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第27話 色気 オレにあるハズがないモノ(改) 初出08.9.18

 「・・ただいま・・・」

オレは玄関を開けて小声で言うと家の中をのぞき込んだ。誰もいないようだ。心配なのは母と妹で、父はいたとしてもめったに出くわす心配はない。


 オレは今の姿を家族に見られるのが恥ずかしかった。レナと一緒の時はまだ良かったが、レナが最寄りの駅で降りてしまってからは、オレは急激にいたたまれなくなってきた。椅子に座っているとヒザをしっかり閉じていないと、短いビニール素材のパンツでは股の奥まで見えてしまいそうだ・・・かといって立つのも自信がなかった。こんなに太モモまで出した生足を他人に見られるかと思うと、オレは卒倒しそうな気持ちになる。結局オレは、座って足を閉じ、出来るだけ服を買った時に入れてくれた袋で必死に足を隠していた。


 オレがコソコソ玄関を上がって、二階の自分の部屋に行こうとしていると

「有希? 帰ったの?」

と奥から母の声がした。

「ヒッ!」

オレは緊張して体が固まってしまう・・・急いで部屋に行きたいのに、なぜか足が動かない・・・

「有希? あら!いいの買ったじゃない。」

玄関に出てきた母にそう言われ、オレはどうしたらいいのかわからなかった。

「ごめんね、有希・・・かあさん騙すみたいなことして・・・」

「・・ううん・・いいの・・楽しかったし・・・」

オレは早く自分の部屋に逃げ込みたかった。


「かあさん、有希に服買ってあげてたけど、今の若いコがどんな服着たいのか良くわからなかったから。でも有希はこういうのが着たかったのね。」

「・・ち・・ちがうよ・・・そうじゃないの・・・」

オレは慌てて否定した。こういうのを着たいと思われてはかなわない。

「どういうこと?」

「これは・・・わたしがレナに選んであげた服なのに・・・レナがわたしに着せたの・・・」

「あら、そうだったの・・・でも有希もすごく似合ってるじゃない。」

「・・そ・・そうかな・・・」

オレは顔が熱くなった。かあさんの言うことは信じたい・・・オレはこういうのも似合うのか?


「そういえば、有希、麻弓に写真もらってきた?」

「・・う・・うん・・・」

写真というのは前に赤いドレスを着て写ったやつだ。こんな写真をかあさんに見られたくなかったが、見せると言っていた手前仕方がない。

オレは母に二の腕をつかまれてリビングへと連れていかれてしまった。


「こ・・これ・・・」

オレは写真屋さんの袋に入ったまま母に渡した。

「どれどれ・・」

母は楽しそうに袋から台紙を取り出す。写真屋さんで写した写真は、お見合い写真のような折畳み式の、ダ円形のフレームがついた台紙に入っていた。母が開くのを恥ずかしくて見てられない・・・

「わぁ! 可愛く撮れてるじゃない。ねえ?」

「そ・・そう・・・?」

オレはそんなこと言われても嬉しくなんかない・・・

「でも、このころはまだ有希もちょっと男の子っぽいわね。髪も短いし。」

「・・うん・・・」

オレもそう思う。

「こうして見ると感慨深いわねぇ・・・有希も今では立派な女の子だもの。」

「・・・・」

そんなことない・・・オレはまだまだ全然女の子なんかじゃないのに・・・

「これ、お父さんや麻衣にも見せよう?」

「・・・・!」

オレは正直イヤだった。いくらなんでもこんなドレス姿で写った写真を、父や麻衣に見られたくない。しかし、そんなことオレには言えなかった。だって今ではこんなに恥ずかしい自分になっているのに、少し前のまだ男っぽさが残る写真を見られるのが恥ずかしいなんて言えた義理ではない・・・



「ねえ、かあさん・・・」

「ん?」

「わたしって・・小さいころ・・ぬいぐるみとか好きだった?」

「そうね。けっこうたくさん持ってたわよ。全部有希が自分で捨てちゃったけど。」

「そう・・・」

やっぱりレナが言っていたことは本当だったのか・・・

「レナがね、わたしが小さいころ可愛いものが大好きだったって・・・」

「そう? それで思い出した?」

「・・ううん・・・でも・・・これ・・・」

オレは袋からキてぃちゃんを取り出して、胸に抱きかかえた。

「キてぃちゃん?」

「・・うん・・・なんか・・こうしてるとすごくドキドキするの・・・なんか・・ことばでは言えない感じ・・・」

「そう・・・きっと有希にも女の子の気持ちが出て来たんじゃないかな?」

「これが・・・?・・・女の子の気持ち?」

「胸がキュンとするんでしょう?」

「・・・・!」

これが胸がキュンとするという感覚なのか・・・? 言葉では知っていたが、どんな感情なのかは知らなかった。言われてみれば、たしかにそんな感じだ!


「女の子ってね、男の子と違って理屈じゃないの。いきなり胸がいっぱいになっちゃうものなの。」

「胸がいっぱいに?!」

「そう、突然感情に支配されちゃうのよ。有希もそんな感じがわかるようになって来たんじゃない?」

そうなのか? オレにはまだ良くわからなかった。でも、考えてみたら、このぬいぐるみを持った時の感覚や、プリクラを写していた時の感覚は、それに近かったかも知れない・・・


 よく女の子は何を見ても“可愛い!”とはしゃいだりするが、あれはこういう感覚から来るものなのだろうか? オレはそんなこと考えたこともなかった。オレもいつかは何を見ても“可愛い!”と言うようになるのだろうか・・・そんな自分は想像できないけど・・・

「わたし・・・女の子に近づいてると思う?」

「なに? 有希は自分でそう思わないの?」

「・・ううん・・・よくわからない・・・」

「有希はもう女の子にしか見えないわよ。後は自分の気持ちだけなんじゃない?」

自分の気持ち・・・それはオレが一番よくわからないものだ・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 やっと自分の部屋に入ったオレやっとひと息ついた気がした。


 それにしてもナンパは怖かったな・・・男に言い寄られてるのがあんなに怖いとは思ってもみなかった。もちろんそれはオレが男だとバレないかという心配もあっての事だったと思うけど、それでもあんなことがあると男の子と話すのが怖くなってしまう・・・オレってこんなに怖がりだったなんて思わなかった。男としても女としても情けないと思う・・・



 しかし、そんな怖い思いをしたり、レナに振り回されてしまったにも関わらず、今日は久しぶりに楽しかった。またレナと遊びたいと思っている自分がいる・・・でも、どうしてオレはこんなにレナに心を許しているのだろうか? レナがオレのことを良く知っているからなのだろうか?

「うぁっ・・・」

オレは急に恥ずかしさに顔を両手で覆った。レナが言った言葉がよみがえってきた・・・

「・・本当に言ったのかなぁ・・・お嫁さんになりたいなんて・・・」

オレは小さいころレナとどんな話をしたのだろう・・・まったく憶えていない。どんな話をしたのか知りたいような気もするし、知りたくないような気もする。オレは昔、女の子の服を着ていただけでなく、気持ちも女の子だったのだろうか?


 性同一性障害の人は自分が他の人と違うと感じた時から、自分を出さなくなるのだという。もしオレがそうなら、家族にも心を開いていなかった可能性も高い。オレは幼馴染みだったレナだけに心を開いていたのだろうか・・・だからオレは久しぶりに会ったのに、あんなにレナに頼り切ってしまったのか・・・オレとレナはずっと昔からそういう関係だったのか? そういえばレナはオレがぜんぜん変わってないと言っていたけど・・・




 脱いだ服をベッドに置いたまま、部屋着に着替えるため、染みたパンツを替えようとして手をとめた。あの袋が気になってしょうがない・・・


 オレは大きな手提げ袋から白いビニールの小袋を出した・・・袋を開けブラとパンツを取り出す・・・オレが自分で買ったブラとパンツ・・・初めてのBカップ・・・


 下着は光沢があるピンクで可愛いレースがついている。パンツを穿いて股間に付いたモノを後ろに押し込む・・・まだオレの腰は女の子のようには大きくない・・・それでもおかしくないくらいには女性化してきている。


 していたブラを外し、今日買ったものを着けてみる・・・やっぱりだいぶブカブカだ。オレはふと思い出して、タンスの引き出しから入学したころから着けていたヌーブラを出してきた。いったんブラを外してヌーブラを着けてみる・・・久しぶりに着けてみると、いつの間にかオレの胸がだいぶ大きくなっていたことに、あらためて気がついた。ヌーブラを着けるとずいぶん存在感がある・・・


 ヌーブラをした上からBカップのブラを着けてみるとピッタリ合っていた。そっと両手でさわってみる・・・Bカップの胸ってこんな感じなのか・・・オレの胸もいつかはこれくらい大きくなるのだろうか?

「もっと大きくなりたいな・・・」

思わずそう呟いてしまった自分に驚いた。オレは考え方も女の子になってきているのだろうか?



 ついでにレナがオレのために買った服を出してみた。ショッキングピンクの服に黒いヒダヒダの広がったミニスカート・・・さすがにこんなの着れるハズがない・・・


 でも・・・ちょっとだけなら・・・・

オレは誘惑に勝てなかった。ミニスカートを穿いてみる・・・足が出てて恥ずかしい・・・服を着てみると肩まで開いているからブラのヒモが見えてしまう・・・こういう服を着る時はどんなブラを着ければいいのだろう?


 全身を鏡に映してみたが、やっぱりさまになっていない・・・そりゃぁそうだ・・・男のオレにこんなセクシーな服が似合うハズがない・・・オレにこんな服を着れる時が来るなんて考えられない!・・・どうやったって着こなせないと思った。



 諦めてもう脱ごうと思った時、だれかがドアをノックした。

「有希、入っていい?」

「・・あ・・だ・・だめ・・・」

オレは慌てて脱ごうしたが、ふと部屋を見渡してムダだと思った。とてもちょっとの間に片付けられそうにない・・・それに母なら・・そんなに恥ずかしくないし・・・

「・・い・・いいよ・・入っても・・・」

“ガチャッ”

ドアを開けた母はなぜかカメラを持っていた。

「あら、ファッションショーしてた? ずいぶんハデな服も買ったのね。」

「ちがうよ・・・これはレナが選んだんだ・・・わたしが自信持てるようになったら着ればいいって・・・」

オレはチラッと鏡に映った自分をあらためて見た。

「でも・・いくら自信持ったって・・・わたしがこんな服着れるようになんて・・・ならないよね・・・」

「そんなことないと思うわよ。今でもけっこう似合ってると思うけど・・ただ・・・」

母はオレのそばに来ると

「ちょっと見せてね。」

そう言ってオレの服の胸元を伸ばしてのぞき込んだ。

「え?!な・・なにするのっ? かあさん・・・」

「有希、ちょっと上脱いでごらん。」

「う・・うん・・・」

オレは訳もわからず言われるままに上を脱いだ。母はオレのブラに手を伸ばす。

「ほら、こうすると肩ヒモが取れるタイプのブラもあるのよ。」

母はそう言ってオレのブラの胸元から肩ヒモを外した。

「へ〜・・そんなになってるの・・・」

オレは自分が買ったブラジャーが肩ヒモが取れるようになっていたなんて知らなかった。

「後ろ向いて・・・」

オレが後ろを向くと背中のヒモも取ってくれた。肩ヒモが無いとヌーブラの重さを妙にリアルに感じる・・・


「さ、服を着て・・・」

オレが服を着ると、母は肩の位置を調節してくれた。

「こういう服は少し後ろめに着ないと、だらしない感じになるのよ・・・スカートももう少し上に穿きなさい。」

母がオレのスカートを少し上にずらす。パンツまで見えてしまいそうだ!

「そんなに?! 恥ずかしいよ・・・」

「こういうセクシー服を着る時は、恥ずかしがってちゃダメよ。堂々としてなきゃ。」

「う・・うん・・・」

スカートを上にあげた分、上の服にシワを作ってたるませる・・・こんなに気を使わなくちゃいかないのか・・・

「さあ、見てごらん。さっきよりだいぶ良い感じでしょう?」

「・・うん。」

たしかにさっきまでは、まったくサマになっていなかったが、今はそれなりに着こなせてる気がする・・・着方のせいかBカップの胸が強調されて色っぽくさえある・・・着ているのがオレじゃなければ結構いい感じだ。


「写してあげるからそこに立って。」

「え?!いいよ・・写さなくて・・・」

オレは慌てて拒否した。何もこんな姿写さなくたって・・・

「かあさんね、さっきあの写真を見てて思ったの。時々写しておけば、時間が経って見た時に有希がどれくらい女の子らしくなったか自分でもわかるんじゃないかなって。」

「・・・・」

たしかにそうかも知れない。どうも写真というものは自分でも冷静に見ることが出来るような気がする・・・

「だから、ね?」

「う・・うん・・・」

オレは観念して写してもらうことにした。母はデザインの仕事をしてるから写真を写すのも上手だし・・・キレイに撮ってくれるかも知れない・・・

「有希、もっと可愛くポーズとらなきゃ!」

「ええっ?!」

オレはどうすればいいかわからない・・・

「ほら、足をこう重ねて・・・ちょっとななめ向いて・・・背筋を伸ばして・・・」

「は・・恥ずかしいよ・・かあさん・・・」

「ほら、笑って!」

「うぅっ・・・」

笑顔がひきつってしまう・・・それでも母に何枚も写されていると、だんだんプリクラを写した時の感覚がよみがえってきて、自然にポーズをとれるようになってきた。


 結局オレは、そのあとレナのために選んだ方も着替えさせられて写されてしまった。







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