29.とばっちり
「ところでシノ、これからどうするのだ。 やはり直ぐにベスパの街を出発するのか?」
「いえ、ジェリックギルド長にお願い事をしていて、その報告待ちなのでもう暫くこの街にいますよ」
「そうか、まだ暫くはベスパにいるのか。実はな――」
「マッド待って! 私の口から言うわ」
ボナ達と騒いでいたリリィがこちらに顔を向けてくる。
「あのね、シノと旅に出る前に私の故郷に1度戻りたいの。その、村の皆のお墓くらいは建てたいから……。それでマッド達がお別れの前に一緒に付いてきてくれるって」
苦笑するリリィの姿はどこか悲しげだった。無理もない。村の皆が亡くなってから間もないのだ。幾ら心の整理をした所で直ぐには気持ちを切り替えれない。無理をしているように思える。
「そっか。なら俺もついていくよ」
「え? でもギルド長を待ってるんじゃ。それに出発してから戻ってくるまで2日程かかるし、シノは街で待っていてくれてもいいんだよ?」
「何言ってるんだ。これから一緒に旅に出る仲間を放って置けるわけないだろ? 俺も行くさ」
「――――シノ。……うん!」
リリィへと右手を差し出すとその手を握り返してくる。
力強くしっかりと――。
「……えへへ。ありがと」
はにかんだように笑顔を向けてくる。ああ、この子は笑顔が一番似合う。
「ふふ、なんだかんだ言いながらシノッチ優しいのね。これはいいコンビになりそうだわ」
「そうね、二人が眩しく見える。私も頑張らないと!」
「婿探しをか―――ってアダダダダダダダ!!! ミーナすまん! 許して! アイアンクローはやめてくれ!」
「マッド……ほんと毎回一言余計よ?」
「あははは、マッドも少しは学習しなさいな」
ホント賑やかだなこの人達は。笑顔が絶えないがマッドは瀕死状態だ。大丈夫か?
「ところでリリィ、出発する前に1度ギルドへ顔を出してくるよ。 昨日、アスター副ギルド長に顔を出すと言ったからな」
ジェリックギルド長も暫くまだ帰ってこなさそうだし、これと言った用事は特には無いのだが昨日言ってしまった手前、顔を出さないとまずいだろう。
俺が来るのを待っていて行かなかったら失礼だ。
「ええ、分かったわ。……ねぇシノ、私も一緒について行っていい?」
「ん? 別に構わないがただ顔を出しに行くだけだぞ?」
「うん、いいの。一緒に行きたいの」
リリィはニコニコしている。なんか懐かれている感じがしてこそばゆい。なんというか子犬みたいな感じだ。
『マスターなんか嬉しそうですね』
(そ、そうか? ゴンザレスの気のせいじゃないのか? きっとあれだ。仲間が増えたことの嬉しさだよ)
『そうですか? まぁ、マスターがそう言うならそうなのでしょう』
あ、あははは……。
「ゼェーハァー、ゼェーハァー……や、やっと解放されたわい」
マッドの顔には相当な握力で握られた痕がついている。正直ミーナの握力はいくつあるのか知りたくなってくる。もちろん、そんなことを聞いたら俺も同じ目に合いそうだが。
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。ふぅ、ではわしらは出発の準備をしておるな。西の門で待ち合わせしよう」
「わかりました。では後でまた合いましょう。じゃあ、行こうかリリィ」
「うん!」
席を立ち上がり部屋を出て行く。俺の後ろをしっかりとリリィがついてくるのを感じると、なんか少し嬉しい気持ちになってくる。
側に誰かが居るのがこんなにも嬉しいとは。
◇
ギルドの建物に到着し中に入っていくと、俺の姿に気づいた冒険者達がこちらを見てきた。喧騒だったロビーが次第に静かになり、俺とリリィの大理石の床を歩く足音だけが響く。
大勢の人達の視線が全身に突き刺さる。
う……。なんか緊張してきたぞ。そりゃまぁ伝説上の生物であるドラゴンの死体を持ち込んだら誰だって驚くけどさ。そんなに凝視しないでほしい。俺こう見えてもチキンハートなのに。
『マスター、堂々と歩きましょう。ドラゴンを倒したという結果を残しているのです。他の皆から見たら英雄でしょう』
(ゴンちゃん、煽るのやめてくれ。余計に緊張してくる。ブルブル……)
「なんか凄い注目の的ね……。倒したのはシノなのに、なんか私まで緊張してきちゃった」
リリィはキョロキョロと周りを見渡している。
「安心しろ、俺も物凄く緊張しているから」
「くすくす。なんでシノが緊張するのよ。あんたは英雄なんだから。男の子なら皆に一目置かれるのは嬉しいことなんでしょ? 今のシノは皆の憧れの的なのよ。しっかりしなさい、男の子!」
笑顔で背中を軽く叩かれる。
女の子の柔らかい手のひらの感触を背中越しに感じ、少しドキドキしてしまう。
「そう簡単に言ってくれるけどな―――って、あれ?」
「ん? どうしたのシノ?」
「あ、いや、何でもない」
先程までの緊張が、リリィにドキドキさせられた事によって和らいでいた。
キョトンとした顔で覗き込んでくるリリィの額に軽くデコピンをかます。
「あいた! 何すんのよ!」
「丁度いい位置に額があったもんでつい」
「ついってなによー! もう!」
リリィのお陰で緊張が和らいだなんて言えない。言ったらリリィの事だ、調子に乗るだろうきっと。だから言わない。
でも、自然に顔がにやけてしまう。
「おい、噂のルーキーが現れたぞ! 昨日あいつがドラゴンの死体を持ち運んだんだ。まさかドラゴンが本当にいるなんて思わなかったぜ俺……」
「まじかよ……。まだ若いじゃないか。そういえばあいつソロなんだろ? お前パーティーに誘えよ」
「いや無理だろ! ドラゴンを倒す程の実力があるっていうのに俺たち低ランクのパーティーには絶対に入らないって」
「だよなぁ。しかし、スゲェよな。話に聞いたところ相当なレア武器を持っているようだぜ? あー、1度でいいから俺も手に入れたいものだ」
皆小声で話しあってこちらの様子を窺っているようだった。会話の内容が筒抜けだけど。
ギルドの受付カウンターへと向かうと見しいった顔がいる。ルディだ。めんどくさそうな事になりそうだから、別の受付カウンターに向かうか。
方向転換し歩き出す。
「あ! シノ君! こっちこっち!」
うへ! 見つかった!
はぁ、見つかってしまったら仕方がない。ルディの所にいくか。
ずっと手招きしているルディの元へと向かう。
「おはよう! 聞いたよシノ君! 昨日のドラゴン、シノ君が倒したんだって? あの時急に飛び出して行くから私どうしたらいいか迷っちゃって。
でも私、ギルド職員として職務を果たさなきゃならないから……。ギルドに戻って報告し戦闘準備していたらシノ君があのドラゴンを倒したって言うじゃない? 私もうビックリしちゃって」
どうやら迷惑を掛けてしまったようだ。結果論としては冒険者たちは皆無事だったが、ルディたちには心配をさせてしまったらしい。
「いえ、その行動は正しいと思います。街の住人を守るのもギルドの勤めでもあるでしょうし」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいわ。ところでシノ君、今夜一緒に私の家で食事でも―――って、あら」
リリィが俺とルディの間に割り込んできた。しかも笑顔でだ。
「シノ君、こちらの子は? 妹さん?」
「この度、シノとパーティーを組んだリリィと申します。以後お見知りおきを」
「そ、私はルディ。よろしくねリリィさん。ところで其処どいてもらえるかしら? 今シノ君と話しているんだけど」
ルディも笑顔で受け応えている。リリィとルディの両者の間には火花が散っているように見えた。
きゅ、急に寒気がしてきたぞ。デンジャーな予感が……。
「いえいえ、むしろあちらの方がルディさんとお話ししたそうですが」
「え?」
リリィが指差す方へと顔を向けると、背中に大きな斧を背負ったスキンヘッドのムキムキマッチョの男がワナワナと震えて立っていた。
「え、ギリコ!? ちょ、貴方さっきクエスト受諾して出発したばかりじゃない! なんでここにいるのよ!」
「……街中の露店でルディが欲しがっていた物が売っていたから、出発前に渡そうと思って戻ってきたんだよ。それなのにルディお前……、その男に『今夜一緒に私の家で食事でも』ってどういうことだ?」
「え”! あ、そ、そんなこと言ってないわよ! もー、ギリコの勘違いじゃないの? いやねーもう!」
ルディは「うふふふふ」と誤魔化し笑いをしている。どう見ても修羅場だ。
「えっと、リリィ。どういうことだ、これ」
「ん? 前にね、あの受付嬢が今の男と腕を組んで歩いていたのを見たことがあるのよ。まぁ一言で言えば女の勘ね。あのルディって女、きっと男にだらしがないと思ってね」
うわぁ……、こえぇ。女の勘ちょーこえぇ……。
今、現に修羅場っているからきっと当たっているのだろう。暫く様子を見てみる。
「そうか。ルディは誘っていないって言うんだな……」
「そ、そうよ! 私はギリコ一筋よ! もう、ギリコの聞き間違いよ。 わかってくれた?」
「……ああ。わかった。ルディから誘ったわけではなくあの男から誘ったってことだな? 確かに聞き間違えたようだ」
ええええええええええええええええええ! おかしいだろそれ!!!
あ、そんな拳をポキポキを鳴らしながらこっちに来ないで!
ルディの方へ向くと「てへ♪ ごめんね!」とジェスチャーしている。
うおぉぉぉい!! それどう見ても怒りの矛先を無理やり俺に向けてるだけじゃねーか!
「お! なんだ決闘か!? おい皆! どうやらルーキーがルディ嬢を巡って彼氏と決闘するらしいぜ!」
「うぉぉぉ! マジか! 略奪愛とかやるなあの若造!」
「外だ! 外で決闘のスペースを作りやがれ野郎ども!」
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
ギルド内のロビーがワー! っと盛り上がる。
「えー! どうしてあの受付嬢の取り合いの話になるのよ! もう! 信じられない!」
リリィは頬を膨らませてプンプンと怒っている。
いや、怒りたいのはとばっちりを受けた俺なんですけど……。
『マスター。どうやら騒いでいる連中の中にはマスターの実力を測りたく、焚きつけている者もいるのでしょう』
(あー……、やっぱりまだそういう輩がいるのか。しょうがない、ギリコという男には丁重にお相手するか)
大衆の目に晒されるのは落ち着かないが、喧嘩を売られたとあっては話が別だ。舐められるのは性に合わない。
深呼吸をし、ギリコの目を睨みつける。
「初めに言っておくが、アンタの勘違いだぞ。それでも喧嘩を吹っかけてくるなら、その喧嘩買ってやる。だが安心しろ。殺しはしない」
「は! 威勢がいいじゃねーか坊主! 俺の女に手を出したからにはタダじゃおかねぇ! 表へ出ろ!」
先に歩き出したギリコの後ろをついて行き、ギルドの出入り口前面にある大通りへと出る。
騒ぎ出す冒険者達の野次に道行く人々は何事かという顔をしていたが、決闘という一言を聞いて興味を持ったのか道を開けていく。
おいおい……。この街の住人たちは娯楽に飢えているのか?
大通りの中央に立つ。
『マスター、相手のステータスを確認した方がよろしいかと』
(ああ、分かっている。どれくらいかの実力か見極めないとな)
ギリコを見つめ、その内側へとピントを合わせる。
-------------------------
名前:ギリコ
Lv:32
体力 :250
筋力 :224
防御力:192
素早さ:64
魔力 :32
スキル:『グランド・ストライク』
:『ソニック・リープ』
:『ストーン』
-------------------------
Lv32か。アイテムで強化している俺より『素早さ』以外高いな。先ほど『ソウルガチャ』で手に入れた『アルバの指輪』で『筋力』と『防御力』を上げるか?
今朝手に入れた『アルバの指輪』の説明文を思い出す。
-------------------------
アイテム名:アルバの指輪
ランク :『 HR 』
説明 :
装備者の『筋力』と『防御力』を底上げする指輪。
上がる能力は『筋力』+200 『防御力』+300である。
-------------------------
今のステータスに『筋力』が+200も加われば、下手をした場合ギリコが死んでしまう可能性もある。ダメだ、他に手はないか。
ん? そういえば確か―――。
「おい、坊主! お前俺を舐めているようだが、俺は容赦はしねぇ! 殺すつもりで行くぞ……」
ギリコが背中に背負っていた斧を降ろし、構える。
「うぉぉぉぉ出たー! ギリコの得物『レイジングアックス』!! 特殊スキルを兼ね備えたレア武器の力を拝めるか!?」
「「「おおおおおおお!!」」
(ん? 外野の冒険者は今なんて言った? 特殊スキルって言ってなかったか?)
『ええ、確かに特殊スキルと言っていました。マスター、こちらも『ミスリルソード:氷牙』で応戦すべきです』
(いや、だから俺は相手を殺したりするつもりはないんだって)
「対してルーキーの得物はやはり希少金属『ミスリルソード』か!?」
「あの若造のどこにそんな武器があるというのだ? 腰に『クロームソード』しか帯刀してないじゃないか」
「いやな、あのルーキーは空間魔法を会得していてそこから武器を取り出すのよ! マジであいつすげぇんだって!」
「なんと! それは凄い!」
周りの連中の声が聞こえてくる。
(ゴンザレス、この武器でいくぞ―――――)
右手を掲げて大きく息を吸い込む。
「出るぞ! 白銀色に輝く剣が!」
野次馬たちは俺が得物を取り出すのを静かに見つめている。
「クイックオープン! 『クマさんハンマー』!」
掲げた右手のひらに巨大なクマの顔したファンシーなハンマーが具現化した。ただし、柄の部分が長くハンマーというよりはハルバードの方に近い長柄武器。
両手で『クマさんハンマー』を振り回し構える。プリティな瞳が「誰を吹き飛ばす?」と訴えかけているようだ。
やべぇ、顔が可愛くてなんか和む。
辺りの野次馬たちはポカーンと口を開けていた。
「やだ何あれ可愛い。あれが希少金属『ミスリルソード』なの……?」
「ち、違う違う! 白銀色をした美しい長剣なんだって! あっれー……おかしいな。ルーキー! なんで『ミスリルソード』出さねぇんだよ!」
俺の『ミスリルソード』を見たことのある連中は戸惑っているのだろう。相手がレア武器『レイジングアックス』を構えたから、当然俺も『ミスリルソード』で応戦するはずだと。
だが残念でした。俺はそもそも相手を殺す気はないんだっつーの。ったく。
『ふふ。やはりマスターはマスターなのですね。私は嬉しく思います』
(ん? 意味がわからないぞゴンザレス。 変な奴だな)
『ええ、マスターに変な奴だと思われても構いません』
どことなく嬉しそうに話すゴンザレス。
ま、いいけどさ。
内側に向けていた意識を、対峙するギリコへと意識を向けるとワナワナと俯きながら震えていた。
「……坊主。お前、俺を相当舐めているようだな……。もういい、死んどけや! ―――スキル『ソニック・リープ』!!」
ギリコが屈んだと思ったら、凄い勢いで突進し距離を詰めてきた。速い!
いや、地面を蹴りあげて一気に飛んできたというべきか。
だが『素早さ』は俺の方が上だ。突進してくるギリコの攻撃をサイドステップで避ける。
「逃がすかよぉぉぉ!!!」
ギリコは突進の勢いを無理やり止めて、その反動を利用し遠心力で斧を振り抜いてきた。その一撃をしゃがんで避ける。
あ、あっぶねー! このマッチョマン、マジだ!
避けた斧の遠心力を生かし斧を上段に構えるギリコの姿が視界に入る。
「―――スキル『グランド・ストライク』!!」
ギリコの両手から赤い陽炎のようなものが立ち上がり、斧を赤く染めていく。
『マスター! ギリコの手元に空気の壁を殴りつけてください!』
直ぐに壁をイメージし右手で殴り付けると衝撃波が起こり、ギリコの斧を弾く。
「うおお!? 」
凄まじい衝撃が俺とギリコの間に起こり、体が後方へと吹き飛ばされる。両足で地面を滑りながらなんとか体勢を立て直し、ギリコを睨む。
「坊主! 俺のスキルを相殺させるなんてやるじゃねーか!」
ギリコも吹き飛ばされながらに体勢を立て直したようだ。
「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」
「あの二人凄いぞ!! これが冒険者同士の決闘か! だがあのルーキーの武器を見ていると違和感バリバリなのは何故だ」
「しかしギリコにはまだ特殊スキルがある。これはギリコが有利か?」
「いやいや、あのルーキーも随分と余裕があるぞ。むう、どっちが勝つか検討がつかん!」
「わしゃ、あのスキンヘッドのギリコとかいう奴が勝つに10ルピーじゃ! 誰かワシと賭け勝負せんか?」
おい、賭け事を始めようとしているじぃさんがいるぞ! ったく、気持ちが萎えてくる。
「まぁ、だからといって負ける気はさらさらねーけど」
足に力を込め一気にギリコへと駆け出す。『クマさんハンマー』を水平に構えギリコへと叩き付けようとした瞬間―――。
「荒れ狂え『レイジングアックス』―――スキル『レイジングバースト』!」
突如、ギリコを中心に緑色の魔法陣が地面に展開し、竜巻のような暴風が巻き起こり体が上空まで吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
いってぇ! なんだ今の! って、かなり上空まで吹き飛ばされている!?
吹き飛ばされた勢いは止まらず、ギルドの鐘楼の塔を横切る。
『マスター! 鐘楼の塔に『チェイン』使用を!』
ゴンザレスの指示通りに右手を塔の方へと突き出しスキル名を叫ぶ。
「―――スキル『チェイン』!」
右手のひらの魔法陣が熱を持った瞬間、青白い鎖が鐘楼の塔へと伸び巻きつく。
鎖が伸びきる前に空気の壁を左手で裏拳をかまし、衝撃波を巻き起こして鎖を巻きつけた塔を軸に円を描き宙を舞う。
吹き飛ばされた時の慣性の流れを変え、ギリコの前へと着地する。
(あぶねぇー、うまくいった。 助かったよ、ゴンザレス)
「うそだろ……。俺の『レイジングアックス』のスキルを受けてピンピンしているだと!?」
「いや、ピンピンはしてないよ。実際、今のスキルくらって痛かったし」
ステータス表示を見ればきっと『体力』が削られているだろう。だけど今は見ない。
「くそ、くそ、くそぉぉ!! こんなふざけた奴に俺が負けるわけがねぇ!! ―――スキル『レイジングバースト』!!」
ギリコがまたスキルを発動させ、竜巻が巻き起こる。そしてそのまま俺の方へと突進してきた。
「うらああああああああぁぁ!!」
巻き起こる暴風に周囲の野次馬たちの悲鳴が聞こえる。
「うわ! あぶねぇ!」
「きゃぁぁ! スカートが!」
「なに!?」
『マスター! 戦闘中です! スカートに気を取られないでください!』
(すまん! 生パン見たくてつい!)
ゴンザレスに怒られてしまった。
アホなやり取りをしている間に、ギリコはどんどん距離を縮めてくる。
『マスター、ギリコの竜巻に対抗するには此方も竜巻で応戦するべきです』
ゴンザレスの竜巻と言う発言に、あるアイテムを思い出す。
「うっし! アレだな! こちらも同じスキルでギリコを驚かしてやるぜ!」
『それと「生パン見たくてつい」発言について後でお話があります』
(ぎゃー! 余計なこと言わなきゃよかった!)
突進してくるギリコを見据え、両腕を前面に突き出す。
「クイックオープン! 『疾風』!!」
両腕周りの空間が弾け、その両腕には白い色のガントレットが具現化する。
「竜巻はアンタの十八番じゃないぞ! ―――スキル『疾風』」
起動言語を唱えた瞬間、俺の周りに竜巻が巻き起こる。その回転は逆回転。
こちらに突進してくるギリコ目掛けて走り出す。
そしてギリコの竜巻と俺の竜巻がぶつかり合い、お互いの竜巻が相殺される。
「なにぃ!?」
「ようやく間合いに入った。安心しろ、この『クマさんハンマー』は痛くないから。ただし、着地は痛いけどな!」
「く、くそがぁぁぁ!!」
目の前には驚きの目を見開いているギリコ。左腕で持っていた『クマさんハンマー』を直ぐ様両手で水平に持ち直し、思いっきり下から上へとキリコ目掛けて振り抜いた。
「ぶっはぁ!!!」
『クマさんハンマー』の反発力でギリコの身体が宙に高く舞い、そしてそのまま大通りにあるレンガ造りの噴水の池へと着水した。
辺りに静寂が訪れる。
「ギ、ギリコが負けたー!! ルーキーだ! ルーキーが勝ったぞ!」
「うおおおお! すげー! マジすげー! あのふざけたハンマーもなんつー威力だよ!」
「あのルーキーの凄さは多彩なアイテムを持っている点だな。あの若さでそれらの財を所持しているとは……。恐ろしいな」
決闘を傍観していた冒険者や町人のやじ馬の声が聞こえてくる。
『マスター。おめでとうございます』
(ふー……ああ、なんとかなったな)
装備を『アイテム収納』にしまっていると、背中に軽い衝撃が走る。振り向くとリリィが抱きついていた。
う、リリィ、背中にちっぱいが当たってるぞ……。
「シノ! やったね! シノなら勝てると思っていたよ!」
「あ、ああ。なんとか勝てたよ」
「ふふ、謙遜しちゃって」
リリィはクスクスと笑っている。
俺の周りに見物していた野次馬たちが集まってきた。
「あんたすげぇーな! 『旋風の荒くれ』の二つ名を持つギリコを倒しちまうなんて! ギリコの武器は特殊スキルが備わった魔法武器なんだぜ? それを相殺しちまうとは、やはりあんたの実力は確かなんだな。
いやー、昨日のドラゴンの死体を見たときは半信半疑だったんだが、ギリコの戦闘を見て俺は今確信したよ!」
一人の冒険者がベタ褒めしてくる。
いやー、なんか物凄い褒められると照れてくるな。
「そうよシノ。あんたは胸を張っていいのよ!」
笑顔でリリィが背中を叩いてくる。
「ギリコにも勝ったし、ルディはアンタのモノになったわけだな! おめでとう! 祝福してやるぜ!」
「………………………………はい?」
おかしなことを言いだした冒険者の一言に一瞬思考が停止した。
今なんて言った? ルディが俺のモノって……アッー! さっきの勘違い話か!
「シーノーくんっ!! 私嬉しい!」
突如背中に柔らかいモノの衝撃が走る。
「え? ちょ、ル、ルディさん!? 背中に抱きつかないでください!」
「シノ君、そんなに私にメロメロだったのね! ギリコを倒してまで私を奪おうだなんて……私、濡れちゃった……」
最後の一言を小声で耳元に言われ、顔が熱くなる。
「ふふ、照れちゃって可愛い」
『デンジャー! デンジャー! マスターこの女を早く振り払ってください! いえ、今こそ『暴竜ファルベオルク』を使う時です!』
「ちょっとルディ! 何どさくさに紛れて都合のいいこと言ってるのよ! 全部これアンタのせいなんだからね! いい迷惑よ! ほら、シノもルディから離れるのー!」
リリィは俺をルディから引き離せようとしていた。
ああ、ギリコが哀れに思えてきた。あんた付き合う女変えた方がいいぞ……。
「ルーディー……」
「ん? ひぃ! モナ!?」
「あ~ん~た~ね~。何騒ぎ起こしているのよ! 幾ら冒険者同士のトラブルにギルドが関与しないって言っても、あんたがトラブル起こしてどうするのよ!」
「あ、あはははは。つい……だって、私? 恋に生きる女だから? こう、いい男が目の前にいると……ねぇ?」
「ねぇ? じゃなーい! あんたをアスター様につき出してやるわ!」
「え? ちょ、ちょっとモナ! そんなやめて、あ、首根っこ掴んで引きずらないでよー! あーん!」
ルディはモナに引きずられてギルドの建物に連れて行かれていった。
お、おーい、この場の状況どうするんだよー。
途方に暮れていると周りの野次馬たちはゾロゾロと散り始めていった。
面白いものが見れたなと声が聞こえてくる。
うわー、随分と軽いな。この街の住人ってこんなノリなのか!?
「おい、坊主」
「ん? うわ! ギリコ!?」
振り向くとずぶ濡れのギリコが立っていた。
「俺の負けだ。それに目が覚めたよ。あんな女と付き合うのが間違いだった」
「そ、そうですか」
「敗者は敗者なりに直ぐに立ち去るよ。ではな」
ギリコはそう言い歩いて行った。
「随分と潔良かったな。さっきの暴走は『恋は盲目』というやつか? まぁ、恋をすると周りが見えなくなるって言うが」
「シノは恋したことあるの?」
「ん? んー……、燃えるような恋はしたことないな。ってか、彼女いたことないし」
「ふーん、そっか……そっかぁ」
ぐ……、リリィの奴ニヤニヤ笑いやがって。
「なんだよ、おかしいかよ」
「別にそんなことないよ? それよりほら、マッドたちが西の門で待っているかも知れないから行こっ!」
リリィは俺の右手を掴み引っ張る。その手は小さく暖かい。そんなリリィの些細な行動にドキリとさせられてしまう。
「わ、わかったからそんなに引っ張るなって」
結局アスターには会えなかったが、まぁいいか。モナがルディをアスターに突き出し、事の経緯を話せばアスターのことだ。察するだろう。
そう自分に言い聞かせ、リリィに手を引っ張られながら西の門へと向かって行った。




