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15.マヤの森

 ベスパ街から南に街道を進んでいくと、アルス国の4つある大きな街のうちが1つ、アベルの街がある。その街道途中にベオライガが目撃されたマヤの森がある。

 ゴンザレスの案内で2時間かけてマヤの森に到着した。森の中に入る前に自身のステータスと装備を確認する。


 -------------------------


 名前:東雲 透

 

 Lv:1

 

 体力 :224 


 筋力 :130


 防御力:10(+25)


 素早さ:105


 魔力 :0


 スキル:『ソウルガチャ』

     『透視の瞳』 

     『円迅』


 固有スキル:『ドラゴン・インストール:暴龍』

 

 派生スキル:『グラビティ・アルファ』


 -------------------------


「ん? ゴンザレス、この防御力の数値の隣に+25とあるが、装備の数値?」


『はい、そうです。マスター』


 なるほど、ちゃんと装備すれば数値化されるのね。ステータスを見つつ、『アイテム収納』から新たに装備を取り出す。


「クイックオープン、ミスリルソード。迅雷」


 両腕に装備していたクロームガントレットが『アイテム収納』に収められ、無骨で青色をしたガントレット迅雷は両腕に展開される。そして白銀色の鞘に収められたミスリルソードがクロームソードとは別の腰ベルトに展開された。


「ん? んん!? 迅雷を装備したら防御力がかなり上がったぞ!? え? これそんなに防御力高かったの!?」


 防御力を見ると、+72と表示されていた。

 防御力が上がるのはかなり嬉しかった。正直、不安はあったのだ。

 そして装備を整え終わると、マヤの森へと入っていく。


 街道沿いから見るマヤの森はそれほどの不気味さはなかったが、実際森の中に入ってみると広葉樹の葉で光は遮られ、ひんやりとした空気をしている。

 正直、森を舐めていた。こんなに木が密集している所で魔物に出くわしたら、一溜りもないだろう。しかも、これでは剣も使えない。


「ゴンザレス、索敵機能で周辺に魔物がいないかの確認と、剣を振れる広い場所がないか確認してくれ」


『はい。マスター』


 ふと、ゴンザレスの声に気合が入っていたので、びっくりした。


「ゴンザレス? なんか異様に気合が入ってるね」


『もちろんです。マスターをサポートするのが私の役目ですから』


「はは、頼もしいな。よろしく頼むよ」


 今朝、『ソウルガチャ』で入手した『巫女服(Ver.エロ)』をゴンザレスに着てもらう約束をして以降、なんか機嫌がいいような感じがするのだ。

 まぁ、俺としてもそんな日が来たら嬉しいのだが。


『マスター。エッチな考えはダメです』


 バレてるし……。


 ゴンザレスが人間味が多いに出てきた分、余計にエロいことが妄想しづらくなってきてる。

 恥ずかしさを誤魔化す為に早歩きで森の中へと進んでいく。


『マスター』


「悪かった悪かった。集中するから――――」


 グルルルル……。


 突然、頭上から獣の唸り声が聞こえてきた。

 歩を止め、ゆっくりと唸り声のした方へと顔を向ける。


 太い樹の枝の上に、2本の大きな牙を生やした豹のような白い獣がそこにいた。大きな牙の表面にはうっすらと光る黄緑色をした粘液が滴り落ちている。

 その姿は討伐依頼書に絵描かれていた魔物と似ていた。


『すみません、マスター。マスターとのお話に夢中になってしまって、索敵機能を起動していませんでした』


 マジで?


 ゴンザレス、人間に近づくのはいいけどさ……、流石にヒューマンエラーまで人格形成するって、そこんところどうなのよ……。

 ベオライガは視線を逸らさず、ゆっくりと樹の上から降りてくる。


 グルルル……。


 視線を外したら今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。

 頬に冷や汗が流れる。


「ゴンザレス……、近くに開けた場所はないか?」


『―――エリア検索開始。7時の方向60メートル先に戦闘可能な広い場所があります!』


「了解……」


 視線を逸らさずにゆっくりと、走り出す体制を整える。


 そして一気に駆け出す。


 密集した樹々が行く先を邪魔するが躱しながら全力で疾走する。すぐ後ろにベオライガが追ってきているのが気配で分かった。

 振り向かず、全力で開けた場所へと走り出す。


 走る、走る、走る――――。


 こうも森の中を走るのが大変だとは思わなかった。大量の酸素を求めて呼吸が上がる。


「ゴンザレスーー! まだかーー!」


 装備品で能力向上しているとはいえ、すぐ後ろに魔物が迫ってきていると思うと気持ちばかりが焦る。


「戦闘可能エリアまで距離10。マスター! 広場へ抜けたタイミングでスキル発動を進言します!」


「ス、スキルだなー! ぬおおおおおお!」


 残りの距離をガムシャラに走りっていくと、光りが差し込む広い場所に出た。

 足を止めず、腰に装着しているミスリルソードを抜刀する。走りながら剣を腰だめに構え、右足を軸に地面へ踏み込む。


 振り向きざまに遠心力を利用し振り抜いた――――。


「スキル『円迅』!!!!」 


 ミスリルソードで円をえがき斬ると、衝撃波が巻き起こり飛び掛かってきたベオライガを吹き飛ばす。

 衝撃波によって吹き飛ばされたベオライガは樹に激突した。


「しゃぁー!」


『マスター! 生命反応まだあります!』


「マジカ!」


『マスター。今がチャンスです。『迅雷』の能力で距離を詰め止めを刺すことを進言します』


 ゴンザレスに言われるがまま直ぐ体制を立て直し、ヨロヨロと起き上がろうとするベオライガ目掛けて走り出す。

 距離は15メートル。一気に差を縮めるために『迅雷』を発動させる。


「―――スキル『迅雷』!!」


 ガントレットが紫電を帯び、ミスリルソードにも雷属性が連動され紫電を纏う。  


「うおおおおおおおおお!!」


 スキル発動によって『素早さ』も補正され、ベオライガまでの距離を一気に詰め――――。


「ふんっ!!!」


 ベオライガ目掛けて一気に剣を横なぎに振るう。

 瞬間、ミスリルソードを握る手に肉と骨を断つ感触が伝わり、遅れて鈍い音が聞こえてきた。


 そう。ベオライガを一刀両断したのだ。


 体を真っ二つに切り裂かれたベオライガは、臓物をまき散らしながらその場に崩れ落ち、辺りに静寂が訪れる。


「―――ハァ! ―――ハァ!」


 あ、危なかった。ゴンザレスのサポートがなければ俺が食われてた。前回のレッドグリズリーの時は『プロミネンス・フレアの杖』と『暴竜ファルベオルク』で簡単に倒せてたから、危機管理が甘かったみたいだ。


 呼吸を整えながら、ベオライガを倒せたことに安堵する。


『討伐成功です。マスター』


 ゴンザレスのはしゃぐ声が頭の中に響く。


「あ、ああ。ありがとう――って、ゴンザレス!」


『はい? なんですかマスター?』


 キョトン? というようなハテナマークが見えてきそうな声に、怒る気力も失せ脱力する。


「はぁ~……、あのな、ちゃんと索敵機能を起動してくれ。頼むから」


『う。ごめんなさいマスター』


 シュンとした声を出すゴンザレス。なんか年下の女の子と話している気分になってくる。

 まぁ、しょうがない。


「まぁ、次から気をつけてくれればいいよ」


『はい!』


 ゴンザレスの元気のいい返事を聞きながら、真っ二つにしたベオライガの死体を見る。

 断面からグチャグチャとした臓物がピクピクと動いていた。


 うっぷ、ぎもぢわるい……。


 今後この世界で生きていくにはこういったグロい場面にも慣れないといけないだろう。今は魔物相手だが、今後人間と戦うことも想定していたほうがいいのだろうか。

 商人を護衛をしていたりりィ達を思い出す。魔物以外にも盗賊からも護衛しなければならないと言っていた。


 つまりこの世界は人間相手にも剣を振らなければならない時があるということだ。果たしてその時が来た時、俺は剣を振れるだろうか。

 いや、甘い考えを捨てなければならない。不条理な暴力には同じ暴力で返すしかない。生き残るためには自分の身は自分で守るしかないのだ。


 その時は人を殺―――。


『マスター……』


 ゴンザレスに声を掛けられ考えを中断する。


 そういえばゴンザレスに筒抜けだったな。


「すまん。考え事をしていた」


『いえ……』


 気持ちを落ち着かせるために静かに息を吐く。


「さてと、そんじゃソウル回収するか」


 暗い空気を払拭するため務めて明るい声をだし、ベオライガの死体へと視線を向ける。モザイクを掛けたくなるような死体の上に、大きめの青白く光るソウルが浮かんでいた。

 左腕に巻きつけたスマホウォッチを掲げ、『ソウル収集』の起動言語トリガーを唱えた。


「『ソウル・コネクト』」


 ふよふよと浮かんでいたソウルはスマホウォッチへと吸収されていった。


「ゴンザレス、今のソウルの質はどれくらいだ? それと所持ソウル数も」


『はい。えーと、今の分で750ですね。スキル『迅雷』で使用した100を差し引いて、所持ソウルは6059です』


 よかった。マイナスにはならなかったか。それと、やはり「C」ランクに該当される魔物も結構な質のソウルのようだ。

 やはり、「C」ランク以上の討伐依頼をこなしたほうがいいか。


 討伐完了の証である『ベオライガの菌牙』と『ベオライガの右前足』を回収するべく、ミスリルソードを振り上げ、牙と前足の根元を叩き斬る。

 牙と前足を『アイテム収納』に収めながら、ふと考える。


「―――ふむ。一応、保険をかけておくか」


 今だに臓物を痙攣させている死体に手を伸ばし――――。


『マ、マスター!?』


 ゴンザレスの素っ頓狂な声を無視して、作業に没頭した。




 ◇



 

 日が暮れ始めた頃、ベスパ街のハンターギルドで一人の受付嬢の驚きの声が上がった。午前中に話した受付嬢だ。周りにいた他の冒険者たちは何事かとこちらを伺っている。


「え!? ほ、本当にシノノメ様が討伐されてきたのですか!?」


 受付嬢はカウンターの上に置かれた2本の『ベオライガの菌牙』と『ベオライガの右前足』をマジマジと見つめていた。


「ええ、まだ「C」ランクの掲示板にこいつの依頼書が貼ってあったから、問題ないですよね? 正式に受けた冒険者もまだいないようですし、横取りにはなりませんよね?」


「いや、まぁ、そうなんですけど……」


「それに、ギルド規約には現ランクの上ランク依頼を受けることはできないってのは、るためのきであって、別に依頼を受諾していなくても『倒してはいけない』なんて書いてなかったですよね?」


 カウンターに寄りかかり、受付嬢の目を見つめる。

 正直な話、ギルド規約をゴンザレスに簡単に説明してもらったので、そこまで詳しくは知らなかった。


 ハッタリで押し通している。今後、上ランクの魔物を討伐していくのに、Lv1の俺でも実力があるのだと示しておきたかった。

 ギルド公認で認めてもらえば、少なくとも依頼の件で冒険者同士のいざこざも起きないと思ったし、何より情報収集する際にはやはり知名度も必要だと考えた為だ。


「う……。ちょっと、この指定部位の鑑定も含め、確認して参りますので暫しお待ちください」


 受付嬢はちょっと涙目になりながら指定部位を持ち、奥の部屋へと消えていった。


 待つこと30分―――。


 奥の部屋から赤い色をしたスーツ姿のダンディな中年男性と先ほどの受付嬢が出てくる。


「彼がそうかい?」


「はい」


 ダンディな中年男が受付嬢に話しかけると、こくんと頷く。


「初めまして。私はこのベスパ街のハンターギルド長を務めるジェリック=マグドゥカスだ」


「東雲 透です」


 ギルド長ジェリックはニコリと微笑む。

 ロビーにギルド長が現れて、周りの冒険者たちがこちらに興味を示しだした。


「さて、モナ君から事情を聞いたのが、シノノメ君はLv1で「C」ランク依頼のベオライガを倒したそうだね」


 モナ? ああ、そこの受付嬢の名前か。


「確かに鑑定でこの『ベオライガの菌牙』と『ベオライガの右前足』は本物だと証明されたよ。だがこれを君が本当に倒したかというと、にわかに信じがたい……」


「何が言いたいんです?」


 ギルド長の目を真っ直ぐ見つめる。


「ふむ、これを君が道具屋で仕入れてきたのではないか? まぁ、それを防止する為に腐る生身の部位も指定しているのだがね。もしくは個人的に冒険者を雇い討伐させ、恰も自分が倒したかのように見せている……とかね。まぁ要するにだ、売名行為をしているんじゃないかと疑っているわけだ。

 英雄気取りにでも浸るつもりかい? 止めておけ、実力の伴わない冒険者は早死するだけだぞ」


 ジェリックの目が冷たいものへと変わる。


 周りの誰もがこちらを黙って見ていた。


「……まぁ、普通誰でもそう思いますよね。ですが、俺がベオライガを倒しました」


 ジェリックは溜息をつく。


「だから君が倒したという証拠は――――」


 右腕をジェリックの前へ、ゆっくりと突き出し起動言語トリガーを唱える。


「―――オープン」


 突き出した右手のひら前面に直径1メートルほどの青白い空間ゲートが展開される。


『マスター、本当にやるんですか?』


(ああ、やってくれ)


 出現させた青白い空間ゲートから真っ二つになったベオライガの死体が出現し、大理石の床へと落ちる。


「なっ――――!」

 

 ロビーにいる全ての人間が絶句する。

 ベオライガの切断された断面から見える臓物はピクピクとまだ動いていた。


 『アイテム収納』は生きた生物は収納不可能だが、死体は収納可能だ。時間の経過も止まるため、劣化が起きない特性もある。


「クローズ―――」


 空間ゲートを閉じ更に右腕を頭上に上げ、続けて起動言語トリガーを唱える。


「クイックオープン、ミスリルソード」


 右手のひら空間に小さなガラスのような塊が出現し、弾けて白銀の輝きを放つ剣が具現化された。

 その輝きに見るもの全てが魅了されている。


「証拠はこの死体と……」


 ミスリルソードの切っ先をベオライガに向け、床の大理石ごと突き立てる。


「このつるぎだ―――!!」


 ベオウルフの死体の血が飛び散り、ジェリックの頬に掛かった。


 あ、やべ。


 内心焦ったが、ギルド局長ジェリックは瞬きをせず驚きの表情で見ている。


「空間……魔法だと……。しかも、希少金属でできたつるぎ……ミスリル……」


 一瞬の静寂の後、ロビーにどよめきの声が上がる。


「これでも信じてもらえないですか?」


 きっと指定部位だけでは信じてもらえないと思い、『アイテム収納』を利用してベオライガの死体ごとを持ってきたのだ。以前、リリィ達は目の前でポーションを取り出したとき、『アイテム収納』の能力を見て驚いていた。


 ミーナは空間魔法は珍しいと言っていたため、俺の力の信憑性を高めるために目の前で披露したわけだ。

 さて、これが吉と出るか凶と出るか……。


 静かにジェリックの様子を伺っていると、彼は肩を小刻みに震わせながら右手で顔を隠し笑い始めた。


「くくく……、ハハハハハ! アーハッハッハッハ! 面白い奴だな君は! Lv1で上位空間魔法だと!? しかもその武器! ああ、認めよう! 認めようじゃないか! このベオライガは君が討伐したと、認めようじゃないか!」


 ジェリックは両腕を広げて、最高の笑みを浮かべていた。


「20年間ギルドで働いてきたが、こんな事は初めてだ。よろしい、特別に君だけランク制限を解除するよう本部に連絡してみよう。 ただし! 死んだ時はそれまでの男だということだ。期待を裏切らないでくれたまえ、新人君ルーキー


「ええ、よろしくお願いします。では」


 剣を抜きながら踵を返し、ギルドの出入り口へと歩き出す。斜線上にいた冒険者たちは、どよめき声を出しながら自ずと後ずさり道を開ける。


 ロビーに集まる人込みを抜けた時、どっと疲れが出てきた。背中には冷や汗をかいている。大勢の人間の前で注目の的になること自体慣れていなかった為、緊張していたのだ。

   

『本当に目立つ行為をしてよかったのですか? マスター』


(ん? ああ、元の世界に戻るためには突き進むしかないんだ。俺をこの世界に転移させた犯人がいた場合、目立つ行為を行えば接触の可能性もあるかも知れないしな)


 ロビーに響き渡るどよめきの声の中、ギルド長ジェリックの言葉が耳に入る。


「さてと、モナ君。この死体の処理をよろしく頼むよ」


「え? ええええぇぇぇぇぇえぇぇ!?」


 モナの叫び声を聞きながら宿屋へと向かって行った。


 モナさん、ごめん!



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