第27章 「不滅の友情は最強の武器だ!」
そうやってむくれる私の右肩に、誰かの柔らかい手が軽く置かれた。
この暖かみと包容力のある手の置き方は、マリナちゃんだね。
「いいじゃないか、ちさ。お京も悪気があっての事じゃないんだし。」
「う~ん、それはそうなんだけど…」
それでも釈然としない表情を浮かべている私に、マリナちゃんは取って置きの一言を用意していたんだ。
「それに、お京だって嬉しいんだよ。4人揃った状態で、アポカリプスの奴等とケリをつけられたんだから。照れ隠しさ。」
「あっ…」
私は思わず、口をつぐんじゃったんだよね。
3年前、私達4人は「黙示協議会アポカリプス鎮圧作戦」に参加して、黒幕のヘブンズ・ゲイト最高議長を倒す事で、アポカリプスを壊滅させたんだ。
ところが、これが実に激しい戦いになっちゃって、教団本部で抵抗を続けていたアポカリプスの教団員は全員死亡、人類防衛機構側も負傷者多数の甚大な被害を被ったんだ。
その中で最も怪我の具合がひどかったのが、この私なんだって。
何しろ今年の3月まで、意識不明の昏睡状態だったんだからね。
その間、マリナちゃん達には随分と心配をかけちゃったなあ。
人伝に聞いた話だけど、私と一番仲の良かった英里奈ちゃんなんか、私を失った悲しみとアポカリプスへの憎悪で、本当に大変だったみたいだし…
そんな英里奈ちゃんを宥めるのも兼ねて、京花ちゃんが計画したのが、私の病室への週1ペースのお見舞いなんだって。
友情に厚い京花ちゃんが、いかにも考えそうな計画だよね。
自動輸液ポンプや生体情報モニタといった機械に繋がれて、意識が戻らないまま病院のベッドに横たわる私に、3人はいつもと変わらない何気ない口調で、支局や学校で起きた色々な出来事をお喋りしてくれたらしいの。
3人は、次の瞬間にも私が昏睡状態から目を覚ますのではないかという希望を、最後まで持ち続けてくれたんだ。
そして、今年の3月。
病室を訪れた3人が、堺県立御子柴中学校で行われている卒業式の練習風景を語っているまさにその時、私は目を覚ましたんだ。
目覚めた時に最初に感じた事は、「体にまとわりついているチューブや管が、うっとうしいな。」という事だったね。
それらが点滴ルートや体温プローブなどといった、入院中の私にとっては必要不可欠な物だったという認識は、覚醒して間もない私には、考えも及ばなかったな。
正直言って、最初のうちは状況が飲み込めなくて困惑していたね。
私は機械に繋がれてベッドに寝かされている状態だし、いきなり椅子から立ち上がった3人は、ベッドの私に取りすがって泣いちゃうし。
でも、英里奈ちゃん達に事情を説明して貰って、大体の事情を飲み込めたら、私も一緒に大泣きしちゃったんだよね。
私が昏睡状態だった3年近くの間に、色々な事が変わっていたの。
日曜朝8時から放送していた「マスカー騎士」シリーズは、私が昏睡状態になった翌年に始まった「マスカー騎士ガンジス」から、日曜9時半に放送枠が変更になったし、栂美木多46のセンターは2回も変わっている。
あの時は初々しい准佐だった明王院ユリカ先輩だって、大佐にまで昇格され、次年度である元化25年の4月からは支局長だ。
私達4人にも、色々と変化はあったね。
アポカリプスの教団本部に突入したあの日までは、私達4人は御子柴中学1年生で、階級は大尉でお揃いだったの。
だけど、目覚めた時には、私達は卒業式と高校進学を間近に控えた中3になっていたし、階級だって変わっていた。
病室のハンガーに架けられた遊撃服の左肩を見ると、私の記憶の中では大尉だったはずの階級章が、准佐の物になっていたので驚いたね。
作戦を成功に導いて重傷を負った私が2階級特進対象になった事は、京花ちゃん達の説明のお陰で、すぐに理解出来たんだ。
だけど、その京花ちゃん達は遊撃服を注視すると、右肩には金色の飾緒が、左肩には少佐の階級章が輝いていたんだから、また驚いちゃって。
せっかく2階級特進したのに、昏睡中に追い越されちゃったんだよね、私。
そんな風に色々な物が変化したけれど、私と3人との間の友情だけは、全く変わらなかった。私にとっては、それが何よりありがたかったね。
「そうなの、京花ちゃん…?」
このように私が呼び掛けると、京花ちゃんは先程までのヘラヘラした思い出し笑いをやめて、私の方へサッと向き直ったんだ。
「ん…?まあね、千里ちゃん!私達4人の連携があれば、アポカリプスなんてちっとも怖くないよ!」
私の左肩に右肘を置いてしなだれ掛かるだなんて、随分と気安い姿勢だよね、京花ちゃん。
まあ、悪友キャラの似合う京花ちゃんらしいと言えば言えるけど。
「それに私、こう思うんだ…こうして4人揃った状態で勝利を迎えられた今、私達は本当の意味でアポカリプスに勝ったんだって。そんな気がしないかな?」
何気ない顔と口調で、こういう「正義」と「友情」に関する事をサラッと言える京花ちゃんは、やっぱり主人公気質だよね。
まあ、人類防衛機構に所属している「防人の乙女」だったら、誰だってそうなんだけどさ。
「おっしゃる通りです!京花さん、千里さん!」
私と京花ちゃんの肩と肩の間から、内気で気弱そうだけど、実に上品な声が響いてくる。わざわざ後ろから話し掛けなくてもいいのになあ、英里奈ちゃんも。
「お京、英里、ちさ!上牧みなせ曹長が、運転手として特捜車でお待ちかねだよ!支局に帰ったら早いとこ報告書を書き上げて、それから打ち上げと行こうよ!何せ今日は、アポカリプスの奴等との真の決着が着いたんだからね!」
一足先に武装特捜車の助手席をキープしたマリナちゃんが、窓から顔を出して私達を呼んでいる。
「あっ!待ってよ、マリナちゃん!」
こうして特捜車に向かって駆け出す京花ちゃんの声は、実に明るくて爽やかだ。
身体の動きに合わせて左側頭部で揺れるサイドテールは、溌剌とした青春その物って感じがするね。
「じゃ、私達も行こうか?英里奈ちゃん!」
「はい、千里さん!」
サイドテールを揺らしながら走る京花ちゃんの、遊撃服に包まれた背中を、私と英里奈ちゃんが追いかけて走る。
そんな私と英里奈ちゃんの顔にも、明るく朗らかな笑顔が浮かんでいたんだ。
次回よりエピローグ編となります。




