102.ライラ①
俺たちはグランドマスター事ドラガスにミスルドワーフが立てこもっている鍛冶場へと案内されていた。城内の端に臨時で鍛冶場を設けたようだった。
特殊な武器を製造するため、それに相応しい設備と環境を職人に提供するためらしい。
金の使いどころが凄いと思う。アムールの武闘会も相当な金がかかってたんだろうなと思いつつ、後ろを振り返る。
「にしても、よくミスルドワーフをスカウトできたな? ユノ」
「え? あ、うん。実は、レガルの酒場で酔って暴れていたのを取り押さえたらミスルドワーフだったんだ。ほんと、大変だったんだよ? 酒場はもう滅茶苦茶」
「うへぇ。酒乱かよ。酒癖悪い女はダメだな」
「まさかジーク兄さん、その鍛冶師を口説こうとか考えてないでしょうね」
何故か他の隊長達も話しながら後を付いてきている。
隊長クラスって暇なのか?
ソフィに釘を刺されたジークは口笛を吹き始めた。
「でもまぁ、鍛冶職人として武器製造を手伝ってくれるのなら司法取引で釈放するって条件出したんですけど……はぁ」
ユノは肩をすくめ溜め息を吐く。
話を聞いている限り、その人はかなり豪快な人のようだ。ドワーフか……。
『ミスルドワーフ』――。
東のレガル地方に住むドワーフ族の亜種で、一般的なドワーフとは違うらしい。
聞いたは話だとドワーフ族の男は低身長で筋肉隆々かつ成人では濃い髭を生やし、女性とは言うとポッチャリ体系で恰幅がいいとのこと。
俺の世界のドワーフのイメージと一緒だが、ミスルドワーフ族は美男美女の部族というのだ。希少種族のため滅多には表沙汰には出てこない。
きっと、宝玉を守護している一族はその生活を秘匿しているんだろう。リリィの村や、マーメイド族はその存在を隠していたようだし。
しかし、その職人はそんなの関係ないみたいだが……。
「まぁ、それだけ職人気質ってことだろ? 気持ちは分からなくもないがな」
アリゲルはジークの言葉に賛同しているのか腕を組みながらウンウン頷いている。
大理石でできた広い外廊下を歩いていると音が聞こえてきた。金槌で金属を叩いているような音だ。
ローランが怪訝な表情をし、ドラガスの肩に手を乗せる。
「なんだ、鍛冶場の方から音が聞こえてくるぞ。駄々を捏ねて立て籠ってるんじゃなかったのか?」
「うむ。そうなんだが……」
音のする建物にたどり着く。ここが鍛冶場のようだ。
重厚な扉には薄く光るガラスのような膜が張られている。これは一体なんだ?と思っていると、ゴンザレスが膜をつつく。
「扉に結界が張られてますね」
「ほー。分かるかお嬢さん。幼いながらも魔道の知識を持つとは博識だな」
ドラガスは孫に接するような態度でゴンザレスを褒めているが、ゴンザレスの認識能力はチートみたいなものだからな。
そのお陰でピンチを乗り切ったこともある。
尻尾を振りながら「えへへ」と笑うゴンザレス。
うん、かわいい。
「はうっ!」
声のした方へ視線を向けると、ローランが胸に手を当てて頬を赤らめながら「か、かわいい……」と呟いている。
うんうん。あんたも分かるかと頷いていると、、ニカが憐みの表情で肩を叩いてきた。
なんなんだ? と思っていると、ドラガスが重厚な扉の前に立つ。彼は大きく息を吸い込み――。
「ライラ殿!! 貴殿が求める者を連れて参った!! この結界を解除してもらえぬだろうか!」
一定リズムで鳴り響いていた音が止まる――。
暫くすると、扉の結界が霧散していく。
どうやら中に入れということだろう。
ドラガスは重厚な扉を開け放つと、中から熱気が吹いてきた。皆、中へと入ると、赤く燃える炉の前にいる一人の女性が出迎えてきた。
その姿は話通りの美人だった。長身で引き締まった体、その胸元は豊満。ざんばら髪の長髪だがその顔は整っており美人の部類だ。
しかも熱い炉の前で作業していた為か、汗ばんだ姿は男心にグッとくるものがあった。
(うっわ、うっわ! すっげー美人! やっべぇ!)
(ちょっと、ジーク兄さん……!)
小声で騒ぐジークの気持ちも分からなくはない。というか、はしゃぎすぎ。
「よう。やっと連れてきたか。この最凶の剣を扱える者を――。」
女は大きな石造りの台座に置かれていた大剣を手に取り、目の前の地面に突き刺した。
炉の熱によって照らされている片刃の刀身は、鈍色に輝いている。
どことなく禍々しいその造りは、俺が持つ竜剣と同等の物だろう。
竜剣の力は凄まじい故、扱うのは命懸けだ。
俺のソウルを扱う能力によって力を引き出しているというのに、この女はどこ吹く風で剣を握りしめている。
一体、何者なんだ……。
「うむ。唯一、その武器を扱えるだろう者をここに連れてきた。それが彼――」
振り向いたドラガスの動きが止まる。
何故なら、いつの間にかジークが俺の前に立っていたのだ。
ジークは額に片手を添えてニヒルな笑みを浮かべている。
(あのバカ、また悪い癖が出てきたな)
(いや、あの者は私にこそ相応しい!)
(わくわく。わくわく)
(ローランさんもニカさんも大概にした方が宜しいかと……)
(はぁ……。若さって奴かねぇ)
他の騎士隊長達は呆れていた(一部を除く)
「ちょ、ちょっとジーク兄さん――」
ジークは素早い動作で腕を上げ、ソフィを牽制する。
「待て、ソフィ。俺に良い考えがある」
「に、兄さん!?」
急に真顔になったジークにソフィはたじろぐ。
ジークは姿勢を正し、女へと見つめる。
そんな姿にニカはラクスの後ろで笑いを堪えていた。
「俺の名は王国騎士隊・7番隊長ジーク=ジークフリートだ。名を、聞いてもいいか?」
「あたいかい? あたいの名はライラだ」
「ライラか。良い名だ」
ジークは移動しライラの前に対峙する。二人が見つめあう形だ。
「一つ確認だ。あんた、そこの大剣を扱える者を求めているんだよな?」
「ああ、そうだよ。あたいは鍛冶師だ。これはあたいが製造した武器の中で最高傑作。それを封印指定だなんて許さない」
ライラは愛おしそうに大剣を撫でる。
「つまりだ。それを扱える者は、あんたに認められるってことでいいんだよな」
「あ? そうだが、一体何が言いたいんだい?」
ジークは目を閉じ――。
「俺が扱えたら、ライラ――! 俺の嫁になってくれ!!」
くわっ!!
ジークの渾身のプロポーズが放たれた。
(ぶふぅッ!!)
ラクスの後ろでニカが笑いを堪えきれずに噴出す。
(ジーク、俺は知らんぞ……)
(馬鹿か、あの女はジークには不釣り合いだ)
(あひゃひゃひゃひゃ! ひー、笑いじぬ!!)
(ローランさん! ニカさんも自重してください!)
(若さっていいなぁ。勢いがあって)
他の騎士隊長の反応を尻目に、ジークは真剣な顔をしていた。
突然のプロポーズにライラは目が点になって固まっていた。
「ぷっ、ふははあっはははは! なんだい? あんたあたいに一目ぼれかい? いいよいいよ。この剣を屈服させたら、あんたの嫁にでもなってやらぁ。
いつかはあたいも子を宿さないといけない身だしね。あはははは、ひー、おかしい。男にモテたことのないあたいがねぇ。まさかこんな場所で、あははは」
ライラは何が可笑しいのか盛大に笑う。
「本当か!?」
「ああ、ただし――。扱えなければお前を男として認めない。
あたいは、鍛冶職人。武器の製造に命を懸ける。命を懸けた武器に不釣り合いな男は旦那としては認めない」
ライラの目が冷たいものへと変わる。
「上等ッ!! 燃えてきたぜ!!」
ジークが吠えると、その体に烈火の炎が立ち上る。
そんなジークにゴンザレスとリリィは苦笑いをしている。
「ジークさん、アイルの時も似たようなこと言ってなかったっけ?」
「ですね。予選試合の時ですね」
「そうなのか? あの時はスクリーンに気を配らなかったからな。そんなやり取りがあったんだな」
「うん。あの時のアイル、満更でもなかったよ?」
「ですです。観客席の女性の声援も凄かったです」
「ジーク、顔はイケてるからな」
顔がいいだけで、人生プラスになるんだろうなぁ。はぁ、つらたん。
突然、リリィが下から顔を覗いてきた。
「私はシノの可愛らしい顔、好きよ?」
歯を覗かせながら、はにかむその笑顔が可愛くて俺は顔が熱くなった。
「お、おう」
照れ隠しに俺はジークへと目を向ける。
そこには気合十分なジークの姿があった――。
◇
烈火の炎を具現化させるジーク。それは本人の気合に呼応するように激しさを増していく。
只でさえ炉の熱で熱せられた空間が、更に温度を上げていく。
額から汗が流れ落ちる。
「ジーク、本気か……」
「馬鹿かあいつは!? 馬鹿なのか!」
「ぶふぅ! 何この展開! 超ウケるんですけどぉ! あひゃひゃはひゃひゃ! ジーク君面白すぎ!」
「あわわわわ! 城内でスキルを本気で使わないでくださいジークさん!」
「熱いな……。いや、若いな……」
「ったく、ジーク兄さんはッ!! ふんっ!」
ソフィが腕を上げ構えると、その体から冷気を放出しだした。
ジークの烈火によって更に熱くなった空間を、ソフィの冷気が空気を冷やす。俺たちの周りの温度が変わる。
「流石ソフィさん! 私、暑いの苦手! 氷の精霊は伊達じゃない!」
「任せて、リリィさん!」
『氷の精霊』と契約しているソフィは冷気を操れる。王都に向かう道中、魔物と戦う際幾度となく目にした力だ。
以前セシリアに譲渡した『ミスリルソード(氷牙)』と同程度の冷気まで出せるとのこと。
ただし、絶対零度の力は短時間しか創れないらしい。自身の肉体にも冷気のダメージが蓄積されてしまうとか。
「それにしてもまだ暑いな……。ジークの奴、本気で炎を出しているのか」
無表情で平然としているように見えるが、アリゲルの額が汗ばんでいる。
極限状態まで能力を出したのだろう。ジークの体に異変が起きた。体表面が少しずつ炭化していってる。
ジークの能力も度を過ぎれば諸刃の力となる。肉体に熱のダメージが蓄積されているようだった。
ライラはというとジークの目の前にいるというのに、熱波を諸に浴びているというのに平然としている。
ありえない。あのライラという女性は何か特別な能力をもっているのだろうか。
「マスター。あのライラという方は――」
彼女の力に気づいたのだろうか。ゴンザレスが何かを言いかけた時、ジークが叫んだ。
「行くぜ! 如何に生命力を奪う武器といえども、極限まで高めた俺の炎を――。俺の熱量を――。俺のリビドーが負けるわけがねぇぇぇ!!」
ジークは地面に突き刺さった大剣を両手で握りしめ――。
「うおおおおおおおおぉぉ――!」
勢いよく引き抜かれ――。
「ォぉぉ――ホァァァアァァ!?」
――ることもなくジークはその場に崩れ落ちた。
炎は霧散し、ジークの顔は悟りを開いたかのような、ラクスの様にやつれた顔をしていた。
「む、無理……がくっ」
「ジーク!!」
アリゲルがジークの下へと駆け寄り、肩に担ぎ戻ってきた。
「こいつ、最後にリビドーとか叫んで倒れたな。欲まみれの屑だな」
「ぶふぅ! ジーク君笑いのセンス有りすぎ!」
「ローランさんもニカさんも言い過ぎなのでは!?」
「あれ? デジャブか? 嫁と一線交えた後の俺のようだな」
酷い言われようだった(一部を除く)
ソフィはと言うと、冷たい目でジークを見下ろしている。
「ジーク兄さん、グランドマスターが怒ってますよ?」
「……ジークよ、お前は女の事になると周りが見えなくなる癖があるな。後でその根性を叩き直してくれる」
傷だらけ(自傷)のジークは小刻みに震え出す。
なんだか哀れに思い、俺は収納空間から残り2個あるポーションを取り出して、その傷だらけの体にかけてやった。
「すまん、シノノメ。助かる」
「いや、うん。そうだな」
それにしても、ジークの炎を一瞬にして霧散させるほど力。あの大剣の呪いは本物のようだ。
竜剣はガチャでしか入手できない武器アイテムかと思ったが、どうも違うらしい。素材さえあれば製造できる。
それが証明された。なら、『リヴァイアサン』も竜剣への製造が可能か。
「なんだい? もう終わりかい色男? 立派だったのは口先だけだったねぇ」
ライラはやれやれと両手をヒラヒラさせる。
「さて、お次はどいつだい? 其処の若い色男2人かい? それとも渋めのダンディズムな男かい?」
アリゲルは「違う」と答え、ユノとラクスは首をブンブンと横に振る。
「じゃー、そっちの坊やかい? 顔はまぁまぁいいけど、体格は他の騎士に比べると……ねぇ?」
なんか小馬鹿にされた気分だ。
「なぁ、ライラと言ったか。その武器、俺が扱えたらもちろん貰えるんだよな?」
ライラはキョトンとした顔をしたあと、また笑い出した。
「あははは、坊やも威勢がいいね。まぁ、本来この武器はあたいの物じゃないけど、ここの連中が扱えないようじゃ持っていてもしょうがないだろ?
あたいは、ただ預かっているだけさ。ねぇ、グランドマスター殿? 欲しければ其処の男に聞きな。ただし、扱えたらの話だろうけどね」
俺はドラガスを見る。ドラガスは「取り戻せたら、王に掛け合ってみましょう」と一言。
そりゃそうか、王族の所有物だもんな。
俺はライラと対峙する。
「ふふ。威勢のいい奴は嫌いじゃない。あんたも、そこの色男と同様にあたいの体に興味あるのかい?」
「いや、別に俺は――」
がしっ!
ゴンザレスとリリィが体に抱き着いてきた。
「ダメ! シノはあたしたちの男なんだからね! 絶対に渡さない!」
「ですです!」
うーん、は、恥ずかしい。
「あっはははは。そうかいそうかい。精々彼女さん達にかっこいい所をみせてやりな。其処の倒れている色男のようにならないようにね」
ライラはどうせ無理だろうと高を括っている。
まぁ、いいか。俺は俺のやり方でやらせてもらう――。
ゴンザレス達は俺の雰囲気を察したのか、その場から離れた。
「なぁ、ライラ。知っているか? 『竜剣』本来の力の引き出し方を」
「あ? 『竜剣』本来の力? 何を言って――」
俺は自らの親指を噛み切る。
突然の行動に、ライラは訝しんだ。
だが、俺はそれを無視して自らの血で契約のルーンを刀身に描く。
俺は契約の呪文を口にする。『竜剣』を従える血の契約呪文を――。
「――告げる。我、汝を従える者なり。汝の身は我が下に。我が身を喰らいてその力を示せ――『翠竜・ラファーガル』!!」
呪文を唱え終えると、刀身が輝き描かれた血文字が溶け込んでいった。
すかさず俺は契約したばかりの『竜剣』を握り左右に振り回す。
「なっ――!」
軽々と持ち上げた俺にライラは驚いた。
「まだだライラ。こいつを仕上げた武器職人のあんたに、『竜剣』本来の力をみせてやる」
「マスター!?」
「ゴンザレス、カウントダウン頼むぞ!」
「え、え!? ええ!! ちょ、ちょっとシノ!?」
俺は『竜剣』を正眼に構え直し――。
「――ドラゴン・インストール、『翠竜・ラファーガル』!!」
起動言語を唱えると、足元に緑色に光る魔法陣が展開していく。
魔法陣の周りに緑色の稲妻のような閃光が走り、さらに輝きを増す。
「ウオオォォォォオオォォォ!!」
魔法陣を通して体の中に力の本流が流れ込んでくる。それは膨大なの力の本流に自我が保てなくなりそうな程だ。
無理やり自我を保とうと叫び咆える――。
「ガアアアアアァァァ!!」
力は余波となって周りへと拡散する。
「わー! マスター! 無茶しすぎですー!」
「ゴンザレスさん、リリィさん! こちらに!」
ソフィは何処からか取り出した盾を前面に展開し、その後ろにゴンザレス達を匿う。
「なんだこの暴風は!? こ、これがこの剣の力なのか!!」
ドラガスの叫び声が響き渡る。
力の本流はさらに大剣へと流れ込み、その刀身を変化させていく。
刀身からは凄まじい力が迸り、可視化するオーラを纏う――。
暴風が止み、稲妻のような閃光を迸させている俺の姿に、初めて見る者は圧倒されていた。
「ライラ。これが『竜剣』本来の力だ」
俺はライラに『ドラゴン・インストール』見せた後、すぐに力を解除した。
「……っ! ……っ!」
ライラは口をパクパクさせながらその場にへたり込んでしまった――。




