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第28話 協力 オレのいない所で   初出08.9.24

 昼休み、中庭のベンチで昼食を食べたあと、オレは携帯を取り出して見ていた。

そこには昨日撮ったプリクラが貼ってある。レナがオレの携帯の裏側に無理矢理貼ったものだ。プリクラの中のオレはすっかり女の子を謳歌しているように見える。あらためて見るとちょっと恥ずかしい。


 でもプリクラってこんなに楽しいとは思わなかった。女の子たちが夢中になるのも無理もないと思う。またレナと撮りたいなぁ・・・長谷川はプリクラとか好きかな・・・?


 急に影になったので顔を上げてみると、そこには長谷川がいた。

「有希、ニヤニヤしながら何見てるのよ?」

「あ、長谷川さん・・これ・・・」

オレはとなりに座った長谷川に、携帯に貼ったプリクラを見せた。

「有希ずいぶん楽しそうじゃない。」

「うん・・・」

長谷川はプリクラの中のオレを見ながら言った。

「有希ってこんなに楽しそうな顔するんだ・・・」

「それは・・・わたしだって楽しい時は楽しそうな顔するわよ。」

なぜか長谷川は学校では妙に突っかかってくる。

「このコ誰?取り巻きでもないみたいだけど。茶パツだし・・・」

「またそんなこと言う・・・イトコのレナよ。可愛いでしょう?」

「イトコ? 有希こんなイトコがいるなんて言わなかったじゃない。」

「うん・・・言わなかったけど? そりゃぁ、わたしにだってイトコくらいいるわよ。親戚もいるんだし・・・」

「それはそうだけど、ずいぶん親しそうじゃない。」

「それがね、レナとは幼馴染みなんだけど、小2の時に引っ越してからはほとんど会ってなかったの。それが昨日久しぶりに会ってみたら、すっごく楽しくて・・・天神はちょっと怖かったけど、レナは頼りになるから・・・」

「天神が怖い?」

「あ・・うん・・・」

そういえば長谷川にはこういう話はしてなかった。

「実はね、わたし女の子になってから、街とか人が多いところが苦手になっちゃって・・・もし男だってバレたらどうしようって思うと・・・なんか怖くて・・・」

「へ〜・・だから有希は、その頼りになるレナちゃんに懐いてるわけか。」

「なつくって・・・そんなふうに言わないでよ・・・」

オレとレナはただ仲がいいだけだ・・・たしかにオレはレナに守ってもらったけど・・べつに懐いてるワケじゃない・・・


「ねえ、長谷川さんはプリクラとか撮るの?」

「そりゃぁ・・・撮ることはあるけど・・・」

「じゃあ、こんど一緒に撮ろうよ!」

「え?! イヤよ有希となんか。」

「え〜どうして?」

「こんなに懐かれたら迷惑なのよ。だいいち有希、私と人込みになんか行けるの?」

「そ・・それは・・・」

たしかに言われてみればそうだけど・・・

「もし何かあったら・・・長谷川さん守ってくれる?」

「え?!」

長谷川は驚いたような顔をした。

「わたしが?・・・有希を?」

「うん・・・」

「あんた、ばっかじゃないの?何でわたしが有希を守らなきゃいけないのよ!あんた男でしょう?なんで男のあんたが女に守ってもらおうとしてるの?!」

そりゃあ確かにそうだけど・・・オレだってどうすればいいのかわからないのだ・・・

「もう知らないわ、あんたはせいぜいレナちゃんに守ってもらえばいいじゃない!」

長谷川は吐き捨てるようにそう言うと行ってしまった・・・・オレだって情けないとは思うけど、自分ではどうすることも出来ないのだ。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「なるほど・・・それはきっと不安神経症だと思うわ。」

「不安神経症?」


 オレは白石先生の元を訪れていた。こんなことを相談できるのは先生しかいない。

「不安神経症ってなんですか?」

「有希ちゃんはパニック障害は知ってる?」

オレは首を横にふった。パニック障害なんて聞いたこともない・・・

「パニック障害っていうのはね。健康にはまったく問題ないのに、人込みや渋滞や電車の中なんかの逃げることが出来ない状況になると、動悸が激しくなったり、息が出来なくなったり、このまま死ぬんじゃないかという恐怖に襲われたりする精神的な病気なの。」

人込みに行った時のオレに少し似ているかもしれない・・・

「わたしがその・・・パニック障害なんですか?」

「ううん、有希ちゃんの場合はパニック障害とは言えないと思う。でもこのままひどくなるとパニック障害にならないとも限らないわ。」

「・・・・」


「でも、そんなに心配しなくていいのよ。普通ははっきりした理由がわからないから困るんだけど、有希ちゃんの場合は自分が本当は男だってバレないかというのが不安なんだから、原因はわかってるでしょう?」

なるほど、たしかにそうだ。

「だから、そのレナさんだっけ?そのコが有希ちゃんを守ってくれるんだったら、どこか行く時はしばらくそのコに一緒に行ってもらったらどうかな?」

「・・・はい・・・」

「街は怖かったけど、また行きたいって思ってるんでしょう?」

「はい。」

「だったら、そのコを信頼してもいいと思うわよ?」

でも、あまりレナにばかり頼って嫌われないだろうか・・・


「1組の長谷川さんでもいいんじゃない? 彼女は有希ちゃんのことを知ってるんでしょう?」

「はぁ・・・」

「どうかしたの?」

「さっき長谷川さんに聞いたら、なんか迷惑だって言われて・・・」

「あら、だって長谷川さんは有希ちゃんの味方してくれてたじゃない。」

「はい・・・でも・・わたしが甘えすぎたのかも・・・」

きっとオレのせいなのだ・・・オレがあまりに情けないから・・・

「長谷川さんは、まだわたしのこと男だって思ってるのかも知れない・・・だから気持ち悪いって思ってるみたい・・・」

「そうなの?・・・それは困ったわねぇ・・・」

オレの情けない様を不憫に思ったのか、先生は

「先生、長谷川さんに会って話してみようか?」

「・・・・」

長谷川はオレの助けになってくれるだろうか・・・



 「それじゃ、このお薬あげておくから、人込みに行く時に飲んでおくと少しは落ちつくはずよ。」

「はい・・・」

「そして、自分に自信を持つことね。有希ちゃんはこの学校でもクラスメイトにだって男だとバレたこと無いでしょう?」

「・・・・」

「だったら、街で会ったばかりの人にバレる訳ないじゃない。」

「・・・!」

「それに、仮に気がついた人がいたとしても、その人がいきなり街中で「この人男です!」なんて大声で言うと思う?」

「・・・ううん・・」

「だったら気にすること無いんじゃない?」

そうかも知れない・・・オレは自意識過剰になっていたのだろうか・・・?


「でもね、焦ることないのよ。少しづつ自信を持っていけばいいの。ずっと女の子の心を隠して生きてきたんだから、有希ちゃんの心の中に男の子の部分があるのは当たり前なのよ。少しづつ心を女の子に開放して、少しづつ自信を持っていけばいいの。わかる?」

「・・・はい・・・」

オレにもなんとなくわかる気がした。オレは心に女の子の部分が多くなるのは、男の自分が乗っ取られてしまうような気がして、言い様のない怖さを感じていたが、先生が言った開放という言葉に気持ちが少し軽くなった。オレの心の奥底に閉じ込められていた女の子の心が出てくるのは、男のオレが乗っ取られるのとは違うのかも知れない。その女の子もまたオレ自身なのではないだろうか?


でも・・・その女の子のことをオレは知らない・・・それでもオレと言えるのだろうか・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 校医の白石は1年1組の教室の前まで来ると、ドアの外で数人で話していた生徒に話しかけた。

「ねえ、あなたたち1組のコ? 長谷川さんいるかな?」

聞かれた生徒は教室の中をのぞき

「え〜と・・・あ、長谷川さ〜ん!白石先生が呼んでるわよ!」

呼ばれた長谷川はドアのところまで小走りでやってきた。

「あの・・・何ですか?」

「ちょっと保健室まで来てもらっていいかしら?」

「・・・はぃ・・・」


 二人は保健室に入ると、白石がきりだした。

「長谷川さんは戸田さんの本当のこと知ってるんでしょう?」

「あ、はい・・・」

「あなたは戸田さんのこと気持ち悪いと思ってるのかしら?」

「いえ・・・そんなこと思ってません!」

「でも、戸田さんは長谷川さんに嫌われたと思ってるわよ。」

「あっ・・」

「心当たりある?」

「・・・はぃ」

「どうして戸田さんにヒドイこと言うの?」

「・・・ヒドイって・・・ヒドイのは有希の方です・・・わたしに守ってほしいなんて・・・」


「長谷川さんは戸田さんと昔から友達だったの?」

「いえ・・・良く話すようになったのは、この学校に入ってからです。わたしが二中に転校してきたのは2年生の終わりの方だったし、クラスも違ったから、有希のことは・・ほとんど・・知りませんでした。」

「じゃあ、男の子のころの戸田さんのことは、あまり知らないってこと?」

「はい。」

「それじゃぁ、戸田さんのことを初めて意識したのは、この学校に入ってからなの?」

すると長谷川は思い出そうとするように目をふせた。

「・・・有希を初めて気にしたのは・・・ここを受験するときだったと思います。」

「それで?」

「わたしたちの中学は受験の時、朝いちど学校に集まってから、一緒に試験会場に行くんです。」

「うん。」

「それで集まった生徒の中に有希がいて、わたし男の子がいると思わなかったから・・・共学になるって話は聞いてたけど・・・ちょっと変わってるなって思って・・・」

「戸田さんが受験することは知らなかったの?」

「はい、有希は女子高を受験するのが恥ずかしいって言ってて、他の人には言わないでほしいって言うから、わたし一緒に受験したみんなに有希のこと黙っててあげてって言ったんです。みんなっていってもわたしと有希の他は3人だけなんですけど・・・」


「そうなの・・・それじゃそういうのがあって戸田さんと仲良くなったんだ?」

「う〜ん・・・仲良くっていうか・・・廊下で見かけたりした時に、あ、戸田君だって思うくらいで・・・」

「戸田さんは昔から女の子っぽいところはあったんでしょう?」

「・・・いえ・・そんなふうには思いませんでした。ただ・・・卒業してから学校に行ったとき・・・あ、わたし本命の高校に落ちたので、二次試験受けたんです・・・それで合格の報告をしに春休みに中学に行ったんです。そしたらちょうど有希も来てて・・・たしか有希もこの白鴻が共学じゃなくなったから二次試験受けたって・・・でも・・・有希は本当は受けてなかったみたいなんです・・・あれ?なんで有希あのとき中学にいたんだろう・・・?・・・あ!それで、その時に有希見て思ったんです。なんか雰囲気が変わったなって・・・今思えば女っぽかったのかも・・・」

「そう・・・戸田さんは昔から女の子っぽかったのかと思ってたんだけど。」

「ぜんぜん!普通の男の子でした。でも、有希は隠してたっていってたけど・・・」

「たぶん小さいころに女の子っぽさを出しちゃいけないと思う出来事があったのかも知れないわね・・・」

「・・・・」

「じゃあ、戸田さんはなんであんなに女の子っぽいのかしら?」

「・・・わかりません・・・」

「でも、白鴻には女の子として入学するつもりで受験したんでしょう?」

「・・・よくわからないんですけど・・・違うと思います。有希は男としてでもいいから女子校に行きたかったって言ってましたから・・・」

「そうか・・・それで共学化が中止になったから・・・女の子として・・・」

「ええ・・有希、女の子として入学できることになって嬉しかったって言ってました。有希・・・あんまり勉強できないみたいなんです。それでここだけしか受験してなかったみたいで・・・」

「あ〜それで・・・たぶん推薦で受けてたのね。推薦のコは他を受けないことも多いみたいだから。」


「白石先生は男の子のころの有希は知らないんですか?」

「ええ、私が戸田さんと会ったのは入学してからだから。男の子のころの戸田さんに会ってるのは校長と教頭だけじゃないかしら・・・あ、たしか家庭科の松本先生も会ったことあるって言ってたわ。」

「松本先生が?」

「戸田さんが入学のことを相談しに来た時、制服の採寸するために会ったんですって。」

「・・・それっていつごろですか?」

「さあ・・・良くわからないけど、最初に会った時には普通の男の子だったのに、入学式の時にはすっかり女の子になってて驚いたって言ってたわ。」

「・・・・」

「きっと家ではずっと女の子の恰好してたんじゃないかしら?」

「そうでしょうか・・・」



 「今日、長谷川さんに来てもらったのはね、戸田さんがスムーズに女の子になるために長谷川さんも協力してくれないかと思って。」

「協力・・ですか?」

「そう、でも特別なことじゃないの。長谷川さんも戸田さんを本当の女の子と思って付き合ってくれないかしら?」

「え・・でも・・・」

「長谷川さんは戸田さんに、あまり女の子っぽくなってほしくないのかな?」

「・・・そんなことは・・」

「長谷川さんが男の子として接すると、戸田さんもなかなか女の子になりきれないみたいなのよ。もちろん戸田さんのことを男だって知ってるから難しいとは思うんだけど、出来るだけ戸田さんのことを本当の女の子だと思って接してくれないかしら?」

「・・・はぁ・・・」


「今の戸田さんはね、男の子と女の子の心が同居したような状態で精神的に不安定になってるの、だから人込みに行ったりすることに恐怖心が出てきてるのよ。」

「あ・・それは有希に聞きました。」

「でも、戸田さんは女の子として楽しみたいとも思ってるの。だから信頼できる人に協力してほしいのよ。」

「・・・だけど・・・有希にはレナっていうイトコが・・・」

「もちろんレナさんにも協力してもらうけど、あなたにも協力してほしいの。」

「・・・・」

「だって戸田さんはあなたのことをすごく信頼しているのよ。だから戸田さんと女の子どうしとして遊んだりしてくれないかな?」

「・・・・」

「戸田さんは高校生だけど、女の子の楽しみはほとんど知らないの。」

「でも・・・実は・・・わたしも・・あまり女の子らしい遊びとかしたことないんです・・・ずっと転校が多くて、あまり友達もいなかったし・・・」

「まあ・・そうだったの・・・それじゃぁ、あなたも一緒に楽しんではどうかしら?」

「・・はぁ・・・」

「あまり深く考えないでいいから、普通に接してくれればいいの。女の子としてね。」

「・・・はぃ・・・」






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