103.ライラ② ★
70話の一部のガチャアイテム説明文を変更しました。
ラファーガルから竜剣を製造した本人であるライラは驚いていた。
竜剣本来の力を目の当たりにし、まさか眼中になかった者がそれを使いこなす。
力を解放しただけであれほどの余波だ。驚くのも無理はない。
「竜剣との契約……。まさか、固有の能力か……? いや、しかし契約の方法なんて書かれてなかったはずだ」
ブツブツ独り言をいうライラの目の前に、竜剣を地面へと突き刺す。
竜剣は諸刃の剣。持ち続けると『ソウル』が減り続けるので、とりあえず手を放す。
「約束通り、この剣はこちら側に返してもらう」
「あ、ああ。あたいとしても、封印されるよりはいい。それにしても、あんた一体何者なんだ? 古代文献にも詳しく載ってない秘密を知っているなんて……」
どうやら竜剣の契約については詳しく知らなかったらしい。まぁ、俺もゴンザレスに教えられて知ったんだけどな。もしかしたら『血の契約』は隠し要素なのかもしれない。
さて、何て答えようか。彼女は『土の宝玉』を守護するミスルドワーフの一族だ。まずはその辺から突いてからの方が、こちらの素性を明かしやすいだろう。
万が一にも、同じ一族だからといっても宝玉について知っているか分からないしな。
「その前に質問させてくれ。あんたはミスルドワーフ族なんだよな? 『元素の宝玉』というのを知っているか?」
もし、知っているのならミスルドワーフの巫女に案内してもらえるかもしれない。
絶対、隠れ里になっているだろうしなぁ。
などと思っているとライラは急に後方へと飛び上がり、炉の近くに立掛けていた巨大な金槌を構えた。その大きさはライラの身長と変わりない。
ライラの顔が険しくなる。
「えっと、ライラさん?」
殺意を向けられて俺は戸惑った。NGワードだったのだろうか。
「お前、里の秘密をどこまで知っている。宝玉について何処で知った!」
「待った待った! ライラさん落ち着いて!」
「あたいに古代武器を造らせ、あまつさえ宝玉の力をつけ狙うか!」
あかん! なんか賊と間違えられてる!
「……そうか、あたいをここに連行してきたのはこの為だったのか。くっ、しかも、あたいの体も狙っているなんて……」
いやいやいや、 それジークですから。
この人もポンコツ脳筋か!
兎に角こちらの話を聞いてもらわなければと思っていると、ゴンザレスが前に出てきた。
「ライラさん、落ち着いてください。私たちは敵ではありません。マスターは貴方たちで言う『神の使い』にあたります」
ゴンザレスの言葉にライラの動きが止まる。信じられないといった表情だ。
「その男が神の使いだと?」
「ええ。ですから矛を収めてください」
「ゴンちゃ――。この子の言っていることは本当よ。私も『風の宝玉』を守護するエルフ族の巫女。というより、なる予定だったんだけどね。シノは既に『風』と『水』の宝玉を所持しているの」
リリィが俺の顔を見て頷く。
俺は左手の指に刻まれたルーンを見せると、ライラは無言でルーンを見つめてきた。その瞳は薄く光っている。
パキンッと、炉から火の粉が吹き上がり沈黙が流れる。
納得してくれたのだろう、ライラが構えを解くと傍に控えていた騎士隊長達も戦闘態勢を解除する。
ライラが武器を取った瞬間に、騎士隊長達は武器を構えていたのだ。 流石、王国の精鋭騎士である。
「その左手のルーン、本物のようだな。しかも、浄化されている状態か」
「見て分かるのか?」
「ああ」
驚いた。竜剣の呪いも効かず、『元素の宝玉』の状態も看破してきた。彼女は一体……。
「不思議がっている顔だな。ふふん。ああ、そりゃ分かるさ。あたいはミスルドワーフ族の巫女。『土の宝玉』を守護する者さ」
「「「え!」」」
この場に居た者全員が驚く。いや、全員というのは語弊か。ゴンザレスは驚くというより、納得というような顔をしている。
「やはりそうでしたか。貴女が竜剣を手に取った時に感じた力は宝玉の力でしたか」
「ゴンザレス、どういうことだ?」
「えっとですね――」
「ああ、それはあたいが宝玉の力を利用していたからさ」
ライラはゴンザレスの言葉を遮った。
「利用?」
「ああ、そうさ。あたいらは宝玉の力によって寿命を縮められる。巫女の前にあたいは鍛冶職人だ。
魔剣を製造するのがあたいの本懐。この世界を維持するためにこの命を張ってるんだ。
その膨大なる力を利用して古代武器造りをしたって罰はあたらないだろ? なぁ? 神の使い殿?」
ニヤリとライラが笑う。
ライラの言い分に開いた口が塞がらない。確かに命張っているんだ、少しの役得は分かるが……。
なんというかまぁ、逞しいというか。
「巫女としてどうかと思うけど、宝玉を守護するだけあって力の使い方が慣れているわね。この武器の呪いも効いていないということは――」」
「ああ。こいつの力で相殺させている」
ライラの左手にはオレンジ色に薄く光るルーンが刻まれていた。
「え、大丈夫なのそれ!?」
「元素のバランスが崩れないように調整してたし、常に乱用しているわけじゃないからな。ちょびっとくらい平気だろ」
「いや、だめでしょ」
リリィは呆れる。
「それに、こうして目の前に『神の使い』が現れたんだ。宝玉を返還すれば問題ないだろ。てことで、ほれ。あんた、えっと――」
「シノノメ・トオルだ」
「シノノメか。それじゃシノノメ、受け取ってくれ」
ライラの左手のルーンが宝玉へと具現化していく。そしてそのまま俺の体へと吸い込まれていった。
左手に新たなルーンが刻まれる。
これで集めた宝玉は3つ目だ。なんだか今回は簡単に手に入ったな。
「さてと、武器の担い手は現れたし、宝玉も返還した。肩の荷が下りた気分だぜ」
両腕を伸ばし背伸びをするライラにドラガスが近づいて行った。
「んで? 騒ぎを起こしたあたいは逮捕かい?」
「いや、武器も戻った。しかも宝玉を守護していた渦中の人物だ。我々はそこまで不義理ではない。不問になるだろう」
「そうかい。そりゃ良かった」
「そこでだ、ライラ殿。貴女は魔剣を造れると言っていたな。魔法武器は数が少ない。我が国の専属鍛冶師となってくれぬだろうか。もちろん、報酬と待遇は約束する」
「おーおー、あたいをスカウトかい。んー、どうしようかねぇ。この国の蒸留酒は美味いし、武器を造るのはやぶさかではないが……」
ライラの歯切れが悪い。どうしたのだろうか。
「残念だが、魔剣製造は宝玉の力をちょびっと借りて出来てたことだ。周知の事だと思うが、そもそも属性武器は成功確率が極端に低い。
特殊な鉱石に永続的に属性を定着させるのが難しいんだ。おいそれと出来るものじゃない。例え属性付与が成功したとしても、『特殊スキル』が発現する確率は更に低い。今のあたいにはもう無理だ」
「そうか……。残念だ」
ん? 『特殊スキル』の有無?
「なぁ、属性が付与されていれば必ず『特殊スキル』が付いてくるものじゃないのか?」
「いや、属性付与のみの武器と、属性付与と『特殊スキル』を備えた武器の2種類がある。後者の武器は主にダンジョンとかで発見されるのが多く、希少価値が物凄く高い。
といっても、属性付与だけでも希少武器だがな」
なるほど。
以前セシリアに譲渡した武器は『特殊スキル』持ち。セシリア本人も勿論、ジーク達も「え、マジであげちゃうの?」って顔してたな。
ランクは『 HR 』だが、そんなに希少価値があったのか。
離れた所でジーク達3人がウンウンと頷いていた。
「あれ? シノが持っている武器って、全部『特殊スキル』ついてなかったけ?」
「ほう? 私・が! 製・造・し・た! 竜剣! を使いこなす男だ。『特殊スキル』の武器を持っていてもおかしくはないのだろう。どれ見せて見ろ」
何故か誇らしげにライラが武器を見せろと要求してきた。なんか雰囲気がグレゴリーに似ているな。
とりあえず、無難な『炎剣・イグニア』と『雷鳴剣・ヴァイザー』を収納空間から取り出す。
どれも『 HR 』の武器だ。
ライラに渡すと凄い興奮していた。
「むほおぉぉ! いい業物じゃないか! この『特殊スキル』、いかにも強そうだ! ハァ、ハァ」
どうやら『鑑定』で確認したようだ。
『 HR 』の武器でこの興奮。『 SR 』の武器を見せたらどうなるだろう。
もう一つ試しに『 SR 』の『流星の槍』を収納空間から取り出してライラに渡す。
「うぼふっ!!」
変な声が漏れだした。相当興奮しているのを見ると、ライラは相当武器が好きらしい。鍛冶職人だしな。
「これ『特殊スキル』が2つ付いてる!? ありえない!! なんだこれは! ハァ、ハァ、ハァァン!!」
ライラがビクンビクンと痙攣し始めた。あの、騎士隊の皆さんドン引きしてますよ。
ちょっと面白いので『 UR 』の武器、竜剣を数本取り出したらどうなるだろうと考えていたら、リリィに止められた。
「シノ、もういいから」
その顔はちょっと赤くなっていた。
◇
落ち着いたライラが武器を返してきた。
「はぁ、はぁ。眼福だった。あたい、ちょっと興奮しすぎた」
ちょっとどころじゃなかった気がするが。まぁ、喜んでくれたならそれでいい。
「なぁ、鍛冶に強いドワーフでも魔剣造りは厳しいのか?」
「ああ。『特殊スキル』持ちを製造できるのは現代のドワーフの中ではいないはずだ。
唯一、ドワーフ族の中で製造できたのは遥か昔に存在したという英雄、女傑カトリアだけだ。
伝承曰く、彼女が使う金槌は『鍛冶神ディフィカリテ』から授かった物だという。その金槌で製造した武器は――」
ディフィカリテ? どっかで聞いたことのある言葉だな。
くいくいっ。
「マスターっ」
袖を引っ張ってきたゴンザレスがホログラムでガチャアイテムの表示をだしてきた。
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アイテム名: ディフィカリテの金槌
ランク :『 HR 』
説明 :
ドワーフの英雄、女傑カトリアが愛用していた鍛冶用の金槌。
魔法属性を付加するにあたっての成功率は100%。
『特殊スキル』を付与するにあたっての成功率は50%。
ドワーフにしか使えない神々の逸品。
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流石、ゴンちゃん。痒いところに手が届くとはこのことだ。
俺はアイテム収納から『ディフィカリテの金槌』を取り出す。
「信憑性を疑うかもしれないが、これもドワーフ族に伝わる文献に外見が書き残されて――」
「ライラ、これがそうか?」
「うぼふっ!!」
ライラは俺から『ディフィカリテの金槌』を奪い取ると、それを凝視し始めた。
『鑑定』スキルを使っているのだろう。そしてまた「うぼふっ!!」と声をあげる。
どうやら同じ物のようだ。
「本物!? 待て待て待て! 文献にはカトリアの死に際に神へと返還されたと書いてあったぞ!? 何故シノノメがこれを持ってる!」
うわっ! 顔が近い近い!
「偶然手に入れて……あ、あはははは」
「ぐぬぅ、秘密と言うか。……さっきの武器といい、これは『神の使い』の固有能力だろうか(ブツブツ)」
この女、ポンコツ脳筋の癖に鋭いな。
腑に落ちないといった感じでライラは俺から離れた。
「ま、まあいい。ほら、返す」
そう言いながら『ディフィカリテの金槌』を名残惜しそうに見ている。
この金槌、ドワーフ専用って説明が書いてあったな。ライラに使ってもらった方がいいだろう。
「それ、ライラにあげるよ。俺が持っていても使えないしさ」
「へ? い、いいのか!?」
「ああ。その代わり、武器製造の件を引き受けてやってくれないか」
「あんた良い奴だなぁ!!」
突然ライラが抱き着いてきた。豊満な胸に顔が埋もれて息ができない。
「あー! ライラ何してるのよ! シノから離れなさい!」
「っと、わりぃわりぃ。ついつい嬉しくてな!」
リリィとゴンザレスがライラを引きはがす。
「ようし、グランドマスター殿、さっきの武器製造の件、引き受けてやんよ」
「何! それは真か!」
「ああ、ただし。さっきの条件とは別に、武器製造は暫く待っていてくれ。こいつの最初の1本目は――」
ライラは『ディフィカリテの金槌』を見つめ――。
「シノノメに造ってやりたいんだ」
ふわりと振り返り、俺を見つめてきた――。
「では、シノノメ殿の武器の材料はこちらで用意しよう。交渉してくれたシノノメ殿への我々からの誠意だ」
「お、グランドマスター殿、話しが分かるねぇ!」
鍛冶場にはライラの威勢のいい声が響いた――。




