第11章 「友よ、そちらもか…!拡散する都市伝説!」
「マリナさんと京花さんの御2人が乗車された各駅停車の到着は、もうそろそろでしょうか?」
「うん、遅延がなければの話だけどね…」
南海高野線堺東駅に到着した私と英里奈ちゃんは、西出口の階段とエスカレーターに目を走らせて、そこから降りてくる群衆の中から、待ち人である防人の乙女2人を探し出そうとしていたの。
堺東駅の大階段とエスカレーターから吐き出されてくる、似たり寄ったりのダークカラーのスーツを着込んだ、没個性のビジネスマンや小役人達。
そんな文字通りの黒山の群衆の中で、特命機動隊の制服である青色のジャケットや、純白の遊撃服に身を包んだ防人の乙女達は、目にも鮮やかだよね。
「おはよう、英里奈ちゃんに千里ちゃん!」
「英里、ちさ!元気そうだね、2人とも!」
まるで公演のフィナーレにおける大浜少女歌劇団のように、大階段を颯爽と降りてくる、特命遊撃士の少女達。
その遊撃服姿の白い一団の中から、私と英里奈ちゃんを呼ぶ声がする。
側頭部で揺れるサイドテールが印象的な、2人の少女。
この2人こそ、私と英里奈ちゃんの親友にして御子柴1Bのサイドテールコンビ、和歌浦マリナ少佐と枚方京花少佐だ。
私や英里奈ちゃんとは対照的に、B組の2人の手荷物が通学カバンだけで済んでいるのは、マリナちゃんと京花ちゃんの個人兵装が比較的コンパクトだからだよ。
青い左サイドテールと明朗快活な表情が印象的な枚方京花ちゃんの個人兵装は、スイッチ1つでフォトン粒子製の刀身が生成されるレーザーブレード。
その優れた剣技から、京花ちゃんは「御子柴1B三剣聖」の一角にカウントされているんだ。
そして、艶やかでボリュームのある黒髪を右側頭部でサイドテールに結い上げ、クールで大人びた立ち振舞いから女の子人気の高い和歌浦マリナちゃんの個人兵装は大型拳銃。
近接格闘の合間に発砲するファイティングスタイルを得意にしているんだ。
この分だと、どうやら遅延はなかったみたいだね。
「ねえ、マリナちゃん…あの話、千里ちゃんと英里奈ちゃんにも聞いて貰った方が良くないかな?」
おやっ…?
京花ちゃんったら、どうしちゃったのかな?
心なしか、普段の明朗快活で元気な表情が、ほんの少しだけどシリアスに引き締まっているような…
「うん…そうだね、お京。昨日の昼休みにおける屋上での話とも、満更無関係ではなさそうだし。」
昨日の昼休みの屋上?
それって、まさか…
「いやさ…お京にも高野線の中で話したんだけど、うちの父親の会社の人が、退社後に通り魔に襲われたんだよ。」
あーあ、困ったなあ…
何ともキナ臭い香りが、私達の周りだけに立ち込めてきたよ。
「それで病院に運ばれたんだけど、意識不明の重態で家族の呼び掛けにも答えられないらしい。上司という立場上、見舞いに行った父親の前でも、『牛の化け物が…』って譫言を、ずっと呟いているだけだって…」
外れて欲しい時に限って、ピンポイントに当たっちゃうんだよね、嫌な予感ってのは。どうしてだろうね?
「牛の化け物?!その人、確かにそう言ったんだよね、マリナちゃん!?」
「お、おい!どうしたんだよ、ちさ!?」
思わず大声を上げながら身を乗り出す私を見て、マリナちゃんどころか、背広姿のビジネスマン達まで、ビックリしていたね。
「ゴメン、マリナちゃん…実は昨日、家に帰ってからこんな事があって…」
どうにか落ち着きを取り戻した私は、昨日の自宅で祖母と母から聞かされた話を、ザッと要点だけをかい摘まんでマリナちゃん達に説明したの。
「うむ…そうか、ちさの方もか…」
私の話を聞き終えたマリナちゃんは、歩きながら腕組みをすると、そのまま考え込んでしまったんだ。
「偶然にしては出来過ぎているし、単なる噂話にしては、ちょっと手が込み過ぎているんだよね…」
先程よりも一層シリアスな表情を浮かべた京花ちゃんが、しみじみと呟いた。
「マリナさんの御父上の職場の部下の方に、千里さんの御母様の御友人にして特命機動隊OG…そんな方々が嘘をおっしゃるとは思えません。」
信じて貰えたのはありがたいけれど、西都彩ちゃんの証言だけでは信憑性が薄いと言いたいのかな、英里奈ちゃん?
まあ、彩ちゃんの話を単なる都市伝説と片付けようとした私は、とやかく言える立場ではないけどね…
「それで…支局にはもう伝えたのかい、ちさ?」
「彩ちゃんの証言を受けた段階で、メールを送っといたよ、一応。お母さんからOG会での話を聞いてからは、それも踏まえて送信し直したけど、まだ支局からは特に何も言われてないよ。」
私の報告を受けたマリナちゃんは、満足そうな微笑を浮かべて頷いた。
「そうか…いい判断だよ、ちさ!朝飯の際に父親から話を聞かされた時には半信半疑だったけど、これで決心がついたよ!」
こう言ったマリナちゃんは、立ち止まって胸元からスマホを取り出すと、数回画面をタッチして再び遊撃服の内ポケットに収納し直した。
どうやら、予め下書き保存していたメールを、支局のデータベースに正式に送信したんだね。
「それじゃ…改めて行こうか、3人とも!」
私達へこのように笑いかけるマリナちゃんの顔は実に爽快で、先程の曇った表情の名残すらなかったね。
「うん!そうだね、マリナちゃん!」
「御供致します、マリナさん。」
「はっ!承知しました、和歌浦マリナ少佐!」
マリナちゃんへの返答は三者三様だけど、思いと行動は皆同じ。
クラスごとに隣り合って2列を作った私達は、南海高野線沿いの道を進んで、配属先である堺県第2支局ビルを目指したの。
と言っても、南海バスのロータリーを挟んですぐの所にあるから、そんな大した距離じゃないんだけどね。




