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19.真実の一部

 夕日が沈みかけ、もうすぐ「月夜の時間帯」を知らせる鐘が鳴る頃だろう。


 薄暗い部屋の中を窓から差し込む夕日の光りが、両手に持つ具現化させたアイテムを茜色に染める。俺はそっと、具現化させたアイテムをベットの上に置く。


 そのアイテムの名は『アカシアのオルゴール』―――。


 白を基調とし、楕円形の小さな箱で縁は金色の金属で型どられたオルゴール。まさにアンティーク品といったところだ。

 外見から見ると唯のアンティーク・オルゴールのようにしか見えないが、このアイテムの驚くべきことは能力にあった。 


 『アカシアのオルゴール』の説明文を思い出す。



-------------------------


 アイテム名:アカシアのオルゴール(使い捨て)

 ランク  :『 UR 』

 説明 :


 原初からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界の記憶が宿るオルゴール。


 使用者が知りたい事を思い浮かべながら、箱を開けることによって真実を見る・・ことができる。


 ただし、使用時間はメロディが奏でている3分間だけである。


 使用後は消滅する。


 反動で肉体に負荷がかかり、使用から30分後に使用者は必ず気絶する。

 


------------------------- 



 『アカシアのオルゴール』は、原初からのすべての事象、想念、感情が記録されているというのだ。昼間資料館でこの世界、転移について何か分かればと思い散々資料を読みあさったが、情報の収穫は0(ゼロ)だった為に、このアイテムは願ってもない物だった。

 このアイテムを使えば、知りたい情報を得ることができる。そう思うと、真実を知ることに対しての不安なのか、緊張からなのか手が震えてくる。


『マスター。深呼吸をしてください。心拍数が乱れてきています』


「あ、ああ。すまん、緊張していたみたいだ」


 落ち着くために深呼吸をする。ゆっくりと大きく息を吸い、1度2秒ほど呼吸を止めてから息を吐く。

 2回程、深呼吸をすると幾分か落ち着いてきた。


「少し落ち着いてきたよ。ありがとうゴンザレス」


 ベットに置いたオルゴールを再度両手で持ち上げる。


「今から『アカシアのオルゴール』を使おうと思う。吉と出るか凶と出るかはわからないが、俺は真実を知りたい。だからゴンザレス……」


『はい。私はマスターの一部です。どのような結果が出ようとも、私は貴方の味方です』


 オルゴールを持つ両手に、そっと手を添えられる錯覚を覚える。

 意を決してオルゴールの蓋を開ける。この世界に転移させられた真実を知りたいと願いながら。


『アカシアのオルゴール』の蓋を開けると、ゆったりとした曲調でどことなく懐かしさを覚える不思議なメロディが流れ始める。箱の中は赤い色の装飾で出来ており、中心には小さな光りがあった。


 その光の輝きは次第に大きくなり、空間を歪め塗りつぶす。そして一瞬の閃光。光の眩しさに目を閉じる。


「……くっ!」


 閉じた瞼越しに光りが収まったのを感じた後、静かに目を開けるとそこは「豚の満腹亭」の部屋ではなく、空の上というのは語弊だろうか、とにかく高い場所にいた。


「ここは、どこかの塔の上……なのか」


 空が近い。不思議なメロディーは今だにどこからか流れてきている。立ち上がりながら辺りを見回すと、中央に小さな祭壇と人がいた。

 2人の近くに寄る。1人は白いマントとフードを深く被っていて顔が見えなかったが、姿勢と体型からして老人のようだ。


 もう1人は綺麗な女性であった。マントの下の服装は民族衣装なのだろうか、清楚な雰囲気の女性の素肌が所々露出していてる服装。耳は長く、髪型は腰の辺りまで長かった。

 吹く風に彼女の髪がなびいている。


 耳が長い……。エルフなのか?


『巫女よ、来たか』


『はい、ウェイバー様』


『……よい、表をあげよ』


 巫女と呼ばれた女性が顔を上げ、息を呑む音が聞こえた。


『……巫女としての使命を果たす時がきた。至宝である『円環の宝玉』が求める次なる『導きの魂』を持つ者を―――。わかっているな?』


 円環の宝玉? 導きの魂? 何を言っているんだ……。


『はい。この肉体が滅びようとも、この私の全てに掛けて……必ず』


『頼んだぞ、巫女よ。『円環の宝玉』の力が弱まっている……。浄化しきれない負のエネルギーは、4つの『元素の宝玉』に影響を及ぼす……』


 女性は立ち上がり、祭壇の方へと向き直る。

 祭壇の中央には青く淡い光を放っている宝玉があった。しかし、その光は弱々しく感じる。女性が宝玉へと手を伸ばすと、体に青い燐光が広がり、体を分解していった。


 その場には、ウェイバーと呼ばれた老人だけとなった。


 ウェイバーは空を見上げる。


『――ああ。もうすぐだ。もうすぐで我が望みが成就する。待っていてくれ……。この……き……世界を……――。』


 世界にノイズが走る――。


 徐々にオルゴールのメロディの旋律が弱まり次第に鳴り止んだ。すると空間が歪み砕け、眩い光に包まれた。


 眩しさの余り瞼を閉じる。光りが収まり瞼を開けると「豚の満腹亭」の部屋にいた。


「…………」


 どういうことだ。一体……。俺になんの関係があるんだ。


 状況を整理してみる。『円環の宝玉』という物の力が弱まり、『導きの魂』を持つ者が必要だと言っていた。あの祭壇に祀られていた宝玉がきっと『円環の宝玉』なのだろう。

 そして巫女と呼ばれていた女性。祭壇に祀られていた宝玉に触れた瞬間、肉体が光に包まれて分解していった。


 つまりだ。俺の遊んでいたゲームアプリに『異世界の扉』というアイテムが出現し、この世界に転移させられたのは彼女の能力なのだろう。

 それに『導きの魂』という言葉……。俺の固有スキル『ソウルガチャ』を起動する際、生物の魂が必要だ。

 要するに、俺の能力が『導きの魂』という能力に該当するのだろうか。勿論、憶測でしかないが……。

 

 だが、肝心の彼女は? 先ほどの祭壇まで道案内するはずの巫女がいない。

 それでは俺をこの世界に転移させても無意味だ。肝心の『円環の宝玉』までたどり着けないのだから。


 それと気になる言葉がもう一つあった。「次なる・・・『導きの魂』を持つ者」と言っていたが、今までも同じような事を繰り返してきたのだろうか。

 

「頭が混乱してきた。なぁ、ゴンザレス。今の情報でお前の意見を聞きたいんだが―――」


 そこでふと引っかかる。巫女は居ない。だがゴンザレスは?・・・・・・・


 言葉に詰まり部屋の中が静寂に包まれる中、背中に一筋の冷や汗が流れる。


『……マスター。先ほどの映像から推測するに、十分に考えられる可能性だと思います。しかし、私のメモリーの中にそのような記憶はありません。

 私が映像の巫女ならば、人格が残っていないとマスターを『円環の宝玉』の元に連れて行くことができません』


「確かに……」


『それに私はマスターのサポートAIです。マスターを危険からお守りするのが私の使命です。私は決して、危険な場所へ連れて行くのが目的ではありません』


 ゴンザレスははっきりと否定する。その言葉は本当に俺を想っている感情のようなものが読み取れた。


「すまなかった。お前を疑ってしまって。許してくれ」


 ああ、そうだった。ゴンザレスはいつも俺の味方をしてくれていた。今はとりあえず、ゴンザレスが巫女かどうかは置いといて、ウェイバーという老人を探してみよう。

 まずはあの塔を探す。かなり昔からあるような造りの古い塔だったから、この国の住人に聞いてみればわかるかもしれない。


「よし、そうと決まれば明日から―――」


 

 ゴーーン!! ゴーーン!! ゴーーン!!



 突然、外から鐘のけたたましい音が聞こえてきた。

 窓の外を見ると外はまだ、日が完全には沈んでいないため「月夜の時間帯」を知らせる鐘の音にしては、まだ早い。しかも、鐘の音は警鐘のように短い間隔で激しく鳴っている。


 建物の外から喧騒が聞こえてくる。何事かと思い窓を開き道行く人々を見ると皆、西の空を眺めている。


「おい! なんだありゃ! どうなっていやがる!」


「怖いわ……。何かの前兆かしら……」


「ママー! お空にでっかい竜巻があるよー!」


 子供の竜巻という言葉にどういうことだと思い、西の空へと顔を向けると遥か先に巨大な霧が発生していて、それが恰も巨大な竜巻のように見えた。ゆっくりと渦を巻いているような霧は、空の上へまで届くかのように。


「な――! なんだあれは」


 夕日が沈みきるまでの僅かな時間帯、赤と紫のコントラストに彩られながらに現れた巨大な霧は不気味なほどに存在感を示している。


「ゴンザレス、あれが何かわかるか?」


『私の索敵機能の範囲外ですので、正確にはわからないです。ですが、あの霧の方角はノアル村があります』


 なんだって!? ダルクさん達は無事なのか!?


「……くそ! クイックオープン! ミスリルソード! 迅雷!」


『アイテム収納』からミスリルソードと迅雷を具現化させ、即座に装備。部屋から飛び出す。


『マスター! 落ち着いてください! 無闇に行かれては危険です!』


 宿の外に出ていき、大通りで西の空を見ながら立ち尽くす人々をかき分けながら走る。街人はボケっと突っ立っているため、中々前には進めなく苛立ちが募る。


『マスター! お願いです! マスター!』


 ゴンザレスの悲痛の叫びに駆け出していた足を止める。


「ハァ……! ハァ……! じゃぁ……どうしろって言うんだよ! 今こうしている間に、ダルクさん達が危険な目にあっているかもしれないんだぞ!」


 俺の叫び声に、周りにいた人たちが何事かと一斉にこちらを見た。奇異な目で俺を見ている。気がふれたのかと思われても仕方がない。


『マスター、お気持ちは分かります。ですが、まず無闇に向かうよりは万全の準備を整えてからです』


「万全の準備?」


『はい。まずはハンターギルドへと向かいましょう。おそらく、ギルド側でこの非常事態に動くと思われます。情報を収集しつつ、準備を整えるのです。モナさんの所へ向かいましょう』


 どうやら相当頭に血が上って状況判断ができていなかった。ゴンザレスの言うとおりだ。闇雲に駆け出しても、その途中で体力が尽きてしまうだろう。移動手段の確保、アイテムの補充もしなければならない。


「すまん、ゴンザレス。お前の言うとおりだ。まずはハンターギルドへ向かってみよう」


『はい、マスター』


 踵を返し、街の中心にあるハンターギルドへと駆け出していく。



 ◇



 ハンターギルドの入口に着き建物の中へと入っていくと、沢山の冒険者たちが集まっていた。普段は「月夜の時間帯」にくる冒険者は余りいないので、おそらく西の方角に現れた巨大な霧について情報を集めに来たのかもしれない。

 それと、もしかしたら先ほどの鐘の警鐘音は冒険者達への緊急招集の意味もあったのかもしれないが。


 カウンターへ殺到する者、冒険者同士で情報の交換をする者様々だった。


 冒険者達の間をすり抜けながらカウンターの方へと向かう。カウンターまで来ると、冒険者たちは受付嬢に色々と聞いているようだ。そのカウンターの奥にいるモナと目が合う。

 ジェスチャーで「モナさん、外に来てください」と身振り手振りで伝える。モナは驚いたような顔をした後、うんうんと頷きながら奥の部屋へと入っていった。本当にわかってくれたのだろうか。


 とりあえず、また冒険者の間をすり抜け、ギルドの外へと向かう。


 暫く入口の側で待っていると、モナがやってきた。


「シノノメ君! 君もあの霧について聞きに来たの?」


「ええ、そうな――――」


 突然、視界が歪む。ぐにゃりと平衡感覚がおかしくなり、地面へと倒れこむ。


「え? ちょ、ちょっとシノノメ君! どうしたの! シノノメ君!」


 モナの声が遠くに聞こえる。


 ああ、そうか。『アカシアのオルゴール』を使った反動が来たのか。ノアル村の事で頭がいっぱいで忘れてた……。

 ゴンザレス、お前これを見越してモナのもとへ向かえって言ったんだな?

 まったく、お前には負けるよ。



 そしてそのまま意識が遠いていく――――。


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