第13章 「謎の出頭要請」
広報課からの出頭要請の経緯は、外伝編Part1「特撮女子 枚方京花少佐」の第2章「出頭要請」に詳しく書かれています。
私のスマホがメールを受信したのは、まさしくその時だったの。
「あれ…誰かな?」
メールの受信音に気付いてスマホを取り出した私は、次の瞬間には凍り付いてしまったんだ。
「嘘!?特命警務隊から出頭要請?なんで…?」
特命遊撃士の上部団体である特命教導隊から、更に厳正な試験で選出された優秀な人員のみで構成され、怪事件の捜査及び人類防衛機構内部の規律と治安維持を主要任務とする、エリート組織。
それが、特命警務隊だ。
昔の日本軍で言う所の憲兵隊に相当する組織で、特命遊撃士や特命機動隊の子達からは畏敬の目で見られているんだよ。
それにしても、特命警務隊が私に何の用なんだろう?
不祥事を起こした覚えは、特にないんだけどな…
でも、何かの誤解で濡れ衣を着せられて、それでこっちの言い分がまるっきり通らなかったら困っちゃうなあ。
今まで積み重ねてきたキャリアが台無しだよ…
それに、お母さんにも泣かれるだろうね。
「おっ!奇遇だね、ちさ。私もだよ。」
私に届いたのと全く同じ文面のメールを表示したスマホを示すマリナちゃんは、随分と落ち着いていたんだ。
私とは実に対照的にね。
「えっ…、マリナちゃんも…なの?」
マリナちゃんの態度が余りにもあっけらかんとしていたので、初めは聞き間違えじゃないかと思ったよ。
「良かったね、千里ちゃん。マリナちゃんも同じ用件で出頭なら、不祥事を原因にした叱責や懲戒の線は消えたよ。」
「ちょっと、京花ちゃん…!」
それって、どういう意味なのかな?
まさかと思うけど、私だけだったら不祥事の線も有り得るとか、そんな意味じゃないよね?
「私は信じてるからね!千里ちゃんやマリナちゃんが、万一にも不祥事をやらかさないって事をね!」
ああ、そういう事ね…
京花ちゃんったら、こないだ広報課から出頭要請を受けた時の、軽い意趣返しをしているんだね。あの時は私も思わず、「京花ちゃん、何かやらかしちゃったとか…」なんて言っちゃったからね。
さすがに今の場合は、京花ちゃんを怒るに怒れないよ。
悪気はないとは言え、最初に余計な事を言っちゃったのは私の方だし、今の京花ちゃんにも悪意はないからね。
むしろ、友達の潔白を信じる発言をしているんだから、有り難がらないとね。
「うん。勿論だよ、京花ちゃん!私とマリナちゃんが品行方正な優等生だって事は、京花ちゃんも知っての通りだからね。」
これでも最大限に茶化したつもりだけど、このジョークが空回りしているって自覚は、ちゃんと私にもあるんだよ。
目下の所、特命警務隊に呼ばれた理由がまるで分からないっていう動揺が、私の心に大きな波風を立てているんだろうね。
「そんなにビクつくなよ、ちさ。気分転換に頭の体操と行こうか。私とちさ。ここ最近、この2人に生じた共通点は何だと思う?」
このマリナちゃんの問い掛けは、私以外の2人にも向けられた物だった。
「最近の千里さんとマリナさんに共通する点…あっ!牛の…」
「牛の怪物の目撃情報を、支局のデータベースにメールで送信したって事かな、マリナちゃん?」
おずおずと答えようとした英里奈ちゃんの後を引き取ったのは、至って明朗快活な京花ちゃんだった。
まあ、厳密には「後を引き取った。」と言うよりも、「英里奈ちゃんを押し退けた。」と言った方が正確なのかも知れないね。
「早押しじゃないんだけど…まあ、正解。それに、もし不祥事だったら、私達4人まとめて呼び出しを食らいそうな物じゃない?」
ねえ、マリナちゃん…?
言わんとしている事は分かるんだけど、さすがに問題児集団の悪餓鬼4人組になった覚えはないよ、私達…
仲良し4人組だったら、問題ないけど…
「それも然りだね、マリナちゃん。基本、何をするにも一蓮托生だからね。私達4人ってさ!」
義理人情に厚くて友情を重んじる、至って主人公気質の京花ちゃんとしては、そっちの解釈でも満更でもなさそうだけど。
「と言う事で、英里…ちさの事、少しだけ借りてくから。大丈夫、借りた状態で必ず返すよ!それから、お京!英里の御守りを、よろしく頼むよ!」
冗談めかしたマリナちゃんの口調に応じる京花ちゃんもまた、明朗快活でコミカルな物言いだったね。
「任しといて、マリナちゃん!15階のサロンで、英里奈ちゃんと一緒に待ってるから!さあ、英里奈ちゃん!京花お姉さんと何して遊ぼうか~!?」
京花ちゃんったら、頬擦りするような勢いで英里奈ちゃんの肩を抱き寄せちゃって、すっかり保護者気取りだね。
「京花さん!私、そんな子供じゃないですよ~!」
英里奈ちゃんの抗議の声を尻目に、私とマリナちゃんは警務隊の捜査課オフィスへと赴くのだった。




