表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/107

24.報告

 腐敗した大地の上には真っ二つになった翠竜・ラファーガルの死体。


その死体の上に大きなソウルが浮かんでいる。いつもと違うのはその大きさ。

 伝説上の生物、ドラゴンのソウルは他の魔物と違って大きいかった。横幅10メートル以上もある。

 一体これ程のソウルはどれくらいの量になるのだろうか。唯々、呆然と見つめてしまう。


『マスター、代わりに『ソウル収集』をいたしましょうか』


(ああ、頼む。近くにリリィ達がいるしな)


『では、『ソウル収集』を起動いたします』


 10メートル程もある大きさのソウルが上空に上がり、そのまま俺めがけて飛んでくる。ソウルを回収する際、衝撃などはないのだがこれ程の大きさが目の前に迫ってくると、正直ちょっと怖い気持ちになる。

 スマホウォッチを装着している左腕を前面に掲げると、目の前に迫ってきていたソウルがスマホウォッチへと吸収されていった。


「シノ―! 無事か―!」


 マッド達が駆け寄ってくる。先ほどマッド達に使った『光臨の鎧』の絶対防御フィールドは、展開している最中でも中から外に出られる。ただし、一度出てしまうと中には入れないのだが。


「あら、シノッチ。勝利のポーズ? 勝利の余韻に浸るシノッチ。素敵よ、うふ」


 頬を赤らめ見つめてくるボナに、背筋が凍る感覚が襲う。


「にしてもシノさん、なんと言ったらよいか。その、助けていただきありがとうございます。正直、以前お会いした時にシノさんの凄さに驚きましたが、まさかドラゴンを倒す程の実力があるとは。本当に有難うございます」


 ボナを押しのけ深々と頭を下げお礼を言ってくるミーナに恐縮してしまう。


「ほれ、リリィ。そんな所でボケっとしてないでこっちに来い」


 ボナの後ろにいるリリィを、マッドが背中を押して俺の前へと連れてくる。リリィは泣いていた為か、目が真っ赤になっている。


「シノ……助けてくれてありがとう。それと、村の皆の仇をとってくれて……」


 リリィの両目から一筋の涙が流れた。


「皆の仇? まさか、あの翠竜・ラファーガルが出現した場所にあった建物の残骸は……」


 言葉の続きが出てこない。リリィの涙の原因がおおよそ予想がついてしまったから。


「シノさん、翠竜・ラファーガルって?」


「え? ああ、あのドラゴンのことです。俺は相手のステータスを見るスキルがあるので、あのドラゴンの名前を知ることができたんです。それと、ラファーガルが出現した原因もだいたいわかりました。どうやら『元素の宝玉』という物が原因らしいんですが、何かわかりますか?」


「え……。シ、シノ、それってどういうこと!? あのドラゴンは『元素の宝玉』が原因なの!? なんで……なんであたしたちオルテガの民がずっと守り続けていた宝玉が……村の皆を殺してしまうのよ!」


 胸ぐらを掴まれ、涙を流しながら訴えるリリィの姿に心が痛くなる。しかしどうやら、リリィは『元素の宝玉』について何か知っているようだ。


「落ち着けリリィ。シノの責任ではあるまい」


 マッドに抑えられ、リリィが離れる。


「ぐすっ……ごめんシノ……八つ当たりしちゃって。あんたが悪いわけじゃないのにね。ぐす……」


「リリィ、お前の気持ちは痛いほどわかるよ」


 顔を伏せているリリィの頭を優しく撫でる。家族を失う悲しみは想像を絶するものだろう。頭を撫でているとポロポロ涙を流すリリィ。

 少し落ち着いたのか、涙を拭きながら俺から離れる。


「しかし、シノ。相手のステータスを見るスキルがあるのか。ドラゴンを倒すといい、とんでもない奴だの。お主、本当に何者なんだ?」


 どう誤魔化そうか悩んでいると、マッドの後ろから他の冒険者たちが手を振って駆け寄ってくる姿が視界に入る。


「おーい! お前たち無事かー!」


「おお! 皆無事だぞー!」


 マッドが手を振りながら大声で応える。暫くすると、冒険者達が目の前まで寄ってきた。


「先ほどの君の戦闘を見ていたが、凄まじい光景だった。正直、あのドラゴンが現れたとき我々は助からないと思った程だ。素直に礼を言わせてもらう。ありがとう」


「ああ、俺もあの戦闘光景を見て、鳥肌が立ってしまったよ。あんた、きっと名のある人物なんだろう? よければ名前を聞いてもいいかな」


 皆各々で礼を言ってくる。こんなに礼を言われるのは初めてなことで、正直照れくさい。


「えっと、シノです」


「シノというのか。……ん? シノ!? 今べスパのギルド内で噂になっているルーキーか!」


「マジかよ。Lv1で「B」ランクの魔物を倒したり、ミスリルの武器を持ってるって噂の……」


「ははっ! すげーすげー! あのドラゴンはどう見ても「S」ランクに該当するはずだ。それを倒しちまうなんてあんたすげーよ! やっぱりあれか、あんたの強さの秘密はさっきの黒い大剣か? なぁ、その武器どこで手に入れたんだ? その情報を買うからさ、教えてほしい」


「ああ、それにもう1本の属性武器。火炎球を蒸発させたり、氷柱を出現させたスキル……あれも相当な業物だろう。羨ましすぎる。やはり遺跡で発掘されたものとかか?」


 矢継ぎ早に質問を浴び後ずさる。

 質問を浴びせてくる冒険者たちの気持ちもわかる。珍しい装備を目の当りにして興奮しているのだろう。逆の立場だったら俺もそうだ。しかし、教えるわけにはいかない。


「すみませんが秘密です」


「まぁ、そうだろうな。それに、前にあんたを狙った3人の冒険者が返り討ちにあったって噂もあるしな。変な気は起こさないから安心してくれ」


「あ、俺その冒険者がギルドカウンターで洗いざらい白状していた現場みたぜ? 最初は信じられなかったが、さっきの戦闘を見た後じゃ信じざるおえないな」


 前に『ミスリルソード』を狙ってきた冒険者たちの事だろう。あの時の自分は躍起になっていた。 


「あ、気分を悪くしないでくれ。別にあんたを責めているわけじゃないんだ。欲に溺れた冒険者に襲われることもあるからさ。あんたの行いは正当防衛だよ。それにあのドラゴンを倒した後じゃ、あんたを狙う輩はもう出ないと思うぜ?」


 そうあってほしいものだった。もう二度と人を殺める行為はしたくない。自分が直接手を下さなくてもだ。


「まぁまぁ、皆落ち着いて。シノッチ、話は変わるけどあのドラゴン……ラファーガルの一部をギルドに持って報告に行きましょう。シノッチのお陰で危険は去ったんだから」


「ああ、そうするよ」


 翠竜・ラファーガルの死体を回収すべく、近くに寄って行くと皆もついてくる。これほどの魔物だ、皆も興味あるのだろう。体長は30メートルを越える程の大きさで、近寄って行くと圧巻である。

 死骸の上に淡く光りながら浮かぶ緑色をした玉が視界に入る。近くに寄らなければ気づかないくらいの大きさだ。


「え、あれってまさか……『元素の宝玉』!」


 リリィが大きな声を上げる。どうやら死体の上に浮かんでいる玉は『元素の宝玉』みたいだ。淡く澄んだ光に見とれてしまう。

 突然『元素の宝玉』がゆっくりと俺に近づいてきた。宝玉は俺の目の前に停止し、淡い緑色の光を放ちながら浮かんでいる。まるでエメラルドの宝石のような輝きである。

  

「綺麗……」


 ミーナが感嘆の声を漏らす。


 『元素の宝玉』に左手で触れると、強い光を放ちながら手に吸い込まれていく。突然、人差し指の根元に痛みがはしる。宝玉が消え、代わりに左手の人差し指には指輪をしたような感じにグルリとルーン文字のようなものが描かれていた。


「うそ、宝玉がシノの中に吸収された……。一体どういうことなの……」


 皆驚いていたが、一際ひときわ驚いていたのはリリィで、目が大きく開いている。


『ステータスが更新されました、マスター。表示致しますか?』


(ステータスが更新した? いや、今はいい。皆が居るし、後で確認する)


『かしこまりました』


「これ見たことない文字ね。私も魔道士の端くれだけど、さっぱりだわ。古代文字なのかしら」


 ミーナが左手を覗き込んできて、「う~ん」と唸っている。


「ミーナ、後でシノにじっくりと見せてもらえばいいじゃろ。はよう体の一部を回収してベスパに戻ろう」


「そうねん。ここ辺り一帯腐敗臭が凄いし、気が狂いそうになるわ」


「ええ。ならさっさと回収します。皆下がってください」


 ラファーガルの体長は30メートル越え、上手く収められるだろうか。


(ゴンザレス、いけるか?)


『はい、可能です。マスター』


 地面に右手を着け、起動言語トリガーを唱える。


「―――オープン」


 起動言語トリガーを唱えると、翠竜・ラファーガルの真下に青白い空間が広がっていき、死骸を飲み込んでいく。


「うおぉ!? 空間魔法!? あんた死体ごと持っていくつもりか!」

 

 マッド達は乾いた笑いをし、他の冒険者が一様に驚く。どうせなら全部持って行ってギルドに見せたほうがいいだろう。


「ほんと、シノッチって規格外よね~……ははは」


 『アイテム収納』に収まったのを確認し立ち上がる。


「よし。じゃー、ベスパに戻りましょう」


 リリィ達の荷馬車に戻り、ベスパに向かうべく出発する。途中、ルディ達はいるかなと思ったが姿は無かった。

 たぶん急いで街に戻って行ったのだろう。

 あー、戻った頃にはきっと討伐部隊とか編成されて大騒ぎになってるんだろうなぁ。まぁ、今はそんなこと考えても仕方がないか。


 荷馬車に揺られながら街道を進む。リリィのことが気に掛かり声を掛けようかと思ったが、ずっと俯いて考え事をしているようで話しかけづらかった。


 今はそっとしておいたほうが良さそうだ。


 左手の人差し指に描かれた文字を眺める。『元素の宝玉』……『導きの魂』……。ウェイバーが呟いていた言葉を思い出す。


 とんでもない事に巻き込まれている気がする。本当に俺は元の世界に戻れるのだろうか。



 ◇



 出発してから12時間後、途中で魔物に襲われたりもしたが無事にベスパまでたどり着くことができた。そしてそのままギルドへと向かう。


 ギルドの建物に入ると、ロビーは凄い喧騒だった。


 やはり、先ほどの翠竜の件のことだろう。入口でロビー内を眺めていると、沢山の洋紙を両手に持ったモナがロビー内を忙しなく移動している。

 走り回るモナと目が合う。


「あ!!」


 モナは驚きの声を上げると同時に、両手に持った洋紙を落としバラまく。しかし、そんなことは気にせずにこちらに走ってきた。


「シノノメさん! ご無事だったんですね! それに偵察クエストを受けていた皆さんも! よがった~……」


 へにゃりとモナはその場に崩れる。


「モナさん、ギルド内が騒がしいですけどこれって霧の件ですか?」


「そうですよ! 戻ってきたルディが「霧の中から超巨大なドラゴンが出現した!!」って大騒ぎで報告してきてね。アスター様が緊急でレイドパーティでの緊急討伐クエストを発行したの」

 モナは疲れたように溜息をつく。相当疲れているようだ。右手を差し出しモナを立たせる。


「でも、シノノメさん達よく無事で逃げてこれましたね。はぁー、私たちどうなっちゃうんでしょう……。

 は! まさか逃げてきたシノノメさん達を追いかけてドラゴンがこの街にくるって事ないですよね!?」


「大丈夫ですよ。もう討伐していますから。だから不安になる必要はないです」


「そうですか~。よかっ………へ? 今、なんて」


「ドラゴンは俺が倒しました。だから皆無事です。それにここに逃げてきてたら、悠長に話しなんてしてませんよ」


 モナは絶句し、暫しの沈黙。


「え、ええええぇぇぇぇえええぇぇええぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 モナの驚きの絶叫がロビー内に響き渡る。突然の絶叫に驚いた冒険者達が、何事かと皆一斉にこちらに向く。


「ド、ドラゴンを倒した!? 嘘でしょ!?」


 無言でモナの目を見つめる。俺が嘘をついてないと悟るとモナは偵察クエストに趣いた冒険者達を見る。皆。首を縦に振っている。


「シノの言っていることは本当だ。お陰でわしらは今生きている。シノが来なければ全滅していただろう」


 マッドが前に出てきて説明すると、静まりかえっていたロビーが一気にざわめいていく。


「証拠もありますよ。唯、でかすぎるので街の外で見せることになりますが。アスターさんを呼んできてもらってもいいですか?」


 モナは驚きの顔のままコクコクッと首を縦に振り、急いでカウンターの奥の部屋へと走っていった。



 ◇



 ベスパ入口の一つである西門の外で、多くのギルド職員・冒険者達が集まっていた。皆、実際に自分の目で確かめたいのだろう。その中にルディの姿もあった。


「ではシノノメ君。その証拠を見せてもらってもいいかな」


 ベスパの副ギルド長・アスターが俺の前に立っている。ギルド長のジェリックは不在のため、代わりにアスターに確認してもらう。


「危ないからちょっと離れていてください。では――――オープン」


 右手を掲げ起動言語トリガーを唱えると、前面上空に大きな青白い空間が出現する。


『ではマスター。翠竜・ラファーガルの死体を取り出します』


(ああ、頼む)


 出現させた青白い空間ゲートから真っ二つになった翠竜・ラファーガルの死骸が出現し、地面へと落ちる。ただ、余りに大きため落下の衝撃で土埃がおきた。

 土埃が晴れると、野次馬で来ていた人たちが一斉に驚いた声をあげる。


「ほ、本当に……こんな生物が現れたのか……。しかも一人で倒してしまうとは……」


「これで信じてもらえましたね? この死骸はギルドに提供します。こいつの素材を街の為に使ってください。俺個人が捌いて売ろうにも無理がありますから。ただ、偵察クエストの報酬はもらいます」


「なんと!! ほ、本当にいいのかね!? 君は欲と言うものがないのかね! だがまぁ、この街の発展の為に提供してくれたことに感謝しよう。それと、この君の件に関しては私では対処しようがない。すまないがジェリック君が戻ってくるまで待っていてはくれないだろうか」


「ええ、そのつもりです。では俺はこのまま宿に戻りますので、明日またギルドに顔を出します」


「あ、ああ。わかった。体を休めるといい」


 リリィの方へと向かい歩いていく。その姿は疲れているようだった。リリィの前に立ち、風で揺れるポニーテールの頭に手を添える。


「暫くは宿でゆっくりと休め。無理するとマッド達が心配するぞ?」


「う、うん……。でも、もう大丈夫だから……」


 気丈に振舞おうとするリリィの姿に心が痛くなる。


「ところでシノ、お主は何処の宿に泊まっておる」


「宿ですか? えっと『豚の満腹亭』です。まだ暫くはこの宿にいますから」


「そうか。わかった。後日、改めて礼を言いに尋ねる」


 マッド右手を差し出してきたので握手をかわす。


 そして野次馬たちが騒ぐ中、一人で街の中へと歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ