とある少女たちの結末
次回更新は明日か明後日になると思います。
──人は適応する生き物だ。
理不尽な天災に巻き込まれ、今までの生活を送ることは出来なくなった人々であったが1年経つ頃にはほぼ全ての物が新たな生活に慣れていた。
5年もたてばそれが当たり前になり…10年経った今、人々は余裕を取り戻していた。
そして余裕を取り戻すと人々は次はさらなるものを求めだす。
権力、武力、財…過去の痛みを忘れ、欲が顔を出してしまう。
それが当たり前だ。
今よりも更なる幸福を願うのは人として当たり前…しかし中にはそれを他人を踏みつける形で満たそうとする者が現れてしまうのも当然のことだ。
そのような欲に取りつかれた者たちが今の世界で求めた物は何か?それは二人の聖女、レイとミィだ。
白と黒に覆われた世界において傷を、病を治す聖女と呼ばれて二人の少女の存在を大多数の人間が目撃している。
空間が歪んでいたために帝国に他国の者まで逃げていたことが原因の一つだ。
生活が落ち着いた人々が真っ先に議論に上げたのがこの二人の聖女の事で、二人を保護している帝国に直接聖女をよこせと言ってくるところまだいいくらいで、なまじ国力が残っている国は非人道な篭絡策、強硬手段に出て誘拐を試みようとする者すら出てくるありさまであり、まさにフォスが頭を悩ませる事案の一つであり、このままでは戦争が起こるかもしれない…そう懸念していた。
帝国に小国が挑んでくるはずがない…平時ではそうだったかもしれないが、どんな傷も病も治す力が手に入るのだ。
聖女を奪取出来てしまえば人の被害などどうとでもできる。
もはやいつ欲望で育った火種が爆発してもおかしくない状況だった。
しかし結果として戦争が起こることはなかった。
何故か?それは誰よりも先に二人の聖女に目をつけた存在が、どこよりも早く聖女を横から奪い取っていってしまったからだ。
その存在の行動は恐ろしいほどに素早く、聖女の一人であるミィの安全を両親から頼まれていたフォスの目をもかいくぐった。
そして現在。
帝国の一角に作られた異様に広いスペースに所狭しと人々がせめぎ合っている。
その場所には不自然に巨大な台座のようなものが設置されおり、集まった人々はその何もない台座にむけて異常な熱量を感じさせる視線を注いでいる。
今にも爆発してしまいそうな熱気の中、台座に変化が現れた。
台座の中央に小さな穴が開き、そこからフリルやレースがこれでもかとあしらわれた衣装を身に纏った少女が飛び出してきた!
「みんなおまたせーっ☆今日も元気にあなたのハートにどらごんぶれす!☆ときめくきらきら☆シューティングスター!みんなのアイドル、クララだよー!」
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉおおおわぁああああああああああああクララちゃぁあああああああああああああああぁあぁあんんんんん!!!!!!!」」」」
アイドルのクララがステージに上がると共に大地を砕き、空を引き裂き、海を割かんばかりのファンたちの叫びが轟き、クララは満点のアイドルスマイルを振りまく。
そう、今日この場で行われているのはもはや人々の娯楽として世界中に浸透したアイドル文化…その始まりにして頂点に君臨する伝説のアイドル、クララのライブだ。
辛い事、苦しい事、悲しい事…その全てをこの瞬間だけでも吹き飛ばすようにクララはステージを綺羅星の様に舞い、踊り歌う。
「みんなー!楽しんでるぅー☆」
「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
「今日はクララのライブに来てくれてありがとーーーーー☆クララ~みぃ―――――んなにもっともっ~~~~~っと楽しんでほしくて~☆今日はなんとお友達に来てもらったんだお☆」
「「「「な、なんだってー!?!!!!!??!?!?!?!??」」」」
「奴隷…ファンのみんなもクララのお友達に会いたいかなぁ~?カナカナ~☆」
「「「「あいた~~~~~~~い!!!!!!!!!!!!!」」」」
「そんなに会いたいなら~みんな歓声で迎えてあげてね☆ではカモン!クララのお友達ぃ~☆」
観客の歓声が高まる中、クララがパチリと指を鳴らす。
するとキラキラとした粒子が舞台を包み込み、流れ星の様に奇跡を描いて散っていく。
そして舞台に現れたのは二人の少女…美少女。
どちらも十代半ばの様に見え、大人のようでありながらも子供特有の可憐さを残している。
一人はまさに天真爛漫と言った様子で、ニコニコと人好きよさそうな…誰もが一目見ればこちらまで楽しくなってしまいそうな太陽のような笑顔が印象的だ。
もう一人は対照的に顔を今にでも火が出るのではないかというほど真っ赤に紅潮させ、顔を覆っている。
指から覗く顔は少女の様にも少年の様にも見える中性的な印象が特徴的だ。
「お、おい…あれってまさか…」
「ええ?いや…そんなはず…」
「でももしかすれば俺たちのクララちゃんなら…」
歓声をあげることすら忘れ、観客たちの間にざわめきが広がっていく。
どうしてそんな事になるのか?それは観客たちはステージに現れた二人の少女によく似た存在を知っているからだ。
しかしそんなはずは無いと視覚からの情報と常識、理性と言ったものが反発し認識を拒む。
そんな観客の様子にクララは楽しそうに微笑むと二人の少女に手を向ける。
「は~い!皆さんご注目ぅ☆ではでは二人とも自己紹介をどうぞ!☆」
クララの言葉に最初に一歩前に出たのは笑顔が眩しい少女だった。
少女はマイクを手にするとニコニコと元気よく声を出す。
「たくさんのみんな様はじめまして!です!私の名前はミィです!クララちゃんがみんな様を幸せにできるって言ってたからアイドルになりました!です!すこしでも楽しく幸せでいてもらえたら嬉しい、ます!」
少女…ミィはばーんと擬音が聞こえてきそうな両手両足を広げるようなポーズを取った。
「ミィ…?それってやっぱり…!」
「ああ間違いねぇ!聖女様の名前だよ!」
「うそ…じゃあもう一人も…!」
顔を覆ったままもじもじと足をこすり合わせていたもう一人の少女の背をクララが軽く押す。
それで覚悟を決めたのか、手を顔から胸元に下げもう一人の少女も話し出す。
「ぼ…ボクはレイ…です…。えっとその…クラ、ラちゃんや…ミィちゃ、んみたいに…あまりうまく喋れ、ないけ、ど…みなさんに楽し、んで貰いたいで、す…えっと…よ、よろしくお願いしまひゅ!」
レイはぺこりと頭を下げて、そのまま顔をあげずにプルプルと震えていた。
ミィとレイ。
あまりに対照的な二人の手をクララは掴むとバンザイをするように上にあげる。
「は~い!というわけで☆今回はスペシャルユニット!クララちゃんwith聖女ちゃんズ☆でライブをお届けするよぉ~☆」
「………う、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
一瞬の沈黙の後、観客たちは雄たけびを上げる。
それを見て満足そうに頷くクララ。
事の始まりは10年前の戦いの最中だった。
レクト達に付き合って帝国側として戦っていたクララであったが、フィルマリアの気配を察知し人知れず戦線を離脱していた。
言い知れぬ気まずさを感じていたために、顔を合わせたくなかったから。
そんなこんなで戦場を俯瞰して観戦していた時に人々を癒して回るミィが目に留まった。
「あの子…なにやらフィルマリアの力を感じる?ふーん」
クララの頭の中でその瞬間電流が走った。
人々は謎の病を治療していく可愛らしい少女に魅了されているようで、そしてそれと同じような事が少し離れた別の場所でも行われていた。
「レイちゃんも注目されてる…ふふふふ、ふふふふ!これは…とってもビッグなアイドルチャンスな気がしてきたよぉ☆」
それからのクララの行動はまさに疾風の如しだった。
戦いが終わり、聖女たちの扱いをどうするかの議論が始まるとほぼ同タイミングで二人を勧誘。
あの手この手で口説き落とし、アイドルとして仕立て上げたのだ。
その事を知ったフォスは血を吐いたが最終的には黙認という立場をとることとなる。
理由は二人の身の安全だ。
「あの子たちの扱いに困ってるんでしょ~☆ならクララにちょうだいよ☆あんな可愛い子たちが欲に肥え太った豚に好き勝手されるよりは億倍ましでしょ☆でしょ☆」
「そりゃそうだが…」
「大丈夫だって!いろいろうまくやるから☆ねぇ~皇帝ちゃん~お・ね・が・い☆」
「やめろ気持ち悪い。吐くぞマジで」
クララとフォスはひそかに話合い、聖女の力は災害が起こったあの時に酷使しすぎたせいでほとんど残っていないという設定を作り、世に広げた。
それが完全に信じられたわけではないが、帝国の庇護下にあり龍の神が側にいる二人に手を出して嘘を暴けるものなどいない。
そしてレイとミィはクララ預かりのもとアイドルとしてデビューしたのだった。
二人もいつまでも何も知らない子供ではない。
自分達の力がようやく安定してきた世界に波風を立ててしまうものだという事はとっくに理解している。
だからミィはクララの言葉に乗った。
「アイドルというものは人を幸せにできるんだよぉ☆」
ミィの願いは一つ。
一人でも多くの人に笑顔になってほしい…自分を助けてくれた姉のような人の様に誰かを幸せにしてあげたい、それだけだ。
レイも同じだ。
自らの母同然の存在であったアルギナがなにか恐ろしい事をしていたのは知っていた。
でもそれに目を背け、アルギナとの安定した関係をレイは望んでいた。
それを後悔はしてはいなけれど…もし母が原因で苦しんだ人がいたのならそんな人を一人でも笑顔にしたい。
それは娘である自分の役目だから。
ちなみに最後の一押しはクララの持つ昔ばなしだ。
アルギナともフィルマリアとも親交があったクララの話に二人は飛びつき、そこからいつの間にか果ての無いアイドル道に引きずり込まれたというのが真相だ。
しかし始まりがどうであれ、理由がどうであれ三人は舞台の上でキラキラと輝き、この瞬間そこにいる人たちを笑顔にしていた。
そこにマイナスの感情は一切なく、ただ純粋にこの場所を楽しんでいる。
彼女達がどれだけ頑張ろうと形として残るものは何一つとしてないのかもしれない…しかし確かにこの瞬間、人々の心から傷は無くなっていた。
大勢の人々を心から魅了したライブは終わりを告げて幕が下りる。
日は墜ちて月が浮かび夜の帳がおりる。
そして…闇に生きる者の時間が訪れた。
すいません!この回が長くなりすぎたのでエンディングもう一話伸びます!
あと二話でメイン完結の小話が二話で物語の完結です!




