表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/107

17.過ち

 男は走る。歳は30代中頃だろうか。必死に何かを叫びながら走る。

 右手にはショートソードが握られている。何かを追いかけていると言うよりは、見えない何かから逃げているようだ。


 叫びながら走る男は徐々に息を切らしていく。見えない恐怖に逃げるため必死に走り続けていた為だろう、バランスを崩し足を縺れさせ前のめりになりその場に倒れていく。


 その顔は「ああ、もう助からない」と、諦めにもにた絶望の顔であった。

 そして男は倒れ込んだ地面の真下から飛び出してきたサンドワームによって飲み込まれた。


『マァァァァァッック!!!』


 別の方向から声がしてきた。声のする方へと顔を向けるともう一人、別の男が呆然と立ち尽くしていた。仲間が目の前で喰われたことにより、ゆっくりとやるせない表情に変わっていく。


 飲み込まれた場所をじっとただ見つめている。マックと呼ばれた男は既にその場所にいない。マックを飲み込んだサンドワームも既に地中へと潜っている。

 男はマックのいた場所に向かおうと歩き出そうとした瞬間、突然地中からまた現れたサンドワームに下半身半分を飲み込まれ、そのまま地中の中へと引きずり込まれてしまった。


『ジェミィィィィ!! ああぁ……。そんな……』


 また別の方向から声が聞こえてくる。声のした方へと向くと、泣き崩れる男がいる。


 地に伏せ泣いていた男と目が合う。



『頼む――――、

    

俺たちを殺さないで(・・・・・・・・・)……』



 瞬間、ぬちゃり……と両腕に生暖かい感触があった。

 両腕を前に掲げると、そこには―――血まみれになっている両手が視界に入った。


 足元はいつの間にか血だまりになっており、そこにはズタズタになった二人の――――――。



『うああああああああああああ!!』



 あまりの壮絶な光景に、叫び声を上げ俺は―――。




「ハッ――――!!」


 勢いよくベットから上半身を起こす。


「――ハァ! ――ハァ! ――ハァ!」


 辺りを見回す。そこは、血まみれになった場所ではなく、『豚の満腹亭』の部屋。そう、俺が宿泊で借りている部屋だった。

 窓の外を見ると、夜は更け静寂が訪れている。窓から差し込む月明かりの中、呼吸を整える音だけが響いていた。


「ハァ、ハァ、ゆ、夢……?」


 あまりの凄まじい光景の夢に、体が震えていた。いや、夢の光景は事実、昼間に俺が2人の男を見殺しにした・・・・・・)内容そのままだった。


 カチ、カチカチ―――ガチガチガチガチ――。


 静寂の中、部屋に火打石を打ち付けるような音が響いてくる。

 音源は自分の歯だった。震えで歯が打ち付け合い、ガチガチと音が鳴る。


 初めて人が死んでいくさまを目の当たりにした。自分の身を守るとはいえ、俺が自分の意思で人を見殺しにしたのだ。


 今更ながらに後悔と罪悪感に胸が押しつぶされそうになり、シーツを体に巻きうずくまる。


『……マスター』


 ゴンザレスの心配するような声が響く。


「ゴンザレス、俺、自分の身を守る為に人を利用し見殺しにしちまった……。いや、殺したようなものか……。覚悟はしていたつもりだったんだがな……」


 暫しの沈黙が流れる。


「……なぁ、ゴンザレス。俺、今更ながらに後悔してる……。自分のみを守ることに躍起になって、肝心なことが見えていなかった。別に殺さなくてもよかったんだ。やりようによっては他にも方法はあった。

 元の世界に帰れたとしても、もう……親父とお袋に会わせる顔がねぇ……。 俺は……、俺は人殺―――!!」


『マスターッ!!』


 突然、ゴンザレスに怒鳴られる。


 今までゴンザレスに怒鳴られたことなんて一度もなかったので、ビックリした事と同時に、膨れ上がった感情がゆっくりと沈静化していく。


『マスター、それ以上先の言葉を申されるのはお止めください……』


「…………。」


 ああ、そうか。俺の思考を読んだのか。なら、事実なんだから……止めるなよ……。


「……ゴンザレス、いま……悟ったよ。ノアル村で『人としての矜持』とか口にしていたが、俺はただの『偽善者』だ。

 何が……何が人を見殺しにしたくないだ。 俺は自分の身可愛さ余りに人を利用し、見殺しにしたじゃねぇか!! 俺はッ! 俺は……最低のクズ野郎だ!!!」


 心に溜まった泥を吐き出すように叫ぶ。


 誰かに罵って欲しかった。じゃいないと、罪悪感で心が押しつぶされそうになる。頼むゴンザレス、俺を罵倒してくれ……。俺の行動は、間違っていた……。


『マスター。……確かに人を見殺しにした事は事実です。しかしまた、ノアル村で人を助けたこともまた、事実です』


 ゴンザレスの一言に、うつむいた顔を上げる。


『……何が正解で不正解なのかは、私にはわかりません。この世に一つの正解など無いと思います』


 ゴンザレスはゆっくりと、諭すように語りかけてくる。


『……ですから、そんなにご自身を責めないでください。


 マスターの昼間の行動が過ちだというのなら、その過ちを止められなかった私にも責任があります。


 私はマスターのサポートAIです。ですから、罵られるなら私の方です』


「……ゴンザレス、何を言って――」


『マスターが悲しむと何故か...私も悲しくなるのです……。過ちを犯した事実は変わりません。ですが、これから防ぐことはできます。

 人は過ちを犯しながらも、学習し、成長するものです。苦い経験を経て、マスターも成長しているのです。私と同じように。

 だから、自分を見失わないでください。貴方が帰るべき世界へと帰れるよう、私もお側でサポートさせていただきます――』


 まるで感情を持った人間........のような口調に、驚く。

 それと同時に『自分を見失うな』と言うゴンザレス言葉が、胸に深く染み渡る。


 ゴンザレスは俺を見てくれている。過ちを犯した俺を責めるわけでもなく、まるで慈愛のような暖かさで包んでくれる。


「……くっ。ううぅ…………」


 涙が頬を伝う。


『マスター』


 優しい呼びかけに、目の前にゴンザレスがいるような錯覚を覚える。


 両手に落ちた涙の雫は、窓から差し込む月明かりで光っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ