魔王少女は壊す4
「マオちゃん!!」
目の前の光景にたまらずリリは叫んだ。
いつの間にか口が自由になっているがそんなことはどうでもよく、人形の残骸に埋まってしまった最愛の人が心配で狂ってしまいそうなほど心が乱れていた。
そしてその様子をこれからの行動を考えながらマナギスは見つめている。
そんな彼女の元に一人のローブを着た人物が現れ、膝をつく。
「マナギス様、遅くなりました」
「本当に遅いよ。ずっと呼んでたのに何してたのさ」
「申し訳ありません、例の国の事がまだ済んでおらず…」
「ノロマだなぁ。本気で頑張ってる?そんなんだから君たちは「出来損ない」なんだよ」
無造作にマナギスがローブの人物を蹴り飛ばした。
そんな扱いを受けているにもかかわらず、ローブの人物は文句ひとつ言わず、ずっとマナギスに傅いている。
はぁ…というため息とともに興味なさげに視線を外し、マナギスはリリを見る。
かなり動揺をしているその様子に今なら何か情報を得られるかもしれないと笑みを作った。
「まぁでもまずは次の拠点に移動するのが先かな。彼女だけが追手とは思えないし…すぐに移動をしよう」
「かしこまりました」
「そういえば君一人しか来てないの?」
「はい。手が離せるものが私しかおらず…」
そこで再びマナギスがローブの人物を蹴る。
「つくづく失敗作だね君たちは。これは本気で「廃棄」を考えないとなぁ…もういいからリリちゃんを連れてきて。資料なんかは頭に入ってるから火をつけて処分」
「かしこまりました」
いそいそと行動を始めたローブの男をしり目に、マナギスは頭を悩ませる。
「人形兵の用意はもう少し時間がかかる…「燃料」の調達もしなくちゃいけないし…緊急用の転移陣と転生人形も切らされた。極めつけはこの特別製の隠れ家の破棄…手持ちのカードはほぼ全て無くなったと言っていい…どうしたものか。このまましばらく大人しくする?いいや、逆境は跳ねのけてこそだ。今だからこそ大胆に動いてみるのもアリか…」
独り言を小声で呟きながら思考の中に沈んで行っていたマナギスだったが、千切られた肩口から血が落ちる音で我に返る。
そうだ止血しなくてはと傷口を覗き込んだがそこで違和感を覚える。
───明らかに流れ出ている血の量が少ない。
肩がまるまるなくなっているのだ、大量に血が流れ出てしかるべきなのにポタポタとまるで雨漏りでもしているかのように静かに少量が流れ落ちているだけだった。
「これは…?」
マナギスが異常に気づいた瞬間、それは起こった。
─────────
マオは人形の残骸の中でお腹を守るように身体を丸めていた。
オーラで周囲を守ってはいるが、どんどん増していく人形の圧力にオーラの壁は狭まり、ほとんど余裕はない。
またスクラップになっていない人形たちは隙間から各々の武器を差し込んでおり、一瞬でも気を抜けば串刺し…もしくは圧死するのは必至だった。
「どうしよう…」
マオはこの状況を打開することができる手段を一つ持っていた。
しかしそれを使えば少しだけ良くない結果をもたらす可能性がある。
自分が被害を受けるだけならそれでもいい…だがその手を切ったならば被害を受ける可能性があるのが…。
マオは自らの腹をぎゅっと抱きしめる。
完全に油断した。
殺すとは言ったもののリリの制御権を握っられた状態で殺すのはリスクがあるとクチナシはマオに伝えていた。
マナギスは原理不明の復活手段を有しており、それを利用して逃げられる可能性があると。
そうなれば制御権を取り戻せないかもしれず…だからマオはすぐに殺してしまいたい衝動を抑えながら脅しをかけつつ、パペットを操る起点となる指の切断を試みていたのだ。
それがまさかこんな手段で逆転されるとは…。
マオは必死に考えた。
しかしやはりいい考えは浮かばない。
「どうしたら…」
ギギギギギギと耳障りな音が周囲から隙間なく聞こえる。
「もう悩んでいる時間はないか…ごめんね。絶対に守ってみせるから」
そう誰かに向かって伝えた後にマオは腕を天に向けて掲げようとして…猛烈な吐き気に襲われた。
「うぅ…!?おえっ…なに、ごれ…?」
何これとは言いつつ、マオはその感覚に覚えがあった。
胃の中のものが意志に反して逆流しそうになる不快感。
身体中の気力や生気といったものがお腹の下あたりに吸い取られていくような感覚。
それは…。
「リフィルが…「いた」時の…」
それを最後にマオの意識がぶつりと途切れた。
─────────
マナギスが一つ違和感に気づくとそれからは早かった。
何かが起こっている。
血が流れない。
それだけではなく義手である右腕の感覚がやけに生々しいのだ。
無機質な人形の腕のはずなのに、どくどくと脈打っている。
「ま、マナギス様…!」
ローブの人物が声を上げ、マナギスがそちらを見るとローブの人物は胸を押さえてうずくまっていた。
「なにがあった、報告しなさい」
「わ、わかりません…!突然…胸部がドクドクと…こ、これはいったい…!?」
マナギスの目にローブの下から覗く肌が映る。
とても血色がよく、まるで「生きている人間」のようだった。
「!?これは…」
思わず後ずさるマナギスは足から伝わってきた感触に身体を震えさせることになった。
硬い石造りの床を踏んでいるはずなのに…ぶにゅっとした不快な感触を感じるのだ。
───まるで生肉を踏んでいるような感触。
バッとマナギスは拘束されているリリを見た。
一見リリには何の変化も見受けられない…がしかし数々のパペットを見てきたマナギスには分かる。
肌の質感が明らかにパペットのそれではない。
特徴的な関節こそそのままだが、触れれば柔らかそうな…柔肌のような質感に見えた。




