第14章 「見たぞ、恐怖の凶牛人間!」
「お疲れ様です!和歌浦マリナ少佐、吹田千里准佐!御2方の御越しを、御待ち申し上げておりましたよ!」
捜査課のオフィスのある階を訪れた私とマリナちゃんは、警務隊に出向している曹士の子に笑顔で迎えられ、小さな会議室に案内されたの。
そこで私達を待っていた、スーツ姿の2人の女性。
1人は黒髪セミロング、もう1人は茶髪のボブヘアー。
2人とも、大人っぽい落ち着いた雰囲気の溢れる美人さんだね。
そのうちの、美しい黒髪をセミロングヘアーにカットした、スマートな黒いパンツスーツ姿の人は、私にとってはちょっとした顔馴染みなんだよね。
「お疲れ様です。和歌浦マリナ少佐、吹田千里准佐。特に吹田千里准佐におきましては、先日の現場検証における御協力、誠に感謝致します。」
「はっ、長堀つるみ上級大佐!しかしながら、長堀つるみ上級大佐!あくまで自分は、特命遊撃士としての職務を果たしただけであります!」
私が黒髪セミロングの美人さんに向けてビシッと決めたのは捧げ銃ではなく、右拳を胸元にかざす人類防衛機構式の敬礼だった。
この会議室には、荷物用のテーブルがあるからね。
レーザーライフルを収納したガンケースは、そっちに置かせて貰ったよ。
さっき「ちょっとした顔馴染み」って言った意味が、これで分かったよね?
ほら、御子柴高の上空に現れたサイバープテラノドンを、私が美術の授業中に撃墜した事が、こないだあったじゃない?
あの後、墜落地点である大和川の河川敷が封鎖されて、特命警務隊による現場検証が行われたんだけど、その時の現場検証を取り仕切っていたのが、この黒髪セミロングのクールな美人さんこと、長堀つるみ上級大佐なんだよね。
と言う事は、茶髪のボブヘアーと銀縁眼鏡が知的なイメージを演出している、こっちの美人さんは…
「お疲れ様です。和歌浦マリナ少佐、並びに吹田千里准佐。私は人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局において、特命警務隊捜査課管理官を務めている嵐山桂代将です。」
やっぱり、そうだ!
私が昏睡中だった間に就任された、新しい捜査課の管理官の方だね。
もっとも、嵐山代将が警務隊の管理官に就任されたのは、元化24年度の年度始めだから、「新しい」と言うには少し語弊があるのかも知れないな。
何しろ私の場合、「黙示協議会アポカリプス鎮圧作戦」で負った重傷と昏睡状態から回復したのが今年の3月だからね。
そのため、私が昏睡状態だった間に起きた出来事は、全て後追いの知識なの。
その間の遅れを取り戻すためにも、今年の春休みには、勉強の合間に何度も資料室へ足を運んだ物だよ。
まあ、その時に第2支局の広報誌である「つつじ通信」のバックナンバーをじっくりと読み込んだから、幹部職の人事異動は大体把握出来ているんだけどね。
元化24年4月号の一面に載っていた「就任の御挨拶」で、「今度の管理官は、なかなかの美人さんだなあ…」って印象を抱かせて頂いていたけれど、本物の嵐山管理官の方が5割増しで美人だね。
凛々しくも御美しい管理官の御姿に見とれていた私の気を引き締めて下さったのは、もう一人の上官殿だったの。
「同じく、堺県第2支局特命警務隊捜査課第3班主任、長堀つるみ上級大佐です。和歌浦マリナ少佐、吹田千里准佐。御足労頂き、誠に感謝致します。」
「お疲れ様です!嵐山桂代将、長堀つるみ上級大佐!人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局配属特命遊撃士、和歌浦マリナ少佐!並びに吹田千里准佐!以上2名、ここに出頭致しました!」
長堀上級大佐が労いの言葉を言い終わるのを見計らい、私とマリナちゃんは戦闘シューズの踵を鳴らすと、人類防衛機構式の敬礼の姿勢を美しく決めるの。
まあ、マリナちゃんにはちょっと申し訳ないんだけれど、ほんの少しだけ、私の敬礼の方が美しく決まっている気がするんだよね。
「それでは席におかけ下さい、和歌浦マリナ少佐、吹田千里准佐。」
答礼の姿勢を解かれた嵐山代将は、知的な美貌に軽い微笑を浮かべると、私達に席を勧めて下さったの。
軽く口角を上げ、白い歯を少し覗かせただけの控え目な微笑だったけれど、知的に落ち着いた美貌の嵐山代将が行われると、ここまで有無を言わさぬ風格と趣を兼ね備えた微笑になるんだね。
私も人類防衛機構の組織に留まり、順調にキャリアを重ねていったら、あんな微笑を浮かべる事が出来る高官になれるのかな?
私達2人が着席したタイミングで嵐山代将が切り出した用件は、余りにも衝撃的な内容だった。
「それでは早速ですが、本題に移らせて頂きましょう。御2方に御足労頂いたのは他でもありません。和歌浦マリナ少佐と吹田千里准佐がデータベースに送信された、牛の怪物の目撃情報。それを裏付ける事件が、先程発生したのです。」
「それは本当でありますか、嵐山桂代将!?あの話は、単なる都市伝説ではなかったのでありますか?」
まさに、青天の霹靂って奴だね。
相手や場所も弁えずに、思わず立ち上がっちゃったよ、私ったら。
「落ち着け、吹田千里准佐!静粛に!」
「ううっ…しょ、承知しました、和歌浦マリナ少佐!」
まあ、こうしてマリナちゃんに窘められてしまうのも、無理もないよね。
「吹田千里准佐が驚かれるのも当然です。御2方には、あれを御覧頂いた方がよろしいでしょう。長堀つるみ上級大佐?」
「はっ!承知致しました、嵐山桂代将!」
嵐山代将に敬礼で応じた長堀上級大佐は、御自身のタブレットをプロジェクターに接続して、私達への説明の準備を始めたの。
どうやら、これから私達に説明される事件には、長堀つるみ上級大佐が深く関わっておられるようだね。




