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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第三章 極光の夢
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第22話 終わる前哨戦

「あーあ、なんつーかさぁ。こういう場でしかお前とゆっくり話せねぇのがな。変わっちまったな俺たち」


「まぁ、時が経った、ってことだろ」


「そりゃそうなんだが」


 敵の兵士たちがバタバタと倒されていくその戦場で、二人は肩を並べて立っていた。


 一人は大きな槍を持った小柄な男、ダンフィル・ロードフィル。


 一人は白銀の剣を持つ大柄の男、ジョシュア・ユリウス・セブティリアン。


 二人は戦場にあるが、まるで日常の中にいるかのように話し込んでいた。


「なぁジョシュア、何かぶっ飛んじまったけどさ。こうやってると、昔を思い出すな」 


「ん? そうか?」


「そうだよ。騎士の塔から長い付き合いだがよぉ。俺さぁ、昔はお前みたいに強くなりたかったんだよなぁ」


「何を言ってるんだダンフィル。お前は昔から強かっただろ」


「必死だっただけだぜ。俺お前とあんまり背丈変わんなかったんだけどなぁ昔は。時の流れを感じるぜ」


「そこは、才能だな」


「あーくそ、俺ももうほんのちょっとでかけりゃなぁ」


「お前はそれでいいだろ。十分強いさ。正直俺もかなり手こずるだろうなお前とだと」


「冗談だろ? ったく口がうまいぜ」


「ふ……なぁダンフィル、お前の子供、娘だったか?」


「ん? ああそうだぜ。ロンドベリアの宮殿で今嫁さんといるけどよ」


「騎士にするつもりなのか?」


「ああ? いや……あー本人がどう思うかだけどよ。嫁さんと同じ政治家になるんじゃねぇかなぁ。ここまできてあれだが、あんまりいい仕事じゃねぇぜ騎士ってよ」


「だよな。やっぱりお前は、俺の友だ」


「何言ってるんだジョシュア。まぁ、な。だがな、思うんだが、結局方向としては騎士になりたがるんだろうなぁたぶん。まぁ子が苦労しねぇように、きっちり平和にしておいてやるかね」


「そうだな。それじゃ、俺はガキのしつけに行ってくる」


「おうよ、無理すんなよ。じゃあ俺は皆の加勢に行ってくるぜ。意外と下位の精霊騎士は苦戦してるみてぇだし」


「ああ、怪我人だ無理するなよ」


「わぁってるって」


 それだけ言うと、ダンフィルは槍を抱えて敵兵の下へと跳んでいった。向かうがてら槍を兵に突き刺す彼を見て、ジョシュアは中々のものじゃないかと思った。


 一人一人の使徒に名をつけ、小さな王国を築いていたその兵士たちの楽園は、今崩壊しつつあった。


 兵士は復活しない。何故なら兵士は個であって、個の変わりは生まれども、それは別個体。長い年月をかければ同じように王国が復活するかもしれないが、今は復活しない。


「ふざけるな。僕の兵士たちが……」


 少年は嘆きの声を上げる。彼の眼前で行われている一方的な光景に彼は嘆くことしかできなかった。


 王とは、人を導くもの。決して玉座に座ってるだけの飾り物ではない。


 国とは、民の世界。決して王と兵士だけでできるものではない。


 兵士とは、国を守る者。決して王を守るためだけの者でない。


 それを理解できなかった小さな王になりたかった精霊は、絶望しつつあった。


 いつの間にか目の前に白銀の剣を握る男が立っている。一振りで自分の首を落とせるほどの距離に、大きな騎士が立っている。少年はその姿に、どうしようもない力強さと、自分の無力感を感じる。


「どうだ、お前が手を出したものの大きさが、そろそろ分かったか?」


「お、お前ら、何でこんなに強いんだ。僕はいくつもの国を滅ぼしてきたんだ。僕の兵士は強いんだぞ」


「兵士が強いか。ではお前は、本当に真正面からその兵士を使って戦ったことはあるのか? 合戦の経験はあるのか?」


「今までは王を殺せば終わっ……はっ」


 ジョシュアは剣を地面に突き立て、そして少年に向かってゆっくりと指をさし、そして告げた。


「軍勢としてお前は育てたのか? 確かに個々はそれなりに強いかもしれないが、それでもこの程度だ。戦力差があればもうどうにもならない」


「そっか、しまったな……兵士に拘りすぎたかな」


「ルクメリアの国王はお前らの襲撃のせいで、歩くことができない身体になった。俺個人の戦いならばここでお前に領域の譲渡を求めるんだが、だがな。このままお前を逃がすことはできない。我が国の法では国王暗殺は死罪だ」


「死罪かぁ……ギロチンかな?」


「今時はあまりそれはしないが、毒だな基本は。神種に効くのかは知らんがな」


「それは嫌だなぁ」


「ではどうする?」


「うーん……僕戦いは得意じゃないんだよね。だからさ、一つ手を組まないか? ほら、どうせ次はアークトッシュだろ。だから」


「断る」


「だよねぇ」


 へらへらと笑うシーケルタ・ロナは、もはや戦意を失ったのか、その場にドカンと腰を落とす。そのまま両手を上げて、彼はそのままジョシュアを見る。


「あーもう、捕まるのかぁ。まさか国崩しの最期がこんなんなんてなぁ。まぁ、一万年以上いろいろ遊んだけどさぁ。それにしたってつらいよねぇ」


「それだけ生きれば十分だろう。恩赦もあるといえばあるが、さすがに国王暗殺一歩手前までいったからな。ないだろう」


「ふぅ……アークトッシュのやつに抵抗していろいろやってきたが、結局は君に任せることになるね。ねぇ一つ、頼みを聞いてくれないかな」


「何だ?」


「僕は、結構面白半分に国を滅ぼしてきたんだけどさ。ほとんどの国は腐敗が広がった腐りきった国ばかりだったんだ。だから、後悔はしていない。でも、アークトッシュのやつはかなり壊れてる。実際会ったら、ひどいぞ? だからさ」


「ああ」


「一ついいものをあげよう。僕のとっておきだ」


 そういうとシーケルタ・ロナはどこから出したのか、黒い石を取り出した。それは深く、光沢すらない漆黒の石。石と言うよりは黒い塊。


「これは?」


「僕の奥さんの魂結晶。この世にはさ、とんでもない属性の石を持つ者がたまにでるんだ。精霊種の突然変異ってやつかなぁ。まぁ、面白いものだからもっとくといいよ。最後の最後にきっと君の助けになる」


「そうか、では貰っておこう」


「うん、いらなくなったら、マーディ・ロナにやってくれ。あんなんでも僕の娘だ」


「わかった。では、時間がもったいない」


「ああ、それじゃ、そうだ、これ取っても最後の二人じゃないんだよ。わかってるよね。解決しなきゃいけないことがもう一つある」


「わかってる。そっちは手を打ってある」


「ならいいさ」


 もう数度繰り返したこと、いつものように、シーケルタ・ロナは小さな心臓の結晶を取り出して、それポンとジョシュアに投げ渡した。


 受け取ると、いつものように領域が上書きされる。何度も繰り返したこと。


 だが今回は、同じではなかった。


「む、お前、許可してないぞまだ。何故いる?」


 領域は戻っても、何故かシーケルタ・ロナはその場所にいた。地面に胡坐をかいて、ふてくされたような顔で座っていた。


「ふん、いいかい。神種はあと一人を除いてこれで全滅だ。数万年やりあってきたやつらが、これで皆普通の身体になった。まぁ歳を取らないから普通じゃないんだろうけど」


「ああ、それはいいんだが、何故お前が」


「世界が選んだ者を無視して君たちのように領域を奪ったり、受け取っただけの者たちが、本当に願いの石使えると思う?」


「何だと?」


「ふふふ、まぁ、そこはさ。期待しててくれ。どっちが勝っても、面白い結末が見れるよ。面白い結末がさ。まぁそれだけだ。これの出口、どうせ城のど真ん中なんだろ? それじゃ、牢獄に入るとするかなぁ」


「おい待て、お前」


 ジョシュアの声を聞かずに、シーケルタ・ロナは消え去った。残されたのは墓標の領域にいるジョシュアと、その仲間たちだけ。


 誰も知らないどこかで、ある男がニヤリと笑った。あと一つで最終戦。神種たちによる戦争は今、終焉を迎えようとしていた。

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