第5章 「英里奈ちゃん家の御自宅訪問」
こうして話しているうちに、私と英里奈ちゃんは何時の間にやら、堺神高速の高架を潜り抜けて、お寺さんの密集している地区に辿り着いていたの。
この辺りのお寺さんには、国宝や県の重要文化財に指定されている仏像や襖絵が沢山収蔵されていて、春と秋に行われている文化財特別公開では、毎年大勢の拝観者が訪れているんだ。
明治時代初期に、発足間もない堺県の初代県庁が設けられていた本願寺堺別院も、この一帯にあるんだよ。
現在では堺東駅付近の一等地に地上21階建の高層ビルとして聳え立っている堺県庁が、県の発足当初は本願寺の境内を間借りしていただなんて、何だか不思議な感じがするよね。
それらのお寺さんは勿論の事、この近所で町屋歴史館として公開されている山口家住宅にも負けず劣らずの、堂々たる風格を持つ和風の御屋敷。
この「堺の建て倒れ」を体現する和風の御屋敷こそが、この元化25年の現代に、戦国武将として名高い生駒家宗の血統を脈々と伝えている、生駒一族当主の住まう邸宅なの。
まあ要するに、生駒英里奈ちゃんの御実家なんだよ。
「お帰りなさいませ、英里奈御嬢様。御機嫌麗しゅう御座います、吹田千里様。」
何処となく英里奈ちゃんを彷彿とさせる、上品な美貌が印象的なメイドさんが、温和な笑顔で私達を迎えてくれた。
腰まで伸ばされたピンク色のストレートヘアーが季節外れの寒風に弄ばれている様は、同性の私にとっても、見入ってしまう美しさだね。
「只今戻りました、登美江さん。」
メイドさんの優雅なカーテシーに応じるように、英里奈ちゃんが美しく御辞儀をする。
優雅で上品なメイドさんのカーテシーに負けず劣らず、英里奈ちゃんの御辞儀も美しく決まっているね。
マナー教本に御手本として載せたい程だよ。
「登美江さん、今日は本当にありがとう!私達のために、粕汁を御子柴高まで届けてくれて!」
そんな2人に比べると、私の挨拶はいかにも庶民的だったね。
「何をおっしゃいますか、千里様。御礼を申し上げるのは、私の方で御座います。英里奈御嬢様と日頃懇意にして頂きまして、この登美江、恐悦至極の思いで御座います。」
いやあ、参っちゃったなあ…
そんな鹿鳴館かベルサイユ宮殿でやるような美しい御辞儀を、こんな庶民丸出しの私に向けてしてくれるなんて…
この、温和な笑顔が素敵な美人のメイドさんは、白庭登美江さん。
生駒邸のメイドだけではなく、英里奈ちゃんのお父さんの秘書や、英里奈ちゃんの姉代わりも務めているの。
御実家における、英里奈ちゃんの一番の理解者かも知れないね。
そんな登美江さんは、英里奈ちゃんには当然として、私にも優しいんだ。
何しろ、私と登美江さんが初めて会ったのは、私と英里奈ちゃんが養成コースの訓練生だった小6の時だからね。
英里奈ちゃんの御屋敷へ遊びに行く度に、登美江さんとも挨拶をして。
今では、私のカクテルの好みまで熟知されている程の顔馴染みなんだよ。
「それでは千里さん、ごきげんよう。」
「うん!じゃあね、英里奈ちゃん!また明日、支局で会おうね!」
何しろ、明日はお互いに支局での勤務日だからね。
まあ、京花ちゃんとマリナちゃんもだけど。




