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12.ベスパ街 ★

 宿屋を出ると目の前は大きな通りとなっており、沢山の人たちが歩いていた。


 道端には露店商なのだろう。様々なものが置かれて売られている。主に野菜や果物などだったが、中には雑貨品まで置かれていた。これは日本で言うと朝市と似ているのかもしれない。


「すごいな。普段からこんなに賑やかなのか?」


「そうよー、この町は農作物を扱っている街だからね。収穫された物を新鮮なうちに卸す為に朝早くから露店が開かれるの」


「へー」


 これはこれで人並みに流されないようにしないとな。マッド達と離れたら大変だ。迷子になったら目も当てられない。


「ところでシノッチ、案内して欲しいところとかあるのかしらん? 目的もなく漠然と歩いていたら日が暮れてしまうわ」


「あ、それなら武器や道具を扱っているお店を教えて欲しいかな。それとポーションを買い取ってくれるお店も教えてほしいんだけど」


「それならまずは道具屋ね。基本、買取はそのお店で扱っているものしか買い取ってはくれないのよん」


「あんた、本当に何も知らないのね」


 リリィに茶化されるが、本当に何もわからないのだから仕方がない。

 人の波をグイグイと進むようにマッドたちに案内されて道具屋の前についた。

 中に入ると、奥のカウンターには店主が一人いてキセルタバコのようなものをふかしていた。


「いらっしゃい。何をお求めで?」


「マナポーションの買取をお願いしたいんですけど、できますか?」


「できるよ。どれ、まずは鑑定するからマナポーションを出しておくれ」


「鑑定?」


 なんだそれはと思っているとリリィが耳打ちしてきた。


「本物かどうか調べるのよ。偽物だったら大変でしょ。商店を開いている店主はみんな鑑定スキルを身につけているの」

挿絵(By みてみん)


 ああ、なるほど。そういうことか。なら、さっさと鑑定してもらってお金に変えてもらおう。


 ショルダーバックに手を突っ込みながら、小声で「オープン」と唱え、如何にもバックから取り出したかのようにマナポーションを取り出した。

 全部で10本。どうせ俺は魔法は使えないので全部売っても問題ないだろう。


「それじゃ、失礼するよ。スキル『道具鑑定』」


 マナポーションを持った店主の両手が淡く輝きだし、暫く黙っていた店主が突然驚きの声をあげた。


「―――な、なんだ! これは!!!」


「ど、どうかしたんですか?」


 内心俺はビクついてしまった。『ソウルガチャ』で入手した物だから何かしら問題でも出てしまったのかと思ってしまう。


(なぁ、ゴンザレス。『ソウルガチャ』で手に入れたアイテムを売るのはやっぱり拙かったか?)


『いえ、問題ないと思います』


(そ、そうか)


 ドキドキしながら店主の次の言葉を待っていると、店主が俺の方へを顔を向ける。


「き、君! これをどこで手に入れたのかね! ただのマナポーションでこの効果はありえない。鑑定スキルが間違うはずがないし……」


「おいおい、ご主人。どうなされた? ワシらにもわかるように説明してくれ」


「あ、ああ。すまない。取り乱してしまった。通常、マナポーションの魔力回復量は知っているかい?」


「確か回復量は100だったはずです。それがどうしたのですか?」


 魔導士であるミーナが代わりに答える。


「そうだ。だが、このマナポーションは違う。『使用者の最大魔力量の30%分』と鑑定スキルの結果が出たのだ。上級マナポーションでさえ回復量は500だというのに……。

 魔力量の少ないものからすれば、通常のマナポーションの方がいいだろう。だが、魔力量の多いものが使えばどうだ? 回復量の桁が違いすぎる!」

 

 店主の言葉を聞いて、今度はマッドたちの驚きの声が上がる。


「なっ!!―――――」


 やばい……。流れが変な方向へと流れ始めている。

 なんとかして誤魔化さないと。


「君、このマナポーションは値を上げて全て買い取ろう。それと、これをどこで手に入れたか是非教えてくれないだろうか」


「すみません、実はそれ俺も貰い物なんで、よくはわからないんです」


 店主はじっと俺の目を見ていたが、これ以上聞き出せないと悟ったのだろう。諦めたのか溜息をつきながらキセル型のタバコをふかし始める。


「そうか。残念だが仕方がない。では買取の値段の話に戻るが、通常マナポーションだと売値で3000ルピー。買取となるとその半額の1500ルピーなのだが、このマナポーションはそうだな……。

 1つ5000ルピーでどうだろうか?」


「「「5000ルピー!?」」」


 俺以外の皆が驚いていた。

 俺としてはこの世界の貨幣の感覚がまだわからないので、言われたままの金額で返事をした。


「じゃー、それでお願いします」


「おお、そうか! ありがとう。では今お金を用意するから暫くそこの席で待っていてくれ」


 店主はそう言うと部屋の奥へと入っていく。

 言われた通りに席につくと、何やらリリィ達が円を描くように肩を組んでヒソヒソ話をしていた。


「おいおい、買取で5000ルピーって、売値だと10000ルピーってことか? どんだけ凄い薬なんだよ」


「ねぇ、もしかしてさっき私の傷を治してくれたポーションもまさか同じようなものなんじゃ……」


「や、やめてよねリリィちゃん。怖いこと言わないで」


「ねぇ、私たちとんでもない人と関わりを持ってしまったんじゃないかしらん」


 おーい、そのヒソヒソ話、聞こえてるぞー。


 しかし、皆の話を聞いている限り相当凄いものだったのか。

 フーリ村長、目立つ行動は取るなと言われたばかりなのにごめんなさい。既に目立ってしまいました。

 などと考えていると店主が奥から戻ってきた。その手にはズッシリと詰まった布袋があった。


「お待たせしました。50000ルピーでございます。ご確認ください」


 金貨が詰まった布袋を受け取り、俺は中に入っている貨幣を数える。


「はい、金貨50枚確かに入っていました。買取ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ中々に有意義な取引でした」


 そう言って、店の外へと出て行く。


「よし、お金ができたぞ。マッド、このお金で武器や防具を買いたいんだけど、店まで案内してもらってもいいかな?」


「ああ、構わん。なんだシノ、お前冒険者にでもなるつもりなのか?」


「ええ、まぁ。武器・防具を揃えたらハンターギルドにも案内してもらおうと思っていました」


「へぇー、あんた冒険者になるつもりだったの? あ、でも空間魔法を扱えるくらいだから、結構なLvなんでしょうね」


「え?」


 リリィにLvのことを聞かれ、暫しの沈黙。


「え?」


 今度はリリィの方が疑問形で返してくる。


「シノ、あんたLv一体いくつなのよ」


「そうだぞシノ。Lvが低いと討伐クエストで死ぬことだってあるんだぞ。いくつなんだ?」


 背中に変な汗が流れ始める。言っても大丈夫だろうか。


「ええっと、Lv……1です」


 4人の顔がポカーンとしている。


「はぁ!? あ、あんたさっき上位魔法である空間魔法を使っていたじゃない! ミーナがそう言ってたから私てっきりLvが高いものだと思っていたわよ!」


「ミーナ、空間魔法はLvが低くても使えるものかしらん? 私その辺よくはわからないわ」


「あ、ありえません。魔法は強さに比例して上位魔法を使えるようになるのに……。シ、シノさん、ステータスのことを聞くのはタブーなことなのですが、あの、魔力だけでもお聞きしてもいいでしょうか」


(ゴンザレス、俺の魔力ステータスいくつだっけ……)


『0(ゼロ)です』


(ワン・モア・プリーズ)


『0(ゼロ)です』


 デスヨネー。


 しょうがない。腹をくくるか。


「えっと、魔力は……0です」


 また4人の顔がポカーンとしている。暫しの沈黙。


「「「はあぁぁあ!?」」」


「どういうことよ、それ! 魔力なしで魔法は扱えるものなの? そこのところ説明してミーナ!」


「ちょっと、リリィちゃん無茶なこと言わないでよ。私だってわからないわよ」


「おい、ボナ。アレを使って確認してみるか?」


「ちょっとマッド、本気? あれ結構高いのよ。いざという時の為に買った物なのよん?」


 おいおい、なんか物騒な話の方向へいってないか? 


 どうする、ここまで親切にしてもらって逃げるのもなんだしな。もう少し様子を見てみるか。


「なぁ、シノ。実は相手のステータスを確認する魔導具「神のお告げ」という物を持っているんだ。一回ポッキリの使い捨てだけどな。それでお前のステータスを確認させてはもらえんだろうか?

 シノの話を聞いていたら矛盾すぎて頭がこんがらがってきてな。何、スキルまでは表示されないから安心してくれ。ただ、お前の言っていることが真実なのかだけ確かめさせてはくれないか?」

 

 マッドは真剣な目で俺の顔を覗き込んでくる。

 

 ああ、そうか。得体のしれない俺という存在が怖いのだろう。

 そうだよな、俺だって親切にしてもらった人たちに不安を与えて怯えさせたくない。


 俺はステータス補助アイテムである『アジルタの指輪』をバレないようにスっと外す。


「構いませんよ。マッド達がそれで納得してくれるのなら」


「そ、そうか。すまんな。ミーナ」


「はぁー、はいはい。シノさん気を悪くさせたらごめんなさい。マッド、1度ああなったら言うこと聞かないのよ」


「いえ、大丈夫です」


「それじゃ、やるわね?」


 ミーナはバックからA4サイズくらいの洋紙と羽のついたペンを取り出すと、ペン先を俺へと向ける。


「セット、対象者のステータスを表示せよ」


 すると、俺に向けられていた羽のついたペンが輝きだし、浮かびながら洋紙へと文字を書き込んでいった。


 

 -------------------------


 名前:東雲 透

 

 Lv:1

 

 体力 :24 


 筋力 :30


 防御力:10


 素早さ:25


 魔力 :0



 -------------------------


「あ、本当にLv1だ。魔力も0。シノの言っていたことは本当だったわね。マッドー、シノに何か言うことは?」


「シノォォォォォ! 本当にすまんーーーー!!!」


 マッドがもの凄い勢いで土下座し始めた。


「いえ、ほんと気にしてないので土下座はやめてください」


「しかし、一体どういうことかしらん。魔力0で魔法を扱えるなんて不思議だわ」


「もしかしたら、先天的な能力なのかもしれませんね。これ以上はなんとも言えませんが、魔導は解明されていない部分もありますし……」


 ボナンザとミーナは土下座して野次馬を集めているマッドを無視して談義している。


 いやいや、二人共このマッドを止めてくださいよ。もの凄く恥ずかしいんですけどこれ。


「シノ! ワシを! 殴ってくれ! 疑ってしまったワシをそれで許してほしい!」


 うわー、引くわー。公衆の面前でそんなことすると思っているのか。

 よし、やってやろうじゃないか。これ以上野次馬を集めるのも羞恥プレイな気がして嫌だし、さっさと言われた通り殴ればマッドも気が収まるだろう。


「わかった。マッド、一発だけ殴らせてもらう」


 俺は外した『アジルタの指輪』をまたスっと嵌める。


「歯、食いしばれよマッド」


「ああ、ばっちこい!」


 俺は言われた通りに拳を握り脇を締め、力を込める。


「ちょっと、マッドはLv25なんだからLv1のあんたが殴っても―――」


 リリィの声は無視し、俺は全力でマッドの顔に拳を振り抜く。


 もの凄い鈍い音がしてマッドが数メートル吹っ飛んだ。


「ブハァァァ!!」


 リリィたちは吹っ飛んだマッドを呆然と眺めていた。


「ナニコレ、さっきシノがLv1なのを確認したはずなんだけど……。なんでLv25のマッドが吹き飛ばされているわけ?」


 俺はポーションを取り出しながら吹き飛んだマッドの元へと、慌てて駆け出していった。




 ◇



 

「ガハハハハ、シノお前は不思議なやつじゃのう! まさかワシを吹き飛ばすとはのう」


 武具屋へ向かう途中、マッドは高らかに笑っていた。

 刹那、ミーナがマッドの顔面にアイアンクローをかます。


「ぐわ!! いだだだだ! ミーナいきなりなんじゃ!」


「マッド……わかっているの? シノさんの貴重なポーションを貴方の下らないことに一本使わせてしまったのよ?」


「わ、悪かった! 許してくれ! この通りだミーナ! ぶくぶくぶく……」


 ミーナのオーラがどんどんドス黒い色になっていき、マッドの両腕がダランとぶら下がる。

 その笑顔でそのオーラはやばいです……。そしてマッドの生死もやばいです。


「シ、シノ、すまんがもう一本ポーションを……くれないか……ガクッ」


「あわわわわ、ミーナ、その辺で勘弁してあげてください。俺は別に構わないので」


「そう? シノさんがそうおっしゃるのなら」


 ミーナがアイアンクローを解くとマッドはその場に崩れ落ちる。


「ちょっと、ミーナ? マッドを不能にしてどうするのよん。これを引きずりながら歩くのはごめんだわ。ノンノン」


「大丈夫ですよボナ。武具屋はもう目の前に見えていますから」


 ミーナが指を指す先には武器と盾の看板が立てかけてある建物が見える。


「あらやだん。ならいいわね」


「そうね、自業自得ね」


 いや、良くないですからボナンザさん、リリィさん。

 しょうがない。俺があそこまで担ぐか。幸い『アジルタの指輪』で筋力上がっているから行けるだろう。


「俺がマッドを担ぎますよ。よいしょっと」


 武具屋に向かって歩いていると、ボナンザが隣に寄ってきた。


「しかし、シノッチ。貴方って不思議ね。Lv1なのに筋骨隆々のマッドを平気で担ぎ上げるし」


「は、はははは……」


 乾いた笑いで誤魔化しながら、武具屋の入口に着くとそのまま中へと入っていく。


「こんちわー」


「へい! いらっしゃい! お客さん、何をお求めで?」


 うわ! マッドに負けず劣らずの筋骨隆々な店主だな。厳つい顔にスキンヘッドが異様に似合っているし。


 俺はマッドを店内の設置されている椅子にかける。


「えっと、武器と防具を一式揃えたいのですが、初心者でも扱える武器ってありますか?」


「お客さん、Lvはいくつで?」


「Lv1です」


「となると、その筋力で扱える武器のカテゴリーは「片手剣」・「槍」・「弓」・「投擲剣」・「鞭」の5種になるな。Lvが5以上の筋力があれば「両手剣」・「斧」など扱えるんだが」


 そりゃそうだ。身の丈にあった武器でないと扱えないわな。さてどうするか。この5種の中から選ぶとなると、やはり「片手剣」か「槍」だろうな。


 「弓」や「投擲剣」なんか維持費がかかりそうだし、何より当てられるかどうかが問題だ。


 「鞭」も難しそうだしな。


 うーん、迷うな。


『マスター。選ぶなら「片手剣」がよろしいかと』


(え? ゴンちゃんその心は?)


『切り札である『暴竜・ファルベオルク』を扱うとき、同じ剣の方が体も対応しやすいからです』


(なるほど、一理あるな。流石ゴンザレス。参考になったよ)


『お役に立てて何よりです』


 ゴンザレスの最後の口調が柔らかいものになっていた。


 「……―――――。」


『どうしたのですか? マスター』


「あ、いや、なんでもない」


 あ、やべ。つい言葉に出しちまった。


「?」


 チラリと店主を見るが特に気にはしてないようだった。

 ふぅー、危ない危ない。ゴンザレスのちょっとした変化にドキリとさせられるとは。


「シノ? 何にするか決まった?」


「あ、うん。片手剣にしようと思う」


「あいよ! 片手剣はこっちの棚に飾ってあるから見て行ってくれ」


 店主が指を指す棚にはズラリと多種多様な片手剣が陳列されていた。


「おー、凄い。いろんな剣があるな。お、これなんかかっこいいぞ」


「そいつは岩の魔物ギガントロックの体内から取れる鉱石から造られた剣だ。強固なんだが何分重さが半端ねぇ。その陳列棚だけ重さに耐えられるように強化してる程にな。それに今のにーちゃんじゃ扱えないぞ。ビギナー用としてはその2つ下にある『クロームソード』がお勧めだ。そこそこの耐久力と切れ味がある」


 ほほー、なるほど。店主が進めるくらいなんだからLv1のビギナーとしては性能的にも問題ないのだろう。それに、身の丈にあった装備をしていたほうがいいしな。


「値段はいくらなんですか?」


「1200ルピーだ。どうする?」


「じゃー、それください」


「へい! 毎度ありぃ!」


 後は防具か。これも店主お勧めを聞いてみるか。


「店主、防具も欲しいんだけどお勧めはありますか? できれば動きやすいのがいいんだけど」


「それなら、その剣と同じクローム素材の軽装備があるぞ? 値段は2500ルピーになるがそれ一式でいいか?」


「じゃーそれください」


「あいよ! 毎度ありぃ! にしてもその変わった服装じゃ格好がつかねぇから、サービスで装備に合う服装もつけてやらぁ」


 それは凄く助かる。服装はどうにかしたいと思っていたところだ。


「マジですか。店主、粋な漢だね! 漢の中の漢とは店主の様な人をいうのかもしれませんね!」


「かぁ~~~、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、にーちゃん! 気に入ったマントもサービスで付けてやらぁ!」


「あざーっす!」


 店主と二人して笑い合う。こんなさっぱりとしたおっちゃん好きだわー。


「シノさんって、案外……」


「ま、いいんじゃない? 冒険者はお金が掛かる職業だもの。店主に気に入られて値引きとかしてもらうのはよくあることよ」


 お金を支払い、サイズの合う装備を見繕ってもらっている間に、マッドが目を覚ました。

 そしてハンターギルドへ向かうべく店を出るのであった。



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