28.『レインボー』 ★
『豚の満腹亭』の大部屋はかなり広く、6人が寝泊りできる程だ。まぁ、話し合うだけだから皆で泊まるわけではないのだが。
部屋の端にテーブル席があったので、そこに座ると皆も続いて座り始める。
「さてと、まずこれから話すことは真実です。決して嘘ではないので信じてください。……俺はこの世界の人間ではなく、地球という星からこの世界に転移してきたんです」
案の定、皆キョトンとしてる。異世界から来ましたと突然言われても、普通は対応に困るだろうな。
「い、異世界から来た!? だ、だってシノッチ、前に会った時はノアル村の住人だって言ってたじゃない」
「ええ、確かに言いました。けどそれは村の村長に許可を貰ってたんです。この世界に飛ばされ、ノアル村で厄介になった時に事情を知った村長がノアル村の住人として名乗っていいと」
「なるほど。確かに出自がしっかりしたほうが良い。人間関係を築く上では必要なことだ。だが、どうやってこの世界に来たのだ?」
スマートフォンを腰ベルトのケースから取り出し、テーブルの上に置く。
「シノさん、これは?」
「これは俺の世界で離れた相手と通話できるスマートフォンと言うものです。詳しいことは割愛しますが、実はこのスマートフォンを操作している時にこの世界へと飛ばされてきたんです。普通こんなことは起きえないのですが」
「召喚とは違うのかしら? なら、このすまーとふぉん……? でまた元の世界に戻れるの?」
「いえ、どうやら一方通行らしく元の世界には戻れないようなんです。そしてこの世界に来てからある特殊な能力が付いていた……」
皆がゴクリと唾を飲む音が聞こえた。俺の強さに関係する部分だから聞き逃すまいとしているのだろう。
「この世界の生きるもの全ての魂……ソウルを集める事によって特殊なスキルが使えるんです。それはランダムで特殊なアイテムを得ることができるスキル」
「ま、まさか……」
「ええ、お察しの通り俺が所持しているアイテムは、俺自身のスキルで手に入れた物です」
みんな驚愕な顔をしている。まぁ、気持ちはわからなくもない。武器職人ならまだしも、神話級の武器を素人一個人で生成するなんてありえないことだから。
「俺の世界ではLvステータスや魔法・スキルというのはありませんでした。ちなみにLv1の俺がでマッドを殴り飛ばせたのもこの指輪のお陰です。それとエルグ山をぶった切ったのも俺です」
右手の指に嵌めた指輪を見せる。
「あ、あの時の! 通りで……。おかしいと思ったのよ。Lv1でLv25のマッドを吹き飛ばすなんてまずありえない。逆にシノの腕が負傷するハズなのに」
「え? でも待って。シノさん私達に会う前からその特殊な指輪を手に入れていたのよね? その魂を手に入れてるということは、魔物を倒してLvも上がっているはずではないんですか?」
流石ミーナだ。鋭いところを突いてきた。
「実は、魔物を倒してソウルを手に入れる代わりに経験値は入らないのです。ですからずっとLv1のまま。ちなみに、パーティを組んでいても経験値は入りません。
俺が倒せばソウルに、他の者が倒せば経験値に変わり分配されることは無いようです」
「シノッチ、それって凄く綱渡り状態じゃない。Lv1で魔物に挑むなんて」
「あはは……そうですね。強いアイテムで自身を強化する為に、自ら危険に飛び込まなくてはならない。最初は本末転倒だと思いましたよ。でも、今は色んなアイテムを手に入れているのでそこそこやっていけてますよ」
「そこそこって……。ねぇ、シノ。あの黒い大剣はそこそこ処ろの代物じゃないわ。戦争が起きても一騎当千できてしまう程の威力じゃない」
ご最も。ただ、『暴竜・ファルベオルク』には使用制限がある為おいそれと使えない。
「なるほどな。大体のことは分かった。で、シノ。お主これからどうするのだ? やはり、元の世界に戻る為に行動しておるのか?」
「ええ、そうなんです。実は俺のスキルで手に入れたアイテムで、何故俺がこの世界に飛ばされたのか調べたことがあるんです。どうやらその元凶にウェイバーという人物が関わっているらしく……、聞いたことないですか?」
マッド達はお互いに顔を合わせているが、その表情からして知らなさそうだ。
「すまん。そのような人物は聞いたことがないな。もし権力者であったら名が通っているはずだしの」
「そうですか。……実は、『元素の宝玉』の件もあながち関係がないわけではなさそうなんです。そのウェイバーという人物とどうやら関係がありそうで。
だから、俺の中に吸収されたのも何か意味があるのではないかと……。この先、何が起こるか判らない。だから、リリィが仲間に入れてくれと言った時は正直戸惑いました。リリィを危険な目に合わせてしまうかもしれない」
「馬鹿にしないでちょうだい。これでも冒険者よ。……それに私は『元素の宝玉』を守護する一族の民。代々守ってきた宝玉の真実を知る権利はあるわ。例え、シノに断られても私は絶対についていくから!」
そんな真剣な目で見つめないでくれ。断りづらいじゃないか。
『マスター、仲間に迎えてはいかがでしょうか。彼女の言い分も最もだと思います。それに譲れない部分もあるのでしょう』
譲れない部分か……。そうだよな、守ってきた宝玉によって村が全滅。家族を失ってしまったんだもんな。悔しいはずだ……。
リリィの真剣な目を見つめ返す。本気の意志がうかがえる。
「わかった。そこまで本気ならついて来ても構わない。ただし、俺の旅の目的は元の世界に戻ることであって、『元素の宝玉』の真実を明かす為じゃない。あくまでついでだ。
元の世界に戻る手がかりとしての。その部分だけは理解してほしい」
「構わないわ。今はシノに縋るしかないけど、もしシノが無事に元の世界に帰れたとしても私一人で真実を暴くつもりよ。……だから、シノ。それまではよろしくね」
小さな右手を差し出してきたので応えるべく握り返すと、リリィは微笑んだ。
強いなリリィは。家族の死とは人をここまで変えるものなのだろうか……。
「ああ。よろしく、リリィ」
「ふふ、良かったねリリィちゃん。私たちとはお別れになっちゃうけど、また何処かで会えるわ」
「そうよ。リリッチ、だから悔いの残らないようにね」
マッドは目を瞑りながら微笑んでる。ワシからは何も言うことはないと態度で示しているように見えた。
「うん、ありがとう皆」
ああ――、傍から見ると仲間っていいものだな。お互いに思いやってる姿を見ると羨ましく思えてくる。
「それはそうと、シノッチ! さっき話していたスキルってどういうのか見てみたいんだけど、ダメ?」
しんみりした空気を変えようとしているのだろう、突然ボナが無茶な事を言ってくる。
だがまぁ、いいか。ボナたちにも世話になったし、スキルを見せる以外にも何か良い物があればお礼としてあげるか。あ、そうだ。昨日『ゴールド』で出たアイテムを渡すか。皆が喜びそうなのがあったな。
『マスター、いいのですか? 貴重なアイテムを差し上げても』
(ああ、この人たちなら別にいいだろう。きっと、悪用はしないさ)
「いいですよ。ただし、この事は他言無用でお願いします」
「わかっているわ。シノッチに大切なリリッチを任せるんだもの。不都合になることは絶対にしないわ」
テーブルの上に置いてあるスマートフォンの画面をタップし、『ソウルガチャ』を起動する。
(ゴンザレス、皆にも見れるようにホログラム機能を起動してくれ)
『かしこまりました。マスター』
スマホの画面から無数のレーザー光のようなものが走り、その上を立体になった『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『レインボー』の選択項目が表示され、それぞれの項目の下に『11連ガチャ』という選択項目がでる。
「うわぁ……綺麗……」
「なんと……」
4人とも見たことのない代物に驚いているようだ。だが、驚くのはまだ早い。本番はここからだ。よし、どうせなら『レインボー』を回すか。昨日、回していなかったし丁度いいか。
『レインボー』の『11連ガチャ』の文字をタップし、最終確認項目も同じくタップする。
お馴染みの女の子が銃を構えながら、立体になって飛び回っているカチャポンを一個ずつ打ち抜いていき、出てきたアイテムが俺を中心にゆっくり周りながら表示された。
皆にも分かるようにアイテム説明文を読み上げる。なんせ、語源が日本語だから。
-------------------------
アイテム名:疾風
ランク :『 R 』
説明 :
白い色のガントレット。
防御型に特化している。
起動言語は『疾風』
30秒間、使用者の周りを風属性の竜巻が発生。
敵味方関係なく触れるものを弾き飛ばす。
ただし、1回使用するごとにソウルを500消費する。
また、対となる『迅雷』と合成することによって『疾風迅雷』へと変わる。
-------------------------
アイテム名:ハルシオンナイフ
ランク :『 R 』
説明 :
切りつけた対象者に幻影を見せつける。
ただし、切りつけても肉体的な傷はつかない。
対象者の心理状態によって見せる幻影に影響する。
効果は1分間。
-------------------------
アイテム名:ポポルカのオルゴール
ランク :『 R 』
説明 :
オルゴールを開けると音色と共に妖精が出現し、失くし物を探してきてくれる。
ただし、失くし物を明確に説明しないと、とんでもないものを持ってくることがあるので扱い注意。
蓋を閉めると妖精は消える。
-------------------------
アイテム名:マタタビじゃらし
ランク :『 R 』
説明 :
猫が大好きなネコジャラシにマタタビの香りがついた玩具。
マタタビじゃらしを揺らすことにより、時空から沢山の猫が召喚される。
召喚後、3分間ひたすらじゃれた後に消える。
癒し系アイテム。
-------------------------
アイテム名:封印の杖(使用回数10)
ランク :『 HR 』
説明 :
対象者の魔法・スキルを封印する杖。
効果は1時間。
-------------------------
アイテム名:ウルカの六芒星(使い捨て)
ランク :『 HR 』
説明 :
『 HR 』以下のアイテムを合成できる。
ただし、使用するのにソウルを500消費する。
-------------------------
アイテム名:エリクサー(1個)
ランク :『 HR 』
説明 :
どんな重症も治してしまう神秘の秘薬。
ただし、それは肉体的な損壊であって病には効かない。
-------------------------
アイテム名:アルバの指輪
ランク :『 HR 』
説明 :
装備者の『筋力』と『防御力』を底上げする指輪。
上がる能力は『筋力』+200 『防御力』+300である。
-------------------------
アイテム名:クロイツのネックレス(女性限定)
ランク :『 HR 』
説明 :
装備者のステータス全てを+50底上げするネックレス。
-------------------------
アイテム名:天馬の馬車(使い捨て)
ランク :『 SR 』
説明 :
天馬の力により空を走る馬車。
4頭立ての4輪大型箱馬車で最大6人まで乗ることができる。
目的地を告げれば自動で動く。馬車の中は快適で揺れは一切ない。
往復用で1往復すると消える。
主に買い物用の乗り物。
-------------------------
アイテム名:双璧の丘(Ver.ジェルタイプ)
ランク :『 SR 』
説明 :
胸を10センチ大きくすることのできるジェル。
胸にジェルを塗り、異性に5分間揉まれる事により効果がでる。
同性に揉まれると、逆に10センチ縮む。ただし、まな板は縮まない。
-------------------------
最後のアイテムはなんだ……。エロいアイテムじゃないか。
読み上げた後に後悔する。女性陣が居る前でこの最後のアイテムを説明は恥ずかしい。
「さ、最後のはちょっと……アレですけど、凄いアイテムばかりですね……もう驚きの連続です! シノさん、これは凄いスキルですよ!」
「ホントよね、こんなアイテムを出せるスキルがあるとバレたら狙われちゃうわね。シノッチ、気をつけなさいね? お兄さんとの約束よ?」
「そうだな。ワシらは当然他言はせん。だが、欲に塗れた者にバレたら狙われるかもしれん。このスキルを使う際は気をつけるのだぞ」
マッド達は本当に心配しているようだった。やはり、この人たちは他とは違う。人情味があるというか。
「はは……、ありがとうございます。あの、皆にはお世話になったからアイテムをあげたいと思うんですが。―――オープン。えーっと……」
これとあれと……あ、これこれ。
「クローズ―――」
『アイテム収納』から目当てのアイテムを取り出し、マッド達の前に置く。
「リリィには後で今後の旅に必要なアイテムを渡すから」
「え? う、うん……」
ん? なんか歯切れが悪いな。
「シノ、これはなんの効果のあるアイテムなんだ?」
「えっと、マッドのは『モナークベルト』とというアイテムで装備者に飲食店での小さなサービスが受けれるベルトです。例えば料理大盛り無料とか。
ボナは『イケメン雑誌』。それ色んな街にいるかっこいい男子の情報が写真付きで載っている本なんです。
んで、ミーナは『アストヒクの涙』っていう聖水で、飲むと肌年齢を5歳若返るんです。あ、ただし寿命は戻らないですからね?」
「「「~~~~~!!!!」」」
声にならない声が上がる。気に入ってくれたかな?
「ちょ、ちょっと待ってシノさん!! 本当にいいの!? この肌年齢が5歳若返るアイテムを本当に貰って!! ハァハァ!」
うわ……ちょ、そんな怖い顔で近寄らないで! ヨダレが出てるよ!
「凄いわねこの本……。あらゆる街のかっこいい男の子の画が描いてあるわ。しかも凄く本物っぽい画。こんな凄いマジックアイテム貰っていいの? ……何故かしら、下半身が疼くわ」
最後の言葉は聞かなかったことにしよう。後が怖い……。
「シノ。本当にいいのか? 口止め料のつもりならいらんぞ。そんなことをしなくてもワシらは口外せん」
ミーナとボナもこちらに顔を向けてくる。その目は真剣だ。
「ええ、俺の気持ちです。受け取ってください」
「そうか。なら、シノの好意に甘えようかの」
「ありがとうございます、シノさん」
「チュバッ――」
ボナさん、投げキッスはホントやめてください。吐きそうです。
「ね、ねぇシノ……」
「ん? どうしたリリィ? 後でリリィにも渡すぞ?」
「あ、うん。それはわかってるんだけど、その……」
リリィの様子がおかしい。顔を俯け両手を膝の上に垂直に伸ばし、顔を真っ赤にしている。
一呼吸おいて指を弄り始めた。
「この、『双璧の丘』……欲しいなぁって……」
「ぶっっっっ!!」
思わず吹いてしまう。リリィの胸を見つめると小さな膨らみが2つ。ああ、なるほど。胸を大きくしたいのか。って、いやいやいやいや! これ異性に揉んでもらわないとイケナインダヨ!? 誰に揉んでもらうんだよ!
余程恥ずかしいのか顔を真っ赤にしちゃってまぁ……。なんかこっちが恥ずかしくなってきた。
「ほほー、リリッチも女の子だもんね。胸を大きくしたい気持ちわかるわ。アタシ男だけど、乙女の気持ち凄く分かるわ」
「まぁまぁ、リリィちゃん可愛いわね。ふふ」
「ふむ。今後、シノと恋仲になったら使ってもらえばいいじゃろ。そんなに焦らんでもまだ成長する年だろうに」
「なっ――――!!」
おいおいおいおいおいおい! マッド何言ってくれちゃってるのぉぉぉ!!
チラリと横へ顔を向けると、俯いた顔から上目遣いのリリィと視線が絡み合う。
「ち、違うからね! 別にシノに揉んでもらいたいわけじゃないんだからね! こ、これはその、今後そういう恋仲になった人にしてもらうの! って、何言わすのよバカァ!」
両手を胸の高さで握り締め、目をギュッと瞑りながら全力否定するリリィがちょっと可愛い。
「わかったわかった! リリィが欲しいならやるよ。ほれ、これでいいんだろ? 未来の旦那様に揉んでもらえ」
「ふふ。優しいのね、未来のだ・ん・な・さ・ま♪」
「うぉい!!」
俺とリリィ以外の皆が笑う。何この羞恥プレイ。
『……マスター』
(っ! ど、どうしたゴンザレス!? 凄く不機嫌じゃないか……)
超絶不機嫌なゴンザレスの声には『ドラゴンインストール』時の怒りの感情のようなものがうかがえる。
『マスターが誰と結ばれようと、それがマスターの幸せなら私の幸せでもあります。ですが、何故かモヤモヤとした感覚が……』
お前、それ完全にヤキモチじゃないか。
『これが……ヤキモチ……?』
袖をクイクイと引っ張られ、そちらを向くとリリィが『双璧の丘(ver.ジェルタイプ)』を大事そうに胸に掲げていた。
「シノ、その……ありがとう」
う…………。顔を真っ赤にしちゃってまぁ。可愛いじゃないか……。
「きゃー! リリィちゃん小動物みたいで可愛い!!」
「これはあれね。レアな場面だわ。リリッチも普段からそれくらい淑やかだったらもっと可愛いのに」
「うっさいわね! ほっといてよ! もう!」
ミーナ達はワイワイ騒いでいる。取り残されたマッドと視線を合わせると、無意識の内に笑っていた。




