人形少女は本心を聞く
次回は明日か明後日投稿します。
本気になったマリアさんはすごかった。
さっきまでのは一体何だったのか…というくらい強い。
雷による高速移動に加えて、空間転移まで併用しているのに無数の刀を使い分けてあっさりと捌かれていく。
巨大人形ちゃんと雷の天使も動員し、何とか追い詰めようと試みたけれど一瞬のスキを突かれて二体とも行動不能にされてしまい、私個人的にもこの二体が傷つくところはあまり見たくないという事で下がらせた。
今は無数の人形たちを駆使してなんとかやっている状態だ。
「いいですね、たくさん友達がいて」
「友達なのかなぁ」
「皮肉です」
「そっかぁ」
会話をしながらも闇の中に潜ませていた赤い糸をマリアさんの足に絡ませて引っ張り、わずかに体勢が崩れたところを人形が襲い掛かり、マリアさんの頬を傷つけた。
たらりと流れた血を拭う事もなくマリアさんは刀を振るい、人形たちを切り倒していく。
それと同時に雨あられと降り注ぐ刀もえらい事になっており、いくら数が多いと言ってもさすがに人形たちのストックが切れそうだなと思わない事もない。
まぁ正確に何体いるのか把握してないんだけどさ…いつか暇になったら数えてみるのもいいかもしれない。
「平和そうな顔をしていますね」
「元からこんな顔なんだけどなぁ」
「嫌味です」
「そっかぁ」
人形たちをあしらい、マリアさんが肉薄してきたので刀で応戦する。
もうこの戦いが始まって何度目になるのかもわからない鍔迫り合いだ。
「あなたはいいですね、いつもへらへら楽しそうで」
「んん?」
「悩みなんか何もなさそうで、人形のくせにふにゃふにゃとしていて…ある種の羨ましささえ覚えますよ」
「む~…これでも色々悩み事とかもあるんだよ?」
いや、ちょっとカチンときて言い返したけどぶっちゃけそんなに悩みなんてないかもしれない。
マオちゃんの事とか娘たちの事とかくらいかなぁ?最近は一応マナギスさん関連のあれこれとかあったけどもさ、思いつめるようなことはない気がする。
「そうですか。それでもそんなに呑気にふるまえるのは素晴らしいですね。一つ質問なのですが今までで死にたいと思うほどの何かを経験したことはありますか?」
「あるよ」
この世界に転生してきてマオちゃんに出会うまでの数百年。
それは私にとってまさに地獄だった。
まぁ死にたいというよりは殺したい…という感じの感情だったけどね。
というかそもそもこっちの世界にやってくる前の糸倉紗々としての人生なんかもわりとそれに当てはまるのかもしれない。
最近で言うのならクチナシの事に…あぁそう言えばマオちゃんがリフィルを出産した時なんかは本当にマオちゃんが死んじゃったと思って世界全てに一瞬だけ絶望した覚えがある。
「思い起こしてみれば私の人生だって辛い事だらけだったよ~何度も死んでしまいたいと思ったし、とにかく絶望して狂って辛くて…そんな事になっていた時だってあったんだよこれでも」
「そうですか。ならばどうしてあなたは日々をそんなに笑って過ごせるのですか?」
「そんなの大好きな人に出会えたからに決まってるじゃん。愛があればね?この世のそれ以外の全てなんて何の意味も持たないんだよ」
「はははは。馬鹿馬鹿しくて…やっぱりあなたがちょっとだけ羨ましい」
「そう?」
「ええ、だからこそ殺したいほどに忌々しい」
なんでや。
ようやくまともに会話できるようになったと思いきや、その思考回路がさっぱり理解できない。
「簡単な話ですよ。私が死ぬほど苦しんで、死ぬほど後悔して、死ぬほど泣いて、死ぬほど痛くて、死ぬほど吐いて、死ぬほど絶望して…そうしてここに立っているのにその私と同じ場所に立っているあなたが自分は幸せだとのたまうのです。死ねと思うでしょう?私がこんなにも不幸なのだから、その他の大勢にも不幸になってほしいじゃありませんか」
「死ぬほど理不尽」
「私はねリリ、ようやく気がつきましたよ私の本心に。「私は」…そう、この世界の生きとし生けるもの全てに不幸になってほしいのです。誰にも笑っていて欲しくない、幸せであってほしくない。普段の私の様に常日頃から苦しんで血反吐を吐いて、激痛の中で悶え苦しんでほしい。全ての親に最愛の子を奪われる苦しみを味わってほしい、全ての子に他者に未来を閉ざされる絶望を知ってほしい。友を切り殺す感触を体験してほしい、苦しんで苦しんで苦しんで嘆きと怨嗟の中で魂ごと粉微塵になって息絶えて欲しい…それが私がこの世界全てに願う想いです」
「…おおう」
想像以上にどえらいもんが出てきたの巻。
ヤバい女の極致みたいな人だ。
なんと言いますか、あまりにも綺麗な容姿をしているものだから余計に怖いし、言っている本人はなんか晴れ晴れとした表情をしているからもうとにかくすごい。
言語力が溶けているけどなんかすごいとしか言えない。
「これが私の本心。あの子がとかあの子のためにとかじゃない。私が私から最愛の娘を奪ったこの腐り切った世界に対する嘘偽りのない本当の想い。どう思います?あの子はこんな私を嫌うでしょうか?」
「んー…それでもあの子はやっぱりマリアさんのことが好きって言うんじゃないかな」
母親よりもそれ以外のものが大切だと思うのなら、私なんかに託したりはしないでしょう。
なんやかんやでいい子ちゃんじゃないのよレイは。
昔から自分勝手な女なんだあいつは。
そうでしょう?レイ。
背後で聞き覚えのある声で困ったような苦笑いが聞こえた気がした。




