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世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)  作者: 坂木持丸
第10章 呪いの館を手に入れてみた

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96話 ペットを飼ってみた


 恐怖の館テラーハウスの奥深くにて。

 このダンジョンのボス――封印されしエクス=ディエスは、ここ最近、1000年ぶりの困惑に襲われていた。


「こんにちはーっ!」


『………………』


「あっ、また通るね!」


『………………』


「えへへ。今日はよく会うね!」


『………………』


 当たり前のように壁をすり抜けて、ボス部屋を行ったり来たりする少女。


 ……まるで意味がわからない。


 壁をすり抜けている? いったい……どういうことだ? 

 封印されしエクス=ディエスがそう困惑しながら、意味不明な少女をじっと観察していると。


「? もしかしてお腹すいてるのかな? “ばーべきゅぅ”のお肉食べる?」


『…………』


 今度は、封印されしエクス=ディエスを餌づけしようとしてきた。


「……(わくわく)」


 しかも、めちゃくちゃ目をキラキラさせて、こちらの様子をうかがってくる。


 ……いや、べつにいらないのだが。


 とはいえ、食物によってエネルギーを少しでも補給できるのなら悪いことでもない。

 そう考えて、差し出された食物を口に運ぶと。


「~~っ!」


 少女は、ぱぁっと顔を明るくした。



「わぁっ、食べてるっ! かわいい~っ!」




 ――かわ……いい……?



 封印されしエクス=ディエスは、自分の容姿を思い出す。


 禍々しい鎧のような皮膚。

 見た者を畏怖させる凶悪な顔。

 戦うためだけに生まれてきたような、人工的でいびつな形状の肉体……。



 ――かわ……いい……?



 封印されしエクス=ディエスが、ひたすら困惑していると。


「えっと……あなたは、“封印されしエクス=ディエス”っていうんだね!」


 と、少女が名前を呼んできた。


 名前といっても、ただの兵器につける識別番号のようなものだ。

 それに意味などはない。

 しかし、なぜだかその少女はうれしそうに笑って。




「――えへへ。贅沢な名前だね!(褒め言葉)」




 と、そんなことを言ってきた。


『……………………』


 ――贅沢な名前。

 そんなことを言われたのは、初めてだった。


 封印されしエクス=ディエスは、ただの兵器でしかない。

 どれだけ性能は高くても、あくまで交換可能な道具のひとつだ。


 これまで、ずっとそのように扱われてきたから――。


 …………戸惑う。


 まるで、自分が特別な“個”であるかのように扱われることに。

 この少女から向けられる、純粋な好意に……。



「――今日はね、なんと……スロットの新台入替があったんだよっ! いつか一緒に打ちに行こうね、封印されしエクス=ディエス!」



『………………』


 それからも、少女は毎日のように会いに来るようになった。


「この家にたくさん落ちてる謎の“かんづめ”おいしいね! 封印されしエクス=ディエス!」


『………………』


「こっちだよ~、封印されしエクス=ディエス! こっちこっち~……違う違う、そっちは残像だよ?」


『…………!?』


「「「次はドッジボールの時間だよ! 私が3人分になるね!」」」


『――ッ!?!?!?』



 …………わからない。

 この少女がなにを考えているのか。

 この少女がなぜ当たり前のように3人に分裂できるのか。

 そして――。


「えへへ。封印されしエクス=ディエスはあったかいね!」


 なぜ、こんな怪物である自分に、安心したように寄り添ってくるのか……。

 

 ……わからない。なにもわからない。

 人間というのは、このような生き物だったのか?

 もう兵器ではなくても、自分は人間の側にいてもいいのか?


 いや…………くだらない。


 兵器のくせに、怪物のくせに、なにを期待しているのか。

 どれもこれも、兵器にとって必要のない思考だ。


 そんな思考に少しでもエネルギーを割くのは合理的ではない。

 兵器として失格だ。こんな意味不明な少女にかまわず、いつか兵器として使われる日まで、休眠して力をたくわえるべきだ。


 そうわかっていても――。



「――また明日来るね!」



『………………』


 ……どうしてだろうか。

 1000年間の封印にも耐えられたのに。

 どんな攻撃にも耐えられる肉体のはずなのに。


『………………………………………………』


 少女のいない、わずかな時間が、この静寂が――。



 …………こんなにも耐えがたい。



 自分はどうしてしまったのだろう。

 ……わからない。この胸の奥にあるなにかを、どうしたらいいのか、わからない。


 少女と会うたびに、自分は弱くなっていく。

 こんなことでは、立派な兵器になんてなれないのに。


 兵器でなくなれば、自分に存在価値などないのに。

 それだけが、自分が生まれてきた理由なのに……。

 ………………。



『――な、なんだ……この数値は』『……異常すぎる』『……宇宙の法則が……乱れ……』



 ………………。

 ふと……どこからか、声が聞こえてきた。

 顔を上げると“みんな”がこちらを見て叫んでいる。

 やっと、“みんな”が帰ってきてくれたらしい。


 封印されしエクス=ディエスは、“みんな”に向けて手を伸ばす。

 言葉は伝わらなくても――ただ、“想い”を伝えたくて。



『……ひっ』『……ば、ばけもの』『……“無”の力を取りこんで……どんどん成長を』



 ――みんな、見て……ぼく、がんばったよ。

 ――こんなに、強くなったんだよ。



『……今のうちに封印を……』『……研究所ごと……夢境化し……』



 ――戦うのはこわいけど、痛いのもがまんするよ。

 ――ぼくは……強いから。

 ――どんなに傷ついても……血も、なみだも、ながれないから。



『封印率……50%……60%……』

『……危険です、博士……っ!』『早く離れて……ばけものから……!』



 ――ぼくががんばって、みんなが笑顔になれるなら。

 ――ぼくは、りっぱな兵器にだってなるよ。

 ――こわいばけものがいるなら、ぼくがやっつけるよ。

 ――だから……だから……。



『すまない……君を生み出してしまって……』『すまない……すまない……』

『……君は……生まれてきては……いけなかったんだ……』

『封印率……100%…………』




 ――ぼくを……ひとりにしないで…………。




『……………………』


 ……気づけば、眠りに落ちていたらしい。


 どうやら、昔の夢を見ていたようだ。

 目を開ければ、そこにはもう“みんな”なんていなくて。

 その代わりに、いつもの少女だけがいた。


「……どこか痛いの? 苦しいの?」


『…………』


 少女がぐぐぐっと背伸びをして、うずくまる自分の頭をなでてくる。


 怪物の自分と比べて、なんと小さな手のひらなのだろうか。

 それなのに……なんで、こんなに温かいのだろうか。

 思えば、こうやって誰かに触れてもらえたのは、この少女が初めてで……。


 …………ああ、そうか。


 そこで、ようやく怪物は気づく。


 自分は……苦しかったのだ。傷ついていたのだ。

 ただ、ずっと……こうやって、頭をなでてもらいたかった。

 1000年前から、怪物の中にあったのは、ただそれだけだったのだ。


「そっか、そうだよね。大丈夫、わかってるよ――」


 少女はそんな怪物の心を見透かしたように、優しく微笑むと。



「――封印されしエクス=ディエスは、お散歩したいんだよね!」



『……………………』


 ……違う、そうじゃない。全然わかっていなかった。


「うん! やっぱり、こんな部屋に閉じこめるのはよくないよね……よし!」


 そう言って、少女が手を差しのべてくる。



「――行こう、お散歩へ!」




         ◇




 というわけで、ローナは封印されしエクス=ディエスのお散歩のために、こそこそと家の外へと向かっていた。



 ――ガショーン! ドクシィーン! ジャギン! スキュウォオオオオンッ!!



「……しー、だよ? しー!」


『…………(こくり)』



 ――ガショーン! ドクシィーン! ジャギン! スキュウォオオオオンッ!!



「…………で、ローナよ」


 一瞬で、テーラに見つかった。


「……その後ろのでかぶつは、なんじゃ?」


「えっ!?」


 ローナはそそくさと封印されしエクス=ディエスを背中に隠す。


「な、なんのことですか? なにもいませんよ? なにもいませんってば――封印されしエクス=ディエスなんていませんっ!」


「どうして、それでごまかせると思った?」


 ダメだった。


「うぅ……な、なんで、こんなすぐにわかったんですか?」


「いや、だっての……」



 ――スキュウォオオオオンッ!! スキュウォオオオオンッ!!



「……音という音がうるせぇのじゃ、そやつ」


 そんなこんなで。

 ローナたちは居間に集まり、テーブルを囲んで家族会議をすることになった。



「――第1回、テーラハウス家族会議!」



 どんどんぱふぱふっ♪(インターネットのフリー音源)


「そういうのいらないのじゃ」


「はい」


「それで……議題は言わんでもわかっておるな?」


「うちでペットを飼ってもいいかってことですよね?」


「いや、そやつってペット枠なの……?」


「はい」


「お、おう……いや、とゆーか、そのでかぶつ、あれじゃよな? たしか、ボス部屋におったやつじゃよな? どうして、ダンジョンボスがここにおるんじゃ? 怒らないから言ってみ?」


「あっ、よかったぁ! 怒らないんですね! それを聞いて安心しました!」


「うむ。言ってみ?」


「えっと……拾っちゃった、みたいな?」



「――ダンジョンボスを拾っちゃダメじゃろおおおおッ!!」



「お、怒らないって言ったのに……」


「限度というもんがあるじゃろ! とゆーか、おぬし正気か!? 本気でダンジョンボスをペットとして飼おうとしとるのか!?」


「だ、だって、封印されしエクス=ディエス、かわいいじゃないですか!」


「かわ……いい……?」


「ほら、見てください! このキラキラのお目々!」



『……こしゅぅゥゥッ……こしゅぅゥゥッ…………』



「いや……そのキラキラのお目々から、今にも殺人光線とか出しそうなんじゃけど」


「そ、そんなことないです! 封印されしエクス=ディエスはいい子ですよ! ほら、知らない人の前でも大人しくしてますし!」


「む、むぅ……まあ、それはそうじゃが」


「それに、ちゃんと私がこの子のお世話をしますから! 毎日、お散歩にもつれていきますから!」


「……やめるのじゃ。そのお散歩は世界に激震が走る」


 とは言ったものの。

 ローナの言うように、封印されしエクス=ディエスはさっきからお誕生日席でじっと座っているし、暴れる様子もないのはたしかだ。


 ローナにも懐いているようだし、首輪さえちゃんとつけられるのなら、それほど問題はないのかも知れない。

 それに――。


「まあ、そもそも……われになにか言えた義理ではないかの」


 と、テーラは溜息をつく。

 思えば、テーラも似たような境遇なのだ。


 世界を滅ぼそうとして封印され、ローナによって地上につれ出され――。

 今はこうして、地上での生活を楽しんでいる。


 ローナに感化された――あるいは、ローナに毒されたというべきか。

 照れくさいから言葉にはしないが、今の状況になってよかったとローナには感謝しているし……今さら地上をどうこうするつもりもない。


 もしかしたら、この怪物もテーラと同じなのかもしれない。


「はぁ……まあよいのじゃ。もう好きにするがよい」


「え?」


「ふ、ふん……勘違いするでないぞ。どうせ、そやつにかかれば、封印なんぞあってないようなもんじゃしな。ならば地下におるのも、ここにおるのもたいして変わらんし……そもそも暴れるつもりなら、とっくに世界は滅んどるじゃろうしの」


「じゃ、じゃあ……?」



「うむ、まあ……なんじゃ? おぬしがしっかり、そやつの首輪をつけとくんじゃぞ」



「――っ! はい!」


 ローナは顔をぱぁっと明るくして、封印されしエクス=ディエスと顔を見合わせる。


「えへへ。よかったね、封印されしエクス=ディエス!」




『――エ、ェ……エクスディェェェエスッッ!!』




「……鳴き声のクセがすごいのじゃ」


 そんなこんなで、テーラハウスに家族がひとり増えたのだった――。




……というわけで、10章終了です!

ここまで読んでいただきありがとうございました!



次章、『地底王国ドンゴワに行ってみた』

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― 新着の感想 ―
これ【ペット】という扱いで良いんですか!?
[一言] ボスもちゃんと救ってくれて安心した。 誰一人取り残さないエクス=ディエス。
[良い点] 散歩と書いて『終末もたらす厄災の襲来』と読めそうなヤバさだww
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