100.謁見の間①
100話目!
アレス王国、謁見の間――。
白い大理石に赤い装飾品によってデザインされた広間に俺は案内された。
目の前の玉座には国王であろう初老の男性が座っている。
ソフィから聞いたのだが、男の名はシューベル=サウザ=アレスと言うらしい。
部屋の周りには銀色の甲冑を纏った騎士達が並んでいて、その中に見知った顔が3人。ジーク達だ。
残りの人たちはきっと王国騎士隊の隊長クラスなのだろう。
いかにも強そうなオーラがひしひしと伝わってくる。
なんか、俺すごく場違いじゃないかと思ってしまう。
隣にいるリリィは少し恐縮し、ゴンザレスに至ってはどこ吹く風だ。
少し緊張していると、シューベル王から話しかけてきた。
「よくぞ、参った。シノノメ・トオル殿。嘸かし驚かれているであろう。何せ、王である儂が其方に会いたいと其処の騎士たちに連れてきてもらったのだからな」
いやほんと、まさにその通りである。ソフィから話を聞いたときには驚いた。
エルグ山の件や、ギルドのランクの件の話をソフィ達の口から出た時は処罰される話かと疑ったわけだが、どうやらそうでもないらしかった。
どうやら別の件で話があるらしかっのだ。
シューベル王は一呼吸の間をおいてから口を開いた。
「単刀直入に言おう。お主、『元素の宝玉』という言葉を聞いたことがあるか?」
「――!?」
突然の事で俺は驚いてしまった。
「ふむ。その顔はどうやら知っているようだな。なら話が早い。この場に居る騎士隊長達もよく聞くのだ。実はの、この世界は今破滅へ向かっているようなのだ」
王の発言に周りの騎士隊長達がどよめきの声を上げた。
「お、王よ。突然何をおっしゃいますか」
シューベル王の近くにいた筋肉質の初老の騎士が声をあげる。
「言葉通りの意味よ。これはな、宰相から聞いたのだ」」
「――なっ!!」
「儂も半信半疑だった。しかし、宰相の予言通りことが起きておる。信じるしかあるまい。のう、宰相」
シューベル王の声に反応するように、玉座の後ろから修道女のような女が突然出てきた。黒いベールで被われていて、その素顔は見えない。
妖艶な仕草で王の隣へと歩いてきた。
「ええ。その通りですシューベル王。私の予知では世界は破滅へと向かっている。そしてそれを防ぐことが出来るのは異世界から来たそこの者のみ」
「――!!」
修道女の女の口から異世界という単語が出てきて俺は驚いた。
周りの騎士たちもここの反応を示している。
何故この女、俺が異世界から来たと知ってるんだ!?
それに予知と言っていたか……。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたは俺がこの世界に転移させた人物を知っているのか!?」
「ええ、知っているわ」
「――!?」
これは渡りに船だ。ここに来て、やっと有力な情報を得られる。
なんとしてでも聞きださなければならない。
アイルの話だと俺が『神の使い』だと言うことが分かった。その役割も。
だが――。
「教えてくれ、俺は……。俺のやるべきことは『元素の宝玉』を浄化し、世界の破滅を防げばいいのか? 防いだ場合、俺は元の世界に戻るのか?」
この世界に転移した当初は、元の世界に戻ることに躍起だった。
だが、ゴンザレスとリリィという大切な存在が出来た今、元の世界に戻るつもりはもうない。
もし、役目を終えて強制的に帰還となれば、彼女たちとは別れ離れになってしまう。
それだけは避けたい。
「結果だけを言えば、貴方は元の世界に戻れない」
その言葉を聞いて安堵する。俺はゴンザレスとリリィを見た。
「マスター……」
「シノ……」
二人は俺の袖を軽く摘まんでる。
ああ、そうだ。俺は二人のためにも何としてでも生き残らなければ。
「その様子だと、戻れても戻らないという顔ね。ふふ、貴方たちそういう関係なのね。羨ましいわ。ええ、本当に羨ましい……」
気のせいだろうか。ベールで隠された女の視線がリリィの方へと向けらている感じがした。
「もう一つ教えてくれ。ウェイバーという人物は知っているか?」
宰相の女はゆっくりとした動作で天井を見上げた。
「……ええ、知っているわ。一つ、私からも質問いいかしら」
「ああ」
「ウェイバーという名を何処で知ったのかしら?」
女の声が平坦になる。
俺は正直に言うか悩んだ末、答えることにした。
「この世界に転移した後、真実を垣間見るアイテムを手に入れて、それを使って転移した原因がウェイバーという人物が関わっていることを知ったんだ」
「真実を垣間見るアイテム……。他に見たものは?」
「空に近い塔の天辺に小さな祭壇があった。
そこにはフードを被った老人と耳の長い女性がいて、確か『元素の宝玉』・円環の宝玉』・『導きの魂』という話が聞こえ、その後に女性が光の粒子となって消えたんだ。
多分、召喚の儀ではないかと思う。」
今思えば、あの召喚は生贄の儀ではないのだろうか。
だとしたら、胸糞悪い。
「……そう。フードを被った老人……ね」
俺が話した内容に思う節があったのだろうか。宰相はしばらく口を紡ぐ。
「それにしても、そんなアイテムを所持しているなんて。貴方の能力は流石ね。ふふ」
意味深に話す宰相に俺は訝しんだ。
俺の能力に気づいている? いや、現に俺が現れるのを予知していたからあり得るのかもしれない。
「話が逸れたわね。まずウェイバーという人物について。この者の事から話しましょうか。
シューベル王、貴方にもまだ話していないことですので、驚かれるかと思いますが」
「よい。お主には長い間王国のために働いてくれた経緯がある。お主の考えがあってのことだろう」
「ありがとうございます、シューベル王」
宰相は一拍置いてから口を開いた。
「……彼を一言でいうのなら、この世界の『神』よ」
「神……」
「ええ、そう。この世界を再構築させた人外なる者――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 再構築ってどういうことだ!?」
「そう焦らないで。追って順を話すわ。
遥か昔、この世界は一度滅びかけた。しかし、ある人物によってこの世界は再構築されて救われる。それを成し遂げたのが『転移者』――――。貴方の住む世界の住人よ」
「なっ!?」
転移者だって!? まさか、俺の他にもいたのか……。
しかも、俺と同じ世界から。
「この国の古くから伝わる御伽噺の元になっているわ。この国の誰もが知っている話よ。ねぇ、騎士隊長の皆さん?」
「アグニの瞳……。まさか、あれは史実だというのか?」
黒髪の騎士が驚いた顔をする。
無理もないのかもしれない。御伽噺だと思っていた話が、実は本当でしたと言われたら誰でも驚くだろう。
しかし、『アグニの瞳』ってどこかで聞いたことあるような……?
首を傾げていると、袖をくいくいと引っ張られる。どうやら引っ張っていたのはゴンザレスのようだ。
「マスター。以前ぺスパの図書館で調べ物した時に読んだ本が今の話にあたります。覚えてませんか?」
あーあーあー、アレか。転移の原因を調べていた時に読んだ本か。
まさかあの時の本が関係してくるとは思わなかったな。
「確か、『青く輝く――』なんちゃらって本だったな。そういえば読んだな」
「ええ、そうよ。あの話は本当の事。生と死を司る力――。それぞれの力を受け継いだ2人の『転移者』の戦いによって、この世界は一度崩壊しかけたの。
だけど、一人の女神の犠牲によって『アグニの瞳』を持つ者が勝利したわ。その際、もう一つの力を得た勝利者は2つの力を使って、世界を再構築――。
その核となるのが『元素の宝玉』と『円環の宝玉』――。ということよ」
話を聞いていてスケールのでかさに驚いた。だってそうだろ、俺と同じ転移者が世界を作り替えたって言うんだから。
となると、その人物はどうなっているのだろうか。
まさか――。
「ふふ、今の話で察したと思うけど、そう。彼は神の『座』として君臨していたわ」
転移者がウェイバー……。
「なぁ、そんな力があるなら何故ウェイバーは破滅へと向かう世界を阻止できないんだ?」
世界を再構築できるほどの力があるなら、わざわざ宝玉を浄化させる代わりの者を召還する必要はないのではないか。
単純な疑問にたどり着く。
「彼にはもう、その力は無くなっていたのよ。だから、別の世界から力のある代行者を召還した」
なるほど。そういうことなのか。
なら、俺はその神の代行で宝玉を浄化するということか。
「それにしても、あんた随分と詳しいんだな?」
「ふふ、当り前よ。だって私も『神の使い』と同行していたもの」
何が可笑しいのか、女はクスクスと笑い出した。
「それは真なのか、宰相!?」
シューベル王は驚いて宰相に詰め寄った。
「本当の事です、シューベル王。この世界は宝玉を定期的に浄化しなければ、崩壊してしまう脆い世界です。ただし、ご安心ください。
数十年、数百年の話ではないのです。ただ、今回シューベル王の時期に重なっただけということ。浄化が済めばまた1000年はもちましょう」
「ちょっと待て。その話だとあんた1000年以上生きているのか!?」
「ふふ。女性に年齢に関する質問するのはマナー違反よ?」
どう見ても宰相という女は仕草からして20代後半しか見えない。
長寿の種族なのだろうか。
騎士隊の連中からヒソヒソ話が聞こえてきた。
(おい、やっぱり宰相の年齢は本当だったのか。ババァじゃん)
(ちょ、ちょっと兄さん!?)
「ジーク隊長? 聞こえていますよ?」
「は! すみませんした!」
咎められてジークは敬礼をする。
ジーク、お前……。
「私はその時一度だけ、神から話を聞いたの。いえ、記憶を見せられたとでも言ったほうがいいかしら」
記憶を見たということは、俺が使った『アカシアのオルゴール』の能力に似たものだろうか。
なるほど。だから、彼女はこの世界の過去に詳しいわけか。
「な、なぁ、その『神の使い』は浄化後どうなったんだ?」
「この世界に留まって生きていたわ……」
宰相の声からして、昔を懐かしむような気配を感じた。
「そう、私は彼と約束したの。貴方を必ず導くと。彼は彼の、私は私の目的の為に。
私がこの国で使えていたのはいずれ現れる貴方を『元素の宝玉』へと導くため」
宰相は高揚した声で、俺を見つめてきたような気がした――。




