夜明けが怖い 07
最終話になります。
マイナー恋愛小説家の彼女がやっと目を覚ましてくれました。
夜明けが怖い 07
んー、なんか仕事の夢を見ていたような気がする。
寝てる時くらい仕事を忘れさせてよ。マジで。
せめて原稿あげられるように、そっちの仕事の夢にして。
私の場合、夢で見たシーンとか台詞を作品で使うことが結構ある。特に実際に好きな相手に言われた言葉って心に響くし、書くとテンション上がる。
特に「何があってもお前を離さない」というタイプの台詞は好き。
「死んでもずっと一緒にいたい」とか「お前のためなら命さえ惜しくない」とか「たかだか死んだ程度で俺がお前を見放すわけないだろ」とかの台詞は萌える。
「俺のものにするためならどんな事でもする」や「全てを犠牲にしてもお前を手に入れる」とかなんて台詞を言われたら叫びたくなる。実際叫んだ。
生死の狭間で愛を捧ぐなんていうシチュエーション、ロマンチックとしか言い様がないと思う。
こんな普通の恋愛観だというのに、一体なぜ担当はホラーだと思うのか。
そういえば好きな相手が言ってくれた言葉を説明した時は「素敵だな」とか言ってくれていた気がする。
ホラー扱いされるようになったのは落とす直前まで〆切過ぎて、うちで缶詰になってからかな?
私の好きな皆をちゃんと紹介したのに、それ以来うちに泊まらなくなったな。
恋人がいる女性宅に、仕事とはいえ泊まるのは確かに問題あるものね。
いつか必ず担当デレさせてやるけど。
そのためにもまずは原稿上げなきゃ。
枕に突っ伏していた顔を上げて真っ暗な部屋の中、手探りでベッドに置いた携帯を探す。
リズミカルな音が精神安定に良いって言っても、音量と数で騒音に思えてくる。
一度鬱陶しく感じると、もう邪魔で仕方ないノイズでしかない。
特に私の場合、うるさいと気が散って小説書けないから困る。ネタが降りてくることもあるけど。
どちらにしても携帯が無いと書けない。
携帯を探す間も、聞こえている音は大きくなっていく。
徐々に暗闇に目は慣れてきているのである程度部屋の中が見渡せるけれど、携帯はどこに行ったんだろう。寝ぼけているのか眠り足りないのか、やたらと音が響いて聞こえる。
トイレのノック音は内側で叩いているから姿は見えない。
全く揺れていないカーテンの向こうでは窓を激しい音を立てて叩いているが、内側に立っている足以外は見えない。
玄関ドアもベッドからは直視できないが、頭をぶつけているのだろう。やや湿ったものが混ざった打撃音が聞こえる。
台所も私の部屋からは見えないが、包丁がなにかを刻む音がしている。冷蔵庫が空っぽなのに何を刻んでいるんだろう。
ベッドに仰向けになって、足元で揺れている裸足を見つける。ぶら下がった重みのせいだろうか、揺れるのに合わせて天板が軋みを上げている。
ベッドの下では床の大きさに広がっている顔が歯ぎしりをしていたが、私の携帯は呑み込んでないらしい。
寝がえりをうつと見える小机では、電源の切れたノートPCのキーボードがゆっくりと同じリズムを繰り返している。
その奥からハサミで何かを切り続けている音がするけれど、床に座っている足しか見えない。
クローゼットからは隙間から覗く指が無数に蠢き這い出ようとして周囲を引っ掻いていた。
クローゼットの前には扉を塞ぐように寝そべった犬が尻尾で床を叩いている。
その犬が噛り付いている腕は逃げようと床を掻いているが、指先が血塗れになっていくだけ。
周囲の光景を確認した私は、身体が震えたのを感じた。
布団越しに腹の下にあった携帯を手に取り、画面を確認する。
どうやら思っていたよりも時間が過ぎていたらしい。
スヌーズにしていなかったのは失敗だったか。
携帯の明かりに照らされた家の中では私以外には誰もおらず、なんの音もしない。
さて、原稿上げないといけない。
ホラーとかよくわからないけれど、私の恋愛観で書けば良いと担当のメールに書いてあったから、それでとりあえず凌ごうか。
あ、着信…担当からだ。
ど、どどどどうしよう。まだ1文字も書けてないなんて言ったら怒られる。
考えなきゃ。なんとか回避する方法。怒られずに済ませる方法。
あ、留守電になった。
「…日が出たら覚悟しとけよ」
怖いよ! 担当怖い! 担当の方がよっぽどホラーだよ!
よ、夜明けまでに上げなきゃ。
皆なんでもっと早く起こしてくれなかったの!?
どうやって書けば怖くなるのか分かってないのに、夜明けまでにホラー原稿仕上げなきゃいけないなんて。
うう、夜明けが怖い…。
お読みいただきありがとうございました。
夏のホラー2018参加作品、「新米作家が怖いと感じること」をテーマにした作品「夜明けが怖い」はこれで完結となります。
もし眠っているときに何かを叩く音が聞こえたら、誰かが起こしてくれているのかもしれません。
そんな夜には夜明けまでに1本、ホラーを書いてみてはいかがでしょうか。




