第25章 「月夜に鳴り響け、勝利の鐘!」
「全く…手古摺らせて下さいましたね…!」
アスファルトに転がる、牛頭鬼ミノタウロスの炭化した生首。
それを戦闘シューズの靴裏で思いっきり踏み潰し、グリグリと執拗に踏みにじったのは英里奈ちゃんだった。
英里奈ちゃんったら、よっぽどアポカリプスが憎かったんだね。
気持ちは分かるんだけど、あの作戦で昏睡状態になった私は、こうして回復しているんだから、もういいんじゃないかな?
「もう、いいんじゃないかな、英里奈ちゃん…それだけ踏みにじっておけば、再生する心配はないんじゃない?」
京花ちゃんったら、私と同じ事を考えてたんだね。
「あっ…?は、はい…!私とした事が、随分と感情的になってしまって…」
肩をポンポンと叩きながら苦笑する京花ちゃんに窘められて、英里奈ちゃんはようやく我に帰ってくれたみたいだ。
「全く…英里は心配性だな!その焼死体は、江坂芳乃准尉達に凍結弾で処理して貰おうよ。どうやら、あっちもケリがついたみたいだから…」
マリナちゃんに促されて見てみると、量産型牛怪人は全員昏倒して地面に転がっているし、特命機動隊の子達は集合して美しく隊列を組み、私達の方にハイポート走で向かっている。
そうして私達の元に集合した曹士の子達は、実に美しい捧げ銃の姿勢を取って速やかに整列したんだ。
「お疲れ様です!御無事で何よりです!」
整然と統制された特命機動隊の一挙一投足は、いつ見ても美しいね。
よく注意して見てみると、曹士の子達の人数が増えているね。
江坂芳乃准尉の隣には、副官の天王寺ハルカ上級曹長が並んでいるし。
もしかしたら、避難誘導を終えた天王寺上級曹長の班と合流したのかな?
こんな事を考えていたら、江坂芳乃准尉が一歩進み出てきたよ。
「報告します!我々は、民間人の避難誘導を終えた天王寺ハルカ上級曹長等と合流し、コンビナート敷地内の制圧及び敵対勢力の掃討に成功致しました!なお、こちらは死者負傷者共にゼロであります!」
マリナちゃんに報告する江坂芳乃准尉の顔は、実に誇らしげだった。
何しろ、部下に1人の犠牲者も出さずに作戦を遂行出来るというのは、有能な指揮官の証だからね。
「お疲れ様です、江坂芳乃准尉!御無事でなによりです。我々4名は、『黙示協議会アポカリプス』教団員の美濃田呉太郎と交戦の後、殺処分致しました。なお、同教団員は審判獣への改造手術を受けているため、遺体の搬出には細心の注意を払われる事をよろしくお願いいたします。」
「はっ!承知致しました、和歌浦マリナ少佐!」
マリナちゃんに美しい敬礼で応じた曹士の子達は、アドオングレネード付きのアサルトライフルを手にして、牛頭鬼ミノタウロスの残骸を取り囲んだの。
「撃ち方、始め!凍結処理、開始!」
天王寺ハルカ上級曹長の命令が、夜の工業地帯に朗々と響く。
「はっ!承知しました、天王寺ハルカ上級曹長!」
茶色のポニーテールが印象的な上級曹長の号令に直ちに応じたのは、堺県立大学1回生の上牧みなせ曹長だ。
「復唱します、撃ち方始め!」
勇ましい復唱に応じるかのように、アドオングレネードが雄叫びを上げた。
アドオングレネードから飛び出した凍結弾が、牛頭鬼ミノタウロスの死体に次々と命中する。
既に息絶えて身動き1つしないんだから、当てるのは簡単だね。
的だって大きい訳だし。
これなら、養成コースに入ったばかりの小学生の子達を呼び寄せて、訓練の一環として撃たせても良いだろうな。
液体窒素を満遍なく浴びた黒焦げの死体は、ピシピシと軋むような音を立てて、白く凍りついていったんだ。
あれ…?
怪人の死体と反応せずに気化する液体窒素の量が、私のイメージよりも多い気がするんだけど…
曹士の子達ったら、念には念を入れて多目に凍結弾を使用したのかな?
まあ、麻酔薬や液体窒素の量が足りずに、輸送途中で復活される事を考えたら、「大は小を兼ねる」理論で差し支えないけどね。
それにしても、これだけ冷気が濛々と立ち込めていると、普通の人間だったら今頃は寒くて仕方ないだろうな。
まあ、生体強化ナノマシンで改造措置を受けた私達の感覚なら、常温と大差ないんだけど…




