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平和


ハク「やっほー!準備完了!!」






 俺とみなみはハクが運転する車で割烹「平和」に到着しました。






 ポンも今日は一緒に来る予定でしたが、先日のトイトイブラザーズの案件が着々と進んでおり、今日はそちらに回って貰っていました。






 平和は、ハツモトさんに歓迎会をして貰った思い出の店です。ここも・・・・幸せそうに見えましたが・・・悪い癖がありました・・・。






 ガラガラガラ・・・・・。






 本日は定休日でした。






 奥の座敷に行くと、ハツモトとこの店のオーナーであるナンバさんが座っていました。






にしま・みなみ・ハク「お疲れ様です!!」






ハツモト「おうみんな。今丁度ナンバさんと話してたよ。」






みなみ「そうですか。」






ナンバ「・・・・・・」






ハク「ナンバさん!女将さんが辞めるって本当の話?!」






 ハクがいきなり切り込みます。オーラスの切り込み隊長はこの女性なのです。






ナンバ「ハクちゃん、昨晩それについて本人に確認したんだけど・・・・他のお店に条件出されて引っ張られてしまったようなんだよ。うちもそれと同条件でやると言ったんだけど、どうも他の力が動いているようでね・・・・。」






 女将さんは優秀でした。この平和にくるお客さんのほとんどが女将さんのお客さんでした。仕事帰りのサラリーマンや会社の社長や役員連中を完全に手玉にとっていました。

 外勤時のハクにもお客さんが徐々についていましたが、あくまで大多数のお客さんの目当ては女将さんでした。全体の売り上げの7割以上が女将さんの売り上げでした。






にしま「女将さんってあの美魔女の綺麗な人ですよね?・・・・他の力が働いてるっていうのは・・・一体どういう事ですか?ナンバさん?」






ナンバ「それが・・・本人も口を割らないんです・・・。」






みなみ「なるほどねぇ・・・・。」






 にしまは昨晩リューが話があると連絡が有り、合流した時に『近々うちも料亭のような事を始めるらしい』と言っていた事を思い出しました。




 ともすれば、ここでもまたきたのが絡んでいるのでしょうか・・・・。






にしま「他に正社員は?誰が居るんですか?」






ナンバ「私と女将と調理師が1名だけです。あとはパートとアルバイトで回していました。」






ハツモト「そうですか・・・・・。ナンバさん、ちょっとね、残念なお話をしなければならなくなってしまいました・・・・・。」






ナンバ「・・・・え?・・・なんですか?・・・・」






ハツモト「女将が辞めてしまうとなると・・・もうお金をお貸しする事が出来なくなってしまいます。」






ナンバ「え?!・・・・・そんな・・・・・少しずつでも返してるのに・・・・。」






みなみ「ナンバさん、女将が居たからその、『少しずつ』でも返せていたんだ。女将が居なくなった今、その返済能力はもう無いという会社の判断なんだ。平社員の俺が言ってるんじゃなく、あんたに出資している俺達の会社が判断してるんだ。いくら俺が貸したいと言ってもそれは絶対に通らない」






 この店にハクを投入し続けていた事で、内務的な状況は全て把握していました。

 日本庭園をイメージしたこの庭の手入れ、それなりの料理を提供している為かなりの食材費がかかっていました。






ナンバ「そんな・・・・・・。」






ハツモト「しかしこのまま店を畳んでしまったら、肝心なオーラス金融への返済が出来なくなる。なので、・・・・来月から我々が経営に参入する。」






ナンバ「そんな・・・まだ分からないじゃないですか!!・・・残ったメンバーで盛り返すチャンスを下さい!!」






みなみ「大体あんたも、予想つくでしょう・・・。毎日ガラガラだぞ・・・・。閑散としてからじゃあおせーんだよ。言っとくけどこっちは金貸してるんだぞ?何故答えが分かってる状況をずっと傍観しなきゃいけねぇんだ。まだ優しいぞハツモトさんの提案は」






にしま「女将さんが客を引っ張って来ているのなら、それなりの待遇にしてやらないといけなかったんじゃねぇのか??引き留める為に頑張ったとは思うけど、結果的に人が辞める人事をしてしまったんだよ、ナンバさんは。」




 キリッ!




ナンバ「偉そうに・・・・経営したこと無い人間が、ごちゃごちゃ言うなよ!!こっちだって経営は色々大変なんだよ!!」






 ナンバも声を荒げます。女将を引き留められなかった重い責任はわかっている様子でした。






ハツモト「来月から・・・・ここを少しポップな和食居酒屋に切り替える。客層変えないとマズいからな。あんたには責任取って・・・・社長を降りて貰う。」






ナンバ「え・・・・偉そうな事言うなよ!!ふざけたこと言うな!!俺はずっと和食やって来たプライドってのがある!!絶対にダメだ!!俺達の料理が好きで来てくれているお客さんだっているんだ!!」






にしま「和食はやらせてやるって言ってんのに・・・・」






 ハツモトはにしまに引くように合図します。ハツモトは更にナンバに食らいつきました。






ハツモト「偉そうな事言うの辞めてやるよ。その代わり・・・今すぐ耳揃えて金持ってこい!!」






ナンバ「・・・あるわけねぇだろ!!」






ハツモト「金借りといてどっちが偉そうなんだこの野郎。取り込め詐欺でも強盗でも、なんでもやって金持ってこい。866万8576円。そしたらこの一件から引き上げてやるよ。あるんならな。」






みなみ「言っとくが、これでも法定金利内だからな。建物と土地担保にしてるから持って行こうと思えば持っていくけど、それでも足りないからハツモトさんは言ってんだ。さぁ・・・払え・・・払え!!!」






 回収がどうしても出来ないとなると、こっちも必死です。こっちは営利法人なのです。仕事でやっています。






ハク「ナンバさん!!あなたさ、休憩時間とかお店が休みの日何してた?!」






 一番入り口側に座って黙っていたハクが急に声を荒げました。何か知っているのです。






ナンバ「え?・・・何って・・・・・」






ハク「とぼけてるね!!」




にしま「パチンコしてただろ・・・・。麻雀も競馬もボートも・・・・。その金誰の金だと思ってんだてめぇは!!!俺達が店の運転資金で貸した金じゃねぇか!!」








 室内が静まり返りました・・・・・。






ナンバ「・・・・・・・・・・・」






ハツモト「もう救えないんだよ、誰もあんたの事を。」






 ナンバは勢いよく立ち上がり、無言で部屋を出ていきました。






 悔しかったです・・・・。全てオーラス興業に手玉に取られていたのです・・・・。信用していたハクも、結局は経営や自分の悪い癖の監視に回っていました・・・・。






 人に恨まれる仕事・・・・それが俺達の仕事でした。普段は取引先と仲良くしていても、一緒に居てたとえ笑顔でも、仕事となれば手の平を返さなければなりませんでした。






 ナンバは半泣きで外に出ました・・・。行く当てもないです、どうしようもない事は分かっていましたが・・・。もう自分が志した仕事・・・したかった仕事は出来ません。返せるチャンスをハツモトは提案しましたが、どうしてもナンバは受け入れる事が出来ませんでした。






 外では待っていました・・・・・。






ロン「おっ!てめえよくもノコノコと出てきたな!!・・・兄貴!!出てきました!!」






リュー「・・・ふー--・・・」






 リューは吸っていた煙草を自前の携帯灰皿に入れました。








 なんと、リューのグループがナンバを待ち構えていました。






ナンバ「あ・・・あんたたちは?・・・・」










リュー「先日のゴトの件・・・・忘れてはいないですか??その日逃げられたから良いとか、そういう風に思ってないですかね??逃げられたのには理由があると思うのが普通だと思いますけど、何故今ここに居られると思ってるんですか??」






ナンバ「あの時の!!・・・・・・あんなの言いがかりだろ!!!」






 リューは外に目をやりました。






リュー「おいアオノ、出口を固めてくれ。どうやらもうツモリの兄貴とオカが嗅ぎ付けてる。ここは絶対に俺達だけで終わらせる。」






アオノ「オカって・・・ええ??ほんとですか??・・・わっ、分かりました!」










 明らかにリュー達にビビっているナンバ・・・・・。


 無理もありません。怖いのです・・・・おしっこ漏らしてしまいそうです・・・・。






 ロンが更に詰め寄ります。






ロン「アンタ・・・俺達の店でゴトしといて逃げれるって思ってんの?」






 ロンはスマホで一部始終が映った映像をナンバに見せました。






ナンバ「・・・これは・・・・・」








リュー「・・・アンタあんまりなんじゃないんですか?期待を裏切るのもいい加減にしとけよ?・・・・にしまさんは、アンタの仕事ぶりにまだ情熱を感じてるんだぞ?料理も接客も何から何まで。何故プライベートがまともにならないんだ。」






ナンバ「にしまさん??・・・・」






リュー「なんであんたにとって親戚でも家族でもないにしまさんが、あんたの代わりにロンとアオノに頭下げなきゃいけねぇんだ。・・・何故かわかるか??」








ナンバ「に・・・にしまさんが?・・・・」






ロン「ビックリしたよ!!いきなり来られてよ。にしまさんに言われたら俺もアオノもどうしても下がらないといけないからよ。」






リュー「あんたには分からないだろうが・・・俺達の仕事はメンツや面目を重んじる。・・・しかしにしまさんは違うぞ。・・・・会社だからだ。・・・仕事だからだ。あんたがしっかり働いて金を返してもらう事がオーラス興業の仕事だからだ。にしまさんは会社として頭を下げたんだ俺達に。赤の他人のアンタの為に。」






ナンバ「・・・・にしまさんが・・・・・」






リュー「それでも俺達を振り切って、この店を出ますか?俺にとって他人のアンタはどうでも良いけど、もう二度とここに戻れなくなりますよ。それでいいんですね??」






 ベンツのデカいSUVが到着しました。






アオノ「・・・兄貴!!・・・オカの野郎が来ました!!」






ロン「・・・くっ・・・・」






リュー「わかってる!」






ナンバ「・・・・・・・」






リュー「こっちもある程度の覚悟で来てんだ!さぁ!!・・・選べ!!どっちなんだ!!」






 ・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・




 ガラガラガラ!!!








ナンバ「・・・にしまさん・・・・。」








 ハク以外の全員、座敷で煙草を吸って待っていました。






にしま「どうしました?・・・なんか・・・少しだけ表情が晴れてますね・・・・。」










ナンバ「ひ・・・平社員から、・・・1からやらせて貰います!宜しくお願い致します!!」








 こうして、


 この『平和』はオーラス興業の支配下に入りました。








 ハツモトさんが平和の社長に、みなみが取締役に就任することが決定しました。






 経理と現場を仕切る総務役でハクを投入することが決まりました。










ハツモト「にしま、よくやった。お前にも役席を与えようと思ってたが、先ずはポンとやっているあのトイトイブラザーズの件が固まってからだ。経営に関わるとそっちが疎かになるから、一旦こっちは任せてくれ。」






にしま「はい!!分かりました!!」






 暫くしてカウンター側に全員で移りました。






ハツモト「良い店だよなぁ・・・俺は大好きなんだこの店が・・・。」






 高価なテーブルや、木彫りのクマを触るハツモト社長・・・・。






ハク「ハツモトさんお肉食べないですもんね!!」






ハツモト「そう!俺は完全に魚派!!・・・ふぐ!!」




 ・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・




ナンバ「にしまさん・・・あの・・・・」






にしま「・・・いいって。・・・情熱を捨てて欲しくなかったんですよ。やりたい仕事を思いっきりやってる人は誰が見ても分かるもんですよ。女将さんは居なくなったとしても、それでお金を返した方が気持ち的には楽でしょう。今後はお金の管理はこっちでやる。悪さだけはしないでくれよ」






ナンバ「・・・・にしまさん・・・・・」






 ナンバはその場に泣き崩れました・・・・・。






みなみ「・・・・・・・・・・・」






ハク「・・・・・・・・・・・・」








ハツモト「おい、泣いて借金がどうにかなると思ったら大間違いだぞ。言っとくが、俺は厳しいぞ。実力があるというのならまた1から登って来い!!俺達に証明して見せろ!!」






にしま「ハツモトさん・・・・・・」






ナンバ「・・・・頑張ります!!・・・・・」








 早速、業者を入れて改装の段取りが始まりました・・・。








ハク「みなみ役員!!ここ個室にしませんか?!」






みなみ「その呼び方やめろ!!(笑)お前俺に今まで敬語なんか使った事ないだろ!!(笑)」






にしま「みなみ役員!ナンバさんの給与からいくら天引きしますか?!」






みなみ「だからやめろと言ってるだろっ!!(笑)お前ら役員権限でクビにするからな(笑)」



第1部 完

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作者のエイルはブログもやっております。

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