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22.霧

 夜空に青白く光る三日月が浮かぶ中、街道を荷馬車に乗って進む。ギルドから勝手・・に借りてきた荷馬車には御者の中年男性とギルド職員の女性が乗っている。


 荷馬車なので座っているとお尻に振動が嫌というほど伝わってくる。


「いやー、本当にありがとうございます。現地まで送ってくれるなんて助かります」


「まっだく、勘弁して欲しいがや。寝ようと思った矢先にこれだかんよ」


「まぁまぁ、ベスさん。仕事の報酬は倍額出すといってるじゃないですか。私なんてちょっとの夜勤手当しかでないんですよ?」


 不機嫌な御者とそれをなだめるギルド職員。ギルド職員の頭上には煌々と光る玉が浮かんでいて、暗い夜道を照らしている。


 御者の名前はベス。御者をして40年というベテランだ。職人気質の性格というか、口が悪い。

 ギルド職員の名前はルディ。こちらは綺麗な女性でウェーブ掛かった髪型でスラッとした体型。元魔道士で冒険者だった経歴があるらしい。ミーナの年齢より少し上といったところだろうか。


「ん? シノ君、なんか失礼なこと考えてなかった?」


「いえ! 考えてません!」


 ビックリしたぁ。なんだこの人、ゴンザレスみたいに人の思考読めるのか? まったく、女の感というのは恐ろしい。 


「しかし、アスター様からの指示で君を偵察クエストの現地まで送るよう言われるなんて……。君、何者なの?」


「普通の冒険者ですよ。普通の」


「ふ~ん。ギルド内では君の噂が絶えないんだけどね」


 ルディは値踏みするかのように上から下まで見つめる。綺麗な女性に見つめられると、ちょっと恥ずかしい。


「だげどよ? こんな時間にじゃなぐでも明日の朝からに出発しでもいいんでねぇか? 夜道は流石に危険だで。しがも寒いしよ」


「確かに寒いですわね。吹き曝しの荷馬車じゃ、風で体温を奪われますし。いくら防寒対策してもきついわ」


 そうなのだ。気温は低く、風をもろに受けるため寒い。いくら魔物を警戒するためとはいえ、これはこれできつい。


『マスター、シルバーフォースを使われたほうがよろしいかと』


(ん? そんなのあったっけ? ルディ達に見られないようにスマホウォッチを操作し、所持アイテムを確認する)


 -------------------------


 アイテム名:シルバーフォース(使い捨て)

 ランク  :『 R 』

 説明 :


 対象者の周りに銀色の燐光が漂い、対象者から半径10メートル以内の環境を快適な空間へと変える。


 範囲内に入っている者もその恩恵を受ける。効果は8時間。



 -------------------------


(おー、そういえばこんなのあったな。サンキュー、ゴンザレス。忘れてたよ)


『はぁ~。マスターは私がいないとダメダメですね』


 ワザとらしく溜息を吐くゴンザレス。いやほんと、ゴンちゃん助かります。


「ねぇねぇ、何しているのシノ君」


 ルディが覗いてくる。


「あ、いや。何でもないです。あはははは」


「?」


「えーと、ルディさんベスさん。今からこの馬車を快適な空間へと変えてみせましょう」


「はぁ? なに言っでんだおめぇ」


「まぁまぁ、いきますよ。クイックオープン、シルバーフォース」


 目の前に上げた右手に銀色の光りが出現する。それをルディへと放つ。銀色の光はルディに触れると弾けて、小さな燐光が空間を漂う。

 すると、馬車全体が春のような暖かい気候に変わる。冷たかった風は春風のように気持ちがよかった。


「う、嘘!! なにこれ、急に暖かくなったわ!」


「かー、おったまげだ。兄ちゃん魔道士だっだのか」


 2人とも各々驚いている。


「まぁ、ちょっとしたアイテムを使っただけです。

 それとこのシルバーフォースの効力なんですけど、ルディさんに使ったのでルディさんを中心に半径10メートル以内は快適な空間になります。効果は8時間なんですけどね」


「凄ぇだな。まぁ、このスピードで進めば8時間以内に現地まで着くべ。流石に寒い中進むのは体に堪えるがや」


「ね、ねぇ、シノ君。前にギルドで見せたミスリルの剣といい、今のマジックアイテムといい、君ってそういう珍しいの沢山持っているの?」


 ルディが興味津津といった感じで詰め寄ってくる。


「まぁ、秘密です」


「えー、やっぱり教えてくれないか。ならさ、その腰につけているミスリルの剣を見せてもらってもいい? 私、元冒険者の血が騒ぐっていうか、珍しいアイテムにはワクワクしちゃうの」


 お願いポーズをするルディ。まぁ、この剣を見せるだけならいいか。ライティング魔法を使うためだけについて来てもらっているわけだし。


「いいですよ。あ、刀身には触れないでください。危ないですから」


 腰につけた『ミスリルソード』を鞘に収めたままの状態で渡す。


「うん! シノ君ありがとぉ。前にギルドで見てからもっとよく見てみたいって思ってたんだぁ♪」


 無邪気な顔で『ミスリルソード』を受け取り、鞘から剣を引き抜く。


「そうそう、この綺麗な刀身が―――。……え”!!?」


 抜き身になった刀身は青い燐光を帯び、空気に触れた部分からキラキラと輝く氷の結晶、ダイヤモンドダストが起きる。ルディは口をあんぐりと開けていた。


「え、ちょ、ええ!? こ、これどういうこと。 前に見た時と違うんだけど!? しかもこれ、属性付加されてるじゃない!」


「さっきアスターさんと交渉する際に、目の前で合成したんですよ。どうしてもクエストを受けさせてもらうために認めてくださいって」


 ルディはポカーンとしてから我に帰ると詰め寄ってくる。


「シノ君、錬金術も使えるの!? 凄いわ! 凄いわよ君!! ハァハァ、ちなみに君、今彼女とかいるの?」


「い、いや、いないですけど」


 ルディさん、目が血走っていて怖いです。ルディはくるりと後ろに振り向き小声でブツブツと独り言を言い始める。


「ハァハァ、やだこの子。超優良物件……。今ここでツバつけとくしか、あ、今はベスがいるから無理か。なら、ギルドに戻ってから……ブツブツ」


「ルディ、おめぇそんなごとだからいつまで経っても結婚できねぇんだべ」


 どうやらベスにも独り言が聞こえていたらしい。


「うるさいわね、別にいいじゃない! あら、やだ。ほほほほほ」


 ルディは口元に手を当て愛想笑いをする。『ミスリルソード』を鞘に戻し返してきた。


「ありがと。眼福だったわ。にしても属性を付加させるなんて本当に凄いわね。ねぇ、ちなみにこの剣は特殊スキルとかあるの?」


「特殊スキル?」


「ええ。属性付きの装備は特殊なスキルを持つことがあるの」


 なるほど。『迅雷』の装備もそういえばスキルがあったな。となると、この『ミスリルソード』も特殊スキルが付加されているかもれしれない。

 1度『ミスリルソード』を『アイテム収納』に戻し、スマホウォッチで内容を確認する。この際、もうスマホウォッチを見られてもしょうがない。


「綺麗なマジックアイテムね。それは何なの?」


「秘密です」


「もう、いけず!」


 ルディは頬を膨らませ、拗ねる。


 腹黒ルディを放っておいてアイテムを確認する。



-------------------------


 アイテム名:ミスリルソード『氷牙』

 ランク  :『 HR 』

 説明 :


 青い燐光を放つ白銀剣。


 封印の氷地獄コキュートスの力で斬ったものを凍らせる。


 特殊スキル『氷牙爆砕』


 剣を地面に突き立てることにより、対象者の足元から氷の柱を3本出現させ貫く。


 使用制限は24時間に3回まで。日付が変わる時間にリセットされる。


 起動言語トリガーは『氷牙爆砕』


-------------------------



 『ミスリルソード』に特殊スキルが追加されていた。しかも、かなり強力だ。要するに氷の柱で真下から串刺し。想像しただけでいたそうだ。

 使用制限は一日に3回までと書いてあるが、ソウルを消費しないのは助かる。『アイテム収納』から『ミスリルソード』を取り出し、腰に装着する。


「やっぱり、特殊スキルが付いていましたね。かなり強そうなスキルでした」


「へ、へー。シノ君もまだ試したことがないなら、その、……してみよっか?」


 ルディが上目遣いで見つめてくる。妖艶な仕草に一瞬ドキリとする。


「やーねー、スキルよスキル! ちょっと何勘違いしているのよ。ふふふ、シノ君って可愛いわね~」


 ルディは更に耳元で「このクエストが終わってから、今期待したこと……してみる?」と囁いてくる。


 一瞬で顔が赤くなる。


「ふふ、照れちゃってまぁ」


『マスター! デンジャーデンジャー! この女は危険です!』


 ゴンザレスが脳内で騒ぎ我に帰る。男の本能を揺さぶるルディの仕草発言に一瞬我を忘れていた。


 ぐ、確かに危険だこの人は。本来の目的を一瞬忘れてしまうところだった。これから向かう場所が危険なことをこの2人は知らない。むしろ知らされていない。

 現地に先行していた冒険者達に無事会うことができたら、この2人も冒険者達と戻らせるつもりだった。最悪、間に合わなかったら途中で2人には戻ってもらうしかない。モナいわく、ルディは元「B」ランクの冒険者だというのでベスと2人で戻っても問題ないとのことだ。


 後は一人でなんとか対処するつもりだった。


「まっだぐ、ルディはいい物件の男がいたらそうやっで色仕掛けしてるんだべ。気をづけろシノ。それだがらルディはいつまで経っても結婚できねぇんだべ」


「うるさいわね、同じこと何度も言わないでよ! まったく。あら、やだ。ほほほほほ」


 腹黒ルディさん、そのやり取りも2回目です。2人を尻目に自分に活を入れる。


(ゴンザレス、索敵機能には魔物の反応はないか?)


『反応はありますが、距離が離れているためこちらには気づいておりません。マスター』


 視覚領域にマップを展開させ説明するゴンザレス。索敵範囲は最大5キロメートルなのだが、設定を500メートルに絞っている。近くにいる魔物に対応できるようにする為に。


(そうか。そのまま警戒してくれ。それと、残り所持ソウル数はいくつだ?)


『残り所持ソウル数5065(6000)です。マスター』


 ルディ達を見ると2人共お互いに言い争っていた。2人に背を向ける。

 今ならいけるか。スマホウォッチで『ソウルガチャ』を起動する。


『あ! マスターこれから戦闘になるというのにガチャを回すのですか? 温存していたほうがよろしいのでは。悪い癖ですよ』


 まぁまぁ、1回だけ1回だけ。それにこの後の戦闘に役立つ物がでるかもしれない。


『はぁ……。マスターの仰せのままに』


 ルディ達に気づかれる前にさっさと回してしまおう。そうだな、『ゴールド』を1回だけ回すか。

 ちゃちゃっと画面をタップしガチャを回す。いつものように女の子が銃で空中で回るガチャポンを1つ打ち抜く。


 ドキドキとしながら出てきたアイテムを確認する。



 -------------------------


 アイテム名:束縛の鎖リストレイント・チェイン

 ランク  :『 HR 』

 説明 :


 捕縛スキル。

 

 かの貴婦人が逢引している恋人を愛するあまり物理的に束縛していたという呪われた鎖。


 2種類のスキルがある。


 スキル『チェイン』:対象者に1本の青く光る鎖が巻き付き、引き寄せる。(使用制限なし)


 スキル『リストレイント・チェイン』:地面から8本の青く光る鎖が出現し、対象者をその場に完全に束縛する。(使用制限は24時間に3回まで。日付が変わる時間にリセットされる)


 起動言語トリガーは上記のスキル名『チェイン』・『リストレイント・チェイン』


-------------------------


 

 うっし! 今回も引きが強いぜ! しかしまぁ、ハズレ引かなくてよかった。

 ガチャ中毒者ジャンキーだから仕方がないと自分に言い訳しつつ、安堵の溜息を吐く。


 『アイテム収納』から『束縛の鎖リストレイント・チェイン』を取り出す。 


「スキル・ラーン・束縛の鎖リストレイント・チェイン


 2人に気づかれることなく無事に新たなるスキルを覚えると、右手の平に焼きごてを当てられたような鋭い痛みを感じた。


「ぐ……」


 右手を開くと、紫色をした魔法陣が手の平に描かれていた。きっと、今覚えたスキルの影響なのだろう。


「シノ君、どうしたの?」


 痛みで上げた声に反応したルディが近寄ってきた。


「いえ、なんでもないです」


 月夜に照らされる遥か先の霧を見つめながら、拳を握る。


 無事でいてくれ、皆。



 ◇



 ―――現在の時刻は朝の6時になる。


 日が昇り始めて辺りが明るくなっていく。昨夜10時過ぎに出発してから既に8時間が経過しようとしていた。


 かなり霧の発生地点まで近づいてきている。日が昇る少し前、ゴンザレスの索敵機能を最大距離5キロメートルまで広げると、先行していた冒険者30人がまだ移動しているのを確認する。

 索敵機能の範囲内に霧も入っているのだが、ゴンザレスが言うには中の状況が確認できないらしい。如何にも怪しかった。


『マスター、先行している冒険者たちが目的地の前に着き止まりました。残り距離1キロメートルです』


(そうか。わかった。皆、そのままもう少し立ち止まっていてくれよ)


 右手を見つめ握ったり開いたりし、直ぐにでも戦闘できるように心構えをする。


「ね、ねぇ……。なんか霧が引いてないかしら」


 ルディが前方の霧に指を差す。


 霧の方へを顔を向けると、霧が徐々に収束していく。

 そしてその中心部には巨大なまゆがあった。遠目でもわかる程に不気味な緑色の光りが点滅している。


「な、なんだべ!」


 ベスは驚きのあまり荷馬車を止める。


 拙い―――。


 荷馬車から飛び降り走り出す。


「ちょ、ちょっとシノ君! 1人で行くなんて危険よ!!」


 ルディの静止させる声を無視しながら走る。


「ゴンザレス! 行くぞ、用意はいいか!」


『はい、マスター。いつで行けます』


 腰の鞘に収めている『ミスリルソード』を左手で引き抜くと、剣の軌跡にダイヤモンドダストが起きる。


 前面に右手を突き出し、更にもう1本の剣を具現化すべく大きく息を吸い込む――――。



「クイックオープン、『暴竜・ファルベオルク』!!!」



 叫びと共に突き出した右手先の空間が弾け、2メートルをも超える禍々しい漆黒の大剣が顕現した。


『暴竜・ファルベオルク』を握る。血の契約の効果で全身に力がみなぎる。


『カウントダウン開始します』


 地面を蹴り上げ全力で走る―――。


 徐々に近づいていき、そしてその先に冒険者の1団が見えた。

 繭からはとんでもない化け物が出てくる。


 そう、その姿はまさにドラゴン。神話に出てくる生物、究極の生命体がそこにいた。


 ドラゴンの周りに小規模の爆発が起きる。しかし、効いてはいないようだった。ドラゴンは口を大きく開け、魔力の渦が巻き起こり、緑色をしたエネルギーの塊を蓄積していく。

 攻撃目標の先にはリリィがいた。呆然と立ち尽くし、泣いているように見える。その姿は悔しそうだった。


 瞬間、全速力で飛ぶ。冒険者たちを飛び越え、リリィの前に着地すると目の前にはドラゴンから放たれたエネルギーが迫ってきている。


「え……」


 リリィの声が後ろ越しに聞こえる。


 目の前に迫ってきていたエネルギーを大剣の腹で弾き飛ばす。


 弾き飛ばしたエネルギーは空へと昇っていく。 


 そして辺りに静寂が訪れる―――。


 間に合ったことに安堵しつつ、後ろにいるリリィの方へと振り向く。


「―――大丈夫か、リリィ」


 そこにはポロポロと涙を流すリリィがいた。


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