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18.歴史 ★

「まったく……いいですか、シノノメ様。あまり身勝手な行動をとられては困ります」


「はい、全くもって申し訳ないです」


 プリプリと怒るモナの前で縮こまる。

 翌朝ギルドへ顔を出すと、カウンター越しに目が合ったモナに手招きをされ近づくと、お説教させられた。先日のサンドワームの一件のことだ。どうやら、ギルド内でこの一件の話が持ちきりだったらしい。


 Lv1で「C」ランクの魔物を倒してきたと思ったら、次の日には「C」ランク冒険者をあしらい、あまつさえ「B」ランクの魔物を倒してくる始末。

 しかも空間魔法を扱い、希少金属でできた武器を持つビギナー。


 前代未聞の話に、みな興味津々といったところだそうだ。


 しかし、今の俺にとってそんなことはどうでもよかった。

 昨日の3人組みで生き残った一人のことが気に掛かり、モナに聞くことにした。


「あの、モナさん。昨日俺を襲ってきた冒険者は……」


「ああ、ハマーさんのことですか? 彼は昨日のうちに冒険者を辞めて故郷に帰ると言っていたそうですよ。村で静かに暮らすとか」


「え? 冒険者辞めたんですか?」


 辞めたと聞いて驚く。自分でやっておいてなんだが、無理も無いだろうと思った。仲間が2人も死に、自身も死にそうな目にあったのだ。精神的にきついはずだ。


 罪悪感によって胸に痛みが走る。


 これは戒めだ。この胸の痛みは、一生向き合わなければならない。2度と人の命を軽く弄ばないようにするための。

 床へと視線を下ろす。


「あの、シノノメ様――。いえ、シノノメ君。冒険者と言う職業は、妬み嫉みを受けることがあります。

 それは偉業をなし終え富や名声を得たり、珍しいアイテムを手に入れたことによって妬まれることが多々あります。

 当然、そういったことが起きないよう注意を呼びかけてはいるのですが……」


 モナが何を言いたいのかわからず、キョトンとする。


「ああ、もう、えっとですね! 要するに、シノノメ君が気に病む必要は無いということですよ。正当防衛なのですから。

 だから、そんな顔をしないでください。そんな状態で魔物を討伐しに行ったら、次はシノノメ君が死んでしまいますよ」


 モナは心配そうに顔を覗き込んできた。


「モナさん、お気遣い有難うございます。でも、大丈夫です。俺にはやらなければいけないことがありますから、そう簡単には死ぬつもりはありませんよ」


 苦笑しながら頬を掻く。


「やらなければいけないこと? 何? やっぱり『ハーレムを作って女をはべらせるまでは死ねないぜー!』とか? まぁ、男の子なら人生の目標の1つなのかもしれないけど、だめよ? 女の子は物じゃないんだから」


 モナは人差し指を立て、「め! ですよ」というような感じにジェスチャーをする。


「ち、違いますよ、そういったことではないです。まぁ、ハーレムという響きは凄く魅力的ですが」


 一人であたふたしていると、モナがくすりと笑う。


「ふふ、冗談ですよ。シノノメ君って、最初は怖い感じがしたけど、落ち込んだり慌てたりしている姿を見ると、なんか弟のように思えてくるわね」


「お、弟ですか? でも、こんな綺麗な人がお姉さんだったら、凄く嬉しいですね」


「あらまぁ♪ ありがとう」


 二人して笑い合う。

挿絵(By みてみん)


 気を使ってくれたのだろう。落ち込んでいた気分はモナの柔らかな笑みで、随分と落ち着いてきていた。これが大人の女性の魅力ってやつか。他の男性たちがモナを狙う気持ちがなんとなくわかる。


「ところでシノノメ君、今日はちゃんと現ランクのクエストを受けるのよね?」


 空気が変わったところで、モナが話を切り替えてくる。流石、年上といったところだろうか、会話の流れの持って行き方が上手いなと思う。


「そうですね、暫くは大人しくしていようかと思います。ジェリックギルド長の報告を受けるまでは、この街でブラブラしていますよ」


 昨日まではソウルを一刻も早く集めなければと焦燥感に襲われていたが、その結果が昨日のような出来事に繋がってしまったことに深く反省をする。


「そう。ならそうしたほうがいいわね。君の実力じゃ、「E」ランクなんて物足りないと思うし。かと言って、正式に許可が降りるまでは勝手なことしたらダメだし。

 どうせなら街のお店を回ってみたら? お買い物も結構楽しいわよ」


「いえ、少し調べ物をしようかと思っていまして。……あ、そうだ。モナさん、この街に王国の――、この世界についての歴史資料とか置いてある場所とかないですか?」 


「なに? シノノメ君、そんなこと知りたいの? なら、この街の北東の通り沿いに資料館があるわよ。王都のところと比べたら小さいけどね」


「北東の通り沿いですね。ありがとうございますモナさん。では、今から行ってきます」


 モナにお礼の言葉をいい、ギルドの出口へと振り返り歩く。後ろの方から「お勉強頑張ってねー!」と微笑んでいるような声が聞こえてくる。


 振り向き様に右手を振り、そのまま外へと出て行く。



 ◇

 


 ギルドから出て、大通りにある広場の噴水の方へと向かう。噴水広場の周りには露店がいくつも開いていて、多いに賑わっている。鎧をきた冒険者、馬を引き連れる商人、買い物帰りの町娘など様々だった。

 

 噴水の前まで来ると往来の邪魔にならないよう、噴水の淵に座る。

 資料館は北東の通り沿いにあると言っていたが、ゴンザレスに確認する為1度落ち着く場所に座ろうと思った為だ。


『マスター。さっきは随分とデレデレしていましたね……』


 今まで黙っていたゴンザレスの声が脳内に響いてくる。 

 ニュアンス的に頬を膨らませて拗ねているような感じだった。


 噴水の周りに人がいないのを確認した後、小声でゴンザレスに話しかける。別に声を出さなくても会話できるのだが、声を出して話したい気分だったのだ。


「なんだよ、いきなり突然。デレデレなんてしてないぞ。ただちょっと和んでいただけだよ。

 というか、ゴンザレス。昨日の夜の一件から随分と絡んでくるじゃないか」


 朝、目を覚ますとやたらとゴンザレスが話しかけてくるのだ。

 

『そ、そうですか? ただ、私はマスターともっとお話したいなと思っているだけで……、他意はないのですよ』


 慌てているように話すゴンザレスに、手をブンブンと振っている様子のイメージが浮かび、ぷっと笑い出してしまった。


「はは、別に構わないよ。心配してくれているんだろう? ゴンザレスは俺のサポートAIだもんな」


『そうです。そうなんです。私はマスターのサポートAIですので!』


 なんか最後の語尾が強調されたのは気のせいだろうか。


「さてと、ゴンザレス。北東の通り沿いにあるという資料館までの道案内をお願いしてもいいか?」


『はい、マスター。視覚領域に表示いたします』


 前方に矢印のような表示が現れる。そして右斜め上に丸い枠に囲まれたマップみたいな物が表示された。どうやらベスパ街を表示した地図のようだった。

 あれ? 今までマップなんて出て来なかったよな? どういうことだ。


「ゴンザレス、なんか機能増えてない?」


『はい。より詳細に把握してもらおうとマップを表示したのですが、ご迷惑でしたか? やはり簡易的な表示方法がよかったでしょうか』


 マップをよく見てみると、現在地から目的地までの道にマーカーみたいな物が引かれていている。いわゆるカーナビのような感じだった。


「いや、このマップ凄く便利だよ。これなら早くベスパ街の全容を把握できる。よし、早速資料館に向かうか」


 腰掛けていた噴水の岩から立ち上がり、ゴンザレスによって表示された案内に添って資料館へと向かう。



 ◇



 北東の通りは噴水広場の大通りに比べると、幾分と落ち着いた雰囲気の通りだった。


 路上に開く露店はなく、通り沿いにある建物のお店がチラホラとある。途中、美味しそうな匂いをさせる食べ物屋があったが、我慢をし目的地まで歩いていく。


 噴水広場から歩いて15分くらいで目的地の資料館の前へと着いた。


 資料館の建物はハンターギルドの建物ほど大きくはなかったが、それでも結構立派な建物だった。赤レンガで出来た建物にはいくつもの大きな窓が並び、入口の扉は立派な木材で彫刻が掘られている。

 扉の前にはアーチ型の大きなひさしがあり、柱で支えられている。


「ほー、王都より小さいとか言っていたけど、これはこれで十分立派な建物だな」


 時代を感じさせる建物に、感嘆の声をあげる。

  

「よし、中に入るか。ゴンザレス、マップ表示を解除し文字解読機能を起動さてくれ」


『かしこまりました、マスター』


 扉の取っ手を握り、扉を引くと蝶番の錆び付いた鈍い音がなる。立て付けが悪いなと思いつつ中へと入っていくと、ムワッと本特有の匂いがした。

 入口の近くには受付カウンターがあり、栗毛色の髪の毛をした女の子の受付嬢がいる。

 目的の資料の場所を聞くためにカウンターへと向かう。


「こんにちは。あの、この国の歴史資料とか文献を読みたいのですが、あ、それとこの国に伝わる御伽話の本とかもありますか?」


「はい、歴史関連の書籍はこの奥右手を進んだ所にある「52番」の棚に、御伽話についての書籍は同じ場所の「53番」の棚になります」


 受付嬢は笑顔で答える。


 よかった、それぞれ近くの場所にあるのか。


「ありがとう」


 受付嬢に礼をいい、目的の棚まで向かう。途中、ある棚の一角に鎧を着た冒険者のような人たちがチラホラといた。


 あそこの棚はなんだろう? 武器防具を装備して資料を読む姿、なんか違和感バリバリだな。

 そう思いながら自分の姿を思い出す。


「あ、俺もクローム装備してたんだ。人のこと言えないな」


 そんな自分の間抜けっぷりに恥ずかしさを覚える。 


『マスター。どうやらあそこの棚は魔物についての資料があるようです』


 そんな主人の間抜けぶりをスルーして、補足説明をする我がサポートAIゴンザレス。


 ほんとよくできた子……。


「なるほど。魔物についての資料もあるのか」


 魔物を狩る側にとって相手の特徴・弱点などの情報は重要だ。なにせ命に関わることだから。

 どおりで防具を装備した冒険者の人たちがいた理由わけか。まぁ、とりあえず今はこの国のことについて調べるのが先だな。



 目的の棚の前まで来ると、様々な本が並んでいる。正直、どれから読めばいいのかうんざりしてしまう。


「時間はたっぷりある訳だし、頑張るか」


 気合を入れ、そして最初の一冊を手に取り読みふける―――――。



 ◇



 日が傾き、夕日によって影が長くなる時間帯。先ほどの噴水広場の噴水にゲンナリしながら腰掛けていた。


「あ”~~~、目も肩も腰も頭も痛い……」


 午前中から夕方までずっと資料館に篭って本を読みあさっていたので、体が悲鳴をあげていた。


 結論から言うと、収穫は何も無かった。俺が転移した理由について何かそれらしき物があるのではと思い、歴史の資料を読んでみたがダメだったのだ。御伽話についての本も読んでみたが、そちらもダメだった。一冊だけ、異世界に転移した男の物語があり、期待をしたが結局は参考にならなかった。


 『青く輝く瞳の先は――。』という題名で、異世界に転移した主人公の左眼に伝説の力が宿り、世界を救うというお話である。


「はぁ~~~、今日はもう帰るか」


 腰掛けた噴水の岩から立ち上がり、沈みゆく夕日と同じように落ち込んだ気分で「豚の満腹亭」へと歩いていく。


『マスター、気を落とさないでください。まだ諦めるのは早いと思います』


「わかっているよ。ただ、やっぱりそう簡単にはいかないよなぁ~……。あ、そういえば話し変わるけど、昨日倒したサンドワームのソウルはいくつだったんだ?」


 ソウル数を確認していないことを思い出し、ゴンザレスに問いかける。


『サンドワームの収得ソウルは1806です。現在の所持ソウル数は7565(6000)です』


 サンドワームのソウルが結構な数で驚いた。「C」ランクと「B]ランクの魔物のソウルの質は2倍ほど違っていることにビックリする。


「今の所持ソウルは7565か。宿に戻ったら、気分転換に『ソウルガチャ』を回そうかな」


 そんなことを考えているうちに「豚の満腹亭」まで着き、宿の中へと入っていく。

 無愛想な店主に挨拶をしながら借りている部屋、205号室へと向かい中へ入ると直ぐにベットに横たわる。


「ふー」


 うつ伏せの状態で左手に装着しているスマホウォッチをタップし、『ソウルガチャ』アプリを選ぶ。

 ホログラム機能を起動させようか迷ったが、起きたくなかったのでそのまま起動することにした。


 それぞれの選択項目がディスプレイに表示される。


 さて、今回はどれを回そうか。気分転換だから、11連は止めておこう。1回だけ。1回だけならいいよな。


 やはり1回だけ回すとなると、『レインボー』の文字に目がいってしまう。何故ならランクの高いアイテムが手に入りやすいからだ。


「よし、『レインボー』君に決めた!」


 某アニメキャラのセリフが如く、『レインボー』の項目を押す。いつものように銃を持った女の子が、浮かび上がるガチャポンを1つ打ち抜く。

 打ち抜いたガチャポンが光り、中からアイテムが表示された。


-------------------------


 アイテム名:封印の氷地獄コキュートス 

 ランク  :『 HR 』

 説明 :


 触るなキケン!


 触れるモノ全てを凍らせる一欠片の氷。


 アロンアルファーもビックリするほどの吸着力と速攻性。



-------------------------



 ナニコレ。


 触るなキケンとか書いてあるし……。


 え? これどうしろと? 魔物に投げつけて使うならまだしも、触ると危ないんじゃ使えないじゃん! ああ……、ソウル1000無駄にした。


 ガッカリし、枕に顔を埋める。


「いや、まだだ! まだ終わらんよ!」


 ガバッと顔を起こし、もう一回『レインボー』の項目を押す。


『マスター! 一回だけじゃなかったんですかー!』


 ゴンザレスの抗議の声が脳内に響く。


「う……。いやね、ゴンザレスさん。次こそいいの出るかも知れないでしょ? うん、多分……」


『マスター。既にガチャに対しては自分を見失っています。ハァ……』


 ゴンザレスがワザとらしく溜息を吐く。


「何も言い返せませんです、はい」


 痛い所を突かれつつ、既に打ち抜かれたガチャポンから出てきたアイテムを確認する。


「な―――!」


 寝そべっていた体を起こし、出てきたアイテムに言葉を失う。


「マジかよ……。これ……」


 ありえないようなアイテムに鼓動が早くなる錯覚を覚える。


 速る気持ちを抑え、スマホウォッチに表示されたアイテムを具現化させるのだった――――。


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