとギルド職員が大騒ぎ。俺の周りを取り囲み根掘り葉掘り聞いてくるのだ。

 副ギルド長の一喝で騒ぎは収まりはしたが、それでも皆の視線は興味津々といった感じであった。またギルドに顔を出したら同じ事が起きるのかなと思うと正直しんどい。


 なのでジェリックが戻ってくるまで暫くギルドには向かわず、ここ数日街でリリィと買い物をしていた。リリィに言わせれば俺の旅の装備品は全くなっていないとのこと。


 リリィに言われるがまま必要最低限な物を購入。装備品も変えたほうがいいと言われたが、実はこのクローム装備の見た目が気に入っていたので断った。これ軽装備で動きやすい上にデザインも結構かっこいいからなぁ。


 ちなみに、リリィには『ソウルガチャ』で手に入れた装備アイテムをいくつか渡している。これから先何が起こるかわからないし、俺と一緒に旅をしている途中で死なれたら困るから。


 「よし、準備できたぞ。1階へ向かうか」


 自分の部屋を出てリリィが待つ1階へと向かう。



 ◇


 

「シノ。こっちよ」


 呼ばれた声の方へ振り向くと、リリィは隅の丸テーブル席についていた。口をへの字に曲げ平静を装っていたがその顔は少し赤かった。


 まださっきのことを気にしているのかもしれない。うーん、どうしたものか。


「もう注文はしたのか?」


 とりあえず、薮を啄くのもかわいそうなので無難なことを言いつつ席に座る。


「ううん、まだ。シノが来るの待ってたんだから。すみませーん! オーダーいいですかー?」


 カウンターから店主がこちらに向かってくる。前から思っていたんだが、ここの店主って無愛想だよなぁ。


 そんなことを思っているうちにオーダーを受けた店主がカウンターへと戻っていく。


「ねね、ところで今日の予定はどうするの? 流石にもう街での買い出しは十分だと思うけど」


「ん? ああ、今日はギルドに顔を出そうかと。前に話した俺のランク解除の件でそろそろギルド長が戻ってきてると思ってね。で、今日確認できたら次の街に移ろうかと思っている」


「ああ、前に話してくれた件だっけ? にしてもシノ、あんた無茶するわね。一歩間違えれば頭のおかしい奴としてギルド追放されかねないわよ?」


「しょうがないだろ? 金銭を稼ぎつつ『ソウル』を多く集める為に、強い魔物を倒さなきゃならないんだから。Lvが上がればいいんだけど、如何せんLv上がらないからなぁ俺。

 それに『 E 』ランクのクエストなんて雑用しかなくてさ。これじゃお金も『ソウル』も集まらん」

 

「はぁ……」


 そんな呆れた顔して溜息つかないでくれ。自分でも無理があると自覚しているんだ。


「そんなに強いなら勝手に魔物を探して倒せばいいことじゃないの? 魔物の素材だって売れるんだしお金だって稼げるじゃない」


「まぁそうなんだけど、強い魔物の出現場所を特定するのにどうしてもギルドの掲示板を利用しなければならないだろ? 俺としては正式なクエストを受けず勝手に討伐するのもどうかと思うわけだ。

 筋を通したいっていうのかな。それに名声も上がれば俺をこの世界に転移させた原因の人物との接触もできるのではないかと思ってさ。実際注目されるとしんどいってことは身に沁みたけど」


「ふーん、シノって律儀なのね。ほんと珍しい性格だわ。お人好しって言われない?」


「いや、言われたことはないよ。俺の国では協調性を大事にするところがあるからかな。とにかくある程度の筋は通したい。おかしいかな?」 


「ううん、そんなことない。シノのそういうところ私は好きよ。冒険者をしているとね、人の嫌な面を見ることが多々あるの。だからかな。シノを見ているとなんかホッとする」


 頬杖付きながらニコニコするリリィの顔に一瞬ドキッとする。自分の性格を褒めれれるのは初めてなことだった。ましてや女の子に。

 顔が熱くなってくる。照れているのが知られると恥ずかしいので口をへの字に曲げる。


「褒めても何もやるものはないぞ?」


 せめてもの精一杯な返答。ああ、俺テンパっているな。


「くすくす。シノ照れてるの丸わかりだよ?」


「……ほっとけ」


 思わず視線を逸らす。


『マスター。この感情凄くこそばゆいです』


(……ん? ゴンザレス、最近俺の感情に同調していないか?)


『はい、マスターと過ごしている数日間の間に少しずつ感情というものを感じ取れてきているのです。やはり、おかしいことなのでしょうか?』


 いや、まぁAIが感情を学習するってのは聞いたことはないが……。そもそも異世界に転移した時点で既に常識は当てはまらないか。


 考え込んでいると目の前に料理の皿が並べられていく。


「……おまち。今朝の朝食はラーブルサンドだよ」


 無愛想な店主は料理を配膳したらさっさとカウンターへと戻っていった。


「ほらシノ、早く食べましょう。私お腹ペコペコだよ」


「あ、ああ」


 とりあえず、ゴンザレスの事はまた後で考えればいい。時間はまだあるしな。


 ちっちゃな口でラーブルサンドをもぐもぐとかぶりついて食べているリリィは、どことなく幸せそうな顔をしている。


 美味そうに食べるその姿を見ていると、触発されてか俺の胃袋が鳴り始める。はは、俺も単純だな。


「……いただきます!」


 両手を合わせ、俺もラーブルサンドにかぶりついた。



 ◇



 朝食を食べ終えて少し休んだ後、ギルドへと向かう。今日もベスパの街は賑やかだった。

 普段なら何も変わらない日常の風景なのだが、隣にリリィがいるだけで心が落ち着いてくる。

挿絵(By みてみん)


俺は今この世界で一人じゃないんだと、そう感じることができたから。心が軽くなる気がした。


「あら、リリィちゃんおはよう! 今日も可愛いわね」


「おばちゃんおはよう! えへへ、ありがとう」


 食べ物の出店を開いている女性に呼ばれてリリィはトテトテとお店へと歩いていく。リリィはこの街の住人と親しいらしく一緒に歩いているとよく声をかけられる。


「おや、そこのお兄さんはリリィちゃんの彼氏かい? まったく隅におけないねぇ~」


「ちちち違うわよおばちゃん! からかうの止めてよね! もう!」


「おや、そうなのかい?」


 おばちゃんはニヤニヤしている。


 リリィは両手を胸の高さで握り顔を赤くしながら必死に否定しているが、おばちゃんにとっては可愛い娘に見えて仕方がないのだろう。


 どう見てもからかわれているぞリリィ。愛されてるなー。


 暫く様子を見ていたが話が終わる気配がなさそうなので声を掛けることにする。


「おーいリリィ、いくぞー」


「え? あ、ちょっと待ってよシノー!」


「二人共いってらっしゃい! 喧嘩するんじゃないよー!」


 おばちゃんの大きな声に送られてギルドへ歩き出す。


「にしてもリリィ。お前よく声かけられるな」


「え? あー、きっとそれはね、ビギナーの頃ギルドクエストで『 E 』ランクを受けていたからかな? さっきのおばちゃんもお店の手伝いで仲良くなったの。結構お店の商品サービスしてくれるのよ?」


「なるほどね」


 確かに『 E 』ランクのクエストは住人のお手伝いの依頼が多かった気がする。だけど、だからと言ってそこまで仲良くはならない。きっと彼女の人柄なんだろう。

 隣を歩いているリリィの横顔を眺める。歩くたびにポニーテールがぴょこぴょこ揺れていて犬が尻尾を振っている様に見える。


「む。何笑っているのよ。あ、卑しい奴とか思っているんでしょ!」


「全然思ってないって。ただ和んでただけ」


「和んでた? 変なシノ」


 犬っころに見えたなんて言えない。言ったら殴り飛ばされるのがオチだ。


「っと、もうギルドの建物まで辿り着いたな。うっし、入るか」


 両手で頬を叩いて気合を入れる。


「そんなに気合入れる必要ある?」


「まぁな。ランクの件でダメになっても気落ちしないために」


 扉が開かれた入口へ歩いていく。

 

 大理石の床でできたロビーを突き進んで行くと丁度カウンターにモナが出てきた所だった。


「おはようございますモナさん」


「あら、シノノメ君にリリィさん。おはようございます。暫く顔を見せてなかったけど、どうしたの?」


「いやぁ、ジェリックさんが戻ってくるまで大人しくしてました。正直色んな人に囲まれるのがしんどかったので」

 

「あははは、そりゃそうよ。あれだけ凄いことを度々起こしているんだもの。注目の的になるのは当たり前よ。そのうち王国から騎士隊への誘いが来るんじゃない?」


 げっ! 流石にそれは勘弁してもらいたい。話が変なベクトルへと流れそうだ。


「ところでジェリックさんはお戻りですか?」


「ええ。ちょっと待っててね」


 モナは隣のカウンターにいる同僚に一言二言話すと奥へと引っ込んでいく。暫くしたら戻ってきてギルド長の部屋の前まで案内された。



 ◇



 ―――コンコンッ。


「失礼いたしますジェリック様。シノノメ様がお見えになりました」


「――――入りたまえ」


 重厚な扉の向こうから入室の許可がおり、中へと案内される。


 部屋の中は結構広い。畳で表すと20畳くらいか? うわ、様々なアンティーク品が沢山あるぞ……。流石ギルド長クラスとなると違う。


「シノノメ様、リリィ様。こちらへどうぞ」


 モナに施されてソファーへと座ると、ジェリックもこちらに歩いてきて対面のソファーへと腰掛けた。


「それでは失礼いたします―――」


 モナはお辞儀をすると部屋から出て行った。


「さてと。まずは礼を言わせてくれ。西の森に現れた魔物……ドラゴンを討伐してくれたそうだな。アスター君から話は概ね聞いたよ。

 その時はA~Sランクの冒険者がいなかったようだ。もし君がいなければ被害は拡大していただろう。ありがとう。しかし君は凄いな。様々なレアアイテムを持っているそうだが」


「まぁ……」


「安心してくれ。別に取って喰うってわけじゃない。君の凄さに改めて感心していたところだ。それとドラゴンの素材を丸ごと提供してくれたことにも感謝している。王国が軍事強化の為に買い取ってくれたよ。そのお金はベスパ街の為に使わせてもらう」

 

 王国が買い取っていったのか。てっきり国に属しているから没収されるのかと思っていたが、案外その辺はきっちりしているんだな。


「では本題に入ろうか。君のランク制限解除の件……本部で協議した所、『認められない』と結論された。私としては押し通したかったのだがな」


「やはりLvをあげてから受けろということですか。まぁ、確かに会ったこともない輩のランク制限解除なんて突拍子もいいところですよね。迷惑かけてしまったようで……」


「私のことは気にするな。事実、私は君のその実力を買っている。アスター君や他のギルド職員の報告が上がっているしな。まぁ、遅かれ早かれ君がLvを上げて行けばSランクまで上がるだろう」


 ジェリックは俺がLv上がらないのを知らない。Lvが上がる前提としてジェリックは話を進めている。この世界の人にとっては当たり前のことか。


「しかも錬金術も扱えると言うじゃないか。それ程の実力なら何も冒険者じゃなくても金は稼げるだろうに。そっち方面で活躍してはどうかね?」


「俺には目的があるので冒険者がいいんです。それに、もうこの街から出発しようと思っています」


「そうか、別の街に移るのか。人それぞれだが君は不思議で変わった男だな」


 ジェリックはソファーに深く背を沈める。


「で、そちらの女性は君の仲間かね?」


「ええ、そうです」


 リリィはジェリックに頭をぺこりと下げている。


「君たち冒険者がいるからギルドは成り立っているようなものだ。これからも頑張ってくれ。君たちの活躍を耳にすることを期待している」


 ジェリックは破顔一笑する。この人、こんな顔するのか。この顔にコロッと落ちる女性いそうだな。


 話はこれで終わりだとばかりにジェリックはソファーから立ち上がる。同じように俺とリリィも立ち上がる。


「死ぬんじゃないぞ」


「ええ。ありがとうございます」


 そして部屋から出てモナのいるカウンターへと向かう。


「あれ? シノノメ君もう終わったの? 随分と早かったね」


「ええ、結果だけの確認ですから。それとモナさん、俺たちこの街から出発します」


「え? もう別の街に移っちゃうんだ……。そっかぁ、もう少しこの街に滞在するのかなと思ってたけど。ちょっと寂しくなるね」


 モナの表情が少し陰る。短い間だったがモナには結構世話になった気がする。


「ええ、お世話になりました。モナさんもお元気で」


「次の街のギルドでも迷惑かけちゃダメよ?」


 うぐっ! 最後の最後に痛いところをついてくる。ええ、ええ。モナさんにはほとんど迷惑かけっぱなしですみませんでした!


 モナにも挨拶をしギルドから出て行く。振り返るとモナが笑顔で小さく手を振っていた。


「ねぇ、シノ。いつ出発するの?」


 大通りにある噴水の前を横切った時にリリィが聞いてくる。立ちながら話すことでもないので噴水に腰掛けるとリリィも同じように隣に腰掛けてきた。


 街ゆく人々の喧騒と噴水の水しぶきの音が響き渡っている。


「準備は整っているし明日にでも出発しようかと思っている。まずは『元素の宝玉』を守護している種族を探す。もしかしたらウェイバーのことを知っている人が居るかもしれないから」


『それが妥当でしょう。なんの手がかりもないまま動くよりはいいかと思いますマスター』


(ああ、実際に守護している種族の長に話を聞ければ何かがわかるかもしれない。リリィはまだ巫女になる前だったから詳しいことは聞いていないと言うし)


「え? シノどの辺にいるか検討ついているの?」


「いや、まったく。とりあえずは北の街アムールに向う」


「アムールかぁ……。確かあの辺には人魚の種族が守護していたって……」


「ん? リリィ知っているのか!?」


 知っているような口ぶりに思わずリリィの肩を両手で掴む。


「え! ちょっとシノ顔近い!! あわわわわ」


 ズザザーと横にスライドして逃げていくリリィ。そんな逃げなくても。びっくりさせたのは悪かったけどさ。


「すまん。てか、リリィ他の種族の場所わかるのか? そんな話し聞いていないんだけど」


「すーはーすーはー……こほんっ。だってシノ聞いてこなかったから。場所は長老から聞いていたからわかるけど、だいたいよ? だいたい」 


 だいたいでも助かる。当てのない旅よりは断然いい。


『良かったですねマスター』


 ああ、ホントだよ。


「えっと、北のアムール地域ではマーメイド族が守護しているって言っていたわ。詳しい場所は分からないけど」


「いや、それだけでも助かる。よし、じゃまずは北の街アムールへ向かおう。そこで情報収集だ」


「うん、そうね。まずは行動を起こさないとね!」


 リリィは腰掛けている噴水から勢いよく立ち上がり、俺の手を引く―――。


「ほら、明日出発するならアムール行きの馬車確保しないと!」


「うわっ! ちょ、いきなり引っ張るなって!」


『ふふ、リリィに振り回されていますねマスター。でも私もリリィには負けられません!』


 おいおい、なに対抗意識燃やしてるんだよ……って、おっとっと。


 手を引くリリィの顔がどことなく楽しそうなのは気のせいだろうか。


 ゴンザレスもなんだか楽しそうだ。


 まったく、こっちは真剣だってのに。


 でもまぁ、いっか―――。



 ◇



 アレス王国、謁見の間――。


 白い大理石に赤い装飾品によってデザインされた広間に、ステンドグラスの窓から色鮮やかな光が差し込む。


 中央には赤い絨毯が入口から奥へと敷かれ、その周りに銀色の甲冑を纏った騎士達が並んでいる。腰には特殊スキルが備わった様々な魔法武器を装備していた。中には女性も居たが、その顔つきは歴戦の猛者を思わせる精鍛な造りである。

 

 彼らは国の民人から敬意もってこう言われている。『王国騎士隊』と。


 ――――王国騎士隊。


 王国を守護する最強の騎士たち。強さによってランク付けされており1番隊から10番隊まで存在する。


 さらに隊一つでも細分化され隊長を筆頭に序列2~10位までランク付けされ、それぞれの序列のある騎士達一人一人に、従士(軽装備兵士)が配属される。


 謁見の間に集まっている騎士たちの面々は上位ランクの者たちであった。整然と並ぶその奥には王座があり、その屈強な者たちを初老姿の男が見下ろしていた。


 現・国王シューベル=サウザ=アレスである。


「して、ギルド本部長ゾルディよ。その冒険者たちは本当にそう言ったのだな?」


 白く染まった顎髭をなぞりながら、目の前に跪く男に話しかけた。


「はい。エルグ山にて突如、黒い光が数多の飛竜を呑み込み山を真っ二つにしたと。既に現地へと別の冒険者を向かわせて事実確認をして参りましたが、確かにエルグ山の現状は報告通りでした。


 ただ、解せぬのがあれ程の事が起きても、近くの村の住人は知らぬ存ぜぬの一点張り。また別の者の話では、その村から変わった服装をした男をベスパの街まで馬車で送って行ったという報告も受けています。


 それともう一つ。つい先日ベスパのギルド長が訪れまして、奇妙な報告を挙げてきました。Lv1の冒険者がランク「C」・「B」の魔物を倒してきたと……。私はこの二つの事案について同一人物ではないかと思っております。

 事が事だけに、早急に王のお耳にへと思い――。」


 ギルド本部長と呼ばれた男の名はゾルディ。王国とギルドの間は密な関係で、国民から上がった依頼の中から国にとって危険と判断した事案を定期的に報告している。


 冒険者に処理できるものは冒険者に。国の力が必要とした場合には王国騎士隊へと。国を運営していく上でゾルディの手腕もまた一躍かっていた。


 王はため息ながら玉座に深く背もたれる。この世界には様々な魔法がある。しかし、魔法と言ってもそのような強力な魔法は存在しない。良くて対人戦クラスでの威力だ。

 

 対人戦では魔法は殊に強力。だが、未だに戦場では剣や弓と言った戦いが主流であった。何故なら魔法を使うに当たって魔力が必要であり、個人の魔力量には限度があるのだ。


 まして一日での個人の使用回数にも限度がある。如何にマナポーションで魔力を回復しようが、肉体と精神が疲労して魔法が使えなくなるという訳があった。


 騎士にとって魔法武器を与えられることは名誉なことである。だが裏を返せば王国の騎士たちが戦場で魔法を使い、早々にリタイア・・・・・・・しないための救済処置でもあった。


 シューベルは右手で頭を抱えた。予言通りのことが起きてしまった――と。


 悩む国王の横に佇んでいた黒ずくめの女が王へと近づく。


「シューベル王。やはり私の言った通りの事が起きましたね」


 一見修道女にも見えるが、その違いは顔半分を黒いベールで覆い隠していた。

 シューベルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、もう一度ため息をつく。


「ああ、お前の予言通りの事が起きたな宰相。まったく……まさかこの世の破滅が訪れる時がくるとは……本当にどうしたものか……」


 宰相と呼ばれた修道服姿の女は、王の耳元へと顔を近づけると小言で話し始めた。


「シューベル王、内密な内容な故この場での発言は控えたほうがよろしいかと」 

 

 宰相が王を窘めると、王はさらに小言で宰相へと謝る。


「おお、そうであった。しかし宰相よ、本当にその男は世界の命運を握っている人物なのか?」


「ええ、この世界が生き残るか死ぬか――。彼の行動によって全てが決まる。ですから、彼の手綱を我々が握るのです」


 宰相の口元がニヤリと吊り上げる。


「そうか……」


 シューベルは一呼吸置いた後、未だに跪いているゾルディへと顔を向けた。


「して、ゾルディよ。その男はどうしたのだ」


「はい、その男の名はシノノメ トオルと申し、ギルドのランクを解除してほしいとベスパのギルド長に掛け合ったようでして。しかし得体が知れない分、まずは王のお耳に入れてからと処遇は「現状のまま」と伝えております」


「なるほど、賢明な判断だ。――ではゾルディよ、その者を保護し儂の元まで連れてくるのだ。良いな?」


 一呼吸、間を置いた王の発言に謁見の間にいた騎士たちにどよめきが起きる。何故得体のしれない男に王は会うと言うのだろうか。王は何を考えているのだろうか、と。


「静まりなさい、皆の者。王の御前であるぞ」


 宰相が一喝すると謁見の間に静寂が訪れる。


「王よ、一つだけよろしいでしょうか」


「なんだゾルディ」


「報告を受けてから何分、日が経っております故 もしかしたら既にベスパを経っている可能性もあります。ですのでお時間をいただければと」


「わかった。では後の事は任せたぞ」


「は――。」


 シューベルは立ち上がり、謁見の間から退出していく。


 宰相は王の後ろを無表情に見つめていた――。

 

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