119話 魔法少女と契約してみた
◆エリミナ・マナフレイム
人類のために魔族と戦おうとしている高潔な英雄にして、ローナの憧れの存在。地底王国ドンゴワから、魔族の“首”を持って凱旋した。
◆溶岩魔人ラーヴァデーモン
地底王国ドンゴワを滅ぼそうとするも、なんやかんやでローナに倒されて、今は“首”だけの姿になっている。
――エリミナの凱旋パレードの翌日。
まだ昨日の熱気と興奮が冷めやらぬ王都の中。
一躍、時の人となった、英雄エリミナ・マナフレイムはというと。
「「「――エリミナさん、こっち向いて~っ!」」」
「………………」
「きゃあああっ! エリミナさんが手を振ってくれたわ!」
「ファンサービスも神だなんて!」
「エリミナさん、こっちにも視線ください!」
「……ふ……ふふふ……ふふふふ……ふふふふふふふふふっ」
今、ものすごく調子に乗っていた。
ブランドもののコートを羽織り、有名人がよくかけてる感じのサングラスをかけ、あえて人目につく大通りを闊歩しながら。
(……あちゃー、困るわー。気軽に街を出歩けなくなって困るわー。有名税、つらいわー)
と、内心でにまにまするエリミナ。
そもそも、なぜこんな状況になっているのかというと……。
話は、つい先日までさかのぼる。
エリミナは、ローナ&王宮騎士たちから逃げるように王都を出たあと。
そのまま、よくわからないうちに、王宮騎士たちが全員脱落するほど過酷なドンゴワへの道を単独踏破し――。
『ぜぇ……はぁっ! な、なんとか、騎士たちをまいたわね……っ!』
『――む? おぉっ! そなたは、まさか神算鬼謀の英雄エリミナか!?』
『へ? あっ、はい……ん、神算鬼謀?』
『わしは、この地底王国ドンゴワの王――グラード・ド・ドンゴワだ。溶岩魔人から話は聞いていたが……このたびは我が国を救うために、さまざまな知略をめぐらせてくれたようだな! まことに感謝するぞ!』
『……え? 王様? 知略? え?』
『やはり、ドンゴワへの道を急いで整備して、人間とより交流を――ああ、それと……そこに、そなたが知略によって倒した溶岩魔人の“首”があるから、土産に持っていくとよい。ちょうど、置き場に困っていたところでな』
『ぐごごごご……許さんッ! 貴様だけは、絶対に許さんぞッ! エリミナ・マナフレイムぅうう――ッ!』
『なんで!?』
こうして、エリミナは……わけがわからないまま、なぜか首だけになっている溶岩魔人を土産に、王都に帰ることになり。
『!? それは、まさか魔族の首!? エリミナ様が討たれたのですか!?』
『へ? いや、違――』
『ぐごごご……その通りだッ!』
『だから、なんで!?』
『うおおおっ! エリミナ様、すげえええっ!』
『また魔族が出ても、エリミナ様がいれば安心だな!』
『――エリミナ! エリミナ! エリミナ!』
『……え? ……え?』
そして、なにがなんだかわからないうちに……今に至るというわけだ。
ただ、最初こそ、身に覚えのない功績が天元突破していくことに、胃がきりきりと痛んでいたエリミナだったが――。
「………………」
「あら? エリミナ様が、屋台でお肉を買っているわ……?」
「あっ、あれを見て! サングラスをかけたエリミナ様が、高いところからお肉に塩をっ!」
「きゃあ! 素敵っ!」
(ふ、ふふふ……聞こえる、聞こえる……私をちやほやする声が聞こえるわっ! なにがなんだかわからないけど……今、私史上かつてないほどエリートって感じがするっ!)
いつものごとく、ちやほやされているうちに、満更でもなくなってきたエリミナであった。
ちなみに、エリミナがここまで上機嫌であるのは、他にも大きな理由があり――。
(ふふふ……まさか、この私に“劇場化”のオファーがあるとはね!)
そう、『エリミナを主役にした劇場作品を作りたい』とのオファーがあったのだ。
――劇場化。
それは、よほどの功績のあるエリートしか達成できない、最高のエリート的栄誉である(※エリミナ調べ)。
それも、オファーしてきた相手は、あの王都一と名高いドールランド商会の天才商会長メルチェ・ドールランドだ。
噂によれば、王国の大臣クラスでもなかなか面会できず、国王ですら莫大な金を借りているため頭が上がらないという――いわば、この国の影の最高権力者。
エリミナのテンションが爆上がりするのも当然であり。
『……あなたがエリミナ・マナフレイムね✧ わたしと契約して、魔法少女になってくれるかしら✧』
『は、はひっ! けけけ、契約しましゅっ! ……ん、魔法少女?』
と、エリミナはほとんど詳細も聞かずに、秒で契約を結んだのだった。
まあ、ちょっとよくわからない言葉もまざっていたが……。
エリミナの心の中の天秤は、完全に『劇場化したい!』のほうにかたむいており。
(ふぅ……あのメルチェ・ドールランドに認められるなんて、私もビッグになったものね……あっ、推しの役者とか起用してもらえるかしら? わくわく!)
そんなこんなで、エリミナはさっそく、打ち合わせのためにドールランド商館へとやって来た。
「では、エリミナ様。どうぞ、こちらのお部屋へ」
「ええ、わかったわ!」
こうして、エリミナはるんるん気分で、案内された商館の会議室の扉を開け――。
「――あっ、エリミナさん、こんにちはーっ! えへへ、一緒にいい“あにめ”を作りましょ――」
ぱたんっ、と扉を閉めた。
「……………………」
しばしの沈黙の中。
エリミナは無言で、だらだらと冷や汗を流す。
(……な、なんかいた…………なんかいた……ッ!?)
部屋の扉を開けたら、なんかローナ・ハーミットがいた。
さっきまで、すごく平和だったのに、いきなりホラー展開になった。
思わず、ここに案内した商会職員のほうを見るが……。
「……っ! っ!」
「? あ、あの、どうかされましたか、エリミナ様?」
職員はこの商館に特級異物が混入していることに気づいていないのか、不思議そうに首をかしげているだけだった。
(な、なんでっ!? なにがどうなってるの!? い、いや、幻覚……っ!? そうよ、きっと幻覚よっ! 最近、ドールランド商会が、幻術スキル持ちの募集広告を出してたし――)
エリミナは自分にそう言い聞かせると。
もう一度、がちゃりと扉を開け――。
「――エリミナさん、こんにちはーっ!」
……やっぱり、いた。
幻覚とかではなかった。
その証拠に、ローナ・ハーミットのいる部屋の中からは、ひやり……と、得体の知れない冷気が漂ってきており(※“冷蔵庫”を導入した)。
さらに、商会職員と思われる帽子の少女にいたっては、邪教の洗脳に使われるような『ぶくぶくと泡立つ黒い液体』を、ぐびぐびと飲んでは――。
「ぷはーっ! うまい、もう1本っ!」
「!?」
と、洗脳薬らしきものをおかわりしていた。
どうやら、すでに商会職員の洗脳は完了しているようだ。
ローナ・ハーミットという特級異物がすぐ側にいることにさえ、誰も気づかないほどに……。
「あの、エリミナさん? どうかしたんですか?」
「い、いえ、どうかされてるのは、そっち――げふんげふんっ! そ、それより、あのぉ~? なんで、ローナさんがここに?」
「え? うーん、楽しそうだから?」
……愉快犯だった。
己の愉悦のために、王都一の商会を洗脳して乗っ取っていた。
というか、少し前にエリミナがローナと遭遇したときは、世界に絶望して全てを無に帰そうとしていたはずだが……。
「あ、あのぉ~? 全てを無に帰す予定とかは……もうない感じで?」
「?」
と、エリミナがびくびくとローナに質問をする。
もしかして、全てを無に帰すのは、思いとどまってくれたのだろうか……と、淡い期待を抱きながら。
一方、ローナはというと。
(……全てを無に帰す? どういう意味だろう?)
と、一瞬だけきょとんとしてから、すぐにはっとした。
(あっ、そっか! エリミナさんは、さっそく“あにめ”のアイディアを出してくれたんだね!)
そうでもなければ、いきなり日常会話の中で、『全てを無に帰す』などという発言は出ないだろう。
それも、ちょうどローナたちが『いかに敵の“死”をぼかして表現するか』ということについて、話し合っていたタイミングであり。
(なるほど! エリミナさんは、『敵を無に帰せば“死んだ”という印象が薄くなって、子供が安心して楽しめる』って考えてくれたんだね!)
ローナの中で、今――全てがつながった。
とくに『帰す』という表現は、絶妙だろう。
『敵は倒れると元の場所に帰っていく』という感じなら、敵が死ぬという印象がなくなるうえに、敵がもう悪さをすることもできなくなるわけで……。
(さすが、エリミナさんは子供にも優しいんだなぁ!)
エリミナの優しさがとどまるところを知らなかった。
そのあまりの『さすエリ』っぷりに、ローナはついうれしくなって、えへへと微笑む。
「――うん! やっぱり、敵は無に帰したほうがよさそうですねっ!」
「ッッ!?」
「ちょうど最近は、ずっと敵の“死”について考えてたんですが」
「ずっと敵の死について考えてたんですか!?」
「はい! でも、やっぱり死体のようなものは残さないで、無に帰したほうが、もっと楽しめるなって!」
(殺しの流儀!?)
と、エリミナが顔を青くして震えだす一方で。
ローナは、「あっ、それと……」と近くにあった“あにめ”の設定資料を手に取った。
「今は、『この世界をどう終わらせるか』についても考えてまして……」
「この世界をどう終わらせるかについて!?」
「はい! といっても、1年後ぐらいの話ですが」
(さし迫ってる!?)
「えへへ! どうせなら、綺麗に終わらせたいですしね!」
(破壊の美学!?)
「それで、最初は『エリミナさんが世界のために死んで“宇宙の法則”になる』って結末を考えてたんですが……」
(私、宇宙の法則になるの!?)
「エリミナさんを見ていたら、やっぱり『最後まで笑えるような終わり方』のほうがいいかなって思いました!」
(人の心とかないんか!?)
「あっ、でも……エリミナさんの作品の人気次第では、すぐに終わらせないのもありだと思います!」
(わ、私の人気に、この世界の命運がっ!?)
……めちゃくちゃ責任重大だった。
調子に乗って受けた劇場化オファーが、なんかもう、世界規模のデスゲームみたいになっていた。
そんなこんなで、エリミナ(中の人担当)が“あにめ”の制作に加わり――。
「……よく来てくれたわね、エリミナ・マナフレイム✧ じゃあ、さっそくこの魔法少女衣装に着替えてくれるかしら✧ それから髪型はお団子ツインテールにして、くるくる回りながら、このセリフを――」
「――きゃるる~ん♪ りゅんりゅん♪ エリエリりん♪ きらめけミラクル☆ 爆ぜろマジカル☆ 愛と正義のエリート美少女戦士! 魔法少女エリミナ――爆☆誕っ!」(泣)
かくして、この世界に『魔法少女エリミナ』が爆誕したのだった。
……エリミナが大観衆の前でアイドルライブをするまで、あと5話。










