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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第三章 極光の夢
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第23話 暁の園に揃う最後の二人

 触れるだけで後戻りできなくなるモノが目の前にある。


 空に浮くは小さな赤子の心の臓。それは銀色に光り輝いている。これに触れれば最終戦。


「それに触れれば、あとは終わるだけだぞ。それでもやるかい?」


 もはや夢ではない。声の主は、そこに座っていた。墓標立ち並ぶ地面に、大量の石像が立っている。双方は混じり、互いの境界すらなくなっている。


 薄い薄い壁、それを遮るのはジョシュアの子供の領域。それは赤子で、あまりにも小さすぎて、二つの領域を分けるのにも心もとなくて。


 隣にいるが触れることはできない。ジョシュアとアークトッシュ。最期の領域の主たち二人。最期の語り合いを始める。


「最初にね。精霊が死んだ後に出る石に、不思議な力があることに気付いたのは子供なんだ。触れて光らせる。それだけしかできなかった」


 語る彼は、端整な顔を持ち、ボロボロになった深紅のマントを纏った男。腰には金色の剣。始まりの男、アークトッシュ・ベルゼ・ルクメリア。


 彼は崩れた石像に座り、項垂れるように言葉を並べていった。


「気持ち悪いと思ったよ。死体で子供が遊んでるようなもんだ。だから取り上げた。ああ思えば、あれが無ければな。力が発動してしまった。最初はちょっと火が出ただけなんだ。あーあ……力なんて得なければ、俺達は村をでることもなかった」


 彼の眼は、真っ赤だった。そして髪は黄金色。その姿はどこかアイレウスに似ていて。静かにたたずむその男を形容する言葉は、無以外何者でもなかった。


「興奮して、皆連れて、村を飛び出た。まぁ、正直楽しかったよ。いろいろあったけど、楽しかったよ。なぁ君は、今まで楽しかったかい?」


 口角だけで、彼は笑った。その顔は笑顔と言うよりはただの、歪ませただけの顔のようで。


「そうか、まぁ、そうだろうね。うん、君はまだ途中だから、楽しかった、などとは言えないか。ああ、あそこでやめていたらな……こんな腐りきった世界に、来やしなかったのに」


 彼はまた項垂れる。深いため息はまるですべてを吐き出すようで。ふと、ジョシュアは彼に聞いてみたくなった。


「後悔、してるのか?」


 座ってる彼とは対照的に、ジョシュアは立っていた。腰には白銀の剣、背には深紅のマント。彼らは示し合わせたように、似たような服装をしている。


「さぁどうかな。たぶん、後悔する前に俺は死んだんだと思う。皆いなくなって、あとは腐るだけという時に、こんな希望を手にしてしまった。だったらまた、進むしかないじゃないか」


「俺はお前のことをあまり知らない。だがアークトッシュ。あなたはもう進まなくてもいいと思うんだ」


「正しい。だが間違いだ。俺は、あまりにも多くのものを失った。できることなら、留まりたい。でも、仲間の一人が言ったんだ。死ぬときに、君が創る世界を見てみたかった、と。だったら見せるしかないじゃないか。例え全てを壊したとしても、世界を創るしかないじゃないか」


「それで千年も戦っていたのか?」


「まぁね、俺は精霊種だからさ。老いじゃ死なない。ああ、後一歩、進めば終わる。でも俺には一つわからないことがある。聞いていいかな?」


「何だ?」


「いや、君にではない。君の剣に対してだ。俺は終ぞ、その剣と語ることはできなかった。だから聞いて欲しいんだ。何故俺から離れたのかと」


「……マリア、何故だ。答えてやれ」


 白銀の剣は一際輝いた。しばらくの沈黙の後、その剣はジョシュアにある言葉をかけた。


「教えてくれ。ジョシュア・ユリウス・セブティリアン。砕かず、そのまま伝えてくれ俺に」


「アークトッシュ。こいつは、言っている。そのまま伝える。こいつは、お前は剣を握っていけないと、言っている」


「そうかぁ。ふ、ふふふ……ははは、滑稽な、何だそれ? お前がいなくなっただけで、俺が進むのを諦めると? だからお前は昔から浅いんだ。マリア、君は本当に、誘うだけ誘って泣かせるのがうまいな」


「アークトッシュ。初対面だが、俺もお前は剣を握らない方がいいと思う」


「ははは、かもしれない。だがな」


 アークトッシュは立ち上がる。手で深紅のマントを払い、その汚れ錆びきった鎧をみせる。その鎧はもはや鎧としては無意味なほどに、さび付いていた。


「ジークフレッドは俺の言葉のために、王となって死んだ」


 彼は剣を抜く。その刀身は金と赤の血で染まっていた。剣を抜いた鞘からは血が溢れる。


 うっすらと、彼の後ろには金色の翼を持つ精霊の王、ジークフレッドが現れる。


「ロンディアナは俺の代わりに人ながら精霊の世界へいき、争いを治め続けて心を壊して死んだ」


 彼の後ろに若かりし頃のロンディアナが現れる。


「カンツォーネは俺の言葉のために、災厄を止めて、死んだ」


 彼の後ろに赤くて長い髪の男が現れる。


「バルバレスはやっと帰ってきた村になじめずに、一人旅立って、その旅先で賊に殺されて終わった」


 彼の後ろに筋骨隆々の巨大な男が現れる。


「ディリスは俺のせいで裏切らざるを得なくなって、皆を裏切って敵について、結局もう二度と話すことなく殺してしまった」


 彼の後ろに冷たい眼をした細みの男が現れる。


「ファレナとミストリアは俺達の代わりに敵に捕まって、二人して最低な死に方をさせてしまった」


 彼の後ろに赤と青の翼を持つ女性たちが現れる。


「レンフィード、君がいなかったらきっと、騎士道などというものはできなかった。老いる意味を君は知っていた」


 彼の後ろに荘厳な老人が現れる。


「マリア、君は辛かったかい? 君の意志は、あそこで終わらなかった。何とも強い女性だった」


 彼の後ろに白銀の翼を持つ女性が現れる。


「アトレイオ、君はよくやってくれた。国を創れたのは君のおかげだ。まぁ、何だ、父親としては最低だったかもしれないけど、君は最高の息子さ。君の強さ、誇りに思うよ」


 彼の後ろに彼と瓜二つな男が現れる。


「ゲンヴァ、確かに君は弱かった。だけど君のその輝きに、何度俺達は救われたか。死なせてしまったことを、ジークはかなり悔やんでいたよ」


 彼の後ろに小柄な飄々とした男が現れる。


 アークトッシュを入れて12人。総じて二つ名は精霊騎士。


 その姿はまさに栄光の姿。始まりの12人はジョシュアに、ジョシュアの後ろにいる現在の精霊騎士たちに、畏敬の念を抱かせる。


 まさに最高の騎士たち、彼らは皆一様に微笑み、彼の後ろに立っていた。


 アークトッシュはその姿を見て、同じように微笑むと、一気に醜悪な顔を見せて言葉をぶつけだした。


「ふざけるな! 何が精霊騎士だ! 何が幸せな世界だ! 結局俺たちがやったことは、ただの殺戮! 力を力で抑え込んだだけだ!」


 彼の後ろの騎士たちは、微笑みを絶やさない。きっと、それはジョシュアの使徒と同じなのだろう。笑うことで、後ろを振り向かせない。そこに人は心強さを感じるだろうか、心の弱さを感じるだろうか。


「ふざけるな! 皆死んだ! 満足そうに! 何死んでるんだよ! 俺は、まだいるぞ! まだいる! いつまでこの夢を見つづけるんだ!? ああ……ああああ!」


 泣いた。アークトッシュは泣いていた。彼はもう止まれないことに、疲れ切ってるのだろう。涙を流しても尚、彼の使徒は微笑みを絶やさない。


「もう、いい……ジョシュアよ終わりにしよう。願いの石は俺が手に入れる。お前たち全員殺して、世界すら殺して、俺は、俺の夢の世界を手に入れる。幸せになれる世界だ。皆が笑い続けなければいけない世界だ」


「アークトッシュ、あなたを滅するために、俺は揃えた。あなたが創ったルクメリア王国が誇る騎士団全員と、ジークフレッドが創った黄金の城。あなたの最期の戦争だ。覚悟は、いいか?」


「願いは俺のものだ。お前たち如きに防げるものか」


「願いなどどうでもいいが、お前はもう死ぬべきだ。ここで死ぬべきだ。これ以上お前は進んではいけない」


 そしてジョシュアは浮かんでいる心の臓を掴む、それは自分の子供の領域を司る心の臓、それによって彼らは神域を得た最後の二人になる。


 その心臓はジョシュアの子であるジークフレッド・シリウス・セブティリアンの使徒が取り出したもの、それで未来のシリウスの記憶を持った使徒は消える。


 シリウスの使徒は墓標と石造混じる世界ができるのをみて、笑いながら消えていった。そこに錆びた白銀の剣を残して。




 ――さぁ、最期は盛大に。終末へ向かっていきましょう。ふふふ

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