第20章 「凶牛軍団を掃討せよ!」
「勇ましい遠吠えは済んだか、人類防衛機構の犬共よ…ここが貴様達の墓場となるのだ…貴様達の愛する地域住民達の手にかかってな!かかれ、我が信徒達よ!」
牛頭鬼ミノタウロスの叱咤の声に呼応するように、虚ろな目をした民間人達が激しく痙攣を始め、故障したボイラーかと見紛うような蒸気が、辺り一面を白く包んだんだ。
「これは…?美濃田が変身したのと同じ…!」
「その名で呼ぶなと言ったはずだぞ、小娘!気が変わった…貴様は私直々になぶり殺しにしてくれる!」
さっきの京花ちゃんじゃないけれど、私も牛頭鬼ミノタウロスを挑発しちゃったみたいだね。間髪入れずに怒号が飛んできたよ。
いずれにせよ、こんな些細な事でいちいちカッカとしているようじゃ、ヘブンズ・ゲイト最高議長の跡目なんて、とてもじゃないけど継げやしないよ。
仮に私達の目が届かない所でアポカリプスを再興したとしても、トップがこの体たらくだと、長続きなんてしないだろうね。
そんな辛い現実に直面する前に、私達の手で引導を渡してあげるのも、ある意味では人助けなのかも知れないな。
そんな事を考えていたら、いつの間にか蒸気の噴出が終わったようで、虚ろな目をした民間人達の変身が終わっていたんだ。
どいつもこいつも牛面で、まるで牛頭鬼ミノタウロスの子供みたいだね。
違いとしては、牛頭鬼ミノタウロスは流暢な日本語を話しているのに対して、民間人の変身した量産型牛怪人は唸り声しか上げられない事かな。
野獣化して知能が低下してしまったのか。
それとも、造反を恐れて複雑な思考をオミットされたのか。
いずれにせよ、人道性に背を向けた悪魔の所業である事に、変わりはないね。
「そいつらは本来、市内の民間人達よ…可愛い民間人達を殺せまいな?だが、そいつらは容赦なく貴様達に牙を剥くぞ。守るべき民間人達の手にかかって死ぬなら、『防人の乙女』として本望であろう!そいつらになぶり殺されながら、石油化学コンビナートが破壊されるのを、指をくわえて見ているが…?」
牛頭鬼ミノタウロスの勝ち誇ったような笑い声を遮ったのは、自動拳銃の乾いた銃声と、量産型牛怪人が次々と昏倒する音だった。
「黙って殺されてくれるとでも思っていたのかな?残念でした~っ!」
殊更に生意気で憎たらしい口を叩きながら、私は自動拳銃を片手に、量産型牛怪人を撃ち倒していくの。
この憎たらしい口調には、ちょっとしたモデルがいるんだよね。
スクールバスで私の髪を引っ張るなんて反逆行為をしでかした、養成コースに通う訓練生の箕面茅乃准尉。
ツインテールを思いっきり引っ張られた時には激怒した私だけど、こんな形で箕面准尉の生意気な憎まれ口が役立つとは思わなかったな。
銃声を轟かせているのは、私の自動拳銃1丁だけじゃないよ。
「私としては、拳銃は得意ではないのですが…」
「お互い、拳銃は補助兵装だからね、英里奈ちゃん!」
京花ちゃんと英里奈ちゃんも、私と同モデルの自動拳銃を手にして、牛怪人を片っ端から撃ちまくっているよ。
「英里、お京!お喋りは結構だけど、2人とも油断するんじゃないよ!」
中でも一際猛々しい銃声を轟かせているのは、マリナちゃんの個人兵装である大型拳銃だった。
江坂芳乃准尉率いる特命機動隊曹士の子達だって、アサルトライフルのバースト射撃で量産型牛怪人を次々と仕留めているね。
「どうした、アポカリプスの審判獣!そっちの兵隊は、もう在庫切れか?」
まだ僅かに意識が残っていた牛怪人の胸板を踏みつけ、その眉間にヘッドショットを決めながら、マリナちゃんが牛頭鬼ミノタウロスに余裕の一瞥を向ける。
マリナちゃんの周囲には、銃撃で昏倒した牛怪人達がゴロゴロと荷物みたいに積み重なって転がっている。
鮮やかな回し蹴りと精密な銃撃を巧みに織り交ぜた戦法で、周囲の敵をあっという間に無力化してしまったんだ。
「兵力の出し惜しみと逐次投入は、兵法における最低の悪手…私達を本気で倒したいのなら、全軍を挙兵して挑むべきですね!」
当座の敵を一先ず一掃した江坂芳乃准尉が、部下達と共に牛頭鬼ミノタウロスにアサルトライフルの銃口を向けた。
あれだけの敵を撃ち倒した後だというのに、江坂芳乃准尉の隊には犠牲者も負傷者もゼロなんだから、さすがだよね。




